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16 犯人捜しとアーロン
しおりを挟む「アロイス、ちょっと相談があるんだけど」
ハーリン先生に聞かれてはまずいので、私は手当ての終わったアロイスを更に人気の無い場所まで引っ張って行った。
「どうした?」
「アロイス、キツネになって!」
「はあっ? なんでだよ!」
「キツネも臭覚が優れてるでしょ? ロザリオの匂いを追うの」
アロイスは目を丸くしたが、すぐ真顔に戻りため息をひとつ吐いて言った。
「何を言い出すかと思ったら……俺がキツネになってお前と犯人を追うのか? 犯人を見つけた後は? 相手が大勢だったらどうするんだ、俺はすぐには人間に戻れないんだぞ」
「ええっとぉ、そこまでは考えてなかったわ…」
アロイスはヤレヤレと呆れ顔で、少し思案してからこう言った。
「全く……そうだな、ハーリン先生に付いて来て貰え。キツネの事はどこかで飼っているのを借りて来たとでも言えばいい」
「そうね! ハーリン先生なら剣術の腕も確かだし! 後はチキンね…キッチンは黒焦げだから望みは薄そう」
「それは大丈夫だ。昼のサンドイッチに入っていたから食べないでおいてある」
アロイスの荷物からサンドイッチを取り出して来て、私達はまた人影のない場所まで移動した。アロイスはチキン入りサンドイッチを食べる。すぐには何も起きない。でも二分もしないうちにアロイスの頭にポンとキツネの耳が出現した。見ると尻尾も生えている。今度は顔にひげが現れていた。
「わああ、すごい。ねえ、尻尾に触ってみてもいい?」
そう言って尻尾に視線を移した瞬間に、アロイスはもうすっかりキツネの姿に変わっていた。
「だめ」
「ねえ、ちょっとだけ」
キツネになったアロイスはひとつブルッと身震いすると、私に背を向けて言った。
「時間がないんだから、行くぞ」
「むぅ」
私は仕方なくキツネになったアロイスを抱き上げた。柴犬くらいの大きさかしら。被毛が柔らかくてとても抱き心地がいい。尻尾は相変わらずモッフモフだ。無心に背中の毛を撫でながら、私はハーリン先生の元へ急いだ。
先生は私の提案に心底驚いたようだったが、シルバーブルーに輝くキツネを見てすぐ決心した。
「幸いにしてロザリオは白檀の香木を使用して作られています。キツネならその匂いを追えるでしょう」
教会は火事の後始末やらロザリオの捜索やらでごった返している。私とハーリン先生は難なく、中に入ることが出来た。キツネを祭壇の近くにまで抱き上げてロザリオの匂いを覚えさせる。アロイスはキツネになっても話せるけど、それは秘密だから目で合図した。
「さっ、行くわよ! アロ……、ア、アーロン!」
「それはキツネの名前ですか?」
ハーリン先生が聞いてきた、なぜだか笑いを噛み殺しながら。キツネにアーロンなんておかしいのかな。
「そ、そうです。可愛い名前よねえ、アーロンちゃ~ん」
ジロッと横目で私をひと睨みすると、アロイスは地面に降り立って駆け出した。私達は教会を出た所で、聖騎士団の人と一緒にいるレニーに遭遇した。
「レニー、どこかへ行くの?」
「これから屋敷に戻るんだ。もしかしたらブリジットは具合でも悪くなって屋敷に帰っているのかもしれない」
「そうね、きっとそうだわ。私はブリジットが犯人じゃないって信じてるわ。だからその証拠を見つけてみせる」
「妹を信じてくれてありがとうジーナ。じゃあ行くよ、騎士団の人を屋敷に案内しないといけないんだ」
レニーは意気消沈している。ジェリコの事だから屋敷にブリジットが居たとしても、ロザリオを隠し持っていないか捜索する気で騎士を向かわせたに違いない。教会は独立した権力を持ってるけれど、やっぱり第二王子のジェリコに歯向かうのは避けるわよね。
レニーが行ってしまうと、アロイスはまた駆け出して、裏の礼拝堂入り口の辺りでくんくんと匂いを嗅いでいる。そしてそのまま教会裏の林に入って行った。
林の中をずっと歩き続けてどれ位経っただろう、少し休憩しようと言いかけた時それは見えてきた。
「はぁはぁ……もう疲れて足が…」
「しっ、クリコットさん。建物が見えてきました。一旦そこの茂みに隠れましょう」
大きな灌木の陰に隠れて佇むその古びた小屋には、確かに明かりが点いていた。ただの木こりの小屋かもしれないが、一応確かめないとね。
気づくとかなり薄暗くなってきている。ずっと外にいると目が慣れて気付かなかった。
「私が様子を見てきます。あなたはここに居て下さい」
ハーリン先生は忍者みたいに素早くこっそり小屋に近づいて、私の視界から消えた。ほどなくして戻ってくると、コイン位の大きさのメダリオンを私に手渡しながら言った。
「レニー君の妹らしき女子生徒が囚われています。相手は三人だけのようですが、彼女を助け出しながら三人相手にするのは少し分が悪い。クリコットさんはアーロンと一緒に応援を呼んで来て下さい」
「分かりました、でもこれは?」
「ここからだと教会に戻るより林を西へ抜けて近くの町に出た方が早い。そこの警備隊にこのメダリオンを見せればすぐ協力してくれるでしょう」
アロイスの頭を撫でながらハーリン先生は話しかけた。
「アーロンちゃん、ここから五百m程戻ってから西へ行って下さい。十分も歩かない内に町が見えてくるはずです」
『アーロンちゃん』と呼ばれたアロイスがハーリン先生を睨みつけた様に見えたけど……よほどアーロンが嫌なのね。
一度座ってしまうと、疲労が溜まった体をもう一度動かすのは容易ではなかった。でも踏ん張らなくちゃ。ブリジットが犯人だっていうジェリコの考えが間違っていて良かったけど、彼女が心配だわ。レニーの為にも早く救出しなければ。
アロイスが先導してくれて、私は真っ暗になった林を無事に抜ける事が出来た。ハーリン先生が言った通り十分も歩かないうちに町の明かりが見えてきた。町に入ったらすぐ警備隊の詰め所を探さないと、そう考えながら歩いているとアロイスが小声で訴えて来た。
「おい、あそこに人がいるぞ。警備隊詰所の場所を聞けるんじゃないか」
「そうね。あのーすみませーん」
ついさっき火の手から逃れたと思ったら、今度は林の中を夢中で進んで来たおかげで、顔は煤だらけ、衣服も汚れ、木に引っ掛けてドレスの裾を破いたり、私はひどい有様だった。その上大きなキツネを抱いて、貴重なロザリオを盗んだ盗賊がアカデミーの生徒を拉致しているから助けてくれと訴えた時、警備隊の人達は疑わしい目で私を見下ろした。
「あ、そうだ。これ、これを見せて応援を要請しなさいとハーリン先生に言われました」
「これは! うむ、分かりました。拉致されている生徒の家にも使いを出しましょう。お嬢さん、乗馬は出来ますか?」
乗馬が出来ない私はこの町の警備隊主任の馬に乗せられた。先生の元へ戻る間にメダリオンの事を聞きたかったが、疾走する馬の背で片手にアロイスを抱きかかえ、もう片手で主任に必死にしがみつくのに精いっぱいだった。
「ほのかに明かりが見えます、あそこですね」
ハーリン先生と合流した警備隊の人達は簡単な打ち合わせをして、すぐ小屋に突入した。こちらは先生を含めて五人だ、きっと簡単に制圧してしまうだろう。私はアロイスキツネと茂みに隠れて待つことになった。
遠く離れて隠れている私の場所まで小屋の中の喧騒が聞こえてくる。でも数分もしない内に決着がついたらしく、静かになった。後ろ手に縛られた盗賊三人と、保護されたブリジットがハーリン先生と共に出て来た。
「良かった、無事だったのね!」
隠れていた茂みから出ようと立ち上がった時、首にひやりと冷たい物が突き付けられた。
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