ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三

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41 苦悩するアロイスと推察

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 カフェでいったん離席したクリストファーは、戻って来た時クレアの出自について分かった事があると言って来た。

 今はまだジーナの前で話せないので、この後離宮に足を運んでもらう事になった。

 ジーナのいるテーブルに戻ると、突然ジーナが大粒の涙を流し始めた! 俺がテーブルを立って一人になったから、レニーの事を考え込んでしまったのだろうか。アカデミーではずっと一緒だったし、ジーナの仕事先のベーカリーへも送り迎えをしていたらしい。そんな二人が突然会えなくなってしまったのだから、辛いに決まっている。

 レニーは自宅謹慎中だとヴィンセントが言っていた。でも俺とジーナが会いに行く分には構わないのではないか?

 でもジーナは大丈夫だと言い張った。若葉色の丸い瞳から、朝露がこぼれる様にぽたぽたと涙が落ちてくる。今すぐジーナを抱きしめたい衝動に駆られ隣に座るが、それはジーナにとって何の慰めにもならないだろう。肩にジーナの頭の重みが伝わる。必死に涙をこらえている気配がしたが、このか細い肩の震えを静められるのはレニーだけなんだと俺は絶望した。

 帰る時は幾分落ち着いていたが、眼が少し赤いままだ。自宅まで送るのも断られてしまった。レニーが戻って来るまでジーナの笑顔も戻る事はないのか。あの太陽のように輝くジーナの笑顔も……。


 俺が離宮に戻ると、クリストファーの従者が言伝を持って待っていた。どうやら急な用事で今日は来られないとの事だった。

 そんな訳で実際にクリストファーが離宮に来たのは二日後だった。

「すみません、フェダックの方から帰ってこいと迎えが来まして。帰る帰らないで少し揉めていました」

「それはクレアの婚約が決まったからか?」

「そうです。本当はそうなる前に阻止したかったのですが、聖女様がアテート公爵家の息がかかっているかどうか、はっきりしなかったもので。完全に出遅れましたね」

「それでクレアの出自は? 分かったのだろう?」

「それが……何も分からないという事が分かったのです」

 クレアはシュタイアータの南東部にあるサウスプレインズという村の出身だと、周囲に話している。そこでサウスプレインズに調査員を派遣したが、クレアの生家もなければ家族もいない。クレアが存在した痕跡がないというのだ。

「クレアは孤児で教会で育ったという話だったな」

「ええ、火事で家族を失い、近くの教会に引き取られたと。ですが、推定されるクレアの子供時代にその様な火事があった記録がありません。クレアが皇都の教会に来るまで暮していたという教会もクレアを知らないという始末で」

 俺も同席したヴィンセントも、当のクリストファーでさえ、その顔には困惑の表情がありありと浮かんでいた。

「もうキツネにつままれたような話ですよ」

「ごほっごほっ」

 ヴィンセントがお茶にむせた。

「失礼しました。その、クレア様の情報をアテート公爵家が秘匿しているという事はないのですか?」

「サウスプレインズはフェダック大公家が管轄している領地に含まれています。アテート公爵家が影響を及ぼす事の出来ない地域ですから難しいでしょう」

「皇都の教会はコリウス教の総本山ですよね。そこでの交友関係などはどうだったのでしょう?」

「広く浅くといった感じでした。特に仲が良かったという人は出てきません。先日アロイス殿下にもお話しましたが、コリウス教は聖女の婚姻を認めています。それと言うのも神聖力は遺伝にも関係があると思われているからです」

「ああ、確かにそうですね。聖女が出る家系というのはよく聞きますね」

「そうなんです。ですから聖女の婚姻を禁止すると、徐々に聖女が減って行く可能性もあるので。クレア様はあの容姿ですから求婚者も絶えなかったようですが、見向きもされていなかったと聞きます。そちらはどうですか? 王宮の図書室で何か新しい情報は見つかりましたか?」

「確証のない話ではあるんだが……」

 俺はブリジットから聞いた話をして、昨日借りて来た問題の本もクリストファーに見せた。

「不審死が始まったのとクレアの留学の時期が一致している事、クレアが留置所に行ったすぐ後に、ロザリオを盗もうとした盗賊が不審死を遂げた事。今分かっているのはこれ位しかない」

「クレア様を始終見張ってはいますが、そう簡単には尻尾を出しませんね」

 にわかには信じがたい話に、クリストファーは少し考え込んだ。まぁ無理もない、聖女がその神聖力を悪用して人の命を奪っているなどと、俺自身も未だに信じられない。

「その話を聞いて思い出したのですが、サウスプレインズの教会は百年近く前に戦争で一度焼け落ちているそうなんです。今の教会はその後に建て直された二代目で」

「火事で……」

 そう呟いた俺の考えを代弁するようにヴィンセントが言った。

「まさかその火事で生き延びたのがクレア様なのでは」

「百年近く前ですよ! その時赤ん坊でも九十歳くらいにはなっているはずです」

 クリストファーは口ではそう否定したが、頭の中では俺たち三人とも同じことを考えていた。

「レジーナは人の生命力を奪って若さを保っていた……」

 それならクレアがラスブルグでもその恐ろしい力を使っていた十分な理由になるな。

 もう一度、サウスプレインズの教会について遡って調べ直してみると、クリストファーは暇を告げた。

「そうそう、クレア様とジェリコ様の婚約記念舞踏会には出席されますよね? 僕はジーナを誘いました」

「なっ……! ジーナは了承したのか?」

 俺は思わずソファから立ち上がってしまった。そんな俺にちらりと横目をくれながらクリストファーは満面の笑みを浮かべた。

「ええ、了承してくれました。ジェリコ様命令でしぶしぶですが」

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