眠り騎士と悪役令嬢の弟

塩猫

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悲しき再会

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パンを作る工程は初めてみるもので、膨らむところとか面白いなと感じなからノートにメモをする。
ほかほかの出来立ての丸パンを見て皆それぞれ喜びあっていた。

食べる方もそうだし、作る方も楽しくなくてはパンへの愛情が違うだろう。
早くリカルド達に食べさせたいな、もっともっと勉強して料理を作れるようになりたい。

今日も余ったパンを分けてもらい、もう一つ余ったからお土産にくれた。

リカルド達にあげたいが一つしかないし、半分こしようかなと寮へ続く道を歩いていた。
今日の授業は午前だけで、リカルドとルカは遅くなりそうだから先に帰っててと言っていた。
二人も頑張ってる、ちょっと見学してもいいかな?邪魔にならなきゃ見てるだけなら見学OKだった筈。

足を止めて、後ろを振り返り学校に向かって歩き出した。

他の職種の授業って何するのか気になる、俺は料理だから珍しくはない。
少しだけ見てから帰ろう、友人二人は何をしているのだろうか。

まずはルカのいる教室はクラスがない空き教室だった。
随分静かで何をしているのか分からない、もう終わったのかな?

邪魔にならないようにそっとドアを開けてみる、何だか隠し事をしているみたいで罪悪感が芽生えた。
すると黒板にでかでかと「今日の授業、屋上!」と掛かれていた。
屋上にいるのか、行った事ないけど覗いてみようかな。

三階に行き、屋上に続く階段を上るとドアに「農業授業以外での立ち入りを禁ずる」と書かれていた。
見学は教室までなのか、なにがあるのか気になるが仕方ない…戻ろう。

リカルドは武術の授業だから校舎横にある道場だろう。
入り口近くに行くと一般学校で数少ない女子生徒達がいた。
何をしてるのだろう、入らないのだろうか…見学なら入っても怒られないと思うけど…

ダンッという音が道場から響き女子生徒達は黄色い悲鳴を上げていた。

「やっぱり男は強くなくっちゃね!」

「キャー!!頑張ってー!!」

なるほど、自分と同じ見に来た子達なのかと納得した。
女の子達から時々リカルドの名前が出ている、リカルドが近くにいるのかな?

リカルドカッコいいもんね、あまりそういうのに興味なさそうだったから分からなかったけど…結構モテている。

女の子達に混じる勇気がなく、そのまま歩いて帰る事にした。
なんというか、見学もせずただウロウロしただけだった。

帰って復習しようと考えていたら遠くの方に二つの人影が見えた。

あれは……

「姉さん!?」

黒髪ロングの女性なんていっぱいいるし、確信はなかった………でも、気になって無視が出来なかった。
姉を更正させるにはゲーム開始前がいいと考えているから…

またなにか悪い事をする前に止められたら…

気付いたら足が動いていて、姉らしき人物を追いかけていた。
隠れながらどんどん近付くとやはりその女性は姉で後ろにいるのはグランだった。

姉は市場に居て、果物の屋台を眺めていた。

「ねぇグラン、トーマの好物の果物は何かしら?」

「………」

姉はグランを見ず軽い口調でそう言っていた、グランからの返事はない。

俺は果物の屋台の隣の野菜の屋台を見ながら聞き耳を立てている。
盗み聞きは姉達に悪いと思うがグランに気付かれるわけにはいかず、内心謝りながら野菜を見る。
これも死なないために必要な事なんだ、ごめんなさい。

グランがずっと無言でどうしたのかとチラッとグランを見て目を見開いた。

グランは眉を寄せて厳しい顔をして姉の背中を見つめていた。

…どうしたのだろうか、ゲームでは…中盤まで姉を信じ協力していた。
これじゃあ、ゲームと同じ…まさかそんな…ありえないよな。

姉は何も言わないグランにイラついてグランを睨んだ。
そして振り返った姉もいつもと違うグランの異変に気付いた。

「ヴィクトリア様、もう僕は堪えられません」

「は?…何それ」

「この前の事覚えていますか、貴女が気に入らないと言っていた女子生徒の事…」

その話は俺もガリュー先生から聞いていた、詳しくは知らないけど…
姉がトーマに好意を寄せる女子生徒に怪我させた事だろう。
……もしかしてあれは姉が命令して直接手を出したのはグラン?

俺はグランの悪事を知っていた、ゲームのグランの…
でもこの世界は少しずれていて、アルトが魔力なしとかリカルドが友人になってたりとかそんな感じでグランもきっとゲームとは違うと感じていた。
ゲームのグランは姉に命令されていたとはいえ、血も涙もない事を平気でやる人間だった。

だからグランはヒロイン達の仲間になり、罪を償っていきたいと台詞で言っていた。

『アルト様!』

俺の知ってるグランは優しくて魔力なしの俺を見下さず「アルト様は魅力の魔法使いですよ!」と笑って抱きしめてくれた。

両親に注がれなかった愛情をグランはいっぱいくれた、好きっていっぱい言ってくれた。
本当の家族のように俺にとってグランは大切な存在だった。
そんなグランだから俺は姉を更正へと導いてほしいと思った。

両親の間違った愛情ではなくグランの本当の愛情で包んでほしかった。

グランに具体的に伝えなかったのは誰かに言われたからではなくグラン自身の言葉で姉に接してほしかったからだ……そんなグランが人を、傷付けた?

ゲームのグランならやるだろう…じゃあ今までのグランはゲームのグラン?
甘かったんだ、そう簡単にゲームを変えるなんて無理だったんだ。

姉はグランの気持ちを踏みにじるように「忘れた」と冷たく言った。
グランの拳が怒りに震えていた、俺は心が痛くなった。

被害者の事を考えると素直に喜べないが、少し安心した………グランはやっぱりゲームとは違う…優しいんだ。

「忘れたじゃすまされないんですよ、僕は貴女の命令で彼女達に怪我を負わせてしまった」

「私は殺せと命じた筈よ、それを貴方が失敗した…これだから下位ランクは」

「…っ!!」

グランの顔が歪み、唇を噛みしめて必死に怒りを抑えようとしていた。
とても傷付いた顔をしていて、このまま二人の前に出たらいけないって分かっている。
……でも、堪えられなかった…グランにはいつも笑ってほしいから…

俺はこれ以上グランを見てられなくて屋台から離れて姉達に近付いた。

目線の先にいたグランはすぐに俺に気付いたが長く離れていたからすぐに俺だって分からない様子だった。
グランの驚き戸惑った顔を見ていた姉も俺に気付いた。

何度か家で姉を見かけた事はあったが、直接会うのは赤ちゃんの時以来だろう。

一般学校の制服を見てすぐに姉は見下した顔をする。

「何アンタ…」

「ぐ、グランの事…い、いじめないで下さい」

「…アルト様」

姉が怖くて涙目になりながらもちゃんと姉の目を見て訴えた。

グランはやっと俺に気付いたようで更に驚いていた。
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