【完結】知っていたら悪役令息なんて辞めていた

久乃り

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第36話 お駄賃はでません

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 ロイはゆっくりと手を動かした。

「コレ、全部セドが獲ったんだから」

 そう言って、ロイは沢山の魔石をカウンターに並べた。どれもこれも大きくて艶があり、上ものだと一目でわかる。本来なら、こんな店先で出していいようなものではないが、セドリックの展開した結界があるから大丈夫だろう。

「…こりゃ、凄えな」

 店の主人は並べられた魔石を見て、思わず唾を飲み込んだ。制服を着ているようなおぼっちゃまが、こんなことできるだなんて、考えてもみなかった。英雄とは、こんなにも恐ろしい。

「この鉱石で刀身を作って」

 続けてロイは鉱石の塊を出した。ダンジョンの深いところでしか取れないと言う鉱石だ。たしかに、先程見せられた英雄の剣にも使われている。

「色々かかるぜ」

 店の主人がそう口を開くと、ロイがすかさず金貨の入った袋をカウンターに出した。

「ウォーエント家が出し惜しみはしねえってか」

 店の主人はニヤリと笑うと、手をセドリックに向けて差し出してきた。
 なんのことかと、セドリックが驚いているうちに、店の主人がセドリックの手を握った。

「俺はガロ。この工房の主人だ。英雄、あんたにピッタリの剣を作らせてもらうぜ」

「あ、ああ…よろしく頼む」

 手を握られてセドリックは驚いたが、両手でしっかりとセドリックの利き手を包むようにしてきたので、すぐに理解できた。サイズを計られているのだ。

「ちょいと時間はもらうがな」

 ガロは軽く片目を瞑った。

「俺のはこの辺のでよろしく」

 ロイが三個ほどの魔石を寄せた。

「坊ちゃんもかよ。使いこなせんのか?」

 3個も魔石が組み込まれた剣なんて、どう考えても制御が難しいだろう。同一ではないから、魔剣にはならないだろうけれど。

「大丈夫、二本操れたから」

 ロイが腰の剣を軽く叩いた。

「出来上がったら連絡して」

 そう言ってロイは例の封筒を渡した。

「了解で」

 ガロはその封筒をすぐに棚にしまった。そして、素材を足元の箱にしまい込む。その箱から魔力を感じた。魔法の品であることは間違いないだろう。

「帰ろう、セド」

 ロイがそう言ってセドリックの手を引くので、セドリックは去り際にガロにむかって一度頭を下げた。ガロは口の端をあげて親指を立ててくれた。
 店を出ると、何故だか人だかりができていて、セドリックは一瞬店に入る時のならず者が仲間を連れてきたのかと思ったら、どうやら違う。

「ウォーエント家のロイ様、本日は武器の買い付けで?」

 この街のギルドマスターが、挨拶に来ただけだった。どうやら最初に出会ったならず者は、この街に来たばかりの冒険者で、すぐに冒険者ギルドに連絡が入って処罰されたと言う。

「製作を依頼に来た」

 セドリックが間に入って答えると、ギルドマスターは軽く片眉を上げた。

「これは…英雄の家系、ロイエンタール家のセドリック様ですね?……そうですか、剣をお作りになられますか。完成しましたら、ぜひお披露目を」

 街に出入りする者を把握しているらしいところは、さすがと言うべきなのだろう。だがしかし、セドリックがロイと手を繋いだままなのを見て、薄く笑ったのが目に入った。一瞬、気恥ずかしさがあったが、すぐに強く握りなおした。
 そして、ロイにひかれるまま歩くと、街外れのひらけた場所で前方に大きく古びた建物が見えた。

「あれ、なんだか知ってる?」

 ロイが指さした。
 セドリックは少し顔を上げてそこをみた。
 古びた建物は随分と大きく、そこそこ朽ちている部分も見えた。砦と、巨大な壁……の成れの果て。落ちてきた日の光が、陰影を強くつけてきて、建物から感じる気配が物憂げだ。

「あれね、ダンジョンなんだ」

 そう言ってロイは笑った。

「ダンジョン…」

 影がさすあたりには、影よりも濃いなにかが蠢きだしていた。それの正体など、聞く必要もない。知識として知っていることだ。

「あの砦と、うちの領地にある砦が対になってんの」

 森の向こうにそびえ立つ古びた砦が、見えないはずなのに見えた気がした。

「剣ができたら行こう」

 セドリックは頷いた。
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