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第35話 初めてのおつかい
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背中に感じる視線を振り切るような思いをしながら、ロイの転移魔法に身を任せた。
実は、セドリックは国境なんて超えたことなんてなかった。王都に生まれ育ち、バカンスの季節に別荘のある避暑地に行くぐらいの、典型的なおぼっちゃまなのだ。
英雄の家系とは言えど、そんなのが隣国で通用するとは思ってなどいない。近年では戦争よりスタンピードなどの魔物討伐での英雄ではあるが、ひと昔前なら、他国では目の敵にされてもおかしくない家系なのだ。それを教え込まれてきたからこそ、セドリックは隣街なんて気軽にロイに連れてこられたけれど、内心はビクついていた。
「身分証は?」
街に入る際、当たり前のように門番に聞かれ、ロイはポケットからカードを取り出した。空間収納に入れておいたものを、さらりとポケットから取り出したように見せたのだ。手慣れているとしか言いようがない。
セドリックは、制服の内ポケットからカードを出した。
「確認しました。どうぞお通り下さい」
門を抜けると、なかなかの通りの風景が広がっていた。
ダンジョンがあると言う事は、こんなにも街の発展に作用すると言う事らしい。国境の街と聞いていたのに、規模が大きくセドリックはとても驚いた。
「セド、どうしたの?」
惚けていたら、ロイが顔を覗き込んできた。セドリックは完全にお上りさんだった。街といえば王都しかしらなかったのだから。しかも、着ているのは学園の制服だ。右も左も分からない子どもだと言って歩いているようなものだけれど、ロイは全く気になどしていないようだった。
「いや、その……意外と街の規模が大きいなと、思って」
「そう?ダンジョンがある街はたいていこんなもんだよ」
ロイはそう言ってセドリックの手を引いた。
「ガロ工房に行こうよ」
ロイは道案内よろしくセドリックをグイグイ引っ張って行く。大通りはそれなりに人出があって、人混みを歩き慣れていないセドリックは、手を引かれながらなんとかロイのあとをついて行った。
「ここだよ」
ロイがグイグイ進んで、何回か角を曲がったとき、ガロ工房の看板が見えた。大きな火を扱うからか、ガロ工房は川沿いにあった。ロイがガロ工房に入ろうとした時、その前に大きな人影が立ちふさがった。
セドリックは慌ててロイの肩を掴んだ。間一髪でぶつかりはしなかったけれど、どう見てもわざとだ。
「………」
ロイは何も言わず、目の前に立ちふさがる相手を見た。セドリックよりもさらに大きく、体格もいい。いかにも冒険者といった出で立ちで、セドリックは呆気に取られた。王都ではお目にかかれないタイプだ。
「ここは子どもの遊び場じゃねえぜ」
ロイに一瞥をくれながらお約束のようなセリフを口にする。セドリックはそれがおかしかった。人を見た目で判断してはいけない。それの典型のようなのがロイなのだ。
「知ってるよ。だからさ、おじさん邪魔だよ」
ロイは男の脇をすり抜けるでなく、指先一つで男を弾き飛ばした。
「冒険者なら、相対した相手の技量ぐらい見抜けよ」
後ろから見ているだけのセドリックは、ロイがどんな顔をしているか見えないが、声の感じからして、ダンジョンで暴れていた時の顔を思い浮かべた。あの顔はなかなかだった。
「入ろう、セド」
振り返り、セドリックに手を差し出した時の顔は、いつもの見慣れた顔だった。
「ああ」
セドリックは素直にロイの手を取ると、一緒にガロ工房に入った。そうして振り返ると、遮音と認識阻害を織り交ぜた結界を展開させた。
「おいおい、随分と物騒な客が来たもんだな」
カウンターには、一癖も二癖もありそうなこの店の主人が座っていた。
「そんなことないでしょ?」
ロイはお菓子でも買いに来たような気安さを見せて、カウンターの席に着く。そして、腰の剣を置いた。
「これ、ここで作った剣だよね?」
ロイが置いた剣を、店の主人はじっくりと眺めた。そして、鞘から剣を抜くと、その刀身を確認する。
剣に掘られた文字を指先で撫でるように確認すると、その刀身を、鞘に戻した。
「なかなか、使いこなしてくれてるみたいだな」
ニヤリと笑うその顔は、随分と人が良さそうだ。だが、何かしらの含みが感じられる。セドリックはロイの後ろに立って店の主人と対峙した。
「なるほど、『英雄』の剣が欲しいって?」
セドリックの顔を見て理解したのか、店の主人はロイの後ろに視線を固定した。
「祖父が英雄だった。その剣がそこにあるものだ。だが、俺は俺の剣が欲しい」
セドリックは自分の腰に提げた剣に一瞬視線を動かした。この剣も何代か前の英雄の物である。が、魔力の質が違うのか、完全に使いこなせていない感がある。
「なるほどねぇ」
そう言いながら、店の主人はセドリックのことを上から下までじっくりと眺めた。そしてロイを見て考え込む。
「ウォーエント家の坊ちゃんが連れてきた英雄か。で、どれくらいあんだ?」
店の主人がカウンターに肘を着いてロイに近付いた。そんな不躾な態度なんて、セドリックの中では有り得なかった。まして、ロイの顔に店の主人の顔が近すぎる。
「結構あるよ」
ロイは空間収納から魔石を取り出し、カウンターに並べた。ダンジョンで集めた中でも、とびきり大きく色艶のいいものだ。
「ほう、そっちの英雄はこの手の魔力がいいってか」
並べられた魔石を手に取り、店の主人はじっくりと眺めた。魔石の中の魔力を確認しているらしい。
「で、使いこなせんのかい?」
セドリックを値踏みするように聞いてきた。ロイのことはウォーエント家の坊ちゃんと呼ぶほどに見知っているのだろう。英雄の家系と知っても、セドリックの実力を知ったわけではない。セドリックだって、先代の剣を使いこなせていたのかまでは分からないのだ。
「セドはいい腕してるよ」
ロイがニヤリと笑った。ダンジョンの中で見たような、肝の座った男の笑い方だ。
実は、セドリックは国境なんて超えたことなんてなかった。王都に生まれ育ち、バカンスの季節に別荘のある避暑地に行くぐらいの、典型的なおぼっちゃまなのだ。
英雄の家系とは言えど、そんなのが隣国で通用するとは思ってなどいない。近年では戦争よりスタンピードなどの魔物討伐での英雄ではあるが、ひと昔前なら、他国では目の敵にされてもおかしくない家系なのだ。それを教え込まれてきたからこそ、セドリックは隣街なんて気軽にロイに連れてこられたけれど、内心はビクついていた。
「身分証は?」
街に入る際、当たり前のように門番に聞かれ、ロイはポケットからカードを取り出した。空間収納に入れておいたものを、さらりとポケットから取り出したように見せたのだ。手慣れているとしか言いようがない。
セドリックは、制服の内ポケットからカードを出した。
「確認しました。どうぞお通り下さい」
門を抜けると、なかなかの通りの風景が広がっていた。
ダンジョンがあると言う事は、こんなにも街の発展に作用すると言う事らしい。国境の街と聞いていたのに、規模が大きくセドリックはとても驚いた。
「セド、どうしたの?」
惚けていたら、ロイが顔を覗き込んできた。セドリックは完全にお上りさんだった。街といえば王都しかしらなかったのだから。しかも、着ているのは学園の制服だ。右も左も分からない子どもだと言って歩いているようなものだけれど、ロイは全く気になどしていないようだった。
「いや、その……意外と街の規模が大きいなと、思って」
「そう?ダンジョンがある街はたいていこんなもんだよ」
ロイはそう言ってセドリックの手を引いた。
「ガロ工房に行こうよ」
ロイは道案内よろしくセドリックをグイグイ引っ張って行く。大通りはそれなりに人出があって、人混みを歩き慣れていないセドリックは、手を引かれながらなんとかロイのあとをついて行った。
「ここだよ」
ロイがグイグイ進んで、何回か角を曲がったとき、ガロ工房の看板が見えた。大きな火を扱うからか、ガロ工房は川沿いにあった。ロイがガロ工房に入ろうとした時、その前に大きな人影が立ちふさがった。
セドリックは慌ててロイの肩を掴んだ。間一髪でぶつかりはしなかったけれど、どう見てもわざとだ。
「………」
ロイは何も言わず、目の前に立ちふさがる相手を見た。セドリックよりもさらに大きく、体格もいい。いかにも冒険者といった出で立ちで、セドリックは呆気に取られた。王都ではお目にかかれないタイプだ。
「ここは子どもの遊び場じゃねえぜ」
ロイに一瞥をくれながらお約束のようなセリフを口にする。セドリックはそれがおかしかった。人を見た目で判断してはいけない。それの典型のようなのがロイなのだ。
「知ってるよ。だからさ、おじさん邪魔だよ」
ロイは男の脇をすり抜けるでなく、指先一つで男を弾き飛ばした。
「冒険者なら、相対した相手の技量ぐらい見抜けよ」
後ろから見ているだけのセドリックは、ロイがどんな顔をしているか見えないが、声の感じからして、ダンジョンで暴れていた時の顔を思い浮かべた。あの顔はなかなかだった。
「入ろう、セド」
振り返り、セドリックに手を差し出した時の顔は、いつもの見慣れた顔だった。
「ああ」
セドリックは素直にロイの手を取ると、一緒にガロ工房に入った。そうして振り返ると、遮音と認識阻害を織り交ぜた結界を展開させた。
「おいおい、随分と物騒な客が来たもんだな」
カウンターには、一癖も二癖もありそうなこの店の主人が座っていた。
「そんなことないでしょ?」
ロイはお菓子でも買いに来たような気安さを見せて、カウンターの席に着く。そして、腰の剣を置いた。
「これ、ここで作った剣だよね?」
ロイが置いた剣を、店の主人はじっくりと眺めた。そして、鞘から剣を抜くと、その刀身を確認する。
剣に掘られた文字を指先で撫でるように確認すると、その刀身を、鞘に戻した。
「なかなか、使いこなしてくれてるみたいだな」
ニヤリと笑うその顔は、随分と人が良さそうだ。だが、何かしらの含みが感じられる。セドリックはロイの後ろに立って店の主人と対峙した。
「なるほど、『英雄』の剣が欲しいって?」
セドリックの顔を見て理解したのか、店の主人はロイの後ろに視線を固定した。
「祖父が英雄だった。その剣がそこにあるものだ。だが、俺は俺の剣が欲しい」
セドリックは自分の腰に提げた剣に一瞬視線を動かした。この剣も何代か前の英雄の物である。が、魔力の質が違うのか、完全に使いこなせていない感がある。
「なるほどねぇ」
そう言いながら、店の主人はセドリックのことを上から下までじっくりと眺めた。そしてロイを見て考え込む。
「ウォーエント家の坊ちゃんが連れてきた英雄か。で、どれくらいあんだ?」
店の主人がカウンターに肘を着いてロイに近付いた。そんな不躾な態度なんて、セドリックの中では有り得なかった。まして、ロイの顔に店の主人の顔が近すぎる。
「結構あるよ」
ロイは空間収納から魔石を取り出し、カウンターに並べた。ダンジョンで集めた中でも、とびきり大きく色艶のいいものだ。
「ほう、そっちの英雄はこの手の魔力がいいってか」
並べられた魔石を手に取り、店の主人はじっくりと眺めた。魔石の中の魔力を確認しているらしい。
「で、使いこなせんのかい?」
セドリックを値踏みするように聞いてきた。ロイのことはウォーエント家の坊ちゃんと呼ぶほどに見知っているのだろう。英雄の家系と知っても、セドリックの実力を知ったわけではない。セドリックだって、先代の剣を使いこなせていたのかまでは分からないのだ。
「セドはいい腕してるよ」
ロイがニヤリと笑った。ダンジョンの中で見たような、肝の座った男の笑い方だ。
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