無自覚な悪役令息は無双する

久乃り

文字の大きさ
30 / 41

第30話 僕もやりたいんです

しおりを挟む

「それが宿題にございますか」

 学園からの帰りの馬車で、セシリアはレイミーの取り出したモノを見て首を傾げた。セシルも学園を卒業した身の上なので、分からないことはない。が、宿題なんて大層なものだっただろうか?

「これに絵を描いて、中に宝物を入れるんです」

 ふんすっとレイミーの鼻息が荒い。

「こちらは学園で使われるのですか?」

 なんとなくだが、記憶にあるのでセシリアは探りを入れてみる。

「違うよ。僕たちの作ったたまごを教会に寄付するの。教会で謝肉祭の時に使うんだって」

 レイミーの話を聞いて、セシリアはようやく答えが見つかった。教会で行われる謝肉祭は神からのめぐみに感謝するお祭りで、五穀豊穣と子孫繁栄を祈る祭りだ。全ての家庭で玄関先に麦の穂とうさぎを飾る。子どもたちだけが参加出来る催物として、たまご探しがあるのだ。昔はホンモノのたまごを探していたらしいが、今では作りもののたまごを大人が隠し、子どもが探すというある種の宝探しゲームのようなものになっている。たまごの中にはお菓子やおもちゃなどが入っているので、子ども達はお目当てのたまごを必死に探すのだ。もとろん、貴族家庭においては時分の邸の庭で行うのが普通である。

「僕も参加したかったなぁ」

 やはり、と言うレイミーのつぶやきを聞いてセシリアは悟った。そう、マイヤー子爵家は貧乏子沢山なのだ。それ故に本来貴族の家庭の子どもたちは参加しないはずの教会での謝肉祭に(以下略)

「レイミー様、中には何を入れられるのですか?」

 たまごの入れ物にどんな絵を描こうか考えているレイミーに、後宮の女官セシリアは聞いてみた。散々参加してきたのだろうから、中身については熟知しているだろう。だからこそ、とんでもなく高価なものを入れられても困ると言うものだ。

「お菓子かなぁ、ぬいぐるみもいいよね」

 レイミーの頭の中で思いつくお菓子はきっとふわふわしているに違いない。いやいや、そのふわふわしたお菓子は溶けてしまうから絶対に入れてはダメなやつだ。

「お菓子でしたら、焼き菓子のご用意を致します。ぬいぐるみですとやはりうさぎでございますね」

 レイミーの口からレイのふわふわしたものの名称が出てくる前に、セシリアは先手を打った。そうしないととんでもないことになる。まがり間違ってもレイミーの考えを否定して泣かせるようなことがあってはならないのだから。

「焼き菓子……」

 その言葉を口にしてわかりやすいぐらいに落ち込んだレイミーを見て、セシリアはやはりと思うのだ。

「レイミー様、謝肉祭のたまご探しは外で行いますから、飴などは溶けて形が崩れてしまうので向かないのですよ」

 できるだけやんわりと、直接的でなく、でもしっかりとクギを刺さねばならない。そうしないと、とんでもなく面倒なことになるからだ。

「うーん、じゃぁ僕たちうさぎさんのぬいぐるににします。お裁縫は得意なんです」

 ふんすっと鼻息荒く宣言をするレイミーを、またもや説き伏せなくてはならないセシリアは、きっと閨でとんでもないことになる。そう、嫌な予感を胸に抱いたのであった。

「陛下、うさぎのたまごって知ってますか?」

 案の定。閨での話は謝肉祭だ。

「うさぎはたまごを産まないぞ」

 分かっているけど、ついつい口にしてしまうアルファの国王アルベルトなのである。

「違います。謝肉祭の催し物です」

 むうっと、レイミーが唇を尖らせると、アルベルトはその唇にちょっかいを出したくてたまらないのだが、ここは我慢の一択である。

「ああ、うさぎを入れたたまごを探すやつだな」

 優秀なアルファの国王陛下であるアルベルトはもちろん知っている。幼少の頃、後宮でやったことがあるからだ。隠したのはオメガの母であったから、幼子であったとはいえアルファのアルベルトは匂いで全部見つけてしまった。しかも、あっさりと。それ以来、アルベルトは隠す側になり、探すのは後宮の侍女たちになったのは言うまでもない。

「お菓子も入れます」

 レイミーが、力説するのでアルベルトは素直に「そうか」と答えるのだった。要はあれだ、探す相手に合わせて中身を変えるのだ。侍女たちが探した時は、たまごの中身はシルクのハンカチや髪飾りなどを入れておいたものだ。菓子を入れるあたり、レイミーはまだまだお子様なのだとアルベルトは改めて思うのだ。

「それで、どうしたいのだ?」

 アルベルトにとって大切な番(まだつがっていない)であるレイミーが閨でお願いごとをしてきた(多分)のだ。願いは叶えなくてはならない。それがたとえどんなに困難であったとしても。

「僕もうさぎのたまごに参加したいです」

 思わず即答で「それはダメだ」と言ってしまいそうになったアルベルトであったが、すんでのところで押しとどめ、素早く代替案を提示する。

「レイミー、お前はもう子どもでは無い。だから参加は出来ないだろう。だから、開催すればいい」

 またもや否定された。と思った途端、なんと、素晴らしい提案がやってきた。さすがはキングオブアルファの国王陛下アルベルトである。レイミーには思いもよらない素晴らしい発想である。

「開催?僕が?」

 何度も瞬きをする愛しの番(まだつがってはいない)の仕草が可愛すぎて憤死寸前のアルベルトではあるが、そこは閨である。薄暗いからバレることは無い。

「この間サーカスを開催したでは無いか」
「あれは陛下がしてくださったんです」
「お前が望めば容易い事だ。それに、お前の弟妹たちも教会のには参加なんか出来ないぞ」
「え?」

 衝撃的な事実を知り、レイミーはわかりやすいぐらい落ち込んだ。そうだった。建国記念のお祭りの時、弟妹たちは無料のサーカスをみにいけなかったのだ。もうマイヤー子爵家、もといマイヤー伯爵家は貧乏子沢山ではなくなっているのだ。下級貴族ではなく、中級貴族だ。しかも貧乏じゃない。レイミーの給金のおかげだけど。

「そんな、みんなが可哀想だ」

 泣きそうな顔をして、唇を尖らせてレイミーが不満をぶちまける。みんな楽しみにしているのだ。年に一度のお宝探し。美味しいおやつや素敵なおもちゃを手に入れる一大イベントだと言うのに。

「だからお前が開催すればいい。貴族の家庭では祖父母が一族の子どもたちを集めて開催すると聞いている。だからお前が開催して弟妹たちを呼べばいい」
「いいんですか」

 途端レイミーの鼻息が荒くなる。この話題に食いついた。食いついてもう離さない。

「ただし、この間は平民の子らを招待したから、今回は貴族の子らを招待しなさい。何事も平等にしなくてはならないからな」
「分かりました。僕頑張ります」
「招待状の手配などはセシリアに任せるといい」

 そう言ってアルベルトがレイミーの頭をひとなですれば、柔らかなアルファのフェロモンに包まれてレイミーはあっという間に夢の世界に旅立つのであった。




「レイミー様、お聞きしたいことがございます」

 学園で、いつもとは違う遠慮がちな声でエミリアが聞いてきた。

「はい、なんでしょう?」

 最近では込み入った話は食堂で食事をしながらしてきたが、どうも今回は違うらしい。いや、エミリアは廊下から様子を伺いに来ているほかのクラスの生徒たちに聞こえるようにあえて教室で聞いてきたのだ。もちろん、そんな意図はレイミーには伝わらないのだが。

「レイミー様から招待状が、届きましたの。お城でうさぎのたまごを開催されるのですか?」

 エミリアが、一言一言区切るように、やけにハッキリとした発音で聞いているのは、もちろん廊下にまで聞こえるように、だ。

「エミリア様にも届いたんですか?」

 子どもじゃないからレイミーは参加出来ないとアルベルトに言われたのに。もっとも招待状を手配したのはセシリアだから、誰に送ったのかなんてレイミーは知る由もない。

「いいえ、違います。学園に通っていない弟がおりますので、弟あてに届きましたの」
「そうなんですね。この間のサーカスは第3騎士団の平民の子を招待したから、今回は貴族の子を招待しなさい。って陛下に言われたんです」

 バカ正直に答えるレイミーをエミリアは多少なりとも心配した。そんな裏事情は口にしてはダメだろう。だが、そんな所もレイミーらしくてオメガらしいというものだ。

「そうなんですね。安心しました。陛下のお許しがあるのなら」

 あえて廊下の方に向かって演説をするかのように話をするエミリアは、少しおかしな態度なのだが、レイミーは全く気にしない。

「そうなんです。陛下がうさぎのたまごをやっていい。って言っくださったんで、僕沢山用意するんです」
「沢山、でございますか?」
「そうです。沢山のたまごを用意するんです」

 ふんすっと、レイミーの鼻がなる。

「まぁ、なんて素敵なのかしら。弟がとても楽しみにしておりますの」
「それは良かったです。ぜひぜひ来てくださいね」

 両手を小さな握りこぶしにしてレイミーが力いっぱい返事をしたところで、廊下から人気が引いて行ったのだった。もちろん、誰もが思った。招待状が届いたけれど、謝肉祭までもう二週間程しかないのだ。貴族の子どもの分のうさぎのたまごを沢山用意するなんて、間に合うのだろうか?いや、間に合わせるのだろう。きっと招待状が届いてどこの貴族の家庭も謝肉祭当日のうさぎのたまごを取りやめにしたに違いない。時間は午後のおやつの時間である。
 きっと、大勢の誰かが不眠不休で準備をするのだ。
 もちろん、そんなことはレイミーが知る由もないのだけれど。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。 これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。 無自覚両片想いの勇者×親友。 読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。

薄紅の檻、月下の契り

雪兎
BL
あらすじ 大正十年、華やかな文明開化の影で、いまだ旧き因習が色濃く残る帝都。 没落しかけた名家に生まれた“Ω(オメガ)”の青年・白鷺伊織は、家を救うため政略的な「番(つがい)」として差し出される運命にあった。 しかし縁談の相手は、冷酷無慈悲と噂される若き実業家であり“α(アルファ)”の当主・九条鷹司。 鉄道・銀行事業で財を成した九条家は、華族でもありながら成り上がりと蔑まれる存在。 一方の伊織は、旧華族の矜持を胸に秘めながらも、Ωであるがゆえに家族から疎まれてきた。 冷ややかな契約婚として始まった同居生活。 だが、伊織は次第に知ることになる。 鷹司がΩを所有物としてではなく、一人の人間として尊重しようとしていることを。 発情期を巡る制度、番契約を強制する家制度、そして帝都に広がる新思想。 伝統と自由のはざまで揺れながら、二人は「選ばされた番」から「自ら選ぶ伴侶」へと変わっていく——。 月明かりの下、交わされるのは支配ではなく、誓い。 大正浪漫薫る帝都で紡がれる、運命を超える愛の物語。

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

姉の男友達に恋をした僕(番外編更新)

turarin
BL
侯爵家嫡男のポールは姉のユリアが大好き。身体が弱くて小さかったポールは、文武両道で、美しくて優しい一つ年上の姉に、ずっと憧れている。 徐々に体も丈夫になり、少しずつ自分に自信を持てるようになった頃、姉が同級生を家に連れて来た。公爵家の次男マークである。 彼も姉同様、何でも出来て、その上性格までいい、美しい男だ。 一目彼を見た時からポールは彼に惹かれた。初恋だった。 ただマークの傍にいたくて、勉強も頑張り、生徒会に入った。一緒にいる時間が増える。マークもまんざらでもない様子で、ポールを構い倒す。ポールは嬉しくてしかたない。 その様子を苛立たし気に見ているのがポールと同級の親友アンドルー。学力でも剣でも実力が拮抗する2人は一緒に行動することが多い。 そんなある日、転入して来た男爵令嬢にアンドルーがしつこくつきまとわれる。その姿がポールの心に激しい怒りを巻き起こす。自分の心に沸き上がる激しい気持に驚くポール。 時が経ち、マークは遂にユリアにプロポーズをする。ユリアの答えは? ポールが気になって仕方ないアンドルー。実は、ユリアにもポールにも両方に気持が向いているマーク。初恋のマークと、いつも傍にいてくれるアンドルー。ポールが本当に幸せになるにはどちらを選ぶ? 読んでくださった方ありがとうございます😊 ♥もすごく嬉しいです。 不定期ですが番外編更新していきます!

婚約破棄を傍観していた令息は、部外者なのにキーパーソンでした

Cleyera
BL
貴族学院の交流の場である大広間で、一人の女子生徒を囲む四人の男子生徒たち その中に第一王子が含まれていることが周囲を不安にさせ、王子の婚約者である令嬢は「その娼婦を側に置くことをおやめ下さい!」と訴える……ところを見ていた傍観者の話 :注意: 作者は素人です 傍観者視点の話 人(?)×人 安心安全の全年齢!だよ(´∀`*)

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

処理中です...