【完結】知っていたら悪役令息なんて辞めていた

久乃り

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第33話 こちらも初めまして

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 セドリックが身構える前に、ロイが魔法を展開したから、気づいたときにはロイの言うところの『俺ンチ』に到着していた。
 ただ問題は、ロイが到着ポイントに設定していた場所が、セドリックの思っていたところとだいぶ違ったという事だろう。

「ただいま」

「おかえり」

 セドリックが相手を認識する前に、声がきた。

「英雄の家系、ロイエンタール公爵家のセドリックだね。我がダンジョンでいいものは手に入ったかい?」

 言われて驚いたが、大人たちは自分が思うよりも情報の入手が早いようだ。
 セドリックはロイが抱きついたままだけれども、声のする方に体を向けた。初めて向き合うのだが、想像していたのとはだいぶ違っていた。
 ロイの父親ウォーエント子爵だ。
 まさしく中肉中背で、これといって特徴のない見た目だった。ロイと似ているのは髪の色ぐらいだ。ロイのほとんどは母親からのものなのだと分かった。

「はじめまして子爵。その、この度は無断でダンジョンに入ってしまって申し訳ございません」

 深々と頭を下げつつも、本来謝るべきはそこじゃない事ぐらい分かっている。ダンジョンの通行料なんて、微々たるものだ。

「いや、そんなことはどうでもいいさ。……それより、ロイ」

 ウォーエント子爵は息子であるロイと向き合った。それより。何を話すつもりなのだろうか?

「うん、セドの英雄の剣を作りたい」

 ロイはダンジョンから取ってきた、魔石と鉱石を机の上に取り出した。こうして陽の光の中で見ると、魔石の輝きが大変素晴らしい事がわかる。

「なるほど、なかなかよい素材が揃ったな」

 子爵はそう言いながら、片目にレンズを付けて魔石を鑑定する。

「ふむ、工房はどこを使うつもりだ?」

「セドのおじいちゃんの日記に、隣のガロ工房って書いてあった」

 ロイが即答をすると、子爵は深く頷いた。腕のいい職人がいる工房ぐらい把握しているのだろう。そうして、胸ポケットから手帳を取り出した。なにかを確認して壁に付いている小さな扉を開けた。

「この辺りの魔石を買い取ろう。風と水の魔石はこれから需要が上がるからな。セドリック君の剣には相性が悪いだろう?」

 そう言って、子爵が軽く笑ってみせた。セドリックには、その笑顔が恐ろしく感じると言うものだ。見たこともないはずなのに、子爵はセドリックの魔力系統が分かっているのだ。

「買取?」

 ロイが不思議そうに聞いていた。

「ロイ、素材だけ集めてどうするつもりだったんだ?工房には作業代を払うものだ」

 子爵に言われて、セドリックもそのことを失念していたことに思いあたった。普段、王都で買い物をする時は執事が付いていたし、必要なものはいつだって用意されていた。

「すみません。失念していました」

 セドリックは慌てて子爵に頭を下げた。セドリックの剣を作るのだ。素材を一緒に集めてもらったとしても、作成費を支払うのはセドリックのロイエンタール家だろう。後で家の者に払いに行かせるではダメだったのだろうか?

「ああ、説明をしていなっかたんだね。ガロ工房は隣、つまり隣国になるんだよ」

 それを聞いてセドリックは目を見開いた。祖父の日記を読んだけれど、そんなことはどこにも書いてはいなかった。たしかに、工房の場所を確認しなかったのはセドリックの落ち度だろう。隣国の工房ともなれば、支払いは後でなんてできるはずもない。

「王都にある工房では無理なのですか?」

 セドリックは念のため聞いてみた。なぜ祖父もわざわざ隣国の工房を使ったのか。英雄は国の宝だ。その者が扱う剣を作成するのは名誉のはずだ。

「王都には冒険者はいないだろう?」
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