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第27話 招待する者される者
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公爵家の馬車から降り立ったアリアナをでむかえた執事は、その出で立ちを見て、思わず声が出そうな衝撃を受けた。確か昨日は着て行くドレスで渋っていたはずだ。それなのに、アリアナの着て来たこのドレスはどう言う事なのだろう。
「本日の装いはまた一段と素晴らしいですね」
執事は定型文のような言葉を口にしながらも、じっくりとアリアナのドレスを見定めた。
アリアナに、本日の公爵夫人の装いについてのヒントなど、昨日の訪問で与えてなどいなかったはずだ。たった一日で、アリアナは完璧なドレスを用意した事になる。いったい誰がアリアナにアドバイスをしたと言うのだろうか?
アリアナは、特に緊張などしていないようで、案内されるままに屋敷の中を進んでいく。
その姿はまるでこの屋敷の女主人のようにも見えた。
「ウォーエント子爵夫人アリアナ様、ご到着にございます」
執事が恭しく告げると、サロンにいたご婦人方の目線が集まった。
そうして、アリアナの姿を目にして、誰もが息を飲んだ。
ホストである公爵夫人に被らず、昼間の明るさに映える色味のドレス。そして、なおかつ季節感を表現している。
いったいどうやって、アリアナはロイエンタール家のサロンから見える庭を知ったのだろう?
「まあ、なんて素敵なのかしら」
アリアナのドレスを褒めるしかない公爵夫人セラフィムは、そう口にしながらもアリアナを頭のてっぺんから爪先までじっくりと眺めた。アリアナのドレスは、完全に公爵家の庭を意識している。まだ白い雪の残る庭に、咲き残る赤い椿。アリアナの着ているドレスは、まるでその庭を表しているかのようだ。
公爵家に媚びを売る小娘のようなふりをしつつも、まるで主人のような雰囲気を醸し出している。
アリアナは、今日のお茶会に急遽招待された意図を理解しているのだ。
「ご招待いただき光栄ですわ」
微笑んでアリアナはいうけれど、その態度は社交界の華として君臨する女王の片鱗が見て取れる。
女主人であるセラフィムに案内されて、アリアナは席についた。その正面にはセラフィムが座る。アリアナは、メイドが淹れたお茶を一口飲んで、よくある感想を述べた。
ゆったりとソファーに腰かけたアリアナは、サロンに集まっている顔ぶれを確認した。そうして、もったいつけるように口を開いた。
待つなんて、アリアナの性に合わない。
「この度息子が騎士科に移りましてね。総代をされていらっしゃると耳にしておりましたから、ご挨拶に伺いたかった次第ですのよ」
アリアナが口を開いた事により、サロンのご婦人方が耳をそばだてた。
子どもたちは学園の寮にいても、噂好きの女子たちは手紙をしたため母親に送りつけると言うものだ。なにより、権力の動向が気になる立場にいるならば、権力者の子息の動向は逐一報告させている。それをサロンで擦り合わせさせるのだ。
「あら、それはそれは…」
セラフィムは大袈裟な態度をとってみせた。色々知っていながら知らないふりをしているのだ。ただ、問題はアリアナがどこまで知っているのかだ。
「『英雄』と言われる家系のご子息に、仲良くしていただければ剣術も上達するかしら?」
小柄なアリアナは上目遣いで言葉を探る。用があるのはアリアナではないのだから。
「剣術なら、アクアチア家のご子息のほうがよろしいのではないかしら?騎士団長の家柄ですもの」
カップを片手に話に割行ってきたのは、ブロッサム公爵夫人であるジョセフィーヌだ。夫が宰相であることもあり、同じ公爵夫人でありながらも自信に満ち溢れた印象がある。何より、ジョセフィーヌだってアリアナとはお話したいことがあるのだ。
「あら?アリアナはご子息を騎士団に?」
セラフィムはわざとらしく聞いてみた。アリアナの息子が、アリアナに似て小柄な事ぐらい皆知っている。なにより、子爵家の家格では、騎士団の序列が後ろの方になるのは目に見えている。
「まさか、我が領地にはダンジョンがありますのよ?」
アリアナが牽制してきた。媚を売りにきたのではないと言う事を暗に仄めかす。
その一言を聞いて軽く眉が動いたのはセラフィムだ。今現在、セラフィムの息子とアリアナの息子は、揃ってダンジョンに潜っているのだ。ここからなんとか有利に話を持っていけないか、セラフィムは考える。
「なんて素敵なのかしら」
わざとらしい声のトーンで入ってきたのはクガロア侯爵夫人ダリアだ。息子が第二王子アレックスの婚約者ではあるけれど、家柄と魔力量だけで選ばれた事ぐらい分かっているのだ。なによりも、第二王子と言うのがネックだ。双子であっても、順列はつけられる。玉座は一つしかないのだから、このままでは付けられた番号のままになってしまう可能性はある。より多くの手駒を得たほうが有利なのではないか。そう考えたダリアは、同じ騎士科の子息をもつ母親たちと繋がりを持とうとしているのだ。
「そうなると、やはりウォーエント子爵もダンジョンに潜られますの?」
いかにも興味がありますと言わんばかりに、ダリアはアリアナに聞いた。本当は、ダンジョンなんて土や埃にまみれるような場所なんて、興味なんてない。あるのはそこから出てくるお宝だけだ。冒険者と呼ばれる下々の者が潜る野蛮な場所だと思っている。
「ええ、管理のために、ね。息子もよく一緒に潜っていたわ」
そう行って、アリアナはお茶を一口飲んだ。アリアナだって、ダンジョンに興味なんてない。ただ潤沢な利益を得られるからこそ、大切に思っているだけなのだ。
「あら、ということは、すでに実践経験が?」
ついにわざとらしくセラフィムが口を開いた。
「ええ、ダンジョンで自分の杖を見つけましたのよ」
アリアナがそう答えると、感嘆の声が上がった。貴族の子弟は、七歳ごろに魔術塔で自分の杖を見つける儀式をするものだ。そこで出会いがなければ、大金を払って杖を作成するのだ。自ら探し出せるだなんて、物凄い魔力の持ち主という事になる。
「それなのにどうして騎士科へ?」
ジョセフィーヌがたまらず口を開く。
「だって、ダンジョンでは戦闘もあるんですって」
アリアナが大げさに言って見せれば、周りの婦人方も驚いてみせる。そんな茶番こそが時間の無駄であって、サロンの醍醐味でもあった。共感力を試されているのだ。
「それじゃあ、今は?」
セラフィムにとって、願っても無いことを口にしたのはダリアだ。アレックスにとって、強い手駒が育つ事を願っているからこそ、手に入れたばかりの情報を確認したい。ダリアはチラとセラフィムを見遣った。
「転移魔法が使えるから、遊びに行ってはいるみたい」
アリアナは含みのある言い方して、一瞬だけセラフィムを見た。けれど視線は合わせない。
「まだ寒いでしょう?お土産にもらったばかりなのよ」
そう言って、空間収納から火の魔石を取り出し見せた。なかなかな大きさの魔石がテーブルの上に載せられて、ご婦人方の視線が集まる。
「セラフィム様にと思っていたのですけれど、今夜あたりご子息が持ち帰るかもしれませんわよね?」
アリアナがそう言ってセラフィムを見た。そう言って微笑まれれば次の言葉が言い出しずらいと言うものだ。
「あら?それって……」
ダリアが嬉々として口に手を当てながらも、様子を伺う。
「素材として使われなければ、持ち帰りますでしょ?」
セラフィムは「そうね」としか返せなかった。アリアナは知っている。だからこそ、そのドレスを着てきたのだ。
「こちらは本日のほんの手土産ですのよ」
アリアナがそういうと、すかさずジョセフィーヌが口を開いた。
「素敵ね。是非うちの息子にもご教授願いたいわ。父親に似て座学ばっかりなのよ」
ジョセフィーヌはセラフィムを牽制するように視線を動かすと、アリアナをしっかり見て言った。
「息子がしでかした事をお詫びしたいと思っているのよ?」
ダリアを睨みつけながら、アリアナの手を握る。その向こうに見えるライハム伯爵夫人が、自分を凝視している事には気付いている。だが、あえて言葉を交わすつもりなどない。ジョセフィーヌはあくまでも宰相の妻なのだ。
「あら?何があったのかしら?しでかしたのはうちの愚息ではなくて?」
困ったように眉尻を下げるけれど、アリアナの瞳は面白そうに笑っていた。
「本日の装いはまた一段と素晴らしいですね」
執事は定型文のような言葉を口にしながらも、じっくりとアリアナのドレスを見定めた。
アリアナに、本日の公爵夫人の装いについてのヒントなど、昨日の訪問で与えてなどいなかったはずだ。たった一日で、アリアナは完璧なドレスを用意した事になる。いったい誰がアリアナにアドバイスをしたと言うのだろうか?
アリアナは、特に緊張などしていないようで、案内されるままに屋敷の中を進んでいく。
その姿はまるでこの屋敷の女主人のようにも見えた。
「ウォーエント子爵夫人アリアナ様、ご到着にございます」
執事が恭しく告げると、サロンにいたご婦人方の目線が集まった。
そうして、アリアナの姿を目にして、誰もが息を飲んだ。
ホストである公爵夫人に被らず、昼間の明るさに映える色味のドレス。そして、なおかつ季節感を表現している。
いったいどうやって、アリアナはロイエンタール家のサロンから見える庭を知ったのだろう?
「まあ、なんて素敵なのかしら」
アリアナのドレスを褒めるしかない公爵夫人セラフィムは、そう口にしながらもアリアナを頭のてっぺんから爪先までじっくりと眺めた。アリアナのドレスは、完全に公爵家の庭を意識している。まだ白い雪の残る庭に、咲き残る赤い椿。アリアナの着ているドレスは、まるでその庭を表しているかのようだ。
公爵家に媚びを売る小娘のようなふりをしつつも、まるで主人のような雰囲気を醸し出している。
アリアナは、今日のお茶会に急遽招待された意図を理解しているのだ。
「ご招待いただき光栄ですわ」
微笑んでアリアナはいうけれど、その態度は社交界の華として君臨する女王の片鱗が見て取れる。
女主人であるセラフィムに案内されて、アリアナは席についた。その正面にはセラフィムが座る。アリアナは、メイドが淹れたお茶を一口飲んで、よくある感想を述べた。
ゆったりとソファーに腰かけたアリアナは、サロンに集まっている顔ぶれを確認した。そうして、もったいつけるように口を開いた。
待つなんて、アリアナの性に合わない。
「この度息子が騎士科に移りましてね。総代をされていらっしゃると耳にしておりましたから、ご挨拶に伺いたかった次第ですのよ」
アリアナが口を開いた事により、サロンのご婦人方が耳をそばだてた。
子どもたちは学園の寮にいても、噂好きの女子たちは手紙をしたため母親に送りつけると言うものだ。なにより、権力の動向が気になる立場にいるならば、権力者の子息の動向は逐一報告させている。それをサロンで擦り合わせさせるのだ。
「あら、それはそれは…」
セラフィムは大袈裟な態度をとってみせた。色々知っていながら知らないふりをしているのだ。ただ、問題はアリアナがどこまで知っているのかだ。
「『英雄』と言われる家系のご子息に、仲良くしていただければ剣術も上達するかしら?」
小柄なアリアナは上目遣いで言葉を探る。用があるのはアリアナではないのだから。
「剣術なら、アクアチア家のご子息のほうがよろしいのではないかしら?騎士団長の家柄ですもの」
カップを片手に話に割行ってきたのは、ブロッサム公爵夫人であるジョセフィーヌだ。夫が宰相であることもあり、同じ公爵夫人でありながらも自信に満ち溢れた印象がある。何より、ジョセフィーヌだってアリアナとはお話したいことがあるのだ。
「あら?アリアナはご子息を騎士団に?」
セラフィムはわざとらしく聞いてみた。アリアナの息子が、アリアナに似て小柄な事ぐらい皆知っている。なにより、子爵家の家格では、騎士団の序列が後ろの方になるのは目に見えている。
「まさか、我が領地にはダンジョンがありますのよ?」
アリアナが牽制してきた。媚を売りにきたのではないと言う事を暗に仄めかす。
その一言を聞いて軽く眉が動いたのはセラフィムだ。今現在、セラフィムの息子とアリアナの息子は、揃ってダンジョンに潜っているのだ。ここからなんとか有利に話を持っていけないか、セラフィムは考える。
「なんて素敵なのかしら」
わざとらしい声のトーンで入ってきたのはクガロア侯爵夫人ダリアだ。息子が第二王子アレックスの婚約者ではあるけれど、家柄と魔力量だけで選ばれた事ぐらい分かっているのだ。なによりも、第二王子と言うのがネックだ。双子であっても、順列はつけられる。玉座は一つしかないのだから、このままでは付けられた番号のままになってしまう可能性はある。より多くの手駒を得たほうが有利なのではないか。そう考えたダリアは、同じ騎士科の子息をもつ母親たちと繋がりを持とうとしているのだ。
「そうなると、やはりウォーエント子爵もダンジョンに潜られますの?」
いかにも興味がありますと言わんばかりに、ダリアはアリアナに聞いた。本当は、ダンジョンなんて土や埃にまみれるような場所なんて、興味なんてない。あるのはそこから出てくるお宝だけだ。冒険者と呼ばれる下々の者が潜る野蛮な場所だと思っている。
「ええ、管理のために、ね。息子もよく一緒に潜っていたわ」
そう行って、アリアナはお茶を一口飲んだ。アリアナだって、ダンジョンに興味なんてない。ただ潤沢な利益を得られるからこそ、大切に思っているだけなのだ。
「あら、ということは、すでに実践経験が?」
ついにわざとらしくセラフィムが口を開いた。
「ええ、ダンジョンで自分の杖を見つけましたのよ」
アリアナがそう答えると、感嘆の声が上がった。貴族の子弟は、七歳ごろに魔術塔で自分の杖を見つける儀式をするものだ。そこで出会いがなければ、大金を払って杖を作成するのだ。自ら探し出せるだなんて、物凄い魔力の持ち主という事になる。
「それなのにどうして騎士科へ?」
ジョセフィーヌがたまらず口を開く。
「だって、ダンジョンでは戦闘もあるんですって」
アリアナが大げさに言って見せれば、周りの婦人方も驚いてみせる。そんな茶番こそが時間の無駄であって、サロンの醍醐味でもあった。共感力を試されているのだ。
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セラフィムにとって、願っても無いことを口にしたのはダリアだ。アレックスにとって、強い手駒が育つ事を願っているからこそ、手に入れたばかりの情報を確認したい。ダリアはチラとセラフィムを見遣った。
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アリアナは含みのある言い方して、一瞬だけセラフィムを見た。けれど視線は合わせない。
「まだ寒いでしょう?お土産にもらったばかりなのよ」
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「セラフィム様にと思っていたのですけれど、今夜あたりご子息が持ち帰るかもしれませんわよね?」
アリアナがそう言ってセラフィムを見た。そう言って微笑まれれば次の言葉が言い出しずらいと言うものだ。
「あら?それって……」
ダリアが嬉々として口に手を当てながらも、様子を伺う。
「素材として使われなければ、持ち帰りますでしょ?」
セラフィムは「そうね」としか返せなかった。アリアナは知っている。だからこそ、そのドレスを着てきたのだ。
「こちらは本日のほんの手土産ですのよ」
アリアナがそういうと、すかさずジョセフィーヌが口を開いた。
「素敵ね。是非うちの息子にもご教授願いたいわ。父親に似て座学ばっかりなのよ」
ジョセフィーヌはセラフィムを牽制するように視線を動かすと、アリアナをしっかり見て言った。
「息子がしでかした事をお詫びしたいと思っているのよ?」
ダリアを睨みつけながら、アリアナの手を握る。その向こうに見えるライハム伯爵夫人が、自分を凝視している事には気付いている。だが、あえて言葉を交わすつもりなどない。ジョセフィーヌはあくまでも宰相の妻なのだ。
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