灯火

水無月 かんな

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3話 「あり得ない!」

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強烈な薬品の匂いが鼻につき、私は目を覚ました。

「……ごめんね。リオが手荒な真似して、痛いよね。こんな幼いのに……リオを止めてあげれなくてごめんね。本当に……」

リューは私が起きてる事に気付いていないのか、私の髪を撫でながら、独白する。

「毒ガスが君には効いてないってリオから聞いたよ。最近は毒ガスから守る団体とか言って騙し子供を誘拐する事件が多発してるんだ。時に親の目の前で、時に子供が一人でいるときに拐って行く。それでね。リオが導いた答えが、子供が一人でいるときは同じくらいの子供が誘拐してるのではないかと。大人がいるときは流石に説得出来ないからね。」

髪を撫でてくる手は未だに引っ込まず、起きるに起きれない。

「その髪色も瞳の色も珍しいから、怪しまれて……ねぇ、君は一体………… 」

だめ、もう我慢できない。

「んっ……」

目を開けると視界には灰色の髪と優しげな顔。

「……………」

…あの、リュー顔がとても近いように感じるんですがこれは何ですか?何をしようとしたんですか?
私は考えるのを止めて起き上がり……

「いっ……」

全身に痛みが来る。特に痛いのは背中だが、首も、手も、足も、脇腹も、かなり痛い。苦痛に顔を歪めつつ、私は辺りを見渡した。
昨日いた部屋だった。朝日が窓から差し込み昨日よりも鮮明に部屋の様子が見える。私は拘束を解かれ、うつ伏せで寝かされていた。ベッドと言うには余りにも粗末で、木の板に布を敷いただけの上に寝かされていた。

「ごめんね。医務室に運びたかったんだけど、リオが許してくれなくて。」

リューは敵かもしれない私に謝って来る。けれど、私は喋らず首を横に振った。リューが悪い訳じゃない。でも、だからと言って私は喋る気にはならない。

「ねぇ…君はどうしてこんな時に来たの?明らかに目立つし、怪しまれるのに……捕まるってわかってるはずなのに、どうして来たんだい?」

私にだって分からないんだ。この世界について知ってることはそう多くない。
まず1つ、ここ辺りの区域には幼い子だけに良く効く有害な毒ガスが充満していること。
そして2つ、私の容姿は珍しく不気味がられている事。
そして3つ、ここは私の住んでいた世界と大きく異なる。命に対してこの世界は軽いのだ。

「背中、平気?」

平気……?何がどう平気と言うのだろうか?
痛いし、動くたび激痛が走って辛いのだ、平気なわけない。

「ねぇ、僕にだけ質問…答えてくれるかな?」

私は下を向く。この人は信じてくれるのかな?だめだ。信用ならない。私は首を横に振った。

「君のお名前は?」
「………………」
「お名前は分かるかな?」
「……………」
「お家はどこかな?」
「……………」

私は馬鹿にされてるのだろうか?
何で幼稚園生の子供みたいな接し方なんだろう?
やっぱり、馬鹿にされてるのだろうか?

「んー困ったなぁ~ 君は何歳かな?」
「……………」
「あっ!おれは、リュー。アルクデス・リューって言うんだ。」

完璧に幼稚扱いしてるだろう!

「お母さんのお名前は?お父さんとか、兄弟とか姉妹とか」
「………………」
「喋って平気。俺は別にリオの味方じゃないから、リオが君に危害を加えるつもりなら俺が守るから。だから何か教えて。」

きっと私は無言を貫いても良い。良いんだろうけど、多分これじゃ敵とみなされて、リューが助けてくれる可能性が限りなく低くなる。喋ろう。でも…何を?

「だめだよね…まだ信用ならないよね。あんな酷い事した俺らを信じるなんて。」
「……本当に助けてね?」

またあの暴力男にやられたらこんな傷だけじゃきっとすまない。だから、ヤバい感じだったら助けて欲しい。

「うん。約束する」
「私の名前は火雪こゆき。歳は16よ。」
「コユキ?あれ…?君の言語はこの大陸の物じゃ、ない?名前も不思議な響きだね。呪文みたい。それにしても…本当に16歳なの?」
「呪文って……………本当に16よ……何よ?」

リューは言語の方より歳を怪しんでるみたいだ。
私は馬鹿にされてるのかと思い冷たい目でリューを見た。

「ごめん。幼く見えてつい……13か、12歳位かと思ってて。」
「幼く……」

日本では若干老け顔気味なはずなんだが……この世界では幼い顔なのか?私は自分の顔をつまむ。

「ん?……??」

肌がツルツルで若返ってる?いや…気のせいだよね。私はおもむろに胸に手を当ててみた。……………な……無い。無いのだ。

「………う、うそだ。」

なんで今の今まで気付かなかったんだ。

「どうかした?」

だって、そんな、あり得ないじゃないか。いや…異世界に迷い混む時点であり得ないが、これもこれであり得ないと絶叫したい。
リューが気にかけてくれてるが私の頭の中はパニック状態でパンク寸前だ。

「なんで…なんで幼くなってるの!?」
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