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#序
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とある駅前。
「ごめん。遅くなっちゃってー」
と軽く謝罪しながら田村麻依はやってきた。
彼女が約束に5分ほど遅れるのはいつものことだ。
なんなら今日は3分しか遅れていないし。まあ良しとしよう。
と高橋希美は思った。
彼女たちは高校からの同級生で今は同じ会社に通っている。
先日麻依が「今週末ラーメン食べに行こう」
と唐突に思い立ち、私は彼女に誘われて今に至る。
彼女は高校の時から思いつきで行動している節があった。
「もう、そっちから誘ってきたんだから流石に遅れないでよ。」
「いやごめんごめんー。走ったら間に合う計算だったけど。ほら私運動苦手じゃん?」
と麻依は両手を合わせながら言い訳がましく謝る。
「しょうがないからいいよ。そのかわり、今日はおごりで!」
「それはないよー。」
と麻依は口を尖らせる。
ラーメン屋は駅からそう離れていなかった。
『破天荒』という名前だけ麻依から聞かされていたので、てっきり強面の頑固おじいちゃんがやってるような店を想像していたのだが、実際のところ30代くらいの夫婦と思われる二人が営業しているいい雰囲気の店だった。
4人用のテーブルに向かい合って腰掛け、奥さんに注文をする。
旦那さんはおそらく厨房なんだろう。
麻依は塩ラーメン、私はワンタン麺を注文した。
「私たち以外にお客さんいないね。静かでいいけど。」
と麻依が言った。
この店、店自体はあまり大きなものではないがにしても土曜の昼間に客が1組って、経済的に大丈夫なのだろうか。
と思ったときに視界の右上に映ったテレビが目に付いた。
みたところ薄くて画面もそう小さくないしそこそこいいやつなんだろう。
なるほどこれが買えるくらいには儲かってるのだなと一人で納得した。
「ちょっと、何ぼけっとしてんの。」
麻依に言われて我に返る。
「もう今の話聞いてなかったでしょ。」
「ごめん。」
私がくだらないことを考えていたうちに何か話していたらしい。
「私、拓也と別れた。」
「へー、これまたどうして。」
拓也くんというのはこれまた高校からの友達で大学の入学式の日に拓也くんから麻依に告白して付き合っていた。
会社は私たちとは違うところに行っている。
麻依とは当時からすごく仲が良くて、これは結婚すると思っていたのに。
「なーんかさ、浮気されてたんだー。あいつの会社の受付の女の子とさ。私あいつが浮気する奴だと思ってなかったら本当ショックで、別れた。」
「あの拓也くんが浮気ねぇ。付き合い始めた頃なんて『麻依が人生初めての彼女だから。』なーんて可愛かったのに。」
「なんかさー。人って変わるなーって」
自慢のウェーブしたロングの髪の毛を触り、口を尖らせて麻依は文句を垂れる。
それを言ったら麻依も高校の時とは見違えるほど変わった。
髪なんてショートだったし、話し方ももっとおとなしめだった。
拓也くんの浮気の原因の一部はそこにあるのではと思ったが口には出さなかった。
そんなことを言ってしまったら怒って速攻帰ってしまうだろう。
「あれ、今日ライブやるんだっけ。アンヘル。」
テレビを見て麻依が言う。
テレビでは『【中継】あの人気バンド[アンヘル]初のツアー初日!』と大々的に特集されていた。
アンヘルというのはアンヘルシー、つまり不健康の略だそうだ。
そんな名前のバンドが流行るなんてどうかと思うが、私はその道には詳しくないのでこれ以上はわからない。
わかったのは映っているのが先ほどの駅からそう遠くないアリーナだということと、そこに恐ろしく人がいるということだった。
某どこぞの人の言葉を借りるならば【ゴミのよう】だった。
「うわー、すっごい人だね。さすがアンヘル。このライブ、なんか首相も来るとか来ないとかだってさ。どうする希美?近いし当日券あるかもだし行ってみる?」
麻依のテンションが高くなる。
アンヘルは今となっては知らない人などいない超人気バンドだし、まあ当然か。
私にはわからないけど。
「私はパス。本当に興味ないし、首相くるならテロとかありそうでやだ。ほら、なんとか国だっけ?」
「それイスラム国でしょ。しかもそれ話題になったの結構前だし、釣れないなぁ希美は。」
「そう?私は怖いよ、イスラム国。テロってさ。こう、話題でもなんでもない時にきて犠牲を出すものじゃない?この前のアメリカのテロだって、あれを予期して警戒してた人なんていたと思う?」
私がまじめに返したので麻依は目をぱちくりさせた。
「2.3人はいるんじゃない?そんなこと言い出したら家から出れないよー。」
麻依が小馬鹿にしたような態度をとってきたので少しムスッとした。
これも拓也くんの浮気の原因かもしれない。
「あれなんだろう?」
麻依がテレビに指をさす。
指をさしたところに白く光る飛行物が映っていた。
いや、落ちてきているし落下物か。
と思った瞬間である。
突然画面が真っ白になったと思ったら台風中継のような大きい雑音とその後ろから大勢の叫び声が聞こえた。
「え、何今の。」
麻依がきょとんとする。
ラーメンを運んできていた奥さんもテレビに釘付けだ。
ようやく画面が安定する。
先ほどと何も変わらないようにも見えたが、人々が蜘蛛の子を散らすように走り回っていた。
画面奥から煙が上がっているのもわかる。
その後テレビからはキャスターの
「爆発です。爆発です。」
と繰り返す機械的な声が永遠と聞こえた。
「ごめん。遅くなっちゃってー」
と軽く謝罪しながら田村麻依はやってきた。
彼女が約束に5分ほど遅れるのはいつものことだ。
なんなら今日は3分しか遅れていないし。まあ良しとしよう。
と高橋希美は思った。
彼女たちは高校からの同級生で今は同じ会社に通っている。
先日麻依が「今週末ラーメン食べに行こう」
と唐突に思い立ち、私は彼女に誘われて今に至る。
彼女は高校の時から思いつきで行動している節があった。
「もう、そっちから誘ってきたんだから流石に遅れないでよ。」
「いやごめんごめんー。走ったら間に合う計算だったけど。ほら私運動苦手じゃん?」
と麻依は両手を合わせながら言い訳がましく謝る。
「しょうがないからいいよ。そのかわり、今日はおごりで!」
「それはないよー。」
と麻依は口を尖らせる。
ラーメン屋は駅からそう離れていなかった。
『破天荒』という名前だけ麻依から聞かされていたので、てっきり強面の頑固おじいちゃんがやってるような店を想像していたのだが、実際のところ30代くらいの夫婦と思われる二人が営業しているいい雰囲気の店だった。
4人用のテーブルに向かい合って腰掛け、奥さんに注文をする。
旦那さんはおそらく厨房なんだろう。
麻依は塩ラーメン、私はワンタン麺を注文した。
「私たち以外にお客さんいないね。静かでいいけど。」
と麻依が言った。
この店、店自体はあまり大きなものではないがにしても土曜の昼間に客が1組って、経済的に大丈夫なのだろうか。
と思ったときに視界の右上に映ったテレビが目に付いた。
みたところ薄くて画面もそう小さくないしそこそこいいやつなんだろう。
なるほどこれが買えるくらいには儲かってるのだなと一人で納得した。
「ちょっと、何ぼけっとしてんの。」
麻依に言われて我に返る。
「もう今の話聞いてなかったでしょ。」
「ごめん。」
私がくだらないことを考えていたうちに何か話していたらしい。
「私、拓也と別れた。」
「へー、これまたどうして。」
拓也くんというのはこれまた高校からの友達で大学の入学式の日に拓也くんから麻依に告白して付き合っていた。
会社は私たちとは違うところに行っている。
麻依とは当時からすごく仲が良くて、これは結婚すると思っていたのに。
「なーんかさ、浮気されてたんだー。あいつの会社の受付の女の子とさ。私あいつが浮気する奴だと思ってなかったら本当ショックで、別れた。」
「あの拓也くんが浮気ねぇ。付き合い始めた頃なんて『麻依が人生初めての彼女だから。』なーんて可愛かったのに。」
「なんかさー。人って変わるなーって」
自慢のウェーブしたロングの髪の毛を触り、口を尖らせて麻依は文句を垂れる。
それを言ったら麻依も高校の時とは見違えるほど変わった。
髪なんてショートだったし、話し方ももっとおとなしめだった。
拓也くんの浮気の原因の一部はそこにあるのではと思ったが口には出さなかった。
そんなことを言ってしまったら怒って速攻帰ってしまうだろう。
「あれ、今日ライブやるんだっけ。アンヘル。」
テレビを見て麻依が言う。
テレビでは『【中継】あの人気バンド[アンヘル]初のツアー初日!』と大々的に特集されていた。
アンヘルというのはアンヘルシー、つまり不健康の略だそうだ。
そんな名前のバンドが流行るなんてどうかと思うが、私はその道には詳しくないのでこれ以上はわからない。
わかったのは映っているのが先ほどの駅からそう遠くないアリーナだということと、そこに恐ろしく人がいるということだった。
某どこぞの人の言葉を借りるならば【ゴミのよう】だった。
「うわー、すっごい人だね。さすがアンヘル。このライブ、なんか首相も来るとか来ないとかだってさ。どうする希美?近いし当日券あるかもだし行ってみる?」
麻依のテンションが高くなる。
アンヘルは今となっては知らない人などいない超人気バンドだし、まあ当然か。
私にはわからないけど。
「私はパス。本当に興味ないし、首相くるならテロとかありそうでやだ。ほら、なんとか国だっけ?」
「それイスラム国でしょ。しかもそれ話題になったの結構前だし、釣れないなぁ希美は。」
「そう?私は怖いよ、イスラム国。テロってさ。こう、話題でもなんでもない時にきて犠牲を出すものじゃない?この前のアメリカのテロだって、あれを予期して警戒してた人なんていたと思う?」
私がまじめに返したので麻依は目をぱちくりさせた。
「2.3人はいるんじゃない?そんなこと言い出したら家から出れないよー。」
麻依が小馬鹿にしたような態度をとってきたので少しムスッとした。
これも拓也くんの浮気の原因かもしれない。
「あれなんだろう?」
麻依がテレビに指をさす。
指をさしたところに白く光る飛行物が映っていた。
いや、落ちてきているし落下物か。
と思った瞬間である。
突然画面が真っ白になったと思ったら台風中継のような大きい雑音とその後ろから大勢の叫び声が聞こえた。
「え、何今の。」
麻依がきょとんとする。
ラーメンを運んできていた奥さんもテレビに釘付けだ。
ようやく画面が安定する。
先ほどと何も変わらないようにも見えたが、人々が蜘蛛の子を散らすように走り回っていた。
画面奥から煙が上がっているのもわかる。
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「爆発です。爆発です。」
と繰り返す機械的な声が永遠と聞こえた。
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