男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される

山口三

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結婚式

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「沙耶ったら一体どこをほっつき歩いてるのかしら! スマホも使えないし連絡も取れないじゃない!」

 もうすぐお昼だった。
 お昼までにはBasinWhiteのバスグッズを使ってゆっくりお風呂に入り、自慢の美貌に入念に磨きをかけておくはずだった。それからホテルの中のレストランで食事をして、戻ったらジャンフィリップパティスリーのチョコレートを食べながら沙耶が淹れたコーヒーでも飲んで・・。

 それなのにこれじゃあ今日の計画が台無しじゃない! 明日からは年末特番の2時間ドラマの撮影が始まるのに!

 お腹の空きがイライラに拍車をかけていたその時、ノックがした。
 ホテルの従業員が立っている。ドアを開けるとショッピングバッグを両手に下げて部屋に入って来た。

 荷物をテーブルの上に置くとニコニコしながら立ったままで景子を見ている。

(あーチップね)

 手渡されたチップを見るとその顔からは笑顔が消えたが、従業員は文句も言わずに出て行った。

「どうして沙耶が自分で運んでこないのかしら・・」

 ショッピングバッグからBasinWhiteのアイテムを取り出すとその中にメモ用紙が入っていた。

『ごめんなさい、用事が出来たのでお昼は食べていて下さい』

「はあ? なんで沙耶が私より自分の用事を優先するのよ」

 仕方なく景子は予定を変更して先に食事をしに部屋を出た。だが有名なホテルのビュッフェも長蛇の列が出来ていて30分以上は軽く待たされそうだ。

 仕方なくぶらぶらと館内を歩いてあちこちで食べるものを仕入れた。

「なによ、チョコレートショップもあるじゃない。いいわ、自分の分だけ買うから」

 ジャンフィリップパティスリーではなくなっている事に気づかない景子はチョコレートを山ほど買い求めて部屋に戻った。



______


 その頃、沙耶とかおるは役所に赴き結婚許可証を申請していた。身分証明書と77ドル。たったこれだけで15分もかからないで許可証を貰う事が出来た。

 そこからほど遠くない白いチャペルが目印の教会で式を挙げることになったが、証人が二人必要だった。

「涼と・・あと一人か」

 馨は困ったように呟いたが、すぐに証人問題は解決された。こちらが3人なのを見て、大勢待っていたカップルの一組が声を掛けてきたのだ。

 相手も若いカップルだった。イタリアから来たらしいのだが、役所で職員が証人になってくれるシステムがここには無い事を知らなかったそうなのだ。

 こちらからは涼と馨が相手の証人になり、向こうからは新郎がこちらの二人目の証人になってくれた。

 証人の署名が終わると馨と沙耶はレンタカーに乗り込んだ。
 車に乗ったままゆっくりと窓口に近づき宣誓を交わすと、二人はここラスベガスで夫婦になった。

(もうこれで結婚成立なのね)沙耶が感慨に浸る間も無く、車は出口へと向かう。

 出口に着くと先ほどのイタリア人のカップルが待っていて一緒に写真を撮ろうと提案してきた。

 馨は断ろうとしていたが彼らの陽気で少し強引な行動に、気づいていたらもう写真を撮り終えた後だった。
 彼らは最後に沙耶達に向かってこう言ってから去って行った。

「日本ではまだ認められないみたいだけど、僕らは君たちの味方だからね! お幸せに!」

 初めは意味が分からなかった沙耶だが苦笑する涼を見て(あー私が男だと思ったのね)と思い当たった。この格好をするようになってからはいつもの事だった。


 帰りのタクシーの中で3人はLINEを交換した。

「我々は1週間後に帰国する。その間に何かあれば部屋を訪ねてくれ。帰国したらまたLINEで連絡する」
「分かりました。私は景子の撮影の間はアメリカに滞在しています。4、5日で終わる予定なので多分私のほうが先に帰国すると思います」

「え? 馨君、ベガスで一緒にデートしたりしないの?」
「この後にそんな時間があるか?」

「作るものでしょ、時間は」
「あ、私の事でしたらお構いなく。私もいつ撮影の都合で呼ばれるか分かりませんし」

「そう? 遠慮しないでね石井さん」
「わたし、この部屋からコモ湖の噴水を見ることが出来ただけで十分楽しめましたから」
「ふう~ん・・」

(デートも何も、そもそも契約結婚に過ぎないんだぞ、これは)内心で馨はつぶやいた。

 
________


「馨君、随分思い切ったね」

 ベラージオの部屋に戻って来るなり涼は馨に迫った。

「何の事だ?」
「何のって・・たった今しがた結婚式を挙げて来た人が言うセリフかな」

「とりあえずこれで急場はしのげるだろう。結花は驚くだろうな。親父は何て言うかな・・・まあ騙されてくれるといいが」
「そこは馨君と石井さんの演技力にかかってるんじゃないですか? 演技力っていうなら高野景子の方が良かったかもよ?」

「いや、高野景子は無理だ」
「あっ、そっか。そうだね・・」

 涼は肝心な事を失念していた自分が恥ずかしくなった。そうだ、石井さんは高野景子にはない、馨君のお眼鏡にかなう要素を持っているのだった。

「とにかく日本に帰ったら忙しくなるぞ。彼女を迎える準備もしなくちゃいけないし」
「うん、上手く行くといいね。石井さんはいい人そうだし」

 涼は明日の契約の為の書類を整理しながら、まるでこれから面白い舞台でも見に行くような気分になっていた。

 
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