男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される

山口三

文字の大きさ
13 / 52

それぞれの夜

しおりを挟む
 結花と馨に屋敷を一通り案内されたあと、沙耶は五瀬家を後にした。

 沙耶をまた駅まで送り届けてから涼は五瀬家に戻ってきた。正確には馨の部屋に戻ってきた。帰りは馨も駅まで一緒に行ったのだ。

「どう、上手く行った?」
「ああ、親父は沙耶を気に入ったみたいだな」

「結花ちゃんは?」
「うーん、結花は考えてることがイマイチ分かりにくいからな‥でも屋敷を案内するのに付いて来るとは思わなかった」

「いしい‥沙耶さんも相当緊張してたみたいだったけど」
「そうだな・・」

 隣に座る沙耶の湯飲みを持つ手が小刻みに震えているのを馨は気づいていた。その手を自分の手でそっと包んであげたくなったが、その自分の衝動に驚いた事を馨は口に出さなかった。



________



 結花は沙耶に会う何日か前に馨から結婚の話を聞かされていた。

(今まで女性なんて一人も家に連れてきた事ないのに、いきなり結婚しただなんて。でも私が想像していたのとは全然違う人だった。女優さんのマネージャーって言ってたから、もっと有能でさばさばした感じの人かと思っていたのに・・)

 もしかしたらいい人かもしれない・・母親のような人間だったらもう自分はどこにも逃げ場がなくってしまうと結花は不安だったのだ。

 沙耶が持って来た和菓子をつまんでいたが、結花は夏休みが終わりまた学校が始まる恐怖で、まったく和菓子の味を感じなかった。


________



「あら、沙耶が帰ったみたいよ」
「大丈夫だろう、こっちの部屋の方には用事なんかないはずだ」

 リカは修二の部屋にいた、修二の部屋のベッドの上に。

 夫は和菓子屋の組合の会合で1泊旅行に出掛けている。それも本当かどうか分かったものではないが、リカとしては都合が良かった。今日は景子も遅くまで帰らない予定だからタイミングがいい。

「兄さんは明日帰って来るのか?」
「そうよ、もう2、3泊して来たらいいのに。どうせ家にいたって役立たずのでくの坊なんだから」

「あんたはキツイ女だなぁ。まあでも確かにあいつは役立たずだな。ここの和菓子屋の経営だって俺とあんたで回してるんだからな。老舗の2代目って言うのは出来が悪いと相場が決まってる」

「いっそぽっくり逝ってくれれば私達でもっと好きなように出来るのに」
「夜も好きなようにな、ははははは」


_________



 沙耶は自分の小さな部屋に帰ってくるとベッドに座って足をもみ始めた。履き慣れないヒールのある靴を履いて足がジンジンと痛んでいた。

 部屋にに帰って来て緊張がほぐれるとそれまで意識していなかった足の痛みが襲ってきたのだ。

「でもとりあえず失敗は無かったわよね。お父様もとてもいい方だったし、結花さんは可愛い人だった。あんないい方達を騙すなんて心苦しいけど、契約しちゃったんだから仕方ないわ・・それ以外で私が出来る限り尽くして頑張ろう」

 ――彼は・・ブラウスが良く似合うと言ってくれた。男性から、しかもあんなに素敵な人から言われたのは初めてだった。その小さな出来事が嬉しくて、私はこんなにも高揚している。

「だめだめ、契約なんだから! これはあくまで契約結婚。時期が来たら私たちの契約は解消されるんだから変な気を起こしちゃだめ!」

 来週にはここを離れて五瀬家に入る。荷物はほんのわずかだったが、沙耶はそれを段ボールに詰め始めた。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~

Mimi
恋愛
 若様がお戻りになる……  イングラム伯爵領に住む私設騎士団御抱え治療士デイヴの娘リデルがそれを知ったのは、王都を揺るがす第2王子魅了事件解決から半年経った頃だ。  王位継承権2位を失った第2王子殿下のご友人の栄誉に預かっていた若様のジェレマイアも後継者から外されて、領地に戻されることになったのだ。  リデルとジェレマイアは、幼い頃は交流があったが、彼が王都の貴族学院の入学前に婚約者を得たことで、それは途絶えていた。  次期領主の少年と平民の少女とでは身分が違う。  婚約も破棄となり、約束されていた輝かしい未来も失って。  再び、リデルの前に現れたジェレマイアは……   * 番外編の『最愛から2番目の恋』完結致しました  そちらの方にも、お立ち寄りいただけましたら、幸いです

竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える

たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。 そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

逆行したので運命を変えようとしたら、全ておばあさまの掌の上でした

ひとみん
恋愛
夫に殺されたはずなのに、目覚めれば五才に戻っていた。同じ運命は嫌だと、足掻きはじめるクロエ。 なんとか前に死んだ年齢を超えられたけど、実は何やら祖母が裏で色々動いていたらしい。 ザル設定のご都合主義です。 最初はほぼ状況説明的文章です・・・

転生した女性騎士は隣国の王太子に愛される!?

恋愛
仕事帰りの夜道で交通事故で死亡。転生先で家族に愛されながらも武術を極めながら育って行った。ある日突然の出会いから隣国の王太子に見染められ、溺愛されることに……

身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻
恋愛
 桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。  父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。  理由は多額の結納金を手に入れるため。  相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。  放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。  地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。  

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】美人な姉と間違って求婚されまして ~望まれない花嫁が愛されて幸せになるまで~

Rohdea
恋愛
───私は美しい姉と間違って求婚されて花嫁となりました。 美しく華やかな姉の影となり、誰からも愛されずに生きて来た伯爵令嬢のルチア。 そんなルチアの元に、社交界でも話題の次期公爵、ユリウスから求婚の手紙が届く。 それは、これまで用意された縁談が全て流れてしまっていた“ルチア”に届いた初めての求婚の手紙だった! 更に相手は超大物! この機会を逃してなるものかと父親は結婚を即快諾し、あれよあれよとルチアは彼の元に嫁ぐ事に。 しかし…… 「……君は誰だ?」 嫁ぎ先で初めて顔を合わせたユリウスに開口一番にそう言われてしまったルチア。 旦那様となったユリウスが結婚相手に望んでいたのは、 実はルチアではなく美しくも華やかな姉……リデルだった───

処理中です...