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36.片足突っ込んだだけでも
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「うわ、すごすぎる」
ホテルの駐車場からそのまま案内された部屋にまず驚いた。話には聞いてはいたが、スイートルームというやつだ。広いリビングに十人以上は座れそうな巨大なソファー、さらにその奥には複数のベッドルームがあるようだった。
「軽食を用意させますから、シャワーを浴びてください」
いかにもセレブな発言をされて、戸惑うしかない貴文だった。だが、義隆が何のためらいもなく貴文を案内してくれた。
「お湯はそんなに熱くないと思います。シャンプーとかのボトルはここに並んでますから、タオルはここに、こっちはバスローブです」
次から次へと説明されたが、タオルもバスローブもどっちも白くて区別がつかなかった。
「う、うん。ありがとう」
はっきり言えば、驚きすぎて目が覚めた。歯磨きはしたものの、どうやら上流階級の人は着替えの前には体も清潔にするらしかった。
「はぁ、すごい」
朝風呂何て贅沢なもの、年に一回の正月にするぐらいだ。それか、社員旅行の朝だろう。冬の朝にはありがたい少し熱めの湯につかり、貴文は顔を洗った。おもわずため息が出てしまうのは庶民であるが故だろう。窓から見えるのは冬のすみっきた青空と高いビルだ。ピカピカのシャワーヘッドから温かなお湯を出し、いつもの調子でごしごしと泡立てて髪を洗った。
「もう、匂いが高級」
そもそも自宅で使っているシャンプーと泡立ちがまるで違っていた。指先の感触がまるで違うことに感動しつつ、体も丁寧に洗ってみた。
「もしかして、加齢臭……とか」
泡を洗い流しながら思わず自分の匂いを嗅いでしまった。もっとも、洗ったばかりなので大変いい匂いしかしなかった。
「これでいいのかな?」
言われたとおりにバスローブを羽織って部屋に戻れば、テーブルの上にはたくさんの食べ物が並んでいた。まるでプチパーティーのようである。さすがはホテルクオリティといったところだろう。
「貴文さん、こちらに座ってください」
義隆に案内されてソファーに座ると、なぜだか義隆がドライヤーで貴文の髪を乾かし始めた。
「風邪をひくといけませんから、乾かしますね」
そんなことを言われたら、さすがに断るわけにはいかなくて、貴文はされるがままになっていた。目の前に置かれたグラスに、田中が慣れた手つきで水を注いだ。もちろん水だって貴文の知っている給水ポットなんかではなく、色のついたガラス瓶からまるでワインのように注がれたのだ。
「ああ、おいしい」
風呂上がりの水分補給は重要だから、貴文はためらうことなくグラスの水を飲みほした。
きゅるるる
水を飲んだことで胃が動き出したのか、貴文のお腹がかわいらしい音を立てた。
「うっ」
さすがにこの年になって腹の虫が鳴るとか恥ずかしいものである。貴文の耳がほんのりと赤くなった。ドライヤーを当てていた義隆の耳には届かなかったが、耳がほんのりと赤くなったことで事態を察した。
「どうぞ貴文さん。好きなものを食べてください」
ドライヤーのスイッチを切り、貴文の前の更にサンドイッチを取り分ける。髪を乾かしているから、まずは簡単に食べられるものからだろう。
「あ、うん。ありがとう。いただきます」
お腹がすきすぎていた貴文は、それでもなんとか落ち着いてゆっくりと目の前に置かれたサンドイッチを口にした。なにしろ作りが違うのだ。普段貴文が目にするコンビニのサンドイッチとは違い、パンはトーストされていて、具は薄いハムではなく焼かれた肉だった。トマトもレタスも新鮮で、かじりついたとたんに口の中にトマトの汁があふれ、レタスの歯触りの次にジューシーな肉の感触が来た。
「んぅ、おいしい」
思わず喉が鳴るとはこのことだった。貴文の記憶上こんなにおいしいサンドイッチを食べたことなどなかった。グラスに注がれるのが水なのがよくわかるぐらい、素材一つ一つがおいしかった。
貴文がサンドイッチに夢中になっているうちに、髪は乾いたらしく、いつの間にかに義隆が隣に座っていた。そうして貴文の前に取り分けたサラダや初めて見る真っ白なチーズをのせた皿を置いた。
「どうぞ、貴文さん」
そう言って自然に貴文の手にフォークを握らせてきたから、貴文もそのまま目の前のサラダを食べた。
「ドレッシングまでおいしい」
「俺もここのホテルのドレッシング好きなんです」
隣りで義隆がほほ笑んだ。
「クリスマス会の会場はこの下の階なので、このフロアの部屋は控室代わりに使われているんですよ」
そんな情報をさらりと言われても、貴文には何もできない。そもそも気の利いた手土産なんか持ってきてもいないのだ。
「昼の部に参加する子どもたちには、おじいさまからプレゼントが渡されるんです」
食後のコーヒーを飲みながら義隆が説明してくれた。もっとも渡されるプレゼントは全員同じで、お菓子の詰め合わせらしい。
「大丈夫です。ちゃんとおじい様に貴文さんの分も頼んでありますから」
お手数をおかけします。と貴文は心の中で謝るのだった。
「うわ、すごすぎる」
ホテルの駐車場からそのまま案内された部屋にまず驚いた。話には聞いてはいたが、スイートルームというやつだ。広いリビングに十人以上は座れそうな巨大なソファー、さらにその奥には複数のベッドルームがあるようだった。
「軽食を用意させますから、シャワーを浴びてください」
いかにもセレブな発言をされて、戸惑うしかない貴文だった。だが、義隆が何のためらいもなく貴文を案内してくれた。
「お湯はそんなに熱くないと思います。シャンプーとかのボトルはここに並んでますから、タオルはここに、こっちはバスローブです」
次から次へと説明されたが、タオルもバスローブもどっちも白くて区別がつかなかった。
「う、うん。ありがとう」
はっきり言えば、驚きすぎて目が覚めた。歯磨きはしたものの、どうやら上流階級の人は着替えの前には体も清潔にするらしかった。
「はぁ、すごい」
朝風呂何て贅沢なもの、年に一回の正月にするぐらいだ。それか、社員旅行の朝だろう。冬の朝にはありがたい少し熱めの湯につかり、貴文は顔を洗った。おもわずため息が出てしまうのは庶民であるが故だろう。窓から見えるのは冬のすみっきた青空と高いビルだ。ピカピカのシャワーヘッドから温かなお湯を出し、いつもの調子でごしごしと泡立てて髪を洗った。
「もう、匂いが高級」
そもそも自宅で使っているシャンプーと泡立ちがまるで違っていた。指先の感触がまるで違うことに感動しつつ、体も丁寧に洗ってみた。
「もしかして、加齢臭……とか」
泡を洗い流しながら思わず自分の匂いを嗅いでしまった。もっとも、洗ったばかりなので大変いい匂いしかしなかった。
「これでいいのかな?」
言われたとおりにバスローブを羽織って部屋に戻れば、テーブルの上にはたくさんの食べ物が並んでいた。まるでプチパーティーのようである。さすがはホテルクオリティといったところだろう。
「貴文さん、こちらに座ってください」
義隆に案内されてソファーに座ると、なぜだか義隆がドライヤーで貴文の髪を乾かし始めた。
「風邪をひくといけませんから、乾かしますね」
そんなことを言われたら、さすがに断るわけにはいかなくて、貴文はされるがままになっていた。目の前に置かれたグラスに、田中が慣れた手つきで水を注いだ。もちろん水だって貴文の知っている給水ポットなんかではなく、色のついたガラス瓶からまるでワインのように注がれたのだ。
「ああ、おいしい」
風呂上がりの水分補給は重要だから、貴文はためらうことなくグラスの水を飲みほした。
きゅるるる
水を飲んだことで胃が動き出したのか、貴文のお腹がかわいらしい音を立てた。
「うっ」
さすがにこの年になって腹の虫が鳴るとか恥ずかしいものである。貴文の耳がほんのりと赤くなった。ドライヤーを当てていた義隆の耳には届かなかったが、耳がほんのりと赤くなったことで事態を察した。
「どうぞ貴文さん。好きなものを食べてください」
ドライヤーのスイッチを切り、貴文の前の更にサンドイッチを取り分ける。髪を乾かしているから、まずは簡単に食べられるものからだろう。
「あ、うん。ありがとう。いただきます」
お腹がすきすぎていた貴文は、それでもなんとか落ち着いてゆっくりと目の前に置かれたサンドイッチを口にした。なにしろ作りが違うのだ。普段貴文が目にするコンビニのサンドイッチとは違い、パンはトーストされていて、具は薄いハムではなく焼かれた肉だった。トマトもレタスも新鮮で、かじりついたとたんに口の中にトマトの汁があふれ、レタスの歯触りの次にジューシーな肉の感触が来た。
「んぅ、おいしい」
思わず喉が鳴るとはこのことだった。貴文の記憶上こんなにおいしいサンドイッチを食べたことなどなかった。グラスに注がれるのが水なのがよくわかるぐらい、素材一つ一つがおいしかった。
貴文がサンドイッチに夢中になっているうちに、髪は乾いたらしく、いつの間にかに義隆が隣に座っていた。そうして貴文の前に取り分けたサラダや初めて見る真っ白なチーズをのせた皿を置いた。
「どうぞ、貴文さん」
そう言って自然に貴文の手にフォークを握らせてきたから、貴文もそのまま目の前のサラダを食べた。
「ドレッシングまでおいしい」
「俺もここのホテルのドレッシング好きなんです」
隣りで義隆がほほ笑んだ。
「クリスマス会の会場はこの下の階なので、このフロアの部屋は控室代わりに使われているんですよ」
そんな情報をさらりと言われても、貴文には何もできない。そもそも気の利いた手土産なんか持ってきてもいないのだ。
「昼の部に参加する子どもたちには、おじいさまからプレゼントが渡されるんです」
食後のコーヒーを飲みながら義隆が説明してくれた。もっとも渡されるプレゼントは全員同じで、お菓子の詰め合わせらしい。
「大丈夫です。ちゃんとおじい様に貴文さんの分も頼んでありますから」
お手数をおかけします。と貴文は心の中で謝るのだった。
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