ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三

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22 いけ好かないクリストファー様

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 早々に狩場である森を出るつもりが、キツネ姿のアロイスを追いかけて、私は更に森の奥へと分け入った。そしてアロイスが今にも矢に射られそうな場面にギリギリで割り込んだのだ。

 貴族の従者らしい男が、私にこのキツネが本当に飼いキツネであるか証明しろと言う。首輪を付けてるわけでもないし、どう証明したらいいか……。

「やはりな。クリストファー様、この女はシルバーブルーの珍しいキツネを自分の獲物にするつもりです」

 いかにもごますりが得意そうなその三十がらみの従者は、クリストファー様と呼ばれた貴族の少し後ろで、戸惑う私を馬上から見下ろしている。

「私は狩りの参加者じゃないわ。だから自分の獲物にしようとしてる訳じゃありません」

「では婚約者か意中の相手への貢ぎ物とも考えられる。この様な毛色のキツネは私も見たことがない。これを獲れば間違いなく優勝だからな」

 押し問答ではキリがないわ。肝心の貴族の方は何も言わず、従者と私のやりとりをじっと静観している。

「分かったわ、証明すればいいのね」

 中身はアロイスなんだもの、なんとかなるわ。ペットといえばやっぱりこれよ。私はしゃがんでキツネの前に手を差し出した。

「アーロン、お手!」

 一瞬、アロイスキツネはきょとんとしたように見えた。この世界じゃ犬にお手を教えないのかしら。

「お手よ、アーロン。お手」

 もう一度自分の手の平を差し出すと、やっとアロイスはその手を私の手の平にちょこんと乗せた。

「お代わり!」

 今度はすぐに上手く行った。でも心なしかアロイスキツネの表情が険しいような……。お、怒ってる?

「ほら、見たでしょ? 野生のキツネにこんな事出来ないわ」

「それは手に何か食べ物があると勘違いしたのでは? そうですよね、クリストファー様」
「そうだな」

 もうっもうっ、何よ! やっと口を開いたと思ったら、従者の言う事に素直に賛同するなんて。 

「じゃあ次!」

 私は立ち上がって体の横に両腕で輪を作った。

「アーロン、飛んで!」

 今度もすぐに私の意図を理解したアロイスキツネが、両腕の輪の中をするっと飛び抜けてみせた。

「ほほぅ!」貴族の男の眉が吊り上がった。

 何がほほぅ、よ。それ見なさい、もう反論はさせないわ。私はアーロンを抱き抱え、一歩後ろに下がって言った。

「これで分かったでしょ? 私はこの子を連れて帰りますからね!」

 クリストファーはようやく満足したように笑みを浮かべた。

「確かに野生のキツネならとうにこの場から逃げていたでしょうね。たとえすぐ後ろが崖だったとしても」

 私は慌てて振り返った。彼の言う通り私は崖の一メートル程手前に立っていた。アロイスを助けることで頭がいっぱいで、私には周りが全然見えていなかった。

「わぁっ」

 ぞっとしながら、私は崖から離れた。そのまま立ち去ろうとすると従者がまだぶつぶつ言っている。その従者を制してクリストファーが声を掛けて来た。

「キツネに芸を仕込むお嬢さん、お名前をお伺いしてもよろしいかな?」

 偉そうな態度でいけ好かないけれど、この世界では私も一応貴族令嬢だから礼儀は守らないとだわ。

「私はジーナ・クリコット伯爵令嬢ですわ」

「ほう、確かジェリコ殿下の……」
「そうです、殿下の婚約者です」

 相手に皆まで言わせずに、食い気味に言ってしまった。イライラしていた私は、そのまま「では」と告げて踵を返す。

 急ぎ足でその場を離れ、森を抜けようとしたがアロイスキツネが私の腕から飛び降りて行く手を遮った。

「なんで飛び出して来たんだ! あの貴族が矢を放っていたらお前に当たっていたかもしれないんだぞ!」

「だって! だって、アロイスが射られると思ったら、体が勝手に動いてたのよ! 考えてる暇なんて無かったわ。そんなに怒らなくたっていいじゃない、大丈夫だったんだから!」

「今回はたまたま大丈夫だっただけだ。もう二度とあんなことはするな、もしお前が俺を庇って怪我でもしたら、俺は、俺は……ッ」

「な、何よ」

「……何でもない。それより、そっちじゃない。太陽に向かって歩けば王城へ続く道に出る。そっちの方が人が少ないはずだ」

「そうなの? じゃあそっちへ行こう」

 狩猟大会参加者が集まるテントの場所へ戻るのも、この珍しい被毛のアロイスキツネを抱いている今は確かにまずいかもしれない。それにしても、考えなしに突っ込んで行ったのは私が悪かったけど、そんなに怒らなくてもいいじゃない……。

 急に黙りこくってしまったアロイス。私は言われた通りの道を歩き、あまり人の通らない場所へ出て改めて、アロイスに質問した。

「それで、どうしてまた変身しちゃったの?」
「それが……」

 アロイスは私に抱えられたまま、少し俯いて話し始めた。

「狩場へ出ようとした時にクレアが来たんだ」
「あら!」

 もしかして矢筒飾りを持って来てくれたんじゃ? すぐにそう質問したくなったが、ここは口をつぐんでアロイスが話してくれるのを待った。

「それで、リボン飾りをくれて……」
「リボン飾りでもアロイスの事を気にかけてくれたって事じゃない!」

「その時にクレア自ら作ったっていう軽食を貰ったんだ。サンドイッチだった」

 出た! サンドイッチ……雲行きが怪しくなってきたわね。

「礼を言ってお昼に食べると言ったんだけど、お腹が空いていては狩りに集中出来ないし、出来栄えが気になるから、今ここで感想が聞きたいと押し切られて」

「で、食べました。で、チキン、入ってました?」
「そう……」

 まぁ意中の人にそう言われたら断れないわよね。でもクレアがそこまでグイグイ来るなんて意外だわ。自分の作ったサンドイッチの味が気になるからって? う~ん、確かに私でも気にはなるけど……。

「焦ったよ。がっつりチキンが入ってたから、慌ててクレアと別れて馬を自分の割り当てのテントに戻して、全速力で森に駆け込んで」

 そうしたら運悪く、あの貴族に見つかったのね。

「このままアロイスのお屋敷まで私が送って行くわ。また誰かに見つからないとも限らないし」

「ここは狩場の森とは反対方向だから大丈夫だ。あの角を曲がればすぐ王城に繋がる道だし」

「スターク家のお屋敷って王城の近くなの?」
「あっ、いや。うん、まあそうだ。とにかく今日は助かったよ、ありがとう」

 アロイスって私を自分の屋敷に近づけない様にしてるわよね。来られたら困る理由って何かしら? もしかしてすっごいマザコンだったりして! お屋敷に年頃の令嬢なんて呼んだ日には、お母様のそれはもう厳しいチェックが入って令嬢が尻込みしちゃうとかね。

 私なんて悪名高い、第二王子の元婚約者ですもの、アロイスのお母様は卒倒してしまうわね。いやいや何考えてるの私。アロイスの相手はクレアじゃない、クレアなら問題ないわ。そうよ、クレアなら……。

 そんな空想をしてるうちに、私は大通りの馬車の待合所に辿り着いた。

 待合所には馬車が2種類停車する。主に庶民が乗り合いする、荷馬車に帆布で屋根を付けただけの安価な乗合馬車と、貴族が乗る四人乗りの高価な馬車。その後者の馬車の前に人が集まっている。近づくと揉めている声が聞こえて来た。

「お前の家は没落したんだ、こっちの馬車には乗らせないぞ!」
「うちは没落なんてしていない、この馬車に乗るお金だって僕は持ってるんだから!」

「それは王子殿下に捨てられた、お前の姉さんが稼いだ金だろう。貴族のくせに働くなんてみっともない」

 何人かの子供の言い争いだが、一人の声は聞き覚えがあるし話の内容も身に覚えがあるような……。
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