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その1
しおりを挟む「私に剣を捧げた騎士なのですから、とうぜんです」
巨大な大陸の大半を占める勢いで成長した帝国の離宮にて、まだあどけなさが残る姫君が、目の前に片膝をついた騎士を叱責していた。だからといって騎士が何かへまをしてしまったわけではない。
「しかし、ここは帝国なのですよ?姫の身を脅かす者がいるとは到底思えません」
騎士が顔を上げて進言するが、誰も擁護するものはいない。なぜなら、姫君はたった一人で帝国に輿入れさせられたからだ。巨大な帝国に人身御供として輿入れしたわけではないのだけれど、対外的には姫君の母国はあまりにも小国過ぎた。東西に長い巨大帝国の西の端近くにある小国ユルガシド、そこの国の第三王女でありながら、生母が平民の侍女ということで、エリシアは非常によろしくない待遇を受けていた。第三王女になどつける侍女はいない。というわけではなく、帝国の皇帝アインバッハが身一つで嫁いでくるよう言ってきたからだった。皇帝アインバッハが帝国に君臨してから三年目のことである。当然周辺国家は、人質としての輿入れかと思い、次は自分たちの国に声がかかるのでは。と戦々恐々としていたのだが、それはなかった。ただ、身一つで嫁いできたエリシアではあったが、さすがに護衛の騎士ぐらいはついてきた。道中何があるかわからないし、王女エリシアにとっての唯一の財産が、この目の前にいる騎士だからだった。
「そんなのわからないでしょう?帝国の貴族が小国の姫である私に好意的だと思っているの?」
それを言われるとどうにもつらい。
「閨に何を仕込まれているかわからないわ。食事に毒を仕込まれることがないぐらいはわかっているの。だって、すぐばれるもの。でもね、閨は別物なのよ。あそこは皇帝が最も無防備になる場所なのよ」
「はあ」
「そんなところにナイフの一つでも仕込まれてごらんなさいよ。私に嫌疑がかけれれてしまうじゃない」
「ソウデスネ」
「だから、ユノハイム、あなたちょっと行って閨の安全を確認してきなさい」
「ワカリマシタ」
渋々と腰を上げ、ユノハイムは言われたとおりに閨へと向かった。ユノハイムが騎士として剣を捧げたエリシアはまだ十六歳だ。ユノハイムはこれといってたいした出世欲もない小国ユルガシドの貴族の三男である。スペアにもならない立場のため、早々に騎士の職について王族に仕えていた。とりたてて何もないまま過ごしてきたら、第三王女の成人に合わせて専属騎士に任命されてしまったのだ。第三王女だから、貴族の三男で語呂がいい。なんてよくわからない理由だった。
お披露目はされたものの、結婚式は一年後のため、エリシアがいるのは後宮ではなく離宮である。帝国において皇帝の家族が住まう場所ではあるのだが、後宮にある閨まではいささか遠かった。しかも、ユノハイムはユルガシドから来た騎士だから、着ている騎士服はユルガシドの物であり、ゴールデンバイン帝国の騎士服が白地に金のモールをあしらっているのに対して、濃紺に金の刺繍はかなり目立っていた。
「なんでエリシア様は場所を知っているんだ?」
ぶつくさと文句を言いつつも、ユノハイムは目的の閨にたどり着いてしまった。途中何人かの侍女や騎士なんかとすれ違ったけれど、誰もユノハイムを気にも留めなかった。それどころか「お務めお疲れ様です」なんて挨拶まで交わされていた。ここで多少は不思議に思えばよかったものの、ユノハイムはそこまで今回の任務を深く考えてなどいなかった。ただ調べてくればいい。ぐらいに思っていたのだ。
「後宮に誰も住んでいないからって、人気がなさすぎだ」
閨にだけ焚かれた明かりが奇妙だとも思わず、ユノハイムは閨の扉を開けて中に入った。部屋の中には巨大な寝台が一つだけ置かれていて、他には何もない。
「どこを調べればいいんだ?」
広い部屋の四方は壁に囲まれていて、明り取りのための小窓はずいぶんと高い位置にあった。ずいぶんと日が傾いてきているから、閨に備え付けられたランプの明かりがかなりまぶしい。
「調べるのは寝台ぐらいだよな」
清潔に整えられた大きな寝台に近づき、ユノハイムはとりあえず寝台の下を覗き込んだ。こんなに分かりやすいところに武器を隠すわけはないだろうから。見るだけ無駄だとわかっていても、騎士として基本は押さえなくてはならな。
「やっぱりないよな」
当たり前の感想を口にして、ユノハイムは今度は寝台の中を見た。上げられた天蓋がきっちりと留められているあたり、今夜は誰も使用する予定はないのだろう。そんなことを想いつつ、ユノハイムは枕をひっくり返してみる。当然ながら何もない。続いて寝具をめくってみる。薄く柔らかくて肌触りのいい寝具である。帝国の皇帝とその妃が使用するのに、まさに一級品の品物なのだろう。
「特に何も見当たらない、な」
仕事なのだと思えばこんなにくだらないことも一通りこなさなくては気分が悪いというものだ。寝台の端から端まで確認をすると、ユノハイムは今度は寝台の上に自分の体を投げ出した。仰向けになり天蓋を仰ぎ見てみれば、やはりそこにはなにも仕掛けられてなどいなかった。とりあえず、コレで一仕事が終わったと判断したユノハイムは、起き上がろうと身をよじった。そして、肩が寝台から離れかけたその瞬間、誰かの手によって再び寝台の上に押し戻されてしまったのだった。
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