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第一部:エンドリィ・F・リガールと黒き願い
第36話 セツナ・C・ガーディン
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十一月の上旬って一年の中でも地味な時期だと思う。秋の最盛期が終わり、十二月という年の終わりの忙しい時期の間。
まあ、捉え方を変えれば平和な時期とも言えるかもしれない。
そう、平和過ぎてケアフもうっかり寝てしまうほどの……。
「にゃっ!?」
まあ、これは年中見る風景か。
ゴッと鈍い音が耳に入り、思わず苦笑いを浮かべる。
「『ケアフ・E・アール』……頻度は減っているがそもそも授業中に寝てはいけないということは理解しているか?」
「にゃっ、ご、ごめんなさい……! わかってるけどついウッカリ……」
「……貴様は後で反省文を書くように」
「にゃ……はぁい」
前までは補習だったが、今は反省文になっている。これを『授業内容は最低限理解しているから』と捉えるか『補習しても無駄だ』と捉えるかは人によるだろうが……まあ、今のところは前者だろう。
「では、本日の授業はここまで。小職からの連絡事項は特にはない。貴様らから何か言うことはあるか?」
「…………」
「よろしい。では、解散!」
「……にゃー」
「ケアフ……まさかよふかしなんてしてませんよね?」
「してないぞ! ぽかぽかようきだったからねむたくなっちゃっただけだ!」
「いや、ムネをはらないでくださいよ……」
「オーホッホッホッホッ! まあ、ケアフらしいと言えばケアフらしいわね! ねぇ、エンドリィ!」
「あっはは……そうですね」
なんか最近、ユーティフルがオレたちのグループにシレッと入っている。
取り巻きたちはといえば役目から解放された顔でのびのびと遊んでいて……いや、押しつけないで?
まあ、オレとしては嫌じゃないが……。
「……エンドリィ様、少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「あっ、セツナさん!」
教室の扉が開くとともに凛々しく中性的な声が耳に通る。
「今日はエストさんと一緒じゃないんですね?」
「ええ、少々体調が悪いらしく、大事をとって本日は休まれていらっしゃるのです」
「それは心配ですね……」
「ええ、私としてもお嬢様のお傍にいたいところなのですが、奥様が看病をすると言って聞かず……私たち使用人は感染予防のため部屋には近づけない状況になっているのです」
セツナがため息を吐く。
その姿さえどこかカッコいい。
「……それで、私に用件というのは?」
「少々、私の悩みを聞いていただきたく」
「……九年生のお悩みに私が乗れるかは自信ないですけど、わかりました!」
「ありがとうございます。それでは、グラウンドまで共に来ていただけないでしょうか」
「ええ、わかりました」
「にゃ! またあとでなー、エンドリィ!」
「うんっ、ケアフちゃんも反省文書くの、頑張ってね!」
「ボクはケアフがまたねてしまわないようにカンシしておきます……またリョウであいましょう、エンドリィ」
「あはは……ええ!」
二人に手を振っていると、ユーティフルが駆け寄ってきた。
「……ワタシもグラウンドに着いて行っていいですか?」
「構いませんよ。秘密にしたいというワケではありませんし」
セツナは頷いて歩き出す。
オレとユーティフルは鞄を持って彼……または彼女の後を着いて行く。
「──それで、私の悩みなのですが……極大級魔法をなかなか習得できないのです」
「……それ、私たち一年生に話したところで解決しないんじゃ?」
「極大級魔法なんて想像もつかないわ……」
「通常ならそうでしょう。しかし、エンドリィ様は一年生にして光と風属性の中級魔法まで習得していらっしゃる。しかも中級の拡散魔法や閃光魔法も即座に使えたとか」
そう、拡散魔法や閃光魔法もオレはすんなりと出すことができたが、本来ならばこれらも時をかけて出せるようになるものだ。
しかし、自分で言うのもなんだが、これは才能の話であって……。
「ふふーん、エンドリィは凄いですから!」
なんでお前が自慢気なんだユーティフル。
ともあれ。
「うーん、私は感覚でできちゃったので、再現性はないと思いますけど……」
「……突然光の極大級魔法を習得したエスト様も同じようなことを仰っていました。やはり貴女方は天才なのでしょうね」
天才。いざ言われてみるとむず痒いな……。
「……ちなみに、セツナさんは今、どれだけの魔法を習得しているんですか?」
「水属性と土属性の魔法を変化系も含めて大級まで。光属性と無属性の魔法を変化系を含めて中級まで、火属性と風属性の魔法を変化系を含めて小級まで、ですね」
「うーん、それで十分なんじゃ……」
魔法の才能を認められ王都学校の教員をやっているナウンスのスペックが、土属性と火属性の魔法を変化系も含めて極大級まで、無以外のその他属性魔法を変化系も含めて中級までだという事を考えれば、十五歳というセツナの年齢を考えればかなり上澄みだと言えるだろう。
「いえ、お嬢様が極大級魔法を使えるようになった以上、私も習得せねば……」
「焦って空回りするのも良くないと思いますけどね……」
「……そもそも、極大級魔法を使える使用人なんてなかなかいないと思いますけど。みんな雇う側になっちゃいますし」
ユーティフルがそんな事を言う。
まあ、そりゃ確かにそうだ。十八歳までに極大級魔法を一つでも使えればBランクになれる世界なんだから。
「……私はスー家に忠誠を誓っております故、雇う側になることは考えておりません。しかし、主人よりも弱い従者という仕組みには常々疑問を抱いておりまして」
セツナの疑問も正しい。本来ならば強い者が弱い者を守るべきであるはずだ。
肉盾として数人の犠牲が出た後に主人が身体を張るような今の仕組みが歪に見えるのはオレも同じで。
「従者より強くあることが主人の誇りだと、ワタシは思いますけど……」
ユーティフルは生まれたときから主人である。だからそれ以外の考え方がそもそもできないのだろう。
「ならば私の勝手なエゴでも構いません。私はお嬢様よりも強くありたい。それだけなのです」
「……うーん、ちょっと考えてみたんですけど、セツナさんって『双単属性魔法』は使えますか?」
「ええ、問題なく」
双単属性魔法。簡単に言えば右手と左手から大級魔法までの同じ属性の魔法を出すことを指す。
説明する分には容易だが、これができる人間も限られていて。
「極大級魔法がソレの応用だという説はセツナさんも聞いたことがありますか?」
「……ええ。それ故、最近は『双水属性魔法』を中心に放っていたのですが、ソレを増幅させるイメージがなかなか思い浮かばず」
「ではセツナさんは、三属性混合魔法を使えますか?」
「……小級の水土光混合魔法ならば、長時間集中すれば」
三属性混合魔法……かなりの集中力を問われるため実戦向きではないとされているもので。
そもそもこれを放てる人も少ない。
しかしセツナがそれを放てるならば。
「その水土光混合魔法を中級、大級まで放つ練習をしてみたらいいかもしれません。そしてソレを最終的には水属性だけの魔法に置換すれば……」
「……なるほど」
セツナが顎に手を当てて頷く。
大級魔法のパワーが100、極大級魔法のパワーが1000だとすれば双単属性魔法は200、三属性混合魔法のパワーは300になる。
これだけだとまだ及ばないが、一つ分の魔法を二つ分の魔法に増大するイメージに続き、二つ分の魔法を三つ分の魔法に増大させるイメージが身につけば、三つ分の魔法をやがて十つ分の魔法に増大させるイメージに近づけられるのではないか……という推論だ。
「なるほどねぇ……三属性混合魔法って習得する必要ないでしょって思ってたけれど、そういう考え方もあるのね」
ユーティフルが感心したように頷く。
「ありがとうございます。エンドリィ様、早速試してみようと思います」
「か、仮説なのでうまくいくかはわかりませんけど……!」
恭しく礼をするセツナに慌てて補足をいれる。
礼なんて実際に極大級魔法を習得した後でいい。
「では、私は今から練習に取り掛かりますので……」
「あ、それじゃあ私たちはこれで……」
「エンドリィエンドリィ! 予定がないならカフェに行きましょ!」
「あはは、いいですね!」
満面の笑みを浮かべるユーティフルに同意してオレたちはグラウンドを去る。
……願わくはセツナが極大級魔法を習得できますように、なんて祈りながら。
まあ、捉え方を変えれば平和な時期とも言えるかもしれない。
そう、平和過ぎてケアフもうっかり寝てしまうほどの……。
「にゃっ!?」
まあ、これは年中見る風景か。
ゴッと鈍い音が耳に入り、思わず苦笑いを浮かべる。
「『ケアフ・E・アール』……頻度は減っているがそもそも授業中に寝てはいけないということは理解しているか?」
「にゃっ、ご、ごめんなさい……! わかってるけどついウッカリ……」
「……貴様は後で反省文を書くように」
「にゃ……はぁい」
前までは補習だったが、今は反省文になっている。これを『授業内容は最低限理解しているから』と捉えるか『補習しても無駄だ』と捉えるかは人によるだろうが……まあ、今のところは前者だろう。
「では、本日の授業はここまで。小職からの連絡事項は特にはない。貴様らから何か言うことはあるか?」
「…………」
「よろしい。では、解散!」
「……にゃー」
「ケアフ……まさかよふかしなんてしてませんよね?」
「してないぞ! ぽかぽかようきだったからねむたくなっちゃっただけだ!」
「いや、ムネをはらないでくださいよ……」
「オーホッホッホッホッ! まあ、ケアフらしいと言えばケアフらしいわね! ねぇ、エンドリィ!」
「あっはは……そうですね」
なんか最近、ユーティフルがオレたちのグループにシレッと入っている。
取り巻きたちはといえば役目から解放された顔でのびのびと遊んでいて……いや、押しつけないで?
まあ、オレとしては嫌じゃないが……。
「……エンドリィ様、少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「あっ、セツナさん!」
教室の扉が開くとともに凛々しく中性的な声が耳に通る。
「今日はエストさんと一緒じゃないんですね?」
「ええ、少々体調が悪いらしく、大事をとって本日は休まれていらっしゃるのです」
「それは心配ですね……」
「ええ、私としてもお嬢様のお傍にいたいところなのですが、奥様が看病をすると言って聞かず……私たち使用人は感染予防のため部屋には近づけない状況になっているのです」
セツナがため息を吐く。
その姿さえどこかカッコいい。
「……それで、私に用件というのは?」
「少々、私の悩みを聞いていただきたく」
「……九年生のお悩みに私が乗れるかは自信ないですけど、わかりました!」
「ありがとうございます。それでは、グラウンドまで共に来ていただけないでしょうか」
「ええ、わかりました」
「にゃ! またあとでなー、エンドリィ!」
「うんっ、ケアフちゃんも反省文書くの、頑張ってね!」
「ボクはケアフがまたねてしまわないようにカンシしておきます……またリョウであいましょう、エンドリィ」
「あはは……ええ!」
二人に手を振っていると、ユーティフルが駆け寄ってきた。
「……ワタシもグラウンドに着いて行っていいですか?」
「構いませんよ。秘密にしたいというワケではありませんし」
セツナは頷いて歩き出す。
オレとユーティフルは鞄を持って彼……または彼女の後を着いて行く。
「──それで、私の悩みなのですが……極大級魔法をなかなか習得できないのです」
「……それ、私たち一年生に話したところで解決しないんじゃ?」
「極大級魔法なんて想像もつかないわ……」
「通常ならそうでしょう。しかし、エンドリィ様は一年生にして光と風属性の中級魔法まで習得していらっしゃる。しかも中級の拡散魔法や閃光魔法も即座に使えたとか」
そう、拡散魔法や閃光魔法もオレはすんなりと出すことができたが、本来ならばこれらも時をかけて出せるようになるものだ。
しかし、自分で言うのもなんだが、これは才能の話であって……。
「ふふーん、エンドリィは凄いですから!」
なんでお前が自慢気なんだユーティフル。
ともあれ。
「うーん、私は感覚でできちゃったので、再現性はないと思いますけど……」
「……突然光の極大級魔法を習得したエスト様も同じようなことを仰っていました。やはり貴女方は天才なのでしょうね」
天才。いざ言われてみるとむず痒いな……。
「……ちなみに、セツナさんは今、どれだけの魔法を習得しているんですか?」
「水属性と土属性の魔法を変化系も含めて大級まで。光属性と無属性の魔法を変化系を含めて中級まで、火属性と風属性の魔法を変化系を含めて小級まで、ですね」
「うーん、それで十分なんじゃ……」
魔法の才能を認められ王都学校の教員をやっているナウンスのスペックが、土属性と火属性の魔法を変化系も含めて極大級まで、無以外のその他属性魔法を変化系も含めて中級までだという事を考えれば、十五歳というセツナの年齢を考えればかなり上澄みだと言えるだろう。
「いえ、お嬢様が極大級魔法を使えるようになった以上、私も習得せねば……」
「焦って空回りするのも良くないと思いますけどね……」
「……そもそも、極大級魔法を使える使用人なんてなかなかいないと思いますけど。みんな雇う側になっちゃいますし」
ユーティフルがそんな事を言う。
まあ、そりゃ確かにそうだ。十八歳までに極大級魔法を一つでも使えればBランクになれる世界なんだから。
「……私はスー家に忠誠を誓っております故、雇う側になることは考えておりません。しかし、主人よりも弱い従者という仕組みには常々疑問を抱いておりまして」
セツナの疑問も正しい。本来ならば強い者が弱い者を守るべきであるはずだ。
肉盾として数人の犠牲が出た後に主人が身体を張るような今の仕組みが歪に見えるのはオレも同じで。
「従者より強くあることが主人の誇りだと、ワタシは思いますけど……」
ユーティフルは生まれたときから主人である。だからそれ以外の考え方がそもそもできないのだろう。
「ならば私の勝手なエゴでも構いません。私はお嬢様よりも強くありたい。それだけなのです」
「……うーん、ちょっと考えてみたんですけど、セツナさんって『双単属性魔法』は使えますか?」
「ええ、問題なく」
双単属性魔法。簡単に言えば右手と左手から大級魔法までの同じ属性の魔法を出すことを指す。
説明する分には容易だが、これができる人間も限られていて。
「極大級魔法がソレの応用だという説はセツナさんも聞いたことがありますか?」
「……ええ。それ故、最近は『双水属性魔法』を中心に放っていたのですが、ソレを増幅させるイメージがなかなか思い浮かばず」
「ではセツナさんは、三属性混合魔法を使えますか?」
「……小級の水土光混合魔法ならば、長時間集中すれば」
三属性混合魔法……かなりの集中力を問われるため実戦向きではないとされているもので。
そもそもこれを放てる人も少ない。
しかしセツナがそれを放てるならば。
「その水土光混合魔法を中級、大級まで放つ練習をしてみたらいいかもしれません。そしてソレを最終的には水属性だけの魔法に置換すれば……」
「……なるほど」
セツナが顎に手を当てて頷く。
大級魔法のパワーが100、極大級魔法のパワーが1000だとすれば双単属性魔法は200、三属性混合魔法のパワーは300になる。
これだけだとまだ及ばないが、一つ分の魔法を二つ分の魔法に増大するイメージに続き、二つ分の魔法を三つ分の魔法に増大させるイメージが身につけば、三つ分の魔法をやがて十つ分の魔法に増大させるイメージに近づけられるのではないか……という推論だ。
「なるほどねぇ……三属性混合魔法って習得する必要ないでしょって思ってたけれど、そういう考え方もあるのね」
ユーティフルが感心したように頷く。
「ありがとうございます。エンドリィ様、早速試してみようと思います」
「か、仮説なのでうまくいくかはわかりませんけど……!」
恭しく礼をするセツナに慌てて補足をいれる。
礼なんて実際に極大級魔法を習得した後でいい。
「では、私は今から練習に取り掛かりますので……」
「あ、それじゃあ私たちはこれで……」
「エンドリィエンドリィ! 予定がないならカフェに行きましょ!」
「あはは、いいですね!」
満面の笑みを浮かべるユーティフルに同意してオレたちはグラウンドを去る。
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