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56.授業はサボった覚えがありません
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56.
「合格発表は平日なのよねぇ、ニュース番組録画予約しておいたんだけど、できてるかな?」
そんなことを言いつつ、風呂上がりの姉はリモコンを操作する。
「ワイドショーの放送時間に合わせて行ったんだよ」
貴文はそう言いながら食卓に鍋を置き、カセットコンロに火をつけた。義隆に頼まれて有給休暇をとり、午前中に材料を買い揃えておいたから、帰宅してゆっくりと鍋の支度をしていたのだ。分かりきっていることだけど、義隆は合格しているだろうから、そのお祝いのすき焼きである。
「奮発したわね。いい卵」
貴文が買ってきた卵のパックを見て母親が言う。
「だってケチれないじゃん。俺の顔バレてるし、近所のスーパーだし」
牛肉だって国産のいいやつを買ったのだ。鶏すきも好きだから、地鶏のいいやつを買ってしまった。本当は安ければなんでも良かったのに。
「おー、見事に報道規制かかってるじゃない」
「そうねぇ、貴文の顔がほとんど映ってないわねぇ」
そんなことを言いながら録画したニュース番組を見ている母親と姉を見て、貴文は首を傾げた。
「報道規制ってなに?」
確かに報道陣は大勢いたが、誰一人近寄ってくることは無かった。
「え?やだ、あんた当事者のクセしてしらないの?」
「なんか近づいて来ないなぁ。とは思っていたけど」
自分の姿をテレビで見るのはなんだかとてもき恥ずかしかった。これで2度目なのだが、馴れるものでは無い。
「貴文あんたさぁ、オメガ保護法って知ってる?」
「一応、知ってるけど」
「一応、ね。つまり、中身はよくわかって居ない。ってことよね」
「……はい」
合格発表の大学から神社に移動する時に、秘書の田中からサラッと説明されたのだが、サラッとしていた上に、アッサリもしていたのだ。そう、「ご存知かとは思いますが」という言葉が常について話している。そんな感じだった。
「ええと、あのさぁ貴文。オメガ保護法を作った一之瀬匡様について知ってることは?」
「作った人とってことしか知らない」
貴文が即答したことで、両親が固まった。姉は盛大にため息をついた。
「そっか、そうよね。あんたはアンパイの地元の高校に通って県内の大学に進学したんだもんね。私と違ってオメガと接しないまま今に至るんだよね。そっか……そうよね。そこからだったわ」
「なにそれ、オメガに接したことがないのがそんなにダメだった?だって学校の先生に言われたんだよ。関わらなくて済むならオメガとは一生関わらない人生を歩んだ方が幸せだ。って」
「その言葉を真に受けてたの?」
「ちょっと、貴文。その先生は誰よ?いい加減すぎるわ」
「いや、ある意味正しいぞ、その先生の言っていることは」
母親と父親が口を挟んできたが、なんだか真逆な発言だ。
「あーもーいーわ。とにかく黙ってこれを見て」
姉がリモコンを操作して、別の録画を再生した。それは大学受験の日に貴文が会場から出てきた義隆にお守りを渡した日のニュース映像だった。
「いーい?黙ってこのニュースを見る」
恥ずかしさのあまり変な声を出そうとした貴文を、姉が目線で制した。まぁ、隣に座っているのでほぼ睨みつけられたと言ってもいいだろう。
貴文を抱擁する義隆の画像が終わり、スタジオに切り替わってアナウンサーが映し出された。そのアナウンサーは手にしたタブレットを確認すると、ゆっくりと瞬きをしてカメラを見据えた。
「尚この報道を受け一之瀬義隆様は『俺のオメガ』宣言をなされました。今後当局は細心の注意をもってこの件の報道を取り扱い致します。視聴者の皆様もどうかお気をつけ下さい」
画面がCMに切り替わったところで姉が再生を止めた。
「分かった?」
「え?いや、あの『俺のオメガ』宣言って何?」
それこそ意味不明なワードが出てきて、それを至極真面目な顔でアナウンサーが報道したのだ。貴文にとってはちんぷんかんぷんもいいいところだ。
「それよ。つまり、オメガ保護法を作った一之瀬匡様の番は後天性オメガだったの」
「後天性……」
読んで字のごとく。つまりオメガとして後から目覚めたということだ。
「一之瀬匡様がオメガ保護法を作り、現在のシェルターのあり方を基礎から作り直したのは全て番様のためだったのよ。出会った当時番様はベータだったんですって。でも、いつどのタイミングでオメガとして目覚めるか分からない。だからベータであってもアルファが『俺のオメガ』と宣言すれば、その人はオメガ保護法の対象者となると言う一文があるのよ。オメガ保護法に」
「…………はぁ」
貴文は頭の中でグルグルと考えた。車の中で確かに義隆が言っていた。そして秘書の田中が解説をしてくれた。だが、その時貴文は見当違いな感想を胸に抱いたのだ。
「昔からあったらしいのよね。『俺のオメガ』って宣言すること自体は。意味としてはまだ番ってないけどいずれ番うから手出すんじゃねーぞ。って事だったみたいなのよね。高校で習った感じだと」
姉は昔昔の記憶を辿って説明してくれた。貴文にもわかりやすいように幾分噛み砕いてくれたおかげで、随分と分かりやすかった。
「で、そのアルファ同士の威嚇?をオメガ保護法の一文に入れてあるから、例えベータであってもアルファが『俺のオメガ』って宣言した相手はオメガ保護法で守られることになってるの。だから貴文、あんたがベータでも保護の対象になってるわけよ」
姉がドヤァって、感じで説明してくれたので、ようやく貴文も理解した。
(つまり俺がオメガになった訳では無い。って事か。良かった)
貴文はほっとした顔をしてすき焼きの続きを口にした。奮発した牛肉は貴文の財布から出したお金で買ったのだ。
「貴文、お前ちゃんと分かってるのか?」
「うん。大丈夫」
「だからお母さん、貴文のこと義姉さんに自慢できなくなっちゃったのよ」
「………………」
母親は本当に残念そうな顔をしていたのだった。
「合格発表は平日なのよねぇ、ニュース番組録画予約しておいたんだけど、できてるかな?」
そんなことを言いつつ、風呂上がりの姉はリモコンを操作する。
「ワイドショーの放送時間に合わせて行ったんだよ」
貴文はそう言いながら食卓に鍋を置き、カセットコンロに火をつけた。義隆に頼まれて有給休暇をとり、午前中に材料を買い揃えておいたから、帰宅してゆっくりと鍋の支度をしていたのだ。分かりきっていることだけど、義隆は合格しているだろうから、そのお祝いのすき焼きである。
「奮発したわね。いい卵」
貴文が買ってきた卵のパックを見て母親が言う。
「だってケチれないじゃん。俺の顔バレてるし、近所のスーパーだし」
牛肉だって国産のいいやつを買ったのだ。鶏すきも好きだから、地鶏のいいやつを買ってしまった。本当は安ければなんでも良かったのに。
「おー、見事に報道規制かかってるじゃない」
「そうねぇ、貴文の顔がほとんど映ってないわねぇ」
そんなことを言いながら録画したニュース番組を見ている母親と姉を見て、貴文は首を傾げた。
「報道規制ってなに?」
確かに報道陣は大勢いたが、誰一人近寄ってくることは無かった。
「え?やだ、あんた当事者のクセしてしらないの?」
「なんか近づいて来ないなぁ。とは思っていたけど」
自分の姿をテレビで見るのはなんだかとてもき恥ずかしかった。これで2度目なのだが、馴れるものでは無い。
「貴文あんたさぁ、オメガ保護法って知ってる?」
「一応、知ってるけど」
「一応、ね。つまり、中身はよくわかって居ない。ってことよね」
「……はい」
合格発表の大学から神社に移動する時に、秘書の田中からサラッと説明されたのだが、サラッとしていた上に、アッサリもしていたのだ。そう、「ご存知かとは思いますが」という言葉が常について話している。そんな感じだった。
「ええと、あのさぁ貴文。オメガ保護法を作った一之瀬匡様について知ってることは?」
「作った人とってことしか知らない」
貴文が即答したことで、両親が固まった。姉は盛大にため息をついた。
「そっか、そうよね。あんたはアンパイの地元の高校に通って県内の大学に進学したんだもんね。私と違ってオメガと接しないまま今に至るんだよね。そっか……そうよね。そこからだったわ」
「なにそれ、オメガに接したことがないのがそんなにダメだった?だって学校の先生に言われたんだよ。関わらなくて済むならオメガとは一生関わらない人生を歩んだ方が幸せだ。って」
「その言葉を真に受けてたの?」
「ちょっと、貴文。その先生は誰よ?いい加減すぎるわ」
「いや、ある意味正しいぞ、その先生の言っていることは」
母親と父親が口を挟んできたが、なんだか真逆な発言だ。
「あーもーいーわ。とにかく黙ってこれを見て」
姉がリモコンを操作して、別の録画を再生した。それは大学受験の日に貴文が会場から出てきた義隆にお守りを渡した日のニュース映像だった。
「いーい?黙ってこのニュースを見る」
恥ずかしさのあまり変な声を出そうとした貴文を、姉が目線で制した。まぁ、隣に座っているのでほぼ睨みつけられたと言ってもいいだろう。
貴文を抱擁する義隆の画像が終わり、スタジオに切り替わってアナウンサーが映し出された。そのアナウンサーは手にしたタブレットを確認すると、ゆっくりと瞬きをしてカメラを見据えた。
「尚この報道を受け一之瀬義隆様は『俺のオメガ』宣言をなされました。今後当局は細心の注意をもってこの件の報道を取り扱い致します。視聴者の皆様もどうかお気をつけ下さい」
画面がCMに切り替わったところで姉が再生を止めた。
「分かった?」
「え?いや、あの『俺のオメガ』宣言って何?」
それこそ意味不明なワードが出てきて、それを至極真面目な顔でアナウンサーが報道したのだ。貴文にとってはちんぷんかんぷんもいいいところだ。
「それよ。つまり、オメガ保護法を作った一之瀬匡様の番は後天性オメガだったの」
「後天性……」
読んで字のごとく。つまりオメガとして後から目覚めたということだ。
「一之瀬匡様がオメガ保護法を作り、現在のシェルターのあり方を基礎から作り直したのは全て番様のためだったのよ。出会った当時番様はベータだったんですって。でも、いつどのタイミングでオメガとして目覚めるか分からない。だからベータであってもアルファが『俺のオメガ』と宣言すれば、その人はオメガ保護法の対象者となると言う一文があるのよ。オメガ保護法に」
「…………はぁ」
貴文は頭の中でグルグルと考えた。車の中で確かに義隆が言っていた。そして秘書の田中が解説をしてくれた。だが、その時貴文は見当違いな感想を胸に抱いたのだ。
「昔からあったらしいのよね。『俺のオメガ』って宣言すること自体は。意味としてはまだ番ってないけどいずれ番うから手出すんじゃねーぞ。って事だったみたいなのよね。高校で習った感じだと」
姉は昔昔の記憶を辿って説明してくれた。貴文にもわかりやすいように幾分噛み砕いてくれたおかげで、随分と分かりやすかった。
「で、そのアルファ同士の威嚇?をオメガ保護法の一文に入れてあるから、例えベータであってもアルファが『俺のオメガ』って宣言した相手はオメガ保護法で守られることになってるの。だから貴文、あんたがベータでも保護の対象になってるわけよ」
姉がドヤァって、感じで説明してくれたので、ようやく貴文も理解した。
(つまり俺がオメガになった訳では無い。って事か。良かった)
貴文はほっとした顔をしてすき焼きの続きを口にした。奮発した牛肉は貴文の財布から出したお金で買ったのだ。
「貴文、お前ちゃんと分かってるのか?」
「うん。大丈夫」
「だからお母さん、貴文のこと義姉さんに自慢できなくなっちゃったのよ」
「………………」
母親は本当に残念そうな顔をしていたのだった。
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