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第4話 地下道で初仕事
しおりを挟む暗くて臭くてキツイ
この世界での3Kであるのが、マルティンが受けた仕事である。新人向けと言われるのは、単に仕事場が近いと言うことだけで、万が一何かがあっても、すぐに街中に戻れるからだ。実際は、暗くて臭い地下道のなかで、仕留めずらいネズミ型の魔物を狩ると言う地味な仕事である。
地下道が狭いので、ネズミ型の魔物に遭遇さえすれば、何とか倒すことはできる。討伐の証がシッポなので、本体は最悪潰してもいいからだ。新人冒険者がめちゃくちゃに攻撃をしても問題のない討伐以来。それがこの依頼である。
地下道に一人降り立ち、マルティンはさっき作ったばかりの冒険者登録証を見た。魔力を少し流すと、そこに登録された内容がマルティンの目に見えてきた。コレは本人にしか見えない情報であるから、まぁどこで確認をしても安全である。
「名前、性別、年齢、登録した日、登録したギルド、それから受けた依頼の数か……」
まだ登録したてのマルティンの冒険者登録証には大した情報は載ってはいなかった。
「依頼をこなしたり、魔物を討伐するとその数が載るんだよな、確か。あと、戦闘中にステータスバーが表示されるんだよな。だから首から下げとけって話だった、はず」
戦闘中にわざわざ冒険者登録証を見て自分の残りの体力を確認出来るほど余裕があるとは思えないが、乙女ゲームの時は画面の左上に表示されていたから、それなりにありがたいシステムではあった。では実際、そこまでの余裕があるのか、マルティンは実践で確認してみることにした。
「確か、宿屋がある辺りの下に結構いるんだよな」
乙女ゲームの時の知識を頼りに地下道を歩く。
「角を曲がった途端に最初の一匹が襲ってくるんだよな。それで毒を受けるかは運次第」
初手の攻撃は魔物に取られる。コレは乙女ゲームの時ではお約束で、絶対に覆らなかった。知らないで襲われて、解毒剤の持ち合わせがないと詰む。なぜなら最初はヒロインであるアンテレーゼが防御しかできないからである。しかもこの乙女ゲームの世界、回復魔法は存在しない。体力の回復にはポーションを飲むしかないのである。解毒には解毒の効果のあるポーションが必要だ。回復魔法などの聖魔法と呼ばれる魔法は、教会に務める極わずかな人しか使えないのだ。乙女ゲームのなかで戦闘中は、ひたすらポーションを飲むしかないのである。ヒロインであるアンテレーゼは侯爵令嬢だから、潤沢な資金を元にポーションなんていくらでも買えてしまう。だがしかし、魔法カバンがないと持ち運びが大変なのである。乙女ゲームの世界では、魔法カバンを持てるのは男だけで、女は所持することが許されてはいなかった。コレは荷物は男が持つものである。と言う貴族のよく分からない矜恃のせいである。
「さあ、こい」
マルティンは勢いよく地下道の曲がり角を曲がった。初回のエンカウントで毒を受ける確率は低い。なぜなら乙女ゲームの世界だから。ヒロインがいきなり毒状態の異常ステータスになるなんて可哀想だからである。
「ぐぅ」
乙女ゲームと同じように曲がり角を曲がると同時にネズミ型の魔物が飛びかかってきた。そして、マルティンの左腕に噛み付いてきた。
「まじかよ」
マルティンは冒険者登録証を左手に握りしめていた。剣を右手に持っているから、確認をしながら戦うためだ。その冒険者登録証に紫色のモヤが出た。つまりマルティンはネズミ型の魔物から毒の攻撃を受けてしまったのだ。
「くっ」
自分の腕に噛み付いたネズミ型の魔物を右手の剣ではらい落とした。根本付近で叩き切るようにしたから、頭と胴体が分かれてまずは体がマルティンの足元に落ち、血を吹き出しながら頭がマルティンの左腕から離れて落ちていった。
「なかなか、エグイな」
乙女ゲームではこんなに、グロテスクな描写はなかった。魔物を倒せば消滅のエフェクトが現れ得られた経験値が表示されるだけだったからだ。
だが、実際はネズミ型の魔物に攻撃されればしっかりと噛みつかれ、毒を食らった。倒せば死体が残るし血が吹き出す。
「確率が低いからと思っていたが、コレが現実か」
噛み付かれたのだから、その歯からしっかりと毒の攻撃を受けた。噛まれれば確実に毒を受ける。生前、蚊に刺されたら痒くなる。のと同じように、魔物に攻撃されれば確実に怪我をするのだ。
「これなら、確実に取れる」
マルティンが狙っているのは毒耐性を得ることである。小型で大した毒性のない毒を持つネズミ型の魔物の攻撃を受け毒をくらい、耐性を作ろうとしているのだ。ゆくゆくは大物の魔物と戦うことを目標としているマルティンである。そこにたどり着くまでに戦闘に必要な耐性を揃えるのが目的なのだ。
「毒消しのポーション」
乙女ゲームが学園編のうちに集めたポーションから、毒消しの効果のあるものを取り出し噛まれた腕に少量かける。シュワシュワと泡を立て、傷口が塞がって行くのに合わせ、マルティンの左手にある冒険者登録証から紫色のモヤが消えていった。
「確かに連動しているな」
事実確認が出来れば後は回数を重ねるだけである。乙女ゲームとは違うことが確認できたのはありがたかった。ここで些細な違いに気が付かないまま大物の魔物と対峙してしまえば、現実に負けて命を落とすことになるだろう。
「さて、討伐証明はシッポだったな」
真っ二つにしたネズミ型の魔物の下半身からシッポを切り落とし、ギルド嬢から渡された袋に入れる。
「確率が100パーセントなら、10匹倒すだけで耐性を得られるんじゃないか?」
マルティンはネズミ型の魔物を一匹ずつ確実に倒していった。その際、必ず噛まれて毒の攻撃を受けた。灯りの魔道具を発動させているからか、集団で襲いかかって来ることはなかった。これは乙女ゲームでの知識である。まず5匹目でマルティンのステータスに毒免疫と言う項目が現れた。ネズミ型の魔物を倒していくと、この数値が増えていき、100になった時表示が毒耐性に変わった。
「ようやく得られた」
左手で冒険者登録証を握りしめ、マルティンは長く息を吐き出したのだった。
「お帰りなさいませ」
どこのメイドカフェだよ。とツッコミを入れたくなるような声をかけてきたのは受付嬢のアンナだった。マルティンが冒険者ギルドに依頼完了の報告をしに来た時、運悪く夕方の時刻を迎えていたからだ。ほかにもたくさんの冒険者がいる中、アンナは扉から入ってきたマルティンを目ざとく見つけたのだ。そして、大きな声でマルティンを出迎えた。
だからといって、マルティンが返事をする義理はない。
「依頼完了の手続きを頼む」
なぜだか空いていたカウンターに袋を置けば、とびきりの笑顔でアンナが答えた。
「あんまりにも遅いから心配してたんですよ。アンナご飯も喉を通りませんでしたぁ」
なんてどこのアザトイヒロインだよ。と言いたくなるようなセリフを口にする。が、すぐさまアンナの横に誰かが立った。
「はいはい。お昼はしっかり【ネコのシッポ】でドードー鳥定食食べてきたのよねぇ?大盛りだったって聞いたけど?」
サラが嫌味たっぷりな口調で昼休憩の出来事を話す。どうやらおかげでサラは昼食が遅くなったようだ。
「そ、そんなことバラさなくてもいいじゃない」
顔を真っ赤にしたアンナが抗議をするが、サラは聞いていないふりをして、すました顔でマルティンの出した袋を受け取った。
「これ、10匹じゃないですね?」
「ああ、10匹単位で報酬が増えると聞いたので」
確かそんな説明をしたのは目の前に立ったサラのはずである。毒耐性を得ようとネズミ型の魔物を狩りまくっていたら必然的にこの量になったのだ。冒険者登録証を見れば受けている依頼に対しての達成度も表示されていたので、キリのいい数にはしてあるけれど。
「確認しますのでしばらくお待ちください」
アンナの横をすり抜け、サラは後ろで袋の中身を取り出して数を数えているようだった。もっとも手作業ではなく、何か機会のような物で計測をしているようだった。
「確認をお願いします。冒険者登録証を出してください」
またもやアンナの横をすり抜けて、サラがマルティンに話しかけてきた。計測の結果がトレーのような物に浮かび上がっている。
「間違いがなければこの上に冒険者登録証を置いてください」
「はい」
マルティンがトレーのようなものに冒険者登録証を置くと、淡い光が出て冒険者登録証が一瞬動いた。その後にトレーの上には報奨金が現れたのだった。
「ご確認の上お受け取りください」
「ああ」
乙女ゲームでも何回か見たことがあるが、いわゆる決済システムの魔道具である。この場合冒険者登録証がキャッシュカードのような役割をしている。
「報奨金額が大きくなれば、貨幣の手渡しではなく、冒険者登録証に貯める事もできます」
「ああ」
「本日は初めての依頼達成なので、貨幣でのお渡しになります。次回からは選ぶことができるようになります」
「分かった」
マルティンは冒険者登録証とトレーに乗った貨幣を手にして、ポケットにしまう振りをして腰の魔法カバンにしまい込んだ。
「冒険者登録証に紐がついていませんでしたねぇ」
一連のやり取りが終了するタイミングを見計らって、アンナが声をかけてきた。
「無くすと大変ですよぉ」
「無くならないと説明を聞いたが?」
「えっとお、それはぁ、不正利用がされないと言う意味でしてぇ」
しどろもどろに説明をするアンナであるが、マルティンはちゃんと理解していた。魔道具であるから、持ち主が無くしたことに気がついて探せばその手に戻ってくる仕組みになっているのだ。実は今日地下道で何度か試していたマルティンである。
「無くしても、意識して呼びかければ手のひらに戻ってきます。魔道具ですから」
アンナを押しのけてサラが説明してくれた。言われなくてもわかってはいるけれど、何より、背後からの視線が煩わしいと思うマルティンなのである。
「あの、タグにつける紐を一緒に買いに行きませんか?」
押しのけられつつも、アンナはマルティンに話しかけてきた。
「大丈夫だ。紐なら持っている」
そう言い残し、マルティンは冒険ギルドを後にした。異世界転生あるあるなら、この辺りでベテラン冒険者とか、ギルド嬢に恋している冒険者とかが割り込んできて、新人教育だ。なんて展開になりそうな所なのであるが、その場に居合わせた冒険者たちはマルティンの顔を見て確信したのである。実はマルティンが戻ってくる少し前、いかにも貴族家のメイドがやってきて、マルティンらしい男を探している。と言っていたのだ。なんでもいいから情報があれば金貨一枚で買い取る。と言い出したのでギルド内がざわついた。が、直ぐに受付嬢のアンナがマルティンの情報を出してしまったので、金貨一枚は冒険者ギルドに支払われてしまったのだ。
そして、冒険者たちは黙ってマルティンを見送った。だが実際は何食わぬ顔をした冒険者が一人、冒険者ギルドからでてきたマルティンに声をかけた。
「よう、男前の新人」
トビラを出た途端に声をかけられて、マルティンは立ち止まった。
「なにか?」
「なにかじゃねーだろ。新人だったらここはひとつ、宿を受付嬢に聞くもんだろ」
それを言われてマルティンはやらかした。と気がついた。冒険者になる事と毒耐性のスキルを得ることに夢中になりすぎて、もうひとつ言いたかったお約束のセリフを忘れていたのだ。
「あ、ああ、そうですね。すっかり忘れていました」
今更ギルドの中に戻るのは小恥ずかしい。
「【ネコのシッポ】」
「は?」
「おすすめの宿は【ネコのシッポ】だ。飯が美味い」
「なるほど」
「お前みたいな新人でも泊まれる程に安い。だが、ボロくはない」
「それは良いですね。でも、だとすると人気があるでしょう」
「安心しろ。酒が出ないからベテランは使わないんだよ」
「そういう事ですか」
「だから新人におすすめなんだよ」
「ありがとうございます。行ってみたいと思います」
「場所はこの通りを進んで、三つ目の角を曲がると見える。看板にクロネコのシッポが描いてある」
「分かりました」
もう一度お礼を口にしてマルティンは【ネコのシッポ】に向かって歩き出した。実は先程アンナとサラの会話から、気になってはいたのだ。乙女ゲームの中でもドードー鳥定食は出てきていたからだ。出てきたのは学園の食堂だったから、残念ながらマルティンは食べてはいなかった。何しろ悪役令息であったから、安い定食など食べず、お高いステーキばかりを食べていたのだ。酒が出てこないのは残念だけれど、ドードー鳥定食は唐揚げ定食に似たビジュアルをしているのだ。必然的に期待してしまうというものだ。
マルティンは何となくスキップを踏んで【ネコのシッポ】を目ざしたのだった。
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