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第13話 僕のマルティンなんだからね
「おめでとうございます。マルティンさん。冒険者ランクがDに昇格になりました」
冒険者ギルドに登録してから早一か月、地下道での活動をやめ、王都の外に活動の場を広げたマルティンは、あっという間にDランクに昇格をしてしまった。しかも、ラノベで見聞きしていた知識通り、護衛依頼が発生するDランクに昇格する際には、ちょっとした読み書きのテストと、質疑応答があった。もちろん、学園を卒業した元侯爵家嫡男のマルティンにとっては、別段難しいことなど何もなかった。なにしろテストの試験官であるギルドマスターよりも礼儀作法は完璧で、文字の読み書きも堪能だったのである。合格できないわけなどないし、ギンデル侯爵家の私設騎士仕込みの剣技は、護衛だけではなく、敵を躊躇なく切り捨てられるほどに非情な動きもできるからだ。もちろん、マルティンはいまだ誰かを剣で傷つけたことなどないけれど、その時が来ればためらいを捨てる自信はあるのだ。
「ありがとう」
試験の結果を告げながら、ギルド嬢のサラがマルティンの冒険者証を渡してきた。
「お付けしましょうか?」
マルティンの冒険者証を見て、サラが言ってきた。なぜなら、マルティンの冒険者証は手首につけられるようにブレスレットになっていたからだ。使っているのは紐ではなく金具である。マルティンが前世の知識で、時計のメタルバンドのようなものを工房に発注して作ってもらったのだ。もちろん片手でつけ外しが簡単にできるので、手伝いは不要である。
「はいはいはい。僕のマルティンにおさわり厳禁でーす」
そこに割って入ってきたのはフィルナンドだった。時刻は夕方近くになっているとはいえ、フィルナンドの勤める薬師ギルドから、この平民街にある冒険者ギルドまでやってきたのでは、あまりにも時間が早すぎる。馬車でやってきたとしたら、そんな音は聞こえなかった。
「マルティン、昇格おめでと」
フィルナンドの顔を見て考え込むマルティンに思い切りよく抱き着くと、フィルナンドは当たり前のようにマルティンの腕に冒険者証を取り付けた。
「つけ方も知らないくせにしゃしゃってくるなよ。ブス」
ギルド嬢サラに辛らつな物言いではあるが、特殊な作りをしているメタルバンドを初めて見たサラがつけられると思っていないのは、マルティンも同じであった。
「マルティンの考えた金具だもんね」
当たり前のようにフィルナンドがマルティンの左の手首に冒険者証を取り付けた。この金具ばマルティンが懐中時計を腕に付けるのに工房に作らせた特別な金具なのだ。もちろん貴族の間では全く流行らなかった。シャツにはカフスボタンが当たり前だから、腕に時計なんて物をつけてしまったらカフスボタンが邪魔になるからだ。しかし、学園にいた頃マルティンは当たり前のように時計を腕につけていた。その事に気がついていたのはマルティンを四六時中観察していたフィルナンドだけなのである。
「よく覚えていたな」
この世界の住人からしたら少しめんどくさい作りになってると言うのに、フィルナンドはそのややこしさをしっかりと把握していた。
「だって、僕のマルティンだもの。なんでも知ってるんだから」
フィルナンドはそんなことを言いつつ、目線だけで冒険者ギルドの中を確認した。
「ねぇ、マルティン」
「なんだ?」
「僕、マルティンの昇格のお祝いがしたいなぁ」
上目遣いでフィルナンドはマルティンの返事を待っている。もちろん、冒険者たちもそれとなく様子を伺っていた。
「?ああ、構わないが」
「ほんと?嬉しい」
何故フィルナンドが嬉しいのかが分からないが、フィルナンドは当たり前のようにマルティンに抱きついてきた。
「最初の指名依頼は僕にしてね」
そんな事をいきなり言われて、マルティンが驚いていると、背後から声がかけられた。
「あの、指名依頼のしょるいを提出して頂かないと困ります」
ブス呼ばわりされたギルド嬢のサラである。
「いちいちうるさいなブス。僕とマルティンの邪魔しないでくれる?」
フィルナンドが背中を向けたままサラに暴言を吐いていると、いつの間にかにサラの前には一人の女性がたっていたか。着ている物は明らかに貴族家庭に仕えるメイドのようで、背筋を正し、凛とした雰囲気を醸し出していた。
その顔を見て、すぐさまサラは直立不動になった。その横でぼんやりしていた受付嬢のアリアもつられて背筋を正す。その顔に確実に見覚えがあったからだ。
「こちらがマルティン様への指名依頼でございます。的確に処理され、明日受けていただくようお願い致します」
フィルナンド付きのメイドジョアンナが眉ひとつ動かさずに依頼書を提出すれば、受付嬢アンナは受け取らない訳には行かなかった。
「はい。確かに受付致しました」
「報奨金はコチラで」
そう言ってジョアンナが、出したのは金貨が一枚。
「えっ」
驚きすぎてアンナは思わず声が出てしまった。が、すぐさまサラが横からやってきて、アンナを押しのけ依頼書の手続きを完了させた。
「明日、よろしくね?マルティン」
そのやり取りを見ていたフィルナンドは、これみよがしにマルティンの首に手を回してさらに抱擁を強くしたのだった。
「マルティンの昇格祝いを向かいの酒場で開催しまーす。僕と一緒にお祝いしたい人は是非お越しください」
フィルナンドがそんなことを言った途端に冒険者ギルドの中は男たちの咆哮にも似た声が響き渡った。
「フィルナンド様、わたくしは向かいの酒場に手配してまいりますので、ごゆっくりお越しくださいませ」
そう言って立ち去るジョアンナの背中を見つつ、フィルナンドはマルティンに向けてほほ笑んだ。
「マルティンが泊まってる宿はお酒が出ないじゃない?昇格のお祝だもの、お酒ぐらい飲もうよ。ね?」
別に節制をして酒を飲んでいないわけではないが、酔っ払いは苦手だし、積極的にかかわりたくはない。ついでに言えば、マルティン自身が酒を飲みたいと思わない人種なのだ。
「まあ、かまわないが。ただ、向かいの酒場は冒険者が利用するようないかにも平民街の酒場だぞ?」
「大丈夫。マルティンが守ってくれるでしょ?」
かわいらしく小首をかしげて聞いてくるものだから、否定何てできるはずがない。
「そのくらいは」
マルティンが仕方なく承諾をすれば、すぐさまフィルナンドが大きな声で宣言をした。
「僕のおごりでマルティンの昇格のお祝をしまーす。一緒にお祝がしたい人は向かいの酒場にきてね」
そんな宣言をしたものだから、大挙して冒険者たちが押し寄せてきたことは言うまでもなかった。そうして、酒を頼むたびにマルティンに祝いの言葉をかけに来るものだからうっとおしくて仕方がなかったことは言うまでもないことである。
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