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第2部 第1章 ケース オブ ショップ店員・橋姫『恋するあやかし』
四 酒呑童子は生きている
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四
次に天童がついた部屋は、二階展示室にある浮世絵と呼ばれる、主に江戸時代に流行した絵を展示されている部屋だった。
その大きさはA4サイズくらいだろう、紙は縦に使用されており、そこに描かれている浮世絵の世界は想像以上に精巧で、鮮やかさが目を引くものだった。
それらは額に入れられ、真横一列に展示されている。
その中に、紙を3枚並べて描かれている浮世絵作品があった。
天童はその前で足を止めると、誇らしげに語り出す。
「これは俺を題材にした浮世絵だ」
「えっ、浮世絵にもいるんですか!」
作品名、大江山酒呑童子。
そう題された作品は、刀を持った六人の武将たちが、横たわっている大柄の男を囲い込み、まさに討伐しようとしているシーンが描かれていた。
三枚つづりの絵に大胆に配置された、太眉でつり目の男が酒呑童子と思われる。
武将に囲まれているというのに、その顔は余裕にあふれ、肩肘をついて一人の武将をその指でつまんで持ち上げようとしていた。
「歌川国芳。俺を題材にした浮世絵の中でもこいつが一番よく描かれている」
すると隣にいた鞍馬も感心するように絵に見入っていた。
「嘉永四年……。江戸時代じゃないですか」
「ああ、ついこの間のことだろう」
(いやいや、二百年以上は経ってますけど!)
だが芽依はその絵の迫力や、細やかな酒呑童子の描き込みに感心するばかりであった。
テレビもネットもない時代に、今にも動き出しそうなこの絵を見た江戸の人々は、きっと夢中になったことだろう。
それと同じことが、今の芽依にも起きていた。
「すごい……。浮世絵ってこんなに細かいんだ」
「そうさ。服もひとつひとつ丁寧に彫り師によって彫られ、色付けされてるんだぜ?」
きっと、天童は自分のことを褒められたと思っただろうが、いまはどうでもよかった。
「よし。じゃあ帰るか!」
「えっ。まだ他のものは全然見ていないじゃないですか」
「童子切安綱、そしてこの大江山酒呑童子。この2つを1日で味わった。充分すぎるだろう」
「でも、せっかくきたのに……」
「ならお前らはもう一周くらいしてこいよ。俺、外で待ってるから」
自分のもの以外興味がないといったところか。
そういって天童は歩いていってしまった。
残された鞍馬と芽依はお互い顔を見合わせながら、同じことを思っていた。
「せっかくだから、もう少し周りたいですよね」
「はい。私もです」
そして二人は、天童の言葉に甘え、博物館を改めて周ることにした。
次に天童がついた部屋は、二階展示室にある浮世絵と呼ばれる、主に江戸時代に流行した絵を展示されている部屋だった。
その大きさはA4サイズくらいだろう、紙は縦に使用されており、そこに描かれている浮世絵の世界は想像以上に精巧で、鮮やかさが目を引くものだった。
それらは額に入れられ、真横一列に展示されている。
その中に、紙を3枚並べて描かれている浮世絵作品があった。
天童はその前で足を止めると、誇らしげに語り出す。
「これは俺を題材にした浮世絵だ」
「えっ、浮世絵にもいるんですか!」
作品名、大江山酒呑童子。
そう題された作品は、刀を持った六人の武将たちが、横たわっている大柄の男を囲い込み、まさに討伐しようとしているシーンが描かれていた。
三枚つづりの絵に大胆に配置された、太眉でつり目の男が酒呑童子と思われる。
武将に囲まれているというのに、その顔は余裕にあふれ、肩肘をついて一人の武将をその指でつまんで持ち上げようとしていた。
「歌川国芳。俺を題材にした浮世絵の中でもこいつが一番よく描かれている」
すると隣にいた鞍馬も感心するように絵に見入っていた。
「嘉永四年……。江戸時代じゃないですか」
「ああ、ついこの間のことだろう」
(いやいや、二百年以上は経ってますけど!)
だが芽依はその絵の迫力や、細やかな酒呑童子の描き込みに感心するばかりであった。
テレビもネットもない時代に、今にも動き出しそうなこの絵を見た江戸の人々は、きっと夢中になったことだろう。
それと同じことが、今の芽依にも起きていた。
「すごい……。浮世絵ってこんなに細かいんだ」
「そうさ。服もひとつひとつ丁寧に彫り師によって彫られ、色付けされてるんだぜ?」
きっと、天童は自分のことを褒められたと思っただろうが、いまはどうでもよかった。
「よし。じゃあ帰るか!」
「えっ。まだ他のものは全然見ていないじゃないですか」
「童子切安綱、そしてこの大江山酒呑童子。この2つを1日で味わった。充分すぎるだろう」
「でも、せっかくきたのに……」
「ならお前らはもう一周くらいしてこいよ。俺、外で待ってるから」
自分のもの以外興味がないといったところか。
そういって天童は歩いていってしまった。
残された鞍馬と芽依はお互い顔を見合わせながら、同じことを思っていた。
「せっかくだから、もう少し周りたいですよね」
「はい。私もです」
そして二人は、天童の言葉に甘え、博物館を改めて周ることにした。
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