【完結】知っていたら悪役令息なんて辞めていた

久乃り

文字の大きさ
11 / 75

第10話 今日からよろしく

しおりを挟む
 今までより30分早起きをして、ロイは同室者と一緒に朝食をとった。一応は肉と野菜をバランスよく自分なりに食べたつもりだ。
 朝食がバイキング形式なのはありがたい。衝立の向こうに見える騎士科の生徒たちと比べると、ロイの食事は半分以下だ。それでもきちんと朝食をとったのは、学園に入って初めてだった。

「これ以上食べたら、校舎に着く前にお腹痛くなる」

 お茶で流し込むように、最後のパンを飲み込んで、ロイは席を立った。同室者はそんなロイを眺めて笑っている。

「昼食はどうするの?騎士科は量が多いよ?」

「受け取る前に、減らしてもらう」

 ロイは即答した。注文する時に、初めから半分で!っと言えばいいのだ。どんなにお腹がすいたって、あんな量はロイの胃袋には、収まらない。
 騎士科の制服をきると、同室者はロイをじっくりと眺めた。

「なかなか、似合うね絵本の王子様みたいだ」

「絵本ってなんだよ」

 褒められたかもしれないけれど、絵本限定というのが引っかかる。

「え?それはねぇ、ロイはどう見てもちっちゃい」

 そう言って、頭をポンポンされると、どうにもならない。身長と顔立ちが絵本の王子様なのだ。
 時間割が分からないので、騎士科の教科書を全部空間収納に突っ込んだ。魔術学科の生徒でも、これができるのは数少ない。騎士科ともなれば、いないかもしれない。

「剣が重たそうだね」

 同室者が指摘する。どうしても、まだ体が偏る。訓練用の剣なのに、ロイの体からすると重たいのだ。

「重心が偏る。慣れたら体が常に傾きそう」

 ロイはそう言って、鏡で身だしなみをチェックした。

「じゃあ、おさきに」

 魔術学科の寮からだから、騎士科の校舎は遠い。とりあえず、場所を把握さえすれば、明日からは転移魔法で行ける。今日だけの我慢だ。ロイは頑張って歩いて、騎士科の敷地にたどり着いた。前方を歩いている生徒は、どう見てもロイより、頭一つは大きい。

 校舎近くの着地ポイントを探しながら歩くと、騎士科の生徒たちの波にのっていた。回りにはなんだか筋肉質な生徒しか見当たらない。小さなロイが気になるのか、追い抜く際に顔を見ていく生徒が多い。誰も彼もが初めましてのロイは、不躾な視線に耐えるしか無かった。

 校章の縁どりの色で学年が分かる。ありがたいことに、頭一つ小さいロイの視界に、校章がちょうどあった。同じ一年の黄色を探すと、ちょうどロイを追い越していく生徒が黄色だった。どうやらロイは歩くのが遅いようだ。
 教室の確認のためについて行こうとしたら、その生徒が振り返ってロイの前に立った。

「!!」

 ロイが驚いて立ち止まると、目の前の生徒に肩を掴まれた。

「お前がロイ・ウォーエント?」

 うえからものを言われて、ロイは面食らった。
 まぁ、確かにロイより頭一つ以上は大きな生徒だ。

「そ、う…ですけ、ど?」

 ロイは瞬きを繰り返して、相手を見た。大きいし、なにより金髪が眩しい。

「俺は騎士科一年の総代を務めている」

「はぁ」

 総代ってなんだろう?ロイは考えた。魔術学科にもいたような気がする。あまり関わった記憶が無いから、目の前の相手の尊大な態度の意味がわからなかった。

「俺はセドリック・ロイエンタールだ。当面お前の面倒を見てやるからありがたく思え」

 そう挨拶されてロイは内心うんざりした。

(ゲームキャラの自己紹介まんまじゃん)

 どうやら、この、キラキライケメン俺様と、当面の間御一緒しなくてはいけないらしい。なんとも面倒な事である。

「ロイは小さいから、よく目立った」

 頼んでもいないのに、手を繋いで歩いてくれるセドリックは、全くロイの歩調に合わせるつもりは無いらしい。コンパスの違いを気にする様子もなく、ロイの手を引っ張るようにして歩いていく。

「ちいさくて目立つって」

 見たまんまのことだけど、小さいのに目立つとはこれ如何に?登校する生徒たちの中に埋もれていたのでは無いだろうか?

「ロイがいるところだけ、穴が空いているようだった」

 なるほど、小さなロイは見えないけれど、そこにいるから遠目からは穴が空いているような空間になっていたと言うことか。
 しかし、それを分かりながら、なぜ歩調を合わせない?どう考えてもロイのコンパスの方が短いではないか。セドリックは、女の子とデートをしたことがないのだろうか?

「俺のことはセドと呼んでくれ」

 出会って五分以内に愛称呼びとか、なかなかなものだ。どれだけ俺様なのだろうか。

「あ、うん、わかった……セド?」

 とりあえず呼んでみると、セドリックは満足そうに返事をした。若干面倒臭いヤツと思ったことは口にはしない。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 透夜×ロロァのお話です。 本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけを更新するかもです。 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑) 大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑) 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

処理中です...