初恋~ちびっこ公爵令嬢エミリアの場合

山口三

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45エミリア、話を締めくくる

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「これで私の話はお終い」

 随分と長い話になってしまった。初めはほんの眠気覚ましくらいのつもりだったのに、3日もかかってしまったのだ。自分の半生を語ったも同じだから、3日で終わったのは短かかったとも言える。

 今日は雨でこの時期にしては肌寒い。本当は庭の温室で話を締めくくりたかったが、地面がぬかるみ、足元も悪いのでいつもの客間で私達は向かい合っている。

「思ったより長い話になってしまって、聞くのも疲れたでしょう?」
「いいえ! とても興味深かったわ。私も3日続けてお邪魔してしまって。ご迷惑じゃないといいんだけれど」

 スーザンとはとても気が合う。一人っ子の私にとっては姉の様な存在だ。スーザンの夫のウェルチ伯爵が仕事で地元に戻って来たお陰で、私達はすっかり仲良くなったのだ。

「それにしても3人からの同時求婚とは凄い事よね。3人とも素敵な方だし、私だったら悩んで悩んで決められないわぁ。カーティス副団長は少し年上だけれど、包容力がありそう」

「そうね、公爵家の事もよく分かっているし、スーザンの言う通り包容力があるわ。とても頼れる人ね。それに‥実はね、私、彼の外見も割と好みなの」

「見た目は大事よ! 結婚したら毎日顔を突き合わせるんだから! カーティス副団長は正統派イケメンな上に、渋さが加わって本当に魅力的。ずっと長い間エミリア様一筋というのも、ポイントが高いわ」

「スーザン、そろそろ『様』を取る約束を実行してくれてもいい頃じゃないかしら」
「あら、そうだったわ。エミリア」スーザンの心地いい笑い声が響く。

「アレクサンドル・モーガン卿は知的な容姿なのに、意外と天然な所があるみたいね。将来有望で社会的地位は文句なしでしょう。エミリアに贈ったネックレスにしてもそうだけど、審美眼があるわ。芸術家肌だけど夫婦になったら妻によく尽くし、変化に富んだ楽しい結婚生活をさせてくれそうね」

「アレクとは趣味が似ていると思うわ、好きな音楽や本の傾向もそうね。それに知的で冷たそうな見た目の割に、情熱家だと思うし」

「最後にルーカスは私の従弟だから、欲目が入ってしまいそうだけ…それにしても生まれ変わりなんていうものが本当にあるのね。きっとルーカスはあなたと結ばれなかったとしても、ずっとあなたの騎士を続けるんでしょうね。生涯あなたを守り抜くんだわ」

「彼が望むならそれでいいと思うわ」

 スーザンは暖炉の上の時計に目を走らせ腰を上げた。

「今日はお茶の時間までに帰らなくちゃ。新しいメイドがようやっと決まったのよ。エミリアもこれから出かけるんでしょう?」

「ええ、迎えが来たら出掛けるわ」

 その時ちょうどドアがノックされた。

「あら、噂をすれば婚約者様がいらしたわよ」

「まだお話し中でしたか? ちょっと早く来過ぎたかな」

「いいえ~、はやる気持ちは分るもの。エミリアをお返しするわ。初恋の話は全部聞き終わったし」

「エミリア様の初…ですか」
「そんな落ち込んだ顔をしなくていいわ。それに私は話を聞いていて、二人が気付いていない事をひとつ発見したんだから」

 スーザンは少し得意げな顔をして見せた。

「ルーカスはエミリアが、前世のルーカスの姿を自分に重ねているって言っていたけど、エミリアは2度目にコカトリスに襲われた時に、あなたへの気持ちをはっきり自覚しているわ。ルーカスが生まれ変わりだと気付いたのは、その後ソードマスターに覚醒した時でしょ」

 ハッと息をのむ音がルーカスから聞こえて来た。

「そうよ、とっくの前からエミリアはあなたの事が好きだったのよ、ルーカス」

 ずっと欲しがっていたおもちゃを貰った子供みたいな顔で、ルーカスは私を振り返った。

「そ、そうね、言われてみるとそうだわね」

 こんな喜び全開の笑顔を向けられると、こちらが恥ずかしくなってしまう。ルーカスの顔は喜びで紅潮しているが、きっと私も同じだろう。そんな私達を見て、スーザンは満足したらしかった。

「ところでお二人はこれからどこへ出掛けるの?」

 私は1枚の紙きれをスーザンに見せた。

「ああ、婚約証書ね。これ…まさか20年以上前の?」
「そうです。アンドーゼ先生が保管してくれていたんです」

「先生も気付いてらしたなんて、私は想像もしなかったわ」
「不思議な方なのねぇ、そのアンドーゼ先生って。じゃあ行き先は国教会?」

「いいえ、普通に登記所へ行くことにしたの」
「婚約を破棄する余地を残すのではないですよ。絶対に破棄しないと僕達は分かっているからです」

「あらあら、早く帰らないとずっと二人にあてられそうだわ」

 スーザンは笑いながら部屋を先に出て行った。


 子供の頃、私がルーカスにサインを迫った婚約証書。紙は黄色く風化しているがしわ一つ無く綺麗な状態だ。子供の字で署名された私の名前もはっきり読めた。そして隣にはルーカス・ロスラミンと署名がしてある。

「新しく書き直さなくて良かったのですか?」

 ルーカスはそう聞いて来たけれど、私はこれでいい。拙い子供の字で書かれた署名と、年月を経て風化した婚約証書。これが私の初恋の証だから!



 おわり
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