眠り騎士と悪役令嬢の弟

塩猫

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異変

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作戦が失敗した事はすぐに広まった。
あの騒動で気になって見にきたシグナム家の使用人が居たそうだ。

だから英雄ラグナロクが捕まってから俺と騎士さんは待機場所に向かったがそこには誰もいなかった。
置いてかれた…俺は大役を任されたわりには居ても居なくてもいい存在なんだな。
姉は一緒にいたんだし、気付いてもいいのに…まぁ姉がわざわざ言うわけないか。

俺はシグナム家を裏切ったんだ、作戦を台無しにした。
きっと帰ったら殺されるかもしれない。
殺されるために帰ると思うと足が重くなかなか一歩が踏み出せない。
でも騎士さんは俺の腕を掴み歩き出す。

シグナム家は絶対に裏切り者を許さない。
何処に居ても必ず追い詰めて殺すだろう。

俺がもし逃げ出してトーマのところになんて行ったら迷惑が掛かってしまう。
所持品も大砲しかないし、一人で暮らすのは現実的ではない。

だから覚悟を決めて家に帰る事にした。






「た、ただいま」

家に帰り玄関でそう言う。
通りかかる使用人達は俺を見るなり驚いた顔をしていた。
そして駆け寄ってくる。

俺はなにが起こったのか分からず唖然としていた。

今までこんな事はなかった。
使用人達は俺をシグナム家の失敗作だと噂しているのを聞いた事があった。
だから家族のように冷たい視線を向けられていた。

それなのに、眉をハの字にして心配を口にしていた。
泣く人も居て俺はどうしたらいいのか戸惑った。

「アルト様!よくぞ無事でお帰りなさった!」

「アルト様がいないと皆で心配していたのですよ?騎士団達が途中でこちらにやって来たので仕方なく帰って来たのです」

「…そう、だったんですか」

皆が心配?俺を?なにかの冗談だろうか。
…でも俺に冗談を言う意味はないし、俺に笑いかけるのも可笑しい。
純粋に心配してくれているのに素直に喜べない俺がいた。
ひねくれているのだろうか。

……でも、なにか変だなと感じていた。

怪我はないかとかベタベタ触ってくる使用人達に大丈夫だと苦笑いする。
騎士さんをチラッと見る、騎士さんならこの状況をなにか知っていると思ったからだ。

そして目を見開いた。

騎士さんは驚いた顔をしている、この状況は騎士さんも知らなかった?
なら騎士さんが俺を追いかけた後になにかが起きたのか?

使用人の一人が俺の手を握る。

「アルト様、お疲れの様子なので自室に戻りましょう……暖かなミルクをご用意しております」

「えっ…あ、でも」

父に会わなくて良いのかと不安だったが使用人達はぐいぐいと俺の背中を押して歩かせる。
持ち場を離れた事を知っている筈なのに…と思いながら俺は自分で歩きたいと説得して自分の部屋に向かう。
チラッと騎士さんが立っていた場所に目線を向けたがもう騎士さんはいなかった。

また閉じ込められる生活か、もう慣れたけど…暇なのは困るよな。
しかし、使用人達はなんでぞろぞろと後ろを着いてくるのだろうか…姉にはそうしている使用人がいたが俺は家族だって認められてないし、今日の使用人達の行動は首を傾げるばかりだ。

部屋の前に立つと使用人の人が俺の腕を掴み移動する。

「あ、あのっ…なんですか?」

「お部屋でおやすみになって下さい」

「え、だって部屋…」

「この部屋はアルト様には相応しくありません、ちゃんとした部屋をご用意させてもらいます」

使用人はそう言い俺を何処かに案内する。

そしてある一室で足を止めた。
使用人がその部屋を開けた。

俺は空いた口が塞がらなかった。

ここが、俺の…部屋?

一歩も部屋に踏み入れない俺の背中を軽く押して部屋に入ったのを見届けて頭を下げてドアを閉じられた。
説明してくれないのか、今の俺の頭は疑問でいっぱいだというのに…

豪華なシャンデリアがぶら下がり、ふわふわのじゅうたんにお洒落な家具。
ベッドも一度横になったらすぐ眠れそうなほどふかふかだった。
前の部屋とは比べ物にならないほど豪華な部屋だった。

なんでいきなりこんな部屋に連れてこられたのだろう。
周りをうろうろと歩き、ソファーに座り縮こまる。
…正直落ち着かない。

前の部屋が良かった。
豪華じゃなくてもあの部屋にはあの部屋の魅力があった。
グランとの思い出がたくさん詰まった部屋だから…

部屋のドアの横に置いた大砲を眺める。
なにかが起こっている、父に会いに行こうと立ち上がった。
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