【完結】知っていたら悪役令息なんて辞めていた

久乃り

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第9話 気づいてない?

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   あの日と違うところと言えば、テオドールが制服を着ていないことだろうか。シャツにカーディガンを羽織って、文学好きそうな学生の雰囲気をまとっている。

 ロイは、ベッドから靴を履いたままの足を下ろした。そうすると、勉強机の椅子に座るテオドールと顔が向き合う。
 テオドールの手には、ロイの新しい教科書があった。騎士の心得と言うやつだ。授業が進んでしまっているから、読んでおくように言われてはいた。

「騎士科に行くというのは本当ですか?」

 テオドールが、ロイに問う。

「え?うん。もう、手続きは済んだよ?」

 休み明けからは騎士科の生徒だ。同じ学園ではあるから、合同演習なんかで顔を合わせたり、座学の試験は一緒に受ける。

「なぜ?私にどんな不満がありましたか?」

 テオドールが少し怒ったように聞いてきた。
 けれど、テオドール相手にだって、アーシアに言われたことをそのまま伝える訳にはいかない。ゲームの主人公って、伝えるわけが無い。

「だって、俺、女の子に負けちゃうぐらい力なくて…アーシア怖いから、騎士科で体鍛えよう、かなぁ……って」

 たどたどしくロイが答えると、テオドールは、数回瞬きをして、ロイを見つめた。

「だって、あなたは確か…」

「うん、俺一人っ子だから、どの道家を継がなくちゃいけないから、仕事はなんだっていいんだ。領地もあるし」

 ロイのそれを聞いて、テオドールはため息をついた。最終的には、ロイは領地を治める。それなら、魔道士より騎士の方が領民受けはいいだろう。こんなヒョロヒョロで薄っぺらい体より、そこそこでも鍛えられた騎士の方が、領民は見た目で安心するだろう。

「そう、ですか」

 テオドールは、手にしていた教科書を置くと、立ち上がった。

「まぁ、二度と会えないわけではありませんから、悲観はしません。それよりも、合同演習の時に指名していただけるのを楽しみにしていますよ」

 そう言ってロイの手をとると、唇を落として去っていった。手の甲に唇を落とすのは、淑女に対する挨拶で、(一応は)男であるロイにするのはなんか違う。そうは思ったけれど、ロイが何かを言う前にテオドールはいなくなってしまった。

 ロイは先程まで、テオドールが手にしていた教科書を手に取る。座学は嫌いでは無いので、騎士の心得を読むことにした。
 魔道士より騎士の方が何かと制約が多そうだ。子爵だし、なにより背の低いロイでは、卒業しても大したところに配属されないだろう。

 変なところに配属されて、選民意識の高い伯爵家の穀潰しみたいな、子息にこき使われるのだけは避けたい。そのためには、それなりの実力と作法を身につける必要がある。

「とりあえず、この教科書の内容は把握しておかないとなぁ」

 入学した時、魔道士の心得とかいう教科書を読まされて、最初の試験の面接で、暗唱させられた。おそらく騎士科も同じことをしたはずだ。だとすれば、ロイだけやらされる可能性は高い。

 読んでおくように、とは、すなわち暗記しておけ。と、いうことと解釈するのが正しいだろう。
 ロイは、夕食の時間までじっくりと教科書を読んだ。
 同室者が帰ってきたのに合わせて、一緒に食堂に行くと、今まで気にしていなかった騎士科のメニューが目に付いた。同じ厨房で作られてはいるけれど、体を使う騎士科のメニューは肉が多い。しかも、量も多い。

「夕食でもあんなに食べるの?」

 よそわれたシチューの量にロイは驚いた。

「そりゃ、体力勝負だからね。休みの日だって鍛錬している生徒は多いんじゃない?」

 同室者にそう言われて、騎士科の方の席を見てみれば、確かにいかにもトレーニング上がりです。と言わんばかりの格好をした生徒が多かった。

「なに、あれ。クマみたい」

 冬なのに、日に焼けた体をして、何故かノースリーブを着ている。肩についている筋肉がおかしな形をしていた。

「いや、騎士だから」

 同室者はそう言うけれど、どう頑張ってもロイの体があんな風になるとは思えない。

「俺、あんな風になれるきがしない」

「なれるとは、到底思えないよ」

 同室者が、すかさず言ってきた。
 顔を見合わせて空いている席に着く。
 魔術学科の生徒たちは、軽めの食事で、特に女子生徒たちはデザート中心のような食事をしていた。魔力を使うと甘いものが欲しくなる。

「今日はいつになく少食だね」

 同室者がロイの食事を見て言った。

「うん。久しぶりに母親にあったら、お茶会に連れ出されてさぁ、バターの効いたお菓子にお茶をたっぷり飲まされたから、ちょっと胸焼け」

「はは、バターはキツいね」

 同室者が笑う。甘いものは食べるけど、年頃の男子ともなると、バターのこってりとお菓子は敬遠したい。しかもそれに、生クリームがついてくるのだから、女子の胃袋はなんと、強いのだろう。

「朝から生クリームたっぷりのパンケーキを食べてからなんだよ」

 ロイはため息をつきながら、サラダを口にした。ロイの胃はもたれにもたれているのだ。
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