1 / 4
一章
絶望の淵
しおりを挟む
6月の月初め、近くの民家の紫陽花が咲き乱れ、梅雨前線により最近は雨続きだ。
しかし、今日は雨が降らずに曇り空。
そんな中、俺はいつも通り缶ビールを片手にテレビを見ていた。
俺の名前は池端真崎、歳は25で今はニートだ。
これでも俺は都内の難関大学に進学、そして卒業して一流企業である花園電機に就職した。
でもそこでの仕事は激務だった。
俺は簿記検定一級を所持していた事から財務部に配置された。
だがそこには社内ニートで最低限の仕事しかしない奴や自分の仕事を全うしようという気持ちは伝わって来るが、全然仕事が出来ない。
他にも無断欠勤が多い奴や元々体が弱くあまり仕事に出て来られないような腐ったようなやつらばかりで、俺も仕事にならなかった。
そんな事もあってか、俺が一人でやる仕事の量は普通の人間ではこなせないような量になっていた。
俗に言うキャパオーバーってやつだ。
深夜2時まで残業しても仕事が終わらない、他の人間は俺が仕事をやってくれることを良い事に定時で帰宅。
ここは本当に一流企業なのかと思ったさ。
しかも、ちょっとでもミスがあったら別室に連れていかれて怒鳴られる、それが一番嫌だった。
流石に俺もバカじゃないから合計金額が正確か確かめるために何度も電卓を叩いていた。
それでも俺はミスを絶対にしない完璧人間じゃない、時々ミスをしてしまうこともある。
その度会議室に連れていかれて『お前、このミスのせいで大きな損害がでたらどうするんだ!』って怒鳴られたら仕事に対するモチベーションも下がるし、なにより病んでしまう。
そんなこんなでここまで育ててくれた家族には申し訳ないが、仕事に耐えられなくて先月独断で仕事場に辞表を出した。
2年近く続けただけでも良いと思って欲しい。
一度も歓喜をしていなかったせいか空気が重いと感じた
窓を開け、新しい空気を中に入れる。
6月の朝方、肌を刺激するような冷たい風が入って来る。
持っていた缶ビールを一口飲み、俺はまたつまらないニュース番組を見る。
朝方のいつもと変わらないコメンテーターとアナウンサー。
毎日似たような特集や報道を聞くのはもううんざりだ。
そう思いチャンネルを変えようとした時、目を疑うようなテロップが表示された。
「速報です。人気アイドルグループ、虹ノ夢49の藍沢奈菜美さんが公式サイトで虹ノ夢49を卒業するという旨を発表しました」
アナウンサーが聞き取りやすい声でハキハキと話していく。
俺はアナウンサーが言っている言葉を聞いて戦慄した。
ななみんが卒業……?
虹ノ夢49とは株式会社【vertex receive】がプロデュースした人気アイドルグループで、俺が社畜として働いている頃に伸び始めたグループだ。
ななみんとの出会いは苦しい残業中だった。
他の社員は先に帰り、今日も一人かといつも通り仕事をしていた時、息抜きをしようと思いイヤホンで適当な曲をバックグラウンドで聞いYていた。
最初は当時ハマっていたラッパーの曲を聞いていたのだが、自動再生で選ばれた曲に聞き入ってしまった。
可愛らしい歌声とその歌詞に魅了されて、俺はいつのまにかその歌声の虜になっていた。
この時に出会ったのが藍沢奈菜美ことななみんで、俺が聞いた曲のPVでセンターを担当していた。
センターを担当するという事はメインで歌を歌う事となり、当時の俺はななみんの歌声に完全にハマってしまった。
前回のシングル「あの風の向こう側に」でもななみんはセンターを担当していて今ノリに乗っているはずだった。
もう新しくでてくるシングルにはななみんがいない、もうななみんの歌を聞くことが出来ない。
俺は今にもどうにかなってしまいそうだった。
なぜか今までの人生が蘇ってきた。
仕事は上手くいかなくて退社してそのままニート、せっかく見つけた推しも卒業、難関大学に受かるため勉強漬けの毎日でロクに青春もしてこなかった。
よくよく考えてみたら俺の人生、楽しい事なんて一つも無くて腐っていたんだな。
もう一度やり直したい。
今度は勉強なんてせずに高校や大学で良い青春をして、そのまま結婚したり子供を作って一緒に遊んでみたい。
どうして一つのニュースでここまで気に病んでしまったのだろうか。
分からない。
いっそのこと死んで人生をやり直してみようか、そもそも死んだら人生はやり直せるのだろうか。
それも分からない、でも試してみる価値はある。
今の俺は失うものなんて何一つ無い、ひっそりと死ねば誰にも迷惑は掛からないだろう。
俺は完全に闇に支配されてしまった。
そうとなれば人間落るのは簡単で、すぐに思考がマイナスになってしまう。
俺はパソコンの電源を点け『死ぬ方法』と検索した。
死ぬ方法なんて俺にも分かる、でも痛みを伴う死に方は嫌だ。
だから痛みが無く、楽に死ねる方法を知りたい。
でもそんなの調べても当然出てくるわけ無く、出てきたのは自殺防止のサイトや緊急処置の方法がまとめられたサイトだけ。
俺は出てきた応急措置の方法のサイトを流し見ながら思い出した事があった。
それは少し前に、有名配信者が『みんなバイバイ』って言ってそのまま電車に轢かれて死亡したっていう事件があった。
電車に轢かれたら痛くないのだろうか。
俺は気づけば立ち上がり、なぜか仕事で使っていたベージュのスーツを着ていた。
「最後に酒が飲みてぇ、コンビニで買って飲んでそのまま死ぬか」
俺はちゃぶ台のそばに落ちていた500円玉を胸ポケットに入れて、暗く閉ざされた部屋を出た。
しかし、今日は雨が降らずに曇り空。
そんな中、俺はいつも通り缶ビールを片手にテレビを見ていた。
俺の名前は池端真崎、歳は25で今はニートだ。
これでも俺は都内の難関大学に進学、そして卒業して一流企業である花園電機に就職した。
でもそこでの仕事は激務だった。
俺は簿記検定一級を所持していた事から財務部に配置された。
だがそこには社内ニートで最低限の仕事しかしない奴や自分の仕事を全うしようという気持ちは伝わって来るが、全然仕事が出来ない。
他にも無断欠勤が多い奴や元々体が弱くあまり仕事に出て来られないような腐ったようなやつらばかりで、俺も仕事にならなかった。
そんな事もあってか、俺が一人でやる仕事の量は普通の人間ではこなせないような量になっていた。
俗に言うキャパオーバーってやつだ。
深夜2時まで残業しても仕事が終わらない、他の人間は俺が仕事をやってくれることを良い事に定時で帰宅。
ここは本当に一流企業なのかと思ったさ。
しかも、ちょっとでもミスがあったら別室に連れていかれて怒鳴られる、それが一番嫌だった。
流石に俺もバカじゃないから合計金額が正確か確かめるために何度も電卓を叩いていた。
それでも俺はミスを絶対にしない完璧人間じゃない、時々ミスをしてしまうこともある。
その度会議室に連れていかれて『お前、このミスのせいで大きな損害がでたらどうするんだ!』って怒鳴られたら仕事に対するモチベーションも下がるし、なにより病んでしまう。
そんなこんなでここまで育ててくれた家族には申し訳ないが、仕事に耐えられなくて先月独断で仕事場に辞表を出した。
2年近く続けただけでも良いと思って欲しい。
一度も歓喜をしていなかったせいか空気が重いと感じた
窓を開け、新しい空気を中に入れる。
6月の朝方、肌を刺激するような冷たい風が入って来る。
持っていた缶ビールを一口飲み、俺はまたつまらないニュース番組を見る。
朝方のいつもと変わらないコメンテーターとアナウンサー。
毎日似たような特集や報道を聞くのはもううんざりだ。
そう思いチャンネルを変えようとした時、目を疑うようなテロップが表示された。
「速報です。人気アイドルグループ、虹ノ夢49の藍沢奈菜美さんが公式サイトで虹ノ夢49を卒業するという旨を発表しました」
アナウンサーが聞き取りやすい声でハキハキと話していく。
俺はアナウンサーが言っている言葉を聞いて戦慄した。
ななみんが卒業……?
虹ノ夢49とは株式会社【vertex receive】がプロデュースした人気アイドルグループで、俺が社畜として働いている頃に伸び始めたグループだ。
ななみんとの出会いは苦しい残業中だった。
他の社員は先に帰り、今日も一人かといつも通り仕事をしていた時、息抜きをしようと思いイヤホンで適当な曲をバックグラウンドで聞いYていた。
最初は当時ハマっていたラッパーの曲を聞いていたのだが、自動再生で選ばれた曲に聞き入ってしまった。
可愛らしい歌声とその歌詞に魅了されて、俺はいつのまにかその歌声の虜になっていた。
この時に出会ったのが藍沢奈菜美ことななみんで、俺が聞いた曲のPVでセンターを担当していた。
センターを担当するという事はメインで歌を歌う事となり、当時の俺はななみんの歌声に完全にハマってしまった。
前回のシングル「あの風の向こう側に」でもななみんはセンターを担当していて今ノリに乗っているはずだった。
もう新しくでてくるシングルにはななみんがいない、もうななみんの歌を聞くことが出来ない。
俺は今にもどうにかなってしまいそうだった。
なぜか今までの人生が蘇ってきた。
仕事は上手くいかなくて退社してそのままニート、せっかく見つけた推しも卒業、難関大学に受かるため勉強漬けの毎日でロクに青春もしてこなかった。
よくよく考えてみたら俺の人生、楽しい事なんて一つも無くて腐っていたんだな。
もう一度やり直したい。
今度は勉強なんてせずに高校や大学で良い青春をして、そのまま結婚したり子供を作って一緒に遊んでみたい。
どうして一つのニュースでここまで気に病んでしまったのだろうか。
分からない。
いっそのこと死んで人生をやり直してみようか、そもそも死んだら人生はやり直せるのだろうか。
それも分からない、でも試してみる価値はある。
今の俺は失うものなんて何一つ無い、ひっそりと死ねば誰にも迷惑は掛からないだろう。
俺は完全に闇に支配されてしまった。
そうとなれば人間落るのは簡単で、すぐに思考がマイナスになってしまう。
俺はパソコンの電源を点け『死ぬ方法』と検索した。
死ぬ方法なんて俺にも分かる、でも痛みを伴う死に方は嫌だ。
だから痛みが無く、楽に死ねる方法を知りたい。
でもそんなの調べても当然出てくるわけ無く、出てきたのは自殺防止のサイトや緊急処置の方法がまとめられたサイトだけ。
俺は出てきた応急措置の方法のサイトを流し見ながら思い出した事があった。
それは少し前に、有名配信者が『みんなバイバイ』って言ってそのまま電車に轢かれて死亡したっていう事件があった。
電車に轢かれたら痛くないのだろうか。
俺は気づけば立ち上がり、なぜか仕事で使っていたベージュのスーツを着ていた。
「最後に酒が飲みてぇ、コンビニで買って飲んでそのまま死ぬか」
俺はちゃぶ台のそばに落ちていた500円玉を胸ポケットに入れて、暗く閉ざされた部屋を出た。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる