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第34話 お支払いは
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子爵が口を開いた。
「そうですね。でも兵士や騎士はいますよ?」
「そうだな。だが、彼らは支給された剣しか扱わないだろう?」
ロイと似たようなことを子爵も言う。つまりはそういうことなのだ。
「冒険者も最初は安い剣しか手にできない。けれど彼らは生活がかかっているからな。より強くなるために、より良い武器を求める。だから、ダンジョンの近くには街ができ、そこに腕のいい職人のいる工房ができるんだ」
「つまり?」
「ここは国境に近い。冒険者にとっては国なんて関係ないんだ。隣国にもダンジョンのある街がある。それに、国境の森には魔物が住む。仕事のある街を拠点にするものだ」
「つまり、この辺りで一番の職人がいるのがガロ工房ということなのですね」
「そうだ。君の祖父である先代もそこを選んだ。英雄の剣を作った職人はまだ現役だよ」
「ありがとうございます」
セドリックは深々と頭を下げた。
「君はどれほどの時間をダンジョンで過ごしたのか分かっているのかい?」
「え?」
セドリックがやや間抜けな声を出すと、子爵は喉の奥で笑った。
「やはりな…五日ほど経っているんだよ?その間どうせまともに食事なんてしていなかったのだろう?ガロ工房に行く前に、ちゃんとした食事を摂るといい。空腹ではまともに交渉なんて出来やしない」
そう言われて、セドリックは改めて窓の外を見た。あれだけダンジョンで過ごしたのに、たしかに太陽が高い。時間が経ち過ぎて、太陽が何回も登っていたと言うことだった。それなのに、たいして腹も減らず疲れもせず過ごしていた。
「ロイのやつに上手いこと騙されていたようだね」
子爵は人の悪い笑い方をして、それからメイドを呼んで二人を食堂に案内させた。
食堂にはすでに食事が用意されていた。三人分の食事は昼食と言うにはなかなかの量だった。騎士科に所属するセドリックからすれば、育ち盛りでもあるから食べ切れそうな量だったが、普段少食すぎるロイは食べられるのだろうか?
「お腹すいてたんだぁ」
ロイはマナーもなにもなく、皿にのせられた料理を口に運んでいく。どうやら本当に、魔力を使わないとお腹が空かないらしい。
子爵も見た目に似合わず、なかなかの量を食べていた。そして、食後のお茶を飲んでいる時、ロイが口を開いた。
「ガロ工房のある街に、人気のお菓子屋さんがあるんだよ。お土産に買ってこようね、セド」
「あ、ああ」
相変わらず遠足気分で話すロイは無邪気だ。しかし、セドリックはどうにも子爵の視線が気になって仕方がない。
「ガロ工房に依頼に行くことは、私から公爵家に連絡をしておこう」
「お手数をおかけします」
セドリックはもう一度子爵に頭を下げた。学年で総代を務めていようとも、所詮は子どもなのだ。子爵は魔石の練り込まれた特別な封筒を執事に用意させていた。なかなか高価な品だが、一瞬で相手に届くため、地方では需要の高い品だ。特に、転移魔法が使えない冒険者や、兵士が特別な品として懐に忍ばせておくものだ。
出発のしたくとは言っても、素材はロイの空間収納に入っているし、支払いの金貨もロイの空間収納だ。ロイが飛びやすいように窓から庭に出た。セドリックがそれに続こうとした時、子爵がセドリックの肩を掴んで耳元で囁いた。
「なぜ私の息子から君の魔力の匂いがするのだろうね?」
だが、セドリックは子爵の顔が見れない。後ろめたい気持ちがなければ、子爵の顔を見てきちんと説明ができるはずだ。けれど、セドリックは首を動かすことさえできない。
「心配しなくていい、私は私の息子の気持ちを尊重する主義だ」
そう言って、肩を軽く叩かれれば、セドリックは子爵の顔も見ずにそのまま真っ直ぐにロイの元に進んだ。
「じゃあ、行こう?」
ロイが手を差し出してきたので、セドリックはその手をとった。目的地が分からないから、セドリックはロイについて行くだけだ。
「すまないな、頼む」
ロイはいつも通りにセドリックの背中に手を回す。そうして、見送る子爵に軽く手を振り転移魔法を発動させた。
「そうですね。でも兵士や騎士はいますよ?」
「そうだな。だが、彼らは支給された剣しか扱わないだろう?」
ロイと似たようなことを子爵も言う。つまりはそういうことなのだ。
「冒険者も最初は安い剣しか手にできない。けれど彼らは生活がかかっているからな。より強くなるために、より良い武器を求める。だから、ダンジョンの近くには街ができ、そこに腕のいい職人のいる工房ができるんだ」
「つまり?」
「ここは国境に近い。冒険者にとっては国なんて関係ないんだ。隣国にもダンジョンのある街がある。それに、国境の森には魔物が住む。仕事のある街を拠点にするものだ」
「つまり、この辺りで一番の職人がいるのがガロ工房ということなのですね」
「そうだ。君の祖父である先代もそこを選んだ。英雄の剣を作った職人はまだ現役だよ」
「ありがとうございます」
セドリックは深々と頭を下げた。
「君はどれほどの時間をダンジョンで過ごしたのか分かっているのかい?」
「え?」
セドリックがやや間抜けな声を出すと、子爵は喉の奥で笑った。
「やはりな…五日ほど経っているんだよ?その間どうせまともに食事なんてしていなかったのだろう?ガロ工房に行く前に、ちゃんとした食事を摂るといい。空腹ではまともに交渉なんて出来やしない」
そう言われて、セドリックは改めて窓の外を見た。あれだけダンジョンで過ごしたのに、たしかに太陽が高い。時間が経ち過ぎて、太陽が何回も登っていたと言うことだった。それなのに、たいして腹も減らず疲れもせず過ごしていた。
「ロイのやつに上手いこと騙されていたようだね」
子爵は人の悪い笑い方をして、それからメイドを呼んで二人を食堂に案内させた。
食堂にはすでに食事が用意されていた。三人分の食事は昼食と言うにはなかなかの量だった。騎士科に所属するセドリックからすれば、育ち盛りでもあるから食べ切れそうな量だったが、普段少食すぎるロイは食べられるのだろうか?
「お腹すいてたんだぁ」
ロイはマナーもなにもなく、皿にのせられた料理を口に運んでいく。どうやら本当に、魔力を使わないとお腹が空かないらしい。
子爵も見た目に似合わず、なかなかの量を食べていた。そして、食後のお茶を飲んでいる時、ロイが口を開いた。
「ガロ工房のある街に、人気のお菓子屋さんがあるんだよ。お土産に買ってこようね、セド」
「あ、ああ」
相変わらず遠足気分で話すロイは無邪気だ。しかし、セドリックはどうにも子爵の視線が気になって仕方がない。
「ガロ工房に依頼に行くことは、私から公爵家に連絡をしておこう」
「お手数をおかけします」
セドリックはもう一度子爵に頭を下げた。学年で総代を務めていようとも、所詮は子どもなのだ。子爵は魔石の練り込まれた特別な封筒を執事に用意させていた。なかなか高価な品だが、一瞬で相手に届くため、地方では需要の高い品だ。特に、転移魔法が使えない冒険者や、兵士が特別な品として懐に忍ばせておくものだ。
出発のしたくとは言っても、素材はロイの空間収納に入っているし、支払いの金貨もロイの空間収納だ。ロイが飛びやすいように窓から庭に出た。セドリックがそれに続こうとした時、子爵がセドリックの肩を掴んで耳元で囁いた。
「なぜ私の息子から君の魔力の匂いがするのだろうね?」
だが、セドリックは子爵の顔が見れない。後ろめたい気持ちがなければ、子爵の顔を見てきちんと説明ができるはずだ。けれど、セドリックは首を動かすことさえできない。
「心配しなくていい、私は私の息子の気持ちを尊重する主義だ」
そう言って、肩を軽く叩かれれば、セドリックは子爵の顔も見ずにそのまま真っ直ぐにロイの元に進んだ。
「じゃあ、行こう?」
ロイが手を差し出してきたので、セドリックはその手をとった。目的地が分からないから、セドリックはロイについて行くだけだ。
「すまないな、頼む」
ロイはいつも通りにセドリックの背中に手を回す。そうして、見送る子爵に軽く手を振り転移魔法を発動させた。
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