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波乱の三学期
第9話 佐藤を探せ
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まだ夕食の時間になったばかりで、寮の食堂の人ではまばらだった。
観たい番組があったので、神山は少し早いけれど夕食にしようと食堂に顔を出していた。
親衛隊たちと最後の思い出に、順番に夕食を共にする約束をしていたため、今日も複数の親衛隊と一緒に席に着く。
そんな時だった。いつもは食堂のメニューや学校行事のお知らせなどが流れているモニターが突然砂嵐を写したかと思うと、無機質な空間を映し出したのは。
「はぁ?」
モニターに映し出された映像を認識した時、神山は素直に不機嫌な声を出した。
かつてそんな声を出したことなんてない。
「勝手に撮影するな!生徒会が許可しないからね」
映し出された映像を観て、咄嗟に叫んだ。
「会長を呼んで!風紀の桜木もっ!」
神山の悲鳴に近い叫び声を聞いて、親衛隊たちが走り出す。
神山はモニターから目線を離せないままポケットからスマホを取りだした。震える手でつい最近登録したばかりの名前を押す。
『会計 相葉』
一回のコールで相手が出ると、神山は叫ぶように言った。
「今すぐ、役員全員寮の食堂に来て!」
モニターでは、頭の上で手首を手錠で繋がれた佐藤が、ベッドの上で眠っていた。
「これは、何事なんだ?」
神山の隣に桜木が来て呟く。
「それは、こっちのセリフだよ。風紀はなにやってんの?」
モニターに映る佐藤は未だに目覚めない。薬をでもかがされたのか、全く動く気配がない。
「申し訳ございません、神山様」
親衛隊が神山の隣に立って耳元で報告する。
「会長様はご家庭の用事で外出しております」
「わかった。僕が連絡する」
神山は、イラつきながら会長に連絡を入れた。直接電話をするなんて実にに久しぶりだ。
『どうした?珍しいな』
「緊急事態、佐藤くんが拉致られた」
『見つからないのか?』
「もっとタチが悪いよ。公開処刑っ」
神山はそう叫ぶと通話を終了した。
「もっと、優しく説明してやれよ」
桜木はそういうが、こんなもの見せつけられて冷静でいられるわけが無い。
「桜木、風紀は何してるの?佐藤くんの親衛隊発足を来年に先伸ばしたのはお前なんだからね?この責任どうとってくれるわけ?」
神山が、噛み付くようにそう言うと、桜木も苦虫を噛み潰したようような顔をするしかない。
「風紀全員に連絡をした。校内にいる佐藤を探し出せってな」
「こんな状態にされてるっことは、佐藤くんが拉致られてるの、誰も見てないって事だよね?」
「……そうなるな」
「風紀はどこを見回っているのかな?」
「そんなら嫌味言ってくれるなよ」
桜木は小さく舌打ちをした。
佐藤の親衛隊発足を、有料の号外を理由に来年に持ち越しさせたのは、風紀委員長である桜木の判断だった。
元々親衛隊のなかった佐藤が会長に就任してしまったので、本来なら早急に親衛隊を発足させるべきだったのだが、あの号外が出た。
それが真実かどうかの確認をしてから発足させた方が親衛隊の中で揉め事が起きないだろうと、来年に持ち越しの判定をだしたのだが、それが今回完全に裏目に出てしまった。
「この画像を風紀に回すからな」
桜木が、そう言ってモニターを写してLINEに載せる。
「この画像で、場所がわかるの?」
「使われてない倉庫っぽいんだが」
桜木が考え込んでいる。
「こんな、保健室で昔使っていたようなパイプのベッドなんて、どこにあるんだ?」
記憶を辿る限り、こんなベッドに見覚えがない。
「演劇部の大道具とか?」
神山が聞く。
「演劇部にこんな大道具はありません」
演劇部員がたまたま居合わせて、否定してきた。
映し出される壁の色から、部室ではなく倉庫に使われるペンキと判断できるようだ。
「校内のどこかの倉庫ってこと?」
神山が桜木に聞くが、桜木の返事もどこかの曖昧だ。
「この壁のペンキは、倉庫によく使われているんだが、何しろ倉庫が多すぎる」
「風紀が、片っ端から開けまくればいいんじゃない?」
神山が桜木をら睨みつけた時、ようやく新役員たちが到着した。
「なんですか、これ?」
モニターを観て相葉が力なく問いかける。
「見ての通り、佐藤くんが拉致られて公開処刑される寸前ってやつ」
イラつく神山は、半ば八つ当たりのように言い放った。噂を聞きつけた生徒たちが食堂に集まってきている。
「おい、モニターを撮るんじゃねーぞ」
桜木が後ろに向かってさけぶと、食堂が静かになった。
桜木はモニターを観ながら、食堂を見渡せるように椅子を置くとそこに座った。
遅れてやってきた下総がモニターの真正面に立ち、凝視した。
「怪我、してる」
モニターを食い入るように見つめ、下総はそういった。
「え?怪我してる?」
それを聞いて神山は慌ててモニターを見直した。相変わらず佐藤は動かないが、どこを怪我しているというのか?
「口から血が出てます。おそらく殴られたんでしょう」
下総に言われて、モニターをよく見れば、確かに佐藤の口の端に血が滲んでいた。
「ねぇ、まだ、見つからないの?」
神山が、時計を気にしながら桜木に尋ねる。三年生の風紀がいないとしても、二十名以上の風紀が探しているはずだ。
「榊原、まだ見つからねーのかよ」
桜木も、苛立ちながら副委員長である榊原に連絡を入れていた。
意識が戻る寸前、暗闇から引き戻される感覚はなんとも奇妙だ。
だが、視界は薄暗く明かりが足りなかった。
(頭殴られたから、脳震盪起こしてるな)
瞼を、うっすらと開けて佐藤は考えた。自分の体勢を考えると拘束されているのが分かった。
腕が頭の上にまとめられている。冷たい感触が手首にあるので、何か金属製のものが使われている推測する。
足は何故か縛られていない。服も着ている。ゆっくりと、考えていると口の中が違和感でいっぱいになった。
「ちっ」
飲み込むことが出来ないそれを、力いっぱい吐き出した。
咳き込むように吐き出すと、それは赤黒かった。
顔を動かしたついでに辺りを見れば、すぐ側にモニターがあって、そこには自分が映し出されている。
(録画されている?)
映された角度を考えると、カメラは足元から向けられているようだ。
(犯人は自分の顔を映さないようにしているわけか)
モニターの端に表示される録画中の赤いランプを眺めながら、ゆっくりと視線を動かすと、反対側に誰かが立っていた。
両手が頭の上にまとめられているせいで、どうにも頭が動かしにくいとは思うが、それでも相手の方を見る。
殴りかかってきた奴に違いなかった。
(単独犯?)
室内に他に誰もいないので、そうとしか考えられなかった。
「会長様、ようやく起きたね」
かけられた声が耳障りだった。
佐藤は大きく呼吸をする。血が喉に張り付いていることはないようだ。
「モニターに映っている画像は、寮の食堂にも配信しているよ」
それを聞いて思うのは、こいつはなかなかこの手の事に詳しいタイプらしい。だが、ここはどこかが問題だ。
(配信して、どのくらいたっている?風紀が探し出せないってことがあるのか?)
何も喋らない佐藤に面白みを感じなかったのか、犯人が近づいてきた。
「音声も流しているから、喋っていいんだよ?」
上半身の脇に立ち、犯人の手が佐藤の顎を撫でる。
気持ちの悪い撫でられ方をして、佐藤は舌打ちをした。
「始まった?!」
神山が焦ってような声を出した。
佐藤が起きて、犯人が佐藤に手を出した。
起き抜けに佐藤が、血のようなものを吐き捨てた。
怪我をしているのは間違いない。
犯人の手が佐藤の顔を撫でている。佐藤は嫌そうな顔をしているが、悲鳴をあげるとか、そう言った反応を示さない。
「起きるまで待つとか、余裕じゃねーか」
桜木が舌打ちをした。
犯人は見つからないと確信しているのだろう。
だから、こうやって映像を流し、佐藤が、起きるまでことを待っていた。
「風紀に見つけられないと、思っているわけだ。舐められてるね?桜木」
観たい番組があったので、神山は少し早いけれど夕食にしようと食堂に顔を出していた。
親衛隊たちと最後の思い出に、順番に夕食を共にする約束をしていたため、今日も複数の親衛隊と一緒に席に着く。
そんな時だった。いつもは食堂のメニューや学校行事のお知らせなどが流れているモニターが突然砂嵐を写したかと思うと、無機質な空間を映し出したのは。
「はぁ?」
モニターに映し出された映像を認識した時、神山は素直に不機嫌な声を出した。
かつてそんな声を出したことなんてない。
「勝手に撮影するな!生徒会が許可しないからね」
映し出された映像を観て、咄嗟に叫んだ。
「会長を呼んで!風紀の桜木もっ!」
神山の悲鳴に近い叫び声を聞いて、親衛隊たちが走り出す。
神山はモニターから目線を離せないままポケットからスマホを取りだした。震える手でつい最近登録したばかりの名前を押す。
『会計 相葉』
一回のコールで相手が出ると、神山は叫ぶように言った。
「今すぐ、役員全員寮の食堂に来て!」
モニターでは、頭の上で手首を手錠で繋がれた佐藤が、ベッドの上で眠っていた。
「これは、何事なんだ?」
神山の隣に桜木が来て呟く。
「それは、こっちのセリフだよ。風紀はなにやってんの?」
モニターに映る佐藤は未だに目覚めない。薬をでもかがされたのか、全く動く気配がない。
「申し訳ございません、神山様」
親衛隊が神山の隣に立って耳元で報告する。
「会長様はご家庭の用事で外出しております」
「わかった。僕が連絡する」
神山は、イラつきながら会長に連絡を入れた。直接電話をするなんて実にに久しぶりだ。
『どうした?珍しいな』
「緊急事態、佐藤くんが拉致られた」
『見つからないのか?』
「もっとタチが悪いよ。公開処刑っ」
神山はそう叫ぶと通話を終了した。
「もっと、優しく説明してやれよ」
桜木はそういうが、こんなもの見せつけられて冷静でいられるわけが無い。
「桜木、風紀は何してるの?佐藤くんの親衛隊発足を来年に先伸ばしたのはお前なんだからね?この責任どうとってくれるわけ?」
神山が、噛み付くようにそう言うと、桜木も苦虫を噛み潰したようような顔をするしかない。
「風紀全員に連絡をした。校内にいる佐藤を探し出せってな」
「こんな状態にされてるっことは、佐藤くんが拉致られてるの、誰も見てないって事だよね?」
「……そうなるな」
「風紀はどこを見回っているのかな?」
「そんなら嫌味言ってくれるなよ」
桜木は小さく舌打ちをした。
佐藤の親衛隊発足を、有料の号外を理由に来年に持ち越しさせたのは、風紀委員長である桜木の判断だった。
元々親衛隊のなかった佐藤が会長に就任してしまったので、本来なら早急に親衛隊を発足させるべきだったのだが、あの号外が出た。
それが真実かどうかの確認をしてから発足させた方が親衛隊の中で揉め事が起きないだろうと、来年に持ち越しの判定をだしたのだが、それが今回完全に裏目に出てしまった。
「この画像を風紀に回すからな」
桜木が、そう言ってモニターを写してLINEに載せる。
「この画像で、場所がわかるの?」
「使われてない倉庫っぽいんだが」
桜木が考え込んでいる。
「こんな、保健室で昔使っていたようなパイプのベッドなんて、どこにあるんだ?」
記憶を辿る限り、こんなベッドに見覚えがない。
「演劇部の大道具とか?」
神山が聞く。
「演劇部にこんな大道具はありません」
演劇部員がたまたま居合わせて、否定してきた。
映し出される壁の色から、部室ではなく倉庫に使われるペンキと判断できるようだ。
「校内のどこかの倉庫ってこと?」
神山が桜木に聞くが、桜木の返事もどこかの曖昧だ。
「この壁のペンキは、倉庫によく使われているんだが、何しろ倉庫が多すぎる」
「風紀が、片っ端から開けまくればいいんじゃない?」
神山が桜木をら睨みつけた時、ようやく新役員たちが到着した。
「なんですか、これ?」
モニターを観て相葉が力なく問いかける。
「見ての通り、佐藤くんが拉致られて公開処刑される寸前ってやつ」
イラつく神山は、半ば八つ当たりのように言い放った。噂を聞きつけた生徒たちが食堂に集まってきている。
「おい、モニターを撮るんじゃねーぞ」
桜木が後ろに向かってさけぶと、食堂が静かになった。
桜木はモニターを観ながら、食堂を見渡せるように椅子を置くとそこに座った。
遅れてやってきた下総がモニターの真正面に立ち、凝視した。
「怪我、してる」
モニターを食い入るように見つめ、下総はそういった。
「え?怪我してる?」
それを聞いて神山は慌ててモニターを見直した。相変わらず佐藤は動かないが、どこを怪我しているというのか?
「口から血が出てます。おそらく殴られたんでしょう」
下総に言われて、モニターをよく見れば、確かに佐藤の口の端に血が滲んでいた。
「ねぇ、まだ、見つからないの?」
神山が、時計を気にしながら桜木に尋ねる。三年生の風紀がいないとしても、二十名以上の風紀が探しているはずだ。
「榊原、まだ見つからねーのかよ」
桜木も、苛立ちながら副委員長である榊原に連絡を入れていた。
意識が戻る寸前、暗闇から引き戻される感覚はなんとも奇妙だ。
だが、視界は薄暗く明かりが足りなかった。
(頭殴られたから、脳震盪起こしてるな)
瞼を、うっすらと開けて佐藤は考えた。自分の体勢を考えると拘束されているのが分かった。
腕が頭の上にまとめられている。冷たい感触が手首にあるので、何か金属製のものが使われている推測する。
足は何故か縛られていない。服も着ている。ゆっくりと、考えていると口の中が違和感でいっぱいになった。
「ちっ」
飲み込むことが出来ないそれを、力いっぱい吐き出した。
咳き込むように吐き出すと、それは赤黒かった。
顔を動かしたついでに辺りを見れば、すぐ側にモニターがあって、そこには自分が映し出されている。
(録画されている?)
映された角度を考えると、カメラは足元から向けられているようだ。
(犯人は自分の顔を映さないようにしているわけか)
モニターの端に表示される録画中の赤いランプを眺めながら、ゆっくりと視線を動かすと、反対側に誰かが立っていた。
両手が頭の上にまとめられているせいで、どうにも頭が動かしにくいとは思うが、それでも相手の方を見る。
殴りかかってきた奴に違いなかった。
(単独犯?)
室内に他に誰もいないので、そうとしか考えられなかった。
「会長様、ようやく起きたね」
かけられた声が耳障りだった。
佐藤は大きく呼吸をする。血が喉に張り付いていることはないようだ。
「モニターに映っている画像は、寮の食堂にも配信しているよ」
それを聞いて思うのは、こいつはなかなかこの手の事に詳しいタイプらしい。だが、ここはどこかが問題だ。
(配信して、どのくらいたっている?風紀が探し出せないってことがあるのか?)
何も喋らない佐藤に面白みを感じなかったのか、犯人が近づいてきた。
「音声も流しているから、喋っていいんだよ?」
上半身の脇に立ち、犯人の手が佐藤の顎を撫でる。
気持ちの悪い撫でられ方をして、佐藤は舌打ちをした。
「始まった?!」
神山が焦ってような声を出した。
佐藤が起きて、犯人が佐藤に手を出した。
起き抜けに佐藤が、血のようなものを吐き捨てた。
怪我をしているのは間違いない。
犯人の手が佐藤の顔を撫でている。佐藤は嫌そうな顔をしているが、悲鳴をあげるとか、そう言った反応を示さない。
「起きるまで待つとか、余裕じゃねーか」
桜木が舌打ちをした。
犯人は見つからないと確信しているのだろう。
だから、こうやって映像を流し、佐藤が、起きるまでことを待っていた。
「風紀に見つけられないと、思っているわけだ。舐められてるね?桜木」
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