ヴァンパイアキング、コンビニでバイトする

山口三

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7・ドタバタ

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 昨日の雷雨が嘘のようにいいお天気だった。カーテンの隙間から夏の様に強い日差しが差し込んでいる。

「ぎゃぁぁぁぁぁ」

 隣の部屋から耳をつんざくような悲鳴が聞こえてきた。ドタンドタンと大きな物音までしている。
 俺はベッドから跳ね起きて隣の部屋に駆け込んだ。

「な、な、なんだ? どうした?」

 壁際にあるベッドにキングはいなかった。ベッドの頭は窓の方を向いていたが、キングはベッドから降りてその足元の方にタオルケットを被ってうずくまっていた。

「ひ、光をなんとかしてくれ・・太陽が・・」なんとも弱々しい声でキングが訴えてきた。

 確かにカーテンの隙間から差し込む光がベッドの上まで届いていた。

「ああ、日の光に弱いってのは本当なんだな」

 俺はクローゼットから冬用の毛布を取り出してカーテンレールに掛けた。「もう大丈夫だぞ」

 キングは恐る恐るタオルケットからこちらを伺った。そして部屋に光が漏れていない事を確認するとタオルケットをずるずると引きずってベッドに腰かけた。

「ふぅ~危うく寝ながら塵に帰るところだったぞ」キングはそのままもぞもぞとベッドに潜ってまた目を閉じた。
「もう大丈夫だって。俺ももうちょっと寝るよ」

 タンスの上にある時計を見るとまだ4時だった。自分の部屋に戻りかけたが、くるっとキングを振り返った。

「あれ? ちょっともう一回目を開けてみて」
「なんだ? 目がどうした」キングが目を開けて俺を見返した。

 金色に縁どられた紫の目のはずが、今のキングの目はどこからどう見ても普通の黒に見える。

「目が・・黒いぞ」
「バカな事を言ってないでお前も早く寝るがいい。睡眠が足りないと物がおかしく見えるのだ」

 ――そ・・そうなの? キングの目の色が変なんじゃなくて俺の目がおかしいの?

 追い出されるように部屋を出た俺は自室のベッドにまた横たわった。まったく納得がいかなかったが若い体はすぐ眠りについた。


_____



「うわぁぁぁっ」

 今度悲鳴を上げたのは俺だった。

「遅刻だ、遅刻。やっべぇぇ」――2度寝なんてするからだ。いやキングが悲鳴なんて上げるからだ。チクショー。

 デニムのファスナーを上げながら階段を降り、片手でシャツのボタンを留めながらもう片方の手で歯ブラシを掴んだ。

「騒々しい奴だな、何をそんなに急いでおる?」
「今日は学校なんだよ、俺は大学生なの! 学校に遅刻しそうなんだよ」

「ガッコウ? ダイガク? それは発生したてのダンジョンか?」
「ああっもうっ。帰ってから説明するよ」

「我は腹が減ったぞ」
「そこら辺にあるもの勝手に食べろよ。冷蔵庫にもなんかあったと思うから。俺が帰るまでは外にでるなよ!」

 それだけ言うと俺は玄関を飛び出して行った。



________




 ――外に出るな、と。出られる訳がないだろう、今は昼なのだから。
 それにしても腹が減ったな。レイゾウコに何かあると言っていたが・・レイゾウコとは何だ?

 キングはキッチンに入って行った。

 ――あの男はここで食べ物を作っていたな・・。レイゾウコとはこれか?

 キングは食器棚に手を掛けた。当然中は食器だらけだ。「これは違うな」といいながら次はシンクに備え付けてある引き出しや棚を次から次へと開けて行った。

 まず目についたのはシンクの下の引き出しにあった透明な筒に入った細長い物だった。蓋は回すとすぐ開き、中にある細長い物を口に入れバリバリとかみ砕いた。

「これも食い物らしいがまずくて食えんな・・なぜこんな細長い形状なのだ? しかも味がせん」
「これは何だ? この世界では食糧庫に武器を入れておくのか? 魚や野菜の絵が描かれた武器とは一体・・」

「ぐわっ・・これは煙幕の元か? ゴホッゴホッ」
「随分粒の大きな白砂だな・・・・一体食べ物はどこにあるのだっ!?」

 やっと冷蔵庫に辿り着いたキングは今度は扉の開け方が分からず四苦八苦している。

「むぅ・・あの男め魔法を仕掛けていきおったな。くそう・・」

 ところがちょっとした拍子に冷蔵庫のドアが開いた。

「おおお、開いたぞ!」キングは早速頭を冷蔵庫に突っ込んで中を物色し始めた。

「この赤い実は・・・ぶはっ、す、酸っぱい。これは腐っている。なぜ腐った物を後生大事にここにしまっておくのだ。この世界の人間はほとほと奇妙な事をするものだ」

「これは・・卵だな。この様な低い温度で孵る卵があるとは不思議な世界だ」
「これは・・うむ。随分と油っぽいがいい香りだ。これは食えそうだ」
「この黄色い物は・・うわ、これも腐っている。・・・が、濃厚な味がするな。腐っているのが惜しいぞ」
「これは・・おお! 肉だな。少し煙たい匂いが強いししょっぱいが、これも食えるな」

 キングは冷蔵庫から次々と物を取り出し食べられそうな物をテーブルに乗せて行く。

「よし、こんな物だな」


______




 大学が終わった俺は家路を急いだ。キングを家で一人にしておくなんて不安で仕方ない。
 駅から家まではチャリだ。駐輪場から出て家までチャリをぶっ飛ばす。5,6分で着くところを3分で帰ってきた。

「ただいま! キング~ちゃんと居るか?」

 脱いだ靴はフッ飛ばして急いでリビングへ向かう。キングはソファに大人しく座ってTVを見ていた。

「戻ったのか」
「うん。大丈夫だったか? 外には出てないだろうな」

「昼間は外に出られん。知らないのか?」肩越しに呆れたような顔が俺を見ている。
「そうだとは思ったけどさ!」――チェッ嫌味なヤツ。

 俺はドサッとデイパックを床に下ろした。

「俺、今日はバイトだからまた出掛けるぞ」そう言い、デイパックのポケットから水のペットボトルを取り出し残っている水を飲み干しながらキッチンへ向かった。

 ボトン・・・。

 ペットボトルは俺の手から落ちてキッチンの床に転がった。中身は空だったから良かったはずが俺の顔からは血の気が引いた。

「な、な、な・・・・なんだよこれぇぇぇ」

 
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