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第3話 冒険者ギルド
しおりを挟む「ヤバい、イケメンだった」
マルティンが立ち去ったあとの扉を眺めつつそんなことを言ったのは受付嬢のアンナだ。
「仕事しなさいよね」
カウンターの中で怒りをあらわにしているのは、マルティンの依頼の手続きをしたギルド嬢サラである。
「私が受付嬢なのに、仕事取らないでくださぁい」
「受付嬢なのにカウンターから勝手に出ないでくださぁい」
同じ口調で言い返されて、アンナは黙るしかなかった。なぜなら、受付嬢はカウンターの外に出てはいけない。と言う冒険者ギルドのルールがあるからだ。コレは冒険者ギルドで働く職員を守るためのルールである。
たまたまマルティンが来た時は他の冒険者がいなかったからいいものの、可愛らしい見た目で胸も大きいアンナは冒険者たちに狙われている。もちろん、サラも狙われている。分かりやすく言えば、冒険者たちは常に女に飢えているのだ。街の外でこなす依頼は討伐する魔物も強く危険度が高い。薬草の採取も気を抜けば草むらから飛び出してきた魔物にやられることもある。それだけストレスが溜まるので、依頼が達成されれば色々と開放感を味わいたいのが人の性だ。そんな時にかわいらしく肉体的にも魅力的な女がいたら、そこに開放感を求めてしまうかもしれない。もしくはストのはけ口として冒険者同士が争う場合もある。そんなところにか弱い女がいたら大惨事しか招かない。
「アンナ、いつまでカウンターの外にいるつもりだ」
サラと睨み合う形のアンナを怒鳴りつけてきたのは地下の解体係のハンスだった。
「依頼のドードー鳥の解体が終わった。届けてくるから解体の依頼は待たせておいてくれ」
魔物の解体をしているだけあって、ハンスは逞しく腕っぷしがかなりいい。基本冒険者の依頼報告は夕方に集中する為、昼前のこの時間帯冒険者ギルドは職員しかいないと言ってもいい。
「帰りにパンを買ってきてください」
素早くカウンターの中に入ると、アンナはハンスに銅貨を渡す。ちなみにカウンターにはスイング扉は付いていないため、アンナはカウンターを飛び越えているのだ。誰か冒険者がいたのなら、飛び越えた際にアンナのスカートの中が見えていたことだろう。
「届け先は【ネコのシッポ】だぞ」
「じゃあ私も」
店の名前を聞いた途端、サラも銅貨をハンスに渡す。
「なんだよ。ゆっくり飯食ってこようと思っていたのによ」
「だって朝買うの忘れたんだもん」
「私はハンスさんが食事をしてからでもがいませんよ。書類の片付けがありますから」
全く違う返事をされて、戸惑うハンスに抱きつくようにアンナが腕を絡めてきた。
「じゃあ、私とハンスさんは【ネコのシッポ】に依頼のお肉を届けつつ、食事をしてきまーす」
そんなに宣言を聞いてサラが目を見開いた。
「はぁ?なんでそんな事になるのよ」
もちろん、サラの他にも事務処理をしているギルド職員はいる。事務処理をしている職員は、交代で食事に行くのだ。ただ、今日は受付嬢がアンナしかいないのである。
「事務職員も受付はできますよねぇ?この時間にギルドに来る冒険者はまずいないのでぇ、大丈夫ですよ」
そう言ってアンナはさっさとハンスと共に裏口から出ていってしまった。後に残されたサラは同僚たちの顔を見る。誰もが仕方がないという顔をしていた。受付嬢は基本立ちっぱなしだから、食事の時ぐらい座らせてあげたいと思っているのだ。
「私はパンを待つので、皆さん食事に行かれても構いませんよ?」
「さすがに全員で居なくなるのはまずいでしょ。俺はいつもの食堂にいってくるよ」
「私もハンスさんにパンを頼んでいるんです」
他の職員がそう答えたので、サラはもう1人と事務処理をすることにした。多分2階ではギルドマスターが一人で忙しくしていることだろう。
「【ネコのシッポ】のパン、美味しいですよね」
「挟んであるお肉、ドードー鳥だったのね」
「それ、私も今日知りました。ハンスさんが教えてくれたんですけどね」
「飛べない鳥だけど、走るのが早いのよね」
「だから魔物にもなかなか、食べられないらしいですよ」
「私たち、ギルド職員なのに知らないこと多いわよね」
「仕方がないですよ。私たちは書類しか見てないですから」
「それもそうよね」
サラも、受付嬢に憧れた時はあったけれど、体格のいい冒険者を目の前にすると上手く話すことが出来ないのだ。慣れだと言われたけれど、どうにも無骨な冒険者は怖くて仕方がないのである。
「しかし、さっきの新人冒険者、綺麗な顔してましたね」
「うん」
「だからサラも、話が出来たんでしょ?」
「そうなの。清潔感があって紳士的で、全く普段の冒険者とは違っていたわ」
「言葉遣いも丁寧でしたよねぇ」
「そう、それよ。なんで冒険者って言葉遣いが乱暴なのかしら」
「まぁ、命のやり取りをしてきたからだとは思いますけど、一番の理由は舐められたくないから、らしいですよ」
「それ聞いた事あるけど。ギルド職員にまでしなくてもよくない?」
「そうなんですよねぇ、こっちは事務処理してるだけなんだから、急かされたり脅されたりしたら間違えちゃいます」
そうやっておしゃべりをしながら仕事をしたから、ハンスがパンを買って帰って来るのがいつもより少し遅くても全く気にならなかったサラなのであった。
そして、その綺麗な顔の新人冒険者が、元は貴族の御曹司であることをアンナから教えられるのであった。
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