亡国の(元)皇子は大泥棒?! 最強の【皇帝紋】で帝国再興を目指す!

ペロロンペ

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0 帝国の滅亡!

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 ザックリード帝国。それはファネル大陸中央部に覇を唱えた大帝国である。

 大陸歴245年、ファネル大陸中央の小領主に過ぎなかったディクスト・ザックリードは、20歳の時に突如自身の右目に現れた「魔法紋まほうもん」を使用し次々と周辺領主、更には周辺国に侵攻、占領していった。

 彼の右目に現れた「魔法紋まほうもん」は、使用者の従来の魔法を10倍化するという効果を持っており、ディクスト本来の魔力の強さと相まって、彼に抵抗する者達はまるで激流に飲み込まれる木の葉のように粉砕された。



 そして大陸歴260年、大陸中央部ほぼ全域を手中に収めたディクスト・ザックリードはザックリード帝国の建国を宣言、自身も初代皇帝として即位した。

 ディクスト・ザックリードの治世時は彼が元々小領主であった頃の経験により、平民や農民達の不満を取り除き彼らの暮らし向きも大幅な向上を見せたことから帝国民の多くが皇帝の治世を喜んだという。



 そしてディクスト死後、その帝位はディクストと同じ「魔法紋まほうもん」を右目に宿した第一皇子 リリアン・ザックリードが受け継ぎ、彼もまた平民達に重きを置いた政策を行った。

 その後、帝位は「魔法紋まほうもん」が出現した者が継ぐというディクストの遺言により、その「魔法紋まほうもん」はいつしか「皇帝紋こうていもん」と名を変えた。

 だが大陸歴372年、6代皇帝 グリア・ザックリードの即位以降「皇帝紋こうていもん」が出現することは無くなり、それを知った周辺国の侵攻を招いたため、一時ザックリード帝国は存亡の危機に立たされることになるがザックリード家を想う帝国民の力によりその全てを撃退、ザックリード帝国はさらなる栄華を極めることになる。



 その後100年余り「皇帝紋こうていもん」を出現させた皇帝が現れることは無かったが、7代以降の皇帝は初代皇帝 ディクスト・ザックリードが使用していた強大な8つの魔具、「皇帝武具エンペラー・アーマー」と呼ばれる物を代々継承し、その力を持って帝国を治めることになった。



 しかし大陸歴389年、その栄華の絶頂にあったザックリード帝国も突如終焉の時を迎えようとしていた……。







 ザックリード帝国 帝都 ディクストヘルム。



 「陛下!! 各地で同時多発的に起きた帝国兵の反乱はその数を更に増し、既に帝都はおろかこの王宮も包囲されてしまいました!!」



 15代皇帝 グストフ・ザックリードのいる玉座の間に、兵士達が息を切らしながら報告のため入れ替わり飛び込んでくる。



 「何ということか……。 まさかここまで反乱の火が大きくなってしまうとは。私は彼らの不満に気づくことが出来なかったということか。」



 グストフは兵士の報告を受け、年のため白く染まった頭に手を当て肩を落とした。



 60日前、突如西方守備隊5000名が反乱を起こしこの帝都に攻め上ってきた。

 だが5000名と言っても帝国兵の20分の1にも満たない数、すぐに鎮圧できるものと思っていたのに……!

 それがどうだ、今や私の配下にいる兵の数の方が遥かに少なくなっている。

 このままではこの王宮が落ちるのも時間の問題。かくなる上は……。



 グストフは大きく息を吐くと、玉座の後ろに控えていた第一皇子 アルジーク・ザックリードを自分の目の前へと呼んだ。

 アルジークはこの時12歳。グストフが45歳の時に初めて出来た皇子だが、その魔力量と聡明さから次期皇帝は確実と言われるほどの皇子である。



 「お呼びですか、父上?」



 アルジークは美しい銀の鎧に身を包み、青い髪を持つその頭をグストフに下げる。



 「……アルジークよ、既に大勢は決したようだ。このザックリード帝国は私の代で滅ぶであろう。」



 「父上!! もしそうであっても、私は父上と共に……」



 「まぁ、待つのだ。まず私の話を聞いてくれ。お前にはこの王宮を脱出してほしいのだ。ザックリードの血を途絶えさせてはならん。」



 「ま、待ってください!! 私はザックリード帝国の皇子です! 敵を前に逃げだす、そのような無様な事は……」



 パチンッ!! アルジークが父の言葉に口を挟もうとした瞬間、玉座の間に乾いた音が響いた。

 尻もちをついたアルジークが自身の右頬の痛みと共に、グストフに殴られたことに気づくのに時間はかからなかった。



 「頼む、アルジーク。皇帝、いや私の最後の願いを聞いてくれ! たとえ無様でも生きていればザックリード帝国の再興も叶うかもしれない。だからどうか、頼む……」



 父上……。このように父上が感情を露わにするなんて。

 それに私の肩を掴む手も震えて……。それだけ父上にとっても苦渋の決断だということだ。



 アルジークはしばらく放心状態だったが、玉座から立ち上がり自分の前で膝を付いているグストフの手を掴むと、その目を見つめ答えた。



 「……分かりました父上。私が必ずザックリード帝国を再興して見せます! 父上の無念は私が必ず……。」



 「ハハハッ、私は本当に果報者だ。お前の様な息子を持つことが出来たのだからな。」



 グストフはアルジークの目から流れる涙を拭い笑みを浮かべた。

 だが親子の別れの時は待ってはくれない。玉座の間の扉が開くと傷だらけの兵士10名ほどが飛び込んできたのだ。

 その光景に、グストフは立ち上がると自身の後ろに控えていた3人を自分の元に呼び出す。



 「お前達に最後の命を与える!」



 『はっ!!!』



 「まずはグルート、ネルル。お前達はアルジークの護衛としてすぐに王宮を離れよ! ……息子を頼む。」



 グストフの言葉に息を詰まらせながらも頭を下げる2人の男女。

 グルート・ヘスリル、そしてネルル・ヘスリルはアルジークの側近として仕える親子である。

 赤い髪と瞳を持つ彼らは、帝国内でも指折りの実力者であり娘のネルルは未だ20歳という若さでありながらも兵100人と渡り合えると言われる剣の腕前である。



 「そしてハルリード、お前も逃げ延び南方に避難させている娘 リリスを保護してほしい。」



 「お任せください。命に代えてもお救いしてみせます。」



 グストフに胸に手を当て頭を下げる容姿の整ったもう1人の男性。

 彼は30歳にして帝国宰相へと登り詰めたハルリード・ムストリア。

 その手腕からグストフの信頼も厚い男である。



 「うむ、頼んだぞお前達。では早速各々に命じた任を……」



 ドゴォォォン!!!

 グストフの言葉でその場の全員が立ち上がろうとした瞬間、王宮内に凄まじい衝撃が走る。

 その直後、新たな兵士が報告のため玉座の間に飛び込んできた。



 「も、申し上げます! 反乱軍、門を破り王宮内に侵入! すぐにここにもやってまいります!!」



 「何だとっ?! クソッ、もう門が破られたか。グルート、ネルル! 早くアルジークを連れて行くのだ!!」



 「……了解いたしました! さぁ、皇子! 行きましょう!!!」



 「ま、待ってくれ! 父上、父上ぇぇ!!!」



 大柄なグルートは抵抗するアルジークを右肩に担ぎ上げ、玉座の後ろの扉を足で蹴破りその場を後にしていき、その後にはネルルも続く。

 だが彼らがいなくなったグストフの側には、未だに逃げるように命じたはずの宰相 ハルリードの姿があった。



 「何をしているハルリード?! 早くお前も……」



 「いえ、私は残ることに致します。流石に反乱軍全てを相手にするのは陛下だけでは荷が重いでしょう? アルジーク様が逃げ延びる時間はともに稼ぎます。 リリス様は、まぁグルート達が保護してくれるでしょう。」



 「……愚か者が。せっかくの命を無駄にしよって。」



 「私がこういう性格なのはご存知でしょう??」



 ハハハハハッ!!!

 グストフはハルリードの言葉に少しの間を置いた後、大きな声で笑い声を上げた。

 そして兵達が懸命に抑える玉座の間の扉に視線を向け、反乱軍が突入してくるのを待ち構える。



 しばらくして、兵士達が抑える玉座の間の扉が何度も震え始める。扉の向こう側では行く手を阻む最後の扉を破ろうとする反乱軍の攻撃が何度も放たれており、かろうじて耐えていた扉も、遂に崩壊。

 扉が崩れ去るのと同時に、おびただしい数の帝国兵がなだれ込んでくるのだった。









 「皇子! 早く参らねば、逃げることが出来なくなりますぞ??」



 「大丈夫だ、ここは皇族しか知らない隠し通路。王都の外まで水路が続いているからな。それよりももう少しだけ父上の最期を見たいんだ。頼むよグルート。」 



 「……分かりましたよ。」



 アルジークの言葉に渋々同意するグルート。

 彼らは玉座の間の壁の中に隠されている水路からグストフ達を見つめていたのだ。



 父上、あなたの最後はこのアルジークの目に……!









 玉座の間では、グストフとハルリード、そして10名ほどの兵達が反乱軍と対峙していた。

 すると反乱軍達が中央に道を開けたかと思うと、そこから2人の兵士がグストフ達の前に現れる。

 そして目の前に姿を見せた兵士の顔を確認したグストフはもちろん、アルジーク達も言葉を失うのだった。



 「お、お前達! まさかお前達が反乱を起こしのか!? 帝国の双頭と呼ばれるお前達が!」



 「フフフッ、陛下。そう声を荒げるとお身体に触りますぞ? 上を目指すのは武人として当然の事、なぁハンス?」



 「黙れウィスへル。私はこのような事、望んでは……。」



 長髪、やせ型の男性ウィスリル・ビルドー、そしてウィスリルよりも頭一つ分は大きな体躯を持つ男性ハンス・ナード。

 彼らは帝国の双頭と呼ばれる将軍であり、その力は帝国内でも最強との呼び声も高い。

 だが2人の性格は全く異なり、この時も野心に燃えるウィスリルを横目に忠義の厚いハンスは申し訳ないとばかりにグストフを見つめていた。



 この2人が反乱を指揮していたのなら、これだけ早くこの王都まで侵攻できたのも納得だ。

 だが、ウィスリルはともかくハンスまでもこの私を裏切るとはな……。



 グストフは腰の剣を抜くと、その剣先を2人に向ける。

 この剣は「皇帝の武具」の1つ、魔剣 ニルグリムであり、その切れ味は鋼鉄をも両断すると言われるものである。

 そのためそれを知ってる反乱軍の兵士達からはどよめきが起こった。



 「さぁ、このニルグリムの餌食になるのは誰からだ?! ウィスリル、ハンス! お前達か?!」



 「へ、陛下! 剣をお収めください! 私は陛下を傷付ける気は……」



 「フフフッ、陛下。あなたにはもうそのような力は残っていない。後ろを見て見なさい。」



 な、何……?!



 グストフは慌てるハンスの後に続いたウィスリルの言葉でゆっくりと背後に視線を向ける。

 だがその時には、既に自分の背中から一本の剣が胸へと貫通し、グストフは口から大量の血を吐くとその場に力なく崩れ落ちたのだった。



 「ガハッ! はぁ、はぁ……、ま、まさかお前が裏で糸を引いていたとはな……、ハルリード。」



 「クククッ、ようやく気付きましたか陛下。」



 ブシュッ!! ハルリードはグストフの背に刺さった剣を引き抜くと、彼が持っていた魔剣 ニルグリムを手に持った。



 ク、クソ……、私としたことが。

 だがどうしてウィスリルやハンス、更には多くの帝国兵が奴に……?



 「悪逆皇帝は倒れた! 新たな皇帝の誕生だ!!!」



 『おぉぉぉぉぉぉ!!!!!』



 グストフは薄れゆく意識の中で、自分の死に喝采を送る兵士達の声と共にハルリードの右目と視線が合い、驚愕する。

 そこには100年以上現れることのなかったあの「皇帝紋」がハルリードの右目に写っていたのだ。



 そ、そうか……、だから兵達はハルリードの奴を。

 しかし「皇帝紋」は皇族にしか発現しないのに、なぜハルリードが……。

 だめだ、意識が薄れて頭が回らない。

 すまないアルジーク。私はここまでの様だ。後の事は頼んだ、ぞ……。



 「ようやく死んだか、しぶとい奴め。 ウィスリル、アルジークはあそこから逃亡した。グルート、ネルルの2人も一緒だがお前の敵ではないだろう? 見つけ次第、全員殺せ。」



 「承知いたしました、陛下。」



 グストフの死を確認したハルリードの言葉を受けたウィスリルは小さく笑みを浮かべると、部下を率いアルジーク達が逃げた扉へと向かった。



 クククッ、アルジークさえいなくなれば私の邪魔者はいなくなる。

 ここまで長かったが、あと少しだ。



 「……ようやくだ、ようやく私の時代がやってきた!」



 グストフが死に、兵達の声を浴びたハルリードが両手を上げるとその場にいた全員が膝を付き頭を下げる。

 そしてその中央にいるハルリードの右目にある「皇帝紋」が不気味に光りを発するのだった。





 大陸歴389年、宰相ハルリード・ムストリアの名で帝国中に皇帝グストフ・ザックリード、そして皇子アルジークの死が発せられる。

 そしてハルリードが「皇帝紋」を発言したことも同時に発表、後継者のいなくなったザックリード帝国は解体された。

 その後、新しくムストリア帝国の建国が宣言され、ハルリード・ムストリアは初代皇帝へと即位したのだった。
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