生徒会総選挙が事実上人気投票なのって誰得か説明してくれ

久乃り

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波乱の三学期

第1話 納得したとは言ってない

宮田学園高等部の生徒会役員は、在校生からの無差別投票による得票数によって決まる。
 立候補生ではなく、実質人気投票のようなもので、毎年ファンクラブもしくは親衛隊の人数が多い者が会長職に就任していた。
 だが、今年は一波乱あった。
 ファンクラブも親衛隊も持たない生徒が会長職に当選してしまったのだ。
 男子高校生にしてはやや小柄な体格の、見た目上これといって特徴のない生徒だった。
 成績だけで言えば一年間学年トップだったので、名前を知らない生徒はいない。

『満点の佐藤』

 成績が張り出される度に言われるその呼び名。
 そう言われても本人は全く反応せず、恥ずかしそうに俯く訳でもなく、ただ無表情にやり過ごす。
 運動部に所属はしていないが、そこそこ運動もできるため、体育祭はMVPも取っていた。
 率先してことをなす訳ではなく、ただ淡々とことをこなしていくその姿勢に票が集まった。
 そう、卒業を控えた三年生からの票をほぼ独占しての会長職当選だった。


「---で、生徒総会で承認されると、晴れて君たちが新生徒会役員と、なるわけなんだよ」

 特別棟にある生徒会役員室で、新旧役員による打ち合わせがあった。現行の役員は全員三年生であるのに、新生徒会役員は会長副会長に1年生、会計書記に1年生と2年生が各一名ずつとなった。ファンクラブと親衛隊の力の差が出た結果である。
 もっとも、三年生で生徒会役員をすると授業に出にくくなるため、投票しないようにファンクラブや親衛隊にお願いをする生徒も少なからずいるのは確かである。

「なにか質問はあるかな?」

 現会計である神山が新会員に向けて言葉をかけるが、新会員たちは書類に目線を落としたままだ。
 少しして、新生徒会長となる佐藤が手を挙げた。

「はい、佐藤くん、なにかな?」
「ここにある、役員からの提案っていうのは具体的には?」

 生徒総会の進行表を見ながら質問してきたらしい。

「ああ、それ?それはね、新役員として来年はこうしたい。っていうなにか提案があればってこと。役員選出って人気投票だからさぁ、投票前に意気込みとかそういうの話さないじゃない?だから、ここで承認が降りてからそういうのを話す時間?みたいな」
「話さないとダメなんですか?」
「強制ではないが?」

 現会長が答える。

「提案があればなんでも発言出来ますか?」
「ん?何か、提案があるのかな?」

 現書記が聞いてくる。

「具体的に言えば、校則の改正を」
「え?校則、校則に不満があるの?」

 神山が大きな声を出すが、現書記はまったく気にせずにパソコンを叩き続ける。本日の打合せ内容は、即時パソコンに保管される。

「改正と言うか、削除したい項目があります」
「具体的に言ってくれるか?」

 現会長が佐藤を見た。

「服装についての項目、十一項の記載、カラーコンタクトの使用を禁ずる。こちらの削除を要求します」

 生徒手帳も見ずに言われて、慌てて全員が生徒手帳を開いた。

「……あ、ああ、あった」

 普段開きもしない生徒手帳を開いて、その項目を確認する。そんなことをするのは風紀委員ぐらいなもので、取り締まりの際に読み上げるために風紀委員に所属した生徒が、校則を覚えさせられるぐらいだ。
 生徒会役員は校則なんてほぼ気にはしない。

「佐藤は、なぜ、これの削除を?」

 現会長が聞いてきた。
 居合わせた全員の視線が佐藤に集まった。

「俺がカラコンを使用しているからです」

 ハッキリと言われて、全員が耳を疑った。
 とても使っているとは思えないような見た目の生徒が、カラコンを使用している?

「えーっと、意外すぎてビックリなんだけどぉ、佐藤くんって、実はネコなの?」

 やや小柄な体躯をしてはいるので、この大人しい様子からいってネコです。と言われても違和感はない。が、カラコンを使ってまで可愛く見せたい相手がいるのだろうか?という疑問が生じる。

「違います。俺、そういうの興味無いですから」

 神山の質問をバッサリ切る形で答えると、佐藤は現会長を見た。

「化粧をしている生徒がいる状態で、確かにこの項目は不要だと思う。いつからあるのか知らないが、誰も気にしていないところがすごいな。風紀ならこの項目を盾に取り締まりしまくれるだろうに」

 現会長がそう言うと、全員が頷く。

「それだけ誰も読んでない。ってことだったのかな?風紀の取り締まりも、服装なんてノーカンだもんね」
「で?どうしますか?」

 現書記が促す。

「提案すると、総会で俺が話すんですか?」

 佐藤が質問した。

「んー、校則の改正提案だから、司会が喋って承認を得る。って感じになるのかなぁ?」

 神山がそう言うと、現会長が頷いた。

「総会で校則の改正を提案するのなんて、ここ数年なかったからな。承認を得る必要があるから、それでいいだろう」

 言われて佐藤が若干ほっとしたような顔をしたので、神山がすかさず声をかける。

「あれ?そーゆー事、いいながら、佐藤くんは人前で話さなくて済んだことに喜んじゃってる?」
「………べつに」

 神山からあからさまに目線を逸らして佐藤が答えると、神山が佐藤との距離をいきなり詰めた。

「っ、なんですか?」

 生徒会室のソファーに座っていた佐藤の膝の間に、神山の膝が割って入る形をとったため、佐藤が仰け反った。

「カラコンって、何色いれてるのかなぁ?って」

 問答無用で神山が佐藤の前髪を上げて覗き込む。

「あれ?」

 予想外の瞳を見て、神山が小首を傾げた。

「カラコン?」
「黒目を強調するタイプのカラコンです」

 佐藤は遠慮がちに神山を押しのけた。

「えー、お目目キラキラにしちゃうやつ?やっぱり、誰か狙ってんの?」

 押されながらも神山は、佐藤に食いついて離れようとしない。

「狙ってません」

 佐藤の態度に神山が更にチャチャを入れる。

「えーなんでぇ、ネコでもなくて、誰も狙ってないのにキラキラお目目にして、それって誰得?佐藤くんはナルシストなわけ?」
「違います」

 佐藤は完全に神山から、顔を背けていた。隣に座る新生徒会副会長の下総と目線があって、すぐに逸らした。

「神山、プライベートなことをそんなに探るな」
「はーい」

 現会長に言われて神山は佐藤の上から降りた。

「新会員たちは、総会でなにか話したいことはないかな?」

 現会長が改めて質問するも、全員が首を横に振った。

「そうか、随分大人しいが……生徒会の仕事は結構ハードだぞ」
「佐藤くんはさぁ、今回の総会で発言しなくても、入学式と新歓で絶対喋らなくちゃいけないんだよ?」

 神山が心配してますよ。って感じで言ってくるが、佐藤は無表情のまま。

「べつに奇をてらったことをしようとは思いませんので」
「僕らがいるうちに慣れれば楽なのになぁ」
「卒業式で送辞は読みますよ」

 佐藤が淡々と言うので、神山は一瞬なんのことか分からなかったようだ。

「え、送辞?」
「在校生代表で送辞を読みますから」
「は、俺たちのこと、追い出す気満々ってことかよ」
「ああ、その前に送別会が、ありましたね」

 書類に目を通しながら佐藤が言う。

「送別会の運営についてはサポートが着きますか?」
「着きます」

 パソコン入力しながら現書記が答えた。

「分かりました」

 佐藤が、そのまま黙ると、隣に座っている下総が佐藤を見つめた。だからといってなにか話をする訳でもない。

「新役員たちは、早く仲良くなれるといいな」

 現会長がそう言うと、新役員たちは顔を見合せた。
 仲良く、なれるのだろうか?年齢にバラツキがある時点で難しそうなのに、更に会長が1年生である。

「善処します」

 佐藤が現会長を見て答えた。

「うわぁ、佐藤くんその答え方」

 模範解答を出されたようでしっくり来ない。もう少し、歩み寄って貰いたい本音があると言うのに。

「じゃあ、今日はここまでで、また明日」
「分かりました」

 全員が一斉に頭を下げた。

「あ、食器洗いますよ」

 新書記の岩崎がお盆に乗せて紅茶の入っていたカップを下げる。新旧役員が何となく片付けをしていると、現会長が佐藤の腕を引いて休憩室に連れ込んだ。

「あ、会長ってば」

 気付いた神山が声を上げるが、すでに扉が閉まってしまった。



「佐藤」

 連れ込まれた部屋は仮眠室の作りをしていた。
 現会長と佐藤の身長差は大体の10cmほど。

「なんでしょう?」

 上目遣いに佐藤が現会長を見る。

「お前、会長をやるって言う心構えはあるのか?」

 ありがちな質問に佐藤は小さくため息をついた。ここでため息をつくだけで留めたことを褒めて欲しいぐらいなのに。

「立候補をした訳でもないのにトップ当選させられて、蓋を開ければ面倒事を押し付けられたってだけの会長職でしょう?生徒の自主性を育てるという名の教務職の押しつけにしか見えないのに、心構えも何も無いですよ。そもそも総会で承認されなければ会長にはなりませんよね?承認される保証もないの心構えなんてあるわけないですよ」

 佐藤が一気にまくし立て言い終わるや否や、現会長の手が佐藤の頬を叩いていた。
 叩かれた佐藤は、べつに何も言わず現会長を睨みつけるようなこともしなかった。

「これ以上御用がないのなら、帰ります」

 佐藤は頭を下げると、扉を開けてでていった。
 佐藤が出た後、特に何の騒ぎも聞こえてこないので、ほかの役員は帰ったあとなのだろう。
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