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彼の背中
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「宮方《みやかた》さん、頭のてっぺんが寝癖で立ってますよ。」
「う~ん……直して。」
「靴下、左右の柄が違うんじゃないですか?」
「寝坊したから間違えたわ。」
「……宮方さん、それ自動ドアじゃないから押さないと開きませんよ?」
私が付き合っている宮方さんは五つ年上で、会社の先輩である。
会社にいる時は凛々しくて仕事が出来る人なのだが、プライベートでは緩みっぱなしの隙だらけで……
とにかく差が激しい。
今日はそんな宮方さんとの久々のデートなんだけど……
毎日仕事の忙しい宮方さんはお疲れなのかさっきから欠伸ばっかり。
デートだというのにただ並んでブラブラと街を歩くだけ。
たまの休日、こうして会って一緒にいてくれるのはすごく嬉しい。でも…なんだかな~。
私達の目の前を歩くカップル……
これ以上ないってくらい体を密着させている。
お互いに耳元でささやき合って見つめ合って……
見てるこっちが恥かしくなるくらいのラブラブっぷり。
あそこまでとは言わない。
せめてあの10分の1くらい私達もっ……
「理子《りこ》、前のカップル見すぎ。」
ハッ……つい食い入るように見てしまった。
ヨダレ出てないよね?
「ごめんなさいっ宮方さんっ。」
「別に謝らなくてもいいけど……」
宮方さんとは会社の忘年会で隣同士の席になり、それから親しくなって付き合うことになった。
それまでの宮方さんの印象は冷たくて怖い人だったので、あの日お酒を飲んでお互いのことを話さなければこうなることはなかっただろう。
付き合い出して三か月が過ぎたのにまだ実感がわかない。
というのも……
宮方さんのスマホに電話がかかってきた。
宮方さんの顔が、キリッとした仕事モードに切り替わった。
「悪い。急な仕事入ったから今から会社行くわ。」
「じゃあ明日は?」
「接待ゴルフ。」
仕事優先の宮方さんとはこんなことはしょっちゅうで、ゆっくりデートを楽しんだことなんてまだ一回もない。
仕方のないことだといつも我慢してきたが、今日は付き合ってからちょうど100日目……
スケジュール表を見ながら、1週間が過ぎた、一ヶ月が過ぎたと節目ごとに密かに喜んでいた私はあぁまたかと思い、がっくりと落ち込んでしまった。
「じゃあ理子。また月曜日会社で。」
「うん…頑張ってね。バイバイ……」
いつものように、振り向きもしない宮方さんの背中を見えなくなるまで見送った。
せめて会ってる時ぐらい手を繋いでくれてもいいのに……
今日も恋人らしい雰囲気がまるでなかった。
私って愛されているのかな?
自分の手を見つめながらため息が出た。
「理子。」
えっ…………?
見上げると去って行ったはずの宮方さんが目の前に立っていた。
「……俺さぁ……こうやって理子と会うのが面倒臭いんだよ。」
が─────んっ!
突然の別れ話っ!
「だからぁ……」
やっぱり…私って愛されてなかったんだ。
「俺の家で待て。毎日。」
「えっ…毎日?」
「そう毎日。」
「でも毎日は…着替えとか……」
「荷物、全部持ってこい。」
宮方さん家に私の荷物を全部持っていくのって……
「そっ…それはもしかして同棲というのですか?」
「あー…俺、そういう中途半端なの嫌い。」
じゃあどうしろと……
「……俺の呼び方、宮方って呼ぶのは止めろ。」
えっ……
「お前も宮方になるんだからおかしいだろ。」
これって……もしやプ、プロポーズ?!
一気に顔が真っ赤になってしまった。
「あぁっもう!理子があんまり悲しそうな顔するから言っちまっただろ?!指輪、家に置きっぱなしだわっ!」
ゆ、指輪?
そんなものまで用意してくれてたんだ。
「これ渡しとくからとりあえず今日は俺の家で待っといて。」
宮方さんは私に自分の家の鍵を渡してから、小声でつぶやいた。
「なるべく早く帰るから……
お帰りって…言って欲しい……」
すごく照れくさそうな顔をして、背中を向けた。
付き合って100日目の今日も
振り向きもしない宮方さんの背中を
見えなくなるまで見送った─────────
「う~ん……直して。」
「靴下、左右の柄が違うんじゃないですか?」
「寝坊したから間違えたわ。」
「……宮方さん、それ自動ドアじゃないから押さないと開きませんよ?」
私が付き合っている宮方さんは五つ年上で、会社の先輩である。
会社にいる時は凛々しくて仕事が出来る人なのだが、プライベートでは緩みっぱなしの隙だらけで……
とにかく差が激しい。
今日はそんな宮方さんとの久々のデートなんだけど……
毎日仕事の忙しい宮方さんはお疲れなのかさっきから欠伸ばっかり。
デートだというのにただ並んでブラブラと街を歩くだけ。
たまの休日、こうして会って一緒にいてくれるのはすごく嬉しい。でも…なんだかな~。
私達の目の前を歩くカップル……
これ以上ないってくらい体を密着させている。
お互いに耳元でささやき合って見つめ合って……
見てるこっちが恥かしくなるくらいのラブラブっぷり。
あそこまでとは言わない。
せめてあの10分の1くらい私達もっ……
「理子《りこ》、前のカップル見すぎ。」
ハッ……つい食い入るように見てしまった。
ヨダレ出てないよね?
「ごめんなさいっ宮方さんっ。」
「別に謝らなくてもいいけど……」
宮方さんとは会社の忘年会で隣同士の席になり、それから親しくなって付き合うことになった。
それまでの宮方さんの印象は冷たくて怖い人だったので、あの日お酒を飲んでお互いのことを話さなければこうなることはなかっただろう。
付き合い出して三か月が過ぎたのにまだ実感がわかない。
というのも……
宮方さんのスマホに電話がかかってきた。
宮方さんの顔が、キリッとした仕事モードに切り替わった。
「悪い。急な仕事入ったから今から会社行くわ。」
「じゃあ明日は?」
「接待ゴルフ。」
仕事優先の宮方さんとはこんなことはしょっちゅうで、ゆっくりデートを楽しんだことなんてまだ一回もない。
仕方のないことだといつも我慢してきたが、今日は付き合ってからちょうど100日目……
スケジュール表を見ながら、1週間が過ぎた、一ヶ月が過ぎたと節目ごとに密かに喜んでいた私はあぁまたかと思い、がっくりと落ち込んでしまった。
「じゃあ理子。また月曜日会社で。」
「うん…頑張ってね。バイバイ……」
いつものように、振り向きもしない宮方さんの背中を見えなくなるまで見送った。
せめて会ってる時ぐらい手を繋いでくれてもいいのに……
今日も恋人らしい雰囲気がまるでなかった。
私って愛されているのかな?
自分の手を見つめながらため息が出た。
「理子。」
えっ…………?
見上げると去って行ったはずの宮方さんが目の前に立っていた。
「……俺さぁ……こうやって理子と会うのが面倒臭いんだよ。」
が─────んっ!
突然の別れ話っ!
「だからぁ……」
やっぱり…私って愛されてなかったんだ。
「俺の家で待て。毎日。」
「えっ…毎日?」
「そう毎日。」
「でも毎日は…着替えとか……」
「荷物、全部持ってこい。」
宮方さん家に私の荷物を全部持っていくのって……
「そっ…それはもしかして同棲というのですか?」
「あー…俺、そういう中途半端なの嫌い。」
じゃあどうしろと……
「……俺の呼び方、宮方って呼ぶのは止めろ。」
えっ……
「お前も宮方になるんだからおかしいだろ。」
これって……もしやプ、プロポーズ?!
一気に顔が真っ赤になってしまった。
「あぁっもう!理子があんまり悲しそうな顔するから言っちまっただろ?!指輪、家に置きっぱなしだわっ!」
ゆ、指輪?
そんなものまで用意してくれてたんだ。
「これ渡しとくからとりあえず今日は俺の家で待っといて。」
宮方さんは私に自分の家の鍵を渡してから、小声でつぶやいた。
「なるべく早く帰るから……
お帰りって…言って欲しい……」
すごく照れくさそうな顔をして、背中を向けた。
付き合って100日目の今日も
振り向きもしない宮方さんの背中を
見えなくなるまで見送った─────────
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