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39エミリア、チャリティオークションに参加する
しおりを挟む「まあ、ルーカスの?!」
「そうなんです。夫が外交官をしておりますので、結婚してからは国外に居て。でもそれまではよくルーカスからエミリア様のお話を伺ってましたのよ」
「そうですか。ルーカスはそろそろ来ると思います、別件を済ませてからこちらに来る予定なので」
「ルーカスに会うのも久しぶりだわ! そういえばエミリア様の護衛騎士をしているんでしたわね」
私とスーザンはしばらく立ち話をした。スーザンはルーカスの子供の頃の話をしたり、赴任先の外国の話を聞かせてくれた。彼女は話し上手で、今日会ったばかりとは思えない程、私達は打ち解けた。
「まだまだおしゃべりしたいですけど、もうすぐ始まりそうですわね」
ガーデンに居たほとんどの人がオークション会場である屋敷の中へ入って行った。もう外に居るのは僅かな人数とスワンソン家のメイドや従者だけだった。
まだルーカスは来ていない。先に会場へ向かうか迷ったが、もう少しだけ待つことにしよう。
「私はもう少しルーカスを待ってから中に入りますわ」
「では私は先に入りますね。スワンソン夫人にご挨拶しなければ」
私は手にしていたグラスをテーブルに戻した。顔を上げると正門へ続く遊歩道にルーカスの姿が見えた。ルーカスも私に気づいたようで、少し歩を早める。
その時だった、後方で突風と共に大きな音がして、振り返ると幾つかのテーブルや飲み物の乗ったワゴンがひっくり返っていた。地面にはメイドが尻餅をついた状態で上を見上げ、空に浮かぶそれを見て悲鳴を上げた。
メイドの視線の先には、巨大なコカトリスがひとりの従者の胴体を鷲掴みにして飛び去る姿があった。まだガーデンに残っていた客や他のメイド達もパニックを起こし、まるで蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた。空からは何匹かのコカトリスが滑空して、人々を襲っている。
子供の頃の恐怖が蘇る。後ずさりながら遊歩道へ視線を戻すとルーカスが必死に駆けてくるのが目に入ったが、足が震えて立ちすくんでしまった。
「エミリア様っ! 建物の中へ、早くっ!」
ルーカスへ剣を抜いて屋敷を指した。そ、そうだわ、中へ避難するのよ。早く、早く。頭では分かっているのに震える足が言う事を聞かない。
騒音と悲鳴を聞きつけて屋敷から人が出て来た。高位貴族が連れていた護衛騎士や、退役軍人らしき男性達だ。扉に近い人達から屋敷の中へ助けて行く。
ルーカスも私の元へ駆け寄り、コカトリスの襲撃から庇う様に肩を抱いて屋敷の方へ誘導する。
「お怪我はありませんか? 歩けますか?」
私に話しかけながらも、素早く周囲を見渡し状況を把握しようとしている。ルーカスが来てくれて私の恐怖は少し和らいだ。肩を抱く腕の力強さが足の震えを静めてくれた。
「怪我はないわ、行きましょう!」
私の瞳を覗き込んで決意を発見したルーカスは頷いた。私達は走り出した。コカトリスが巻き起こす暴風に煽られて飛んでくるティーポットや、折れた枝をかいくぐりながら屋敷の扉を目指す。ほんのわずかな距離なのに、山二つを越えるような遠さに感じる。前方でコカトリスと剣を交えている騎士が石化してしまった。
「ああっ!」
「大丈夫です。目指す屋敷の扉だけを見て、足を止めないで」
もうすぐそこまで来た時に、他の個体よりはるかに大きなコカトリスが、根元から引き抜いた灌木を扉の前に落とした。近くの窓ガラスが割れ、地響きと共に土ぼこりが舞い上がる。そのコカトリスに倣って他の個体まで、散乱したテーブルや馬車の車箱をつかみ、扉の前に落として積み上げていく。
「と、扉が塞がれてしまったわ・・」
「こんな知能がコカトリスにあるなんて、聞いたことがない」
私は茫然と扉を見ていたが、ルーカスの反応は素早かった。
「他の入り口を探しましょう、ここへは前にも来た事がありますか?」
「いえ、無いの。だから屋敷の構造は不案内よ」
「では建物伝いに走りましょう。開いている窓があればそこからでも中へ」
私が子供の頃、公爵邸にコカトリスが現れた時は、公爵家の騎士団が大勢いた。襲って来た数もこんなに多くはなかったはずだ。後方ではあちこちで悲鳴があがっている。上空に消えていく声は、人々がコカトリスに連れ去られている事を指していた。
と、例の大きい個体のコカトリスが突然、私達の前を急降下してきた。行く手を阻むように旋回を繰り返し、威嚇してくる。ルーカスはその目を覗き込まない様にしながら剣を振るっている。流石と言うしかないルーカスの素早くも力強い剣さばきに、苛立ったコカトリスは大きな雄叫びを上げた。
ギャーーッ!
カラスが威嚇する時の様な鳴き方で、でも声はニワトリのように甲高く不快な音が周囲に響き渡る。その雄叫びが合図となって他のコカトリスが集まって来てしまった。
私を自分の後ろに下がらせ、ルーカスは前に出て応戦する。私の背後は屋敷の壁だから、ルーカスは前後左右から襲って来るコカトリスを相手している。いくらルーカスの腕が立つとはいえ、この状況ではいつかやられてしまう。どうしたらいいの?!
その時、背後の壁にある窓を叩く、コツコツという小さな音が聞こえて来た。背後を見上げると頭上の窓から男性が二人、顔を見せて合図を送っている。私が頷くと静かに窓が開いた。
気配に気づいたルーカスがコカトリスの鋭いくちばしを剣で切りつけながら叫んだ。「逃げて下さい!」
それでも私は躊躇った。ルーカスをこのまま置いて行くなんて・・。躊躇う私を見た男性の一人が囁いた。「もうすぐ近衛兵が来ますから」
それを聞いたルーカスも私を後押しする。「僕は大丈夫です、僕を信じて!」
私は戦うルーカスの背中に向かって言った。「分かったわ、信じるわ」
男性二人が窓から半身を乗り出す。私が上げた両腕を掴んで二人が私を引っ張り上げた。少しずつ持ち上げられ、頭が窓枠まで来た。部屋の中にはもう何人かの男性が居て、私を助けている二人を後ろから支えて援護している。
「壁に足が付けば支えにして下さい」
私は言われた通りにした。上半身が部屋の中に入る、ああ、助かった。
その瞬間、ぐいっと物凄い力で私の体が外側に引っ張られた。掴んでいた男性の手も離してしまい、体は宙に浮いた。
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