術獣使いのアルヴァンヘルム

鈴音どら

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三話 クリアテッド・アテナ

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「一塚クロトだ、よろしく」

 黒板に名前を書き、周囲に視線を寄せる。

「ねぇねぇ、クロトってあのクロト?」
「いや、ただの同じ名前じゃねぇの?」
「でも《魔剣使い》だって……」

 そんな皆の小さい声がクロトの鼓膜を震わせる。クロトは頭を掻きながらはぁ、と溜息を吐いた。

「はい、それでは皆さんー。仲良くしてくださいね」

 先生に適当に指された席に座る。

「……げ」

 何故気づかなかったのか。クロトの横にはミリアが頬を膨らませクロトの方をじとっと見てきていた。
 そして、紙にペンを走らせ。先生の目を盗んでそれを渡してきた。
 そこには、
『この後、話があるから。屋上にて待つ』
 その紙を見て、ちらっとミリアの方を一瞥すると、ぷいっとそっぽを向いてしまった。

「…………」

 何故、周囲からコソコソ言われ。ミリアからしつこくパートナーに誘われるのか……理由はクロトにも分かっていた。
 先ほどから呟かれている《魔剣》恐らく……ではなく、確実にそれが原因だろう。
 通常、《契約結晶》に適応し《魔獣》と契約した者、もしくは《契約結晶》に適応し、《魔獣》とは、まだ契約していない人物はその身から契約反応と言われる、特別な気配の様な反応が出る。
 しかし、クロトは基盤から皆と違った。

「《契約結晶》の要らない《魔獣使い》……か」

 皆からは、《魔剣使い》なんて言われているが、クロトはそれだけは譲れなかった。
人じゃなくなったのなら、せめて魔獣として見てやる……。

「アテナ……」

 手を握り開きしながら、その名を呼ぶ。
今から五年前。クロトの人生を決定づけた出来事が起きた。



 時は遡り五年前……。

「君は……」

 地元で噂になっていたホラースポットの洞窟に遊び半分で入ったクロトはその少女に問うた。
 ここはその洞窟の奥深くだ。結論から言うと迷ってしまった。

「私は、クリアレッド・アテナ」

 クリアレッド・アテナ……? 外国人だろうか。

「もしかして、君もこのホラースポットを見に来たの?」

 そう言うと、アテナは不思議そうに首を傾げた。

「ごめん……なさい、私っ」

 そう小さく叫ぶように言い、更に奥へと走って行ってしまった。

「あ……待って!」

 続いてクロトも手を振り、走る。

「………何で……?」
「え?」

 アテナがポカンと、口を開きながら言葉を発した。

「あなた、もしかして《魔獣使い》……なの?」

 そう言うが、アテナはブンブンと首を振り、「じゃあ、何で《契約反応》が出てないの……」と言い、顎に人差し指を当てていた。

「あの……アテナ……? 何を言ってーー」
「まさか……」

 ハッとしたようにクロトの肩に手をガシッと掴む。

「お願いーーえと、名前は……」
「クロトだ、一塚クロト」

 気圧され気味に名を言う。

「クロト……! 今すぐ私と《契約》して!」
「ごめん……。何を……」
「時間がないの! お願い! あなたが《神獣使い》なら……きっと」

 話の流れが掴めず、頭が混乱しだす。

「え…………と」

 すると、アテナはギリっと、歯噛みをし事の一端を説明した。
 《魔獣》について、それを仲間にするのに《契約結晶》に適応するのが必要な事。
 そして、アテナの在学している《アストラリア学園》の危機。
 もう一つ……何かを言ったような気がしたが、よく聞こえなかった。

「そんなことが……」

 幼くても、理解力には自信があった。大体理解したクロトは口を開いた。

「つまり、君と《契約》すればいいの?」
「そう、この手を握って。そうすれば、私はあなたの魔獣(しもべ)になる」

 少し思考を巡らせ、少しおかしな点に気づく。

「待って、魔獣になるって……。君は一体……」
「その時が来れば話す……」
 ふぅ、とクロトは小さな吐息を吐き。「分かった」と言い、アテナの手を握る。

「私は……今から、人間を辞める……!」

「え……」

ーー瞬間。
 周囲がまばゆい光に覆われ、何も見えなくなった。
 そして……自分の手には、一つの剣が握られていた。

「人間を辞める……か」
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