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17 エルトレーの領地 3
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その日も朝から低く雲が広がっていた。
風はそれほど強くはないが、春が近いと言うのに身を切るように冷たい。
「今日もお出かけなさるので?」
「ええ、もうすぐ都に帰らなくてはならないから、できるだけ見るべきものを見ておきたいのです。馬も怯えてないわ。大丈夫ですよ」
村長の言葉にミザリーはこともなげに答えた。
「しかし、春の直前に嵐が来ることがありますので、雲が黒くなってきたらすぐに引き返してください。三年前には氷の針のような雨にたたきつけられ、外に出ていた家畜がほとんど死にました」
「まぁ怖い。わかりました、きっとそうします」
「おはようございます」
ユルディスが馬を引いてきた。
いつもより荷物が多いが、ミザリーは構わずに飛び乗る。ユルディスが教えてくれた、ネイルという茸を採集しにいくのだ。
「地図によると、ここから二時間ほど進んだ丘の麓の林ですね。今日中に帰って来られでしょう。ですが、天気も怪しい。ミザリー様、急ぎましょう」
「ええ、では行きます! それ!」
二人を乗せた馬は、心配そうな村長家族が見守る中、どんどん遠ざかっていった。
「あれね」
荒野から山に向かってしばらく進むと、丘が見え、異様な匂いが漂いはじめた。。その下にいじけた雑木林がある。
「これは硫黄の匂いです。おそらく奥に温泉があるのでしょう」
「硫黄? あの黄色い? グリンフィルドの領地では見かけないわ」
「地質が違うのでしょう。硫黄は役に立つ物質ですが、害もあるそうなので今日は行きません。まずはネイルの茸を探しましょう。枯れ木に寄生するそうなので」
二人は幽霊のような木が立つ林の中を探し回った。
「あった!」
ネイルは倒木の下に生えていることが多いが非常に小さく、見つけにくい。草原の民で、視力の優秀なユルディスは既に数本見つけていたが、ミザリーはやっと一つ見つけることができ、思わず声を上げたのだ。
「ユール! これがそうかしら?」
ミザリーは、小さなコテで掘り返した赤い茸をユルディスに見せた。色が綺麗なのでうっかり触ってしまいそうだが、ユルディスは分厚い手袋をして、絶対に触れないようにと厳しくミザリーに言い渡していた。
「私も干していないものを見るのは、初めてなのです。念のため、傘や茎に触らないでください。見つけたらすぐ言うように」
「わかったわ」
ユルディスは分厚い皮袋に、親指の先ほどの大きさしかない茸を入れた
袋にはすでに十数本のネイルが入っている。それほど増える茸ではないので、ユルディスの鋭い目がなければ、ほとんど徒労に終わるところだった。
「今日のところはこれで十分です。村に引き返しましょう。風が強くなってきました」
ふと立ち止まったユルディスが、薄い目に懸念を浮かべていった。
「そうね」
寒さなど平気なミザリーは、もう少し茸を探したかったが大人しく馬に乗る。知らない土地では安全優先だ。林を出たところでユルディスは険しく空を見上げた。
「拙い。雲の動きが思ったより早い」
先ほどまでは晴れずとも空は明るかったが、急速に雲は厚みを増し、空気は重苦しい寒気と湿り気を帯び始めている。
「ミザリー様、急ぎましょう。村長が言ったように、嵐になる」
「え?」
「しっかり俺に捕まって!」
ユルディスは馬を急がせたが、もともと軍用馬ではないから、体力はあっても足は速くない。
空は急速に暗くなり、風は強くなったかと思う間もなく、氷のような雨が叩きつけるように降り出した。雨の中に氷の粒が混じっている。霙だ。
「ユルディス!」
ミザリーは男の背中に向かって叫んだ。すでにマントががずぶ濡れになり、フードから水滴が滴っている。こんなに急激な天候の変化は初めてだった。風はさまざまな方向から吹き荒れ、視界は悪く、方角を見定められない。
こわい!
ミザリーは生まれて初めて感じる恐怖を感じていた。空も大気も大地も、濁りきって暗い。
寒さと恐ろしさで手足が冷えていく。指先はユルディスの腰に回せないほど震えていた。
その手を包み込んでくれるものがある。ユルディスの左手だ。
「ユール! 真っ暗よ! 怖いわ! どうしたらいいの!?」
ミザリーは恥ずかしげもなく弱音を吐いた。
「ミザリー、落ち着いて」
背中越しに振り向いたユルディスは、力強くうなずく。炭をぶちまけたような闇の中で、男の瞳だけが明るかった。
「草原の男は天候の変化には慣れています。この先に避難小屋があるのを、来る時に見つけておきました。あと少しです、頑張って! 俺の背中に体を押し付けてください!」
「わかった!」
この暗さでどうやって、彼が小屋を見つけられるのかわからなかったが、その言葉で恐怖にすくみ上がっていたミザリーの心がほぐれていく。
「ここだ! ミザリー! 中へ!」
ユルディスは馬を降りるなり、ミザリーを抱き上げて小屋の中に放り込むと、怯える馬も中に入れてやった。
「この後、雷がきます」
「……ここに落ちたりしない?」
「大丈夫、落ちるなら岩か、樹木にでしょう。そこでじっとしていてください」
「よかった」
ユルディスはその間も小屋の中を歩き回り、内部を調べている。
「薪を見つけました。今から火を熾します」
ミザリーは、どうやってこの暗さの中で、ものが見えるのか不思議だったが、たちまち小さな炎が見え、どっと体の力が抜けた。緊張の極みにあったのだ。
小さな火は、すぐに頼もしい炎となって、小屋を照らし、男の姿を見せてくれる。
床は土間で、真ん中近くに炉が掘ってあり、向こうの壁には干し藁が積んである。火がすぐに熾せたのは、この藁を使ったためだろう。窓はない。
ユルディスは、炉の上の煙突を見上げていた。
「よかった。詰まってない」
冬場で乾燥していたせいか、薪はぱちぱちとよく爆ぜ、暖かい空気が小屋を満たしていく。馬はすっかり落ち着いて、ユルディスが置いてやった藁を食んでいた。
「すみません。俺の判断が遅かった」
ユルディスはミザリーの外套を脱がせながら言った。ずぶ濡れで重たい。中の服まで湿っている。
「いいえ。私が欲張ってしまったからよ。ともかく、ここで責任の取り合いをしていても仕方がないわ。できることをしましょう」
「はい。用意をしておいてよかった」
ユルディスは、馬の鞍につけた荷袋から毛布を引っ張り出している。荷物が多かったのはこのせいだったのだ。
「服を脱いでください」
「え?」
一瞬、ミザリーは何を言われたのかわからなかった。
「濡れた服は体温と体力を奪います。下着になって、上から毛布を巻き付けて」
「え……でも」
「急いで!」
叱咤する声に、ミザリーは慌てて前ボタンを外し始めたが、指先がまだ冷たくて上手く動かない。
ミザリーが小さなボタンと格闘していると、男の指先が首のボタンに触れた。
「失礼します、顎を上げて」
「……?」
器用な指先が次々にボタンを外していく。
胸のボタンは生地が引っ張られているので、やや手間取っているようだが、やがてそれも全て外れた。体の締め付けが外れて肩が緩み、肌がこぼれる。
「あ……あとは、自分で」
「ええ。私は後ろを向いています。毛布にくるまったら教えてください」
ミザリーも後ろを向くと、足元にスカートを落とした。服は背中側がぐしょぐしょに濡れていたが、ユルディスの背中に押しつけていた、前の方は乾いている。下着は木綿の簡素なものだ。シュミーズはそれほど湿っておらず、その上に毛布を巻き付け、服は背中側を向けて広げた。
「いいわよ」
ミザリーが振り返ると、男は半裸で馬の籠に入れた袋を取り出している。
「ユール?」
「これをどうぞ」
そう言ってユルディスは袋を開けた。中には二本のビンと箱が入っている。
「酒と蜂蜜、それに焼きしめたパンです。携帯用非常食」
「よ、用意がいいのね」
「放浪は慣れていますので」
こともなげに言う男の半身は傷だらけだった。
普段は首の詰まった服を着ているが、肩に胸に脇腹に、刀傷と思しき古傷が走っている。所々にある丸い傷跡は、矢を受けたものだろう。そしてその傷跡も隠せないほど、美しい筋肉を纏っていた。
「す……すごい体ね」
我ながら間が抜けた会話だと、ミザリーは思った。なんと言っていいものか、わからなかったのだ。
「お見苦しくてすみません」
「傷は足の方にもあるの?」
「腿にいくつか。見たいですか?」
「べっ、別に好奇心で言ってるわけじゃあ……」
ミザリーがもごもご言っている間に、ユルディスは壁の金具にロープを通して、二人の服や外套を吊るしていく。外仕事用の服は暖かいが厚地なので、しばらく乾かないだろう。
「ロープまで持ってきてたの?」
「ええ、必需品です。これからまだ外気は下がり続けるでしょう」
「そ、そうなの?」
話しながらユルディスは炉の前に藁を敷きつめ、荷袋の紐を解いて上に乗せた。布は防水で、分厚くできている。物を入れる以外にも用途があるのだ。
「すみませんが私の上に座ってください」
「上? どういうこと?」
「こういうことです」
そう言ってユルディスは毛布ごとミザリーをすくい上げ、組んだ足の間に挟み込んで座らせた。毛布がミザリーの前で掻き合わされる。彼自身は何も羽織っていない。
「体が冷え切っています。温めなければ」
「でっ、でも、これではあなたが寒いわ」
男の胸の温もりを背中で感じながらミザリーは身を竦める。
「俺が熱いから大丈夫です」
錆びた声がミザリーの頸を撫で上げた。
*****
次回「嵐の夜」でございますvvv!
ネイルの茸のイメージは「カエンタケ」。猛毒ですので、触ってもダメ。イメージがあります。
風はそれほど強くはないが、春が近いと言うのに身を切るように冷たい。
「今日もお出かけなさるので?」
「ええ、もうすぐ都に帰らなくてはならないから、できるだけ見るべきものを見ておきたいのです。馬も怯えてないわ。大丈夫ですよ」
村長の言葉にミザリーはこともなげに答えた。
「しかし、春の直前に嵐が来ることがありますので、雲が黒くなってきたらすぐに引き返してください。三年前には氷の針のような雨にたたきつけられ、外に出ていた家畜がほとんど死にました」
「まぁ怖い。わかりました、きっとそうします」
「おはようございます」
ユルディスが馬を引いてきた。
いつもより荷物が多いが、ミザリーは構わずに飛び乗る。ユルディスが教えてくれた、ネイルという茸を採集しにいくのだ。
「地図によると、ここから二時間ほど進んだ丘の麓の林ですね。今日中に帰って来られでしょう。ですが、天気も怪しい。ミザリー様、急ぎましょう」
「ええ、では行きます! それ!」
二人を乗せた馬は、心配そうな村長家族が見守る中、どんどん遠ざかっていった。
「あれね」
荒野から山に向かってしばらく進むと、丘が見え、異様な匂いが漂いはじめた。。その下にいじけた雑木林がある。
「これは硫黄の匂いです。おそらく奥に温泉があるのでしょう」
「硫黄? あの黄色い? グリンフィルドの領地では見かけないわ」
「地質が違うのでしょう。硫黄は役に立つ物質ですが、害もあるそうなので今日は行きません。まずはネイルの茸を探しましょう。枯れ木に寄生するそうなので」
二人は幽霊のような木が立つ林の中を探し回った。
「あった!」
ネイルは倒木の下に生えていることが多いが非常に小さく、見つけにくい。草原の民で、視力の優秀なユルディスは既に数本見つけていたが、ミザリーはやっと一つ見つけることができ、思わず声を上げたのだ。
「ユール! これがそうかしら?」
ミザリーは、小さなコテで掘り返した赤い茸をユルディスに見せた。色が綺麗なのでうっかり触ってしまいそうだが、ユルディスは分厚い手袋をして、絶対に触れないようにと厳しくミザリーに言い渡していた。
「私も干していないものを見るのは、初めてなのです。念のため、傘や茎に触らないでください。見つけたらすぐ言うように」
「わかったわ」
ユルディスは分厚い皮袋に、親指の先ほどの大きさしかない茸を入れた
袋にはすでに十数本のネイルが入っている。それほど増える茸ではないので、ユルディスの鋭い目がなければ、ほとんど徒労に終わるところだった。
「今日のところはこれで十分です。村に引き返しましょう。風が強くなってきました」
ふと立ち止まったユルディスが、薄い目に懸念を浮かべていった。
「そうね」
寒さなど平気なミザリーは、もう少し茸を探したかったが大人しく馬に乗る。知らない土地では安全優先だ。林を出たところでユルディスは険しく空を見上げた。
「拙い。雲の動きが思ったより早い」
先ほどまでは晴れずとも空は明るかったが、急速に雲は厚みを増し、空気は重苦しい寒気と湿り気を帯び始めている。
「ミザリー様、急ぎましょう。村長が言ったように、嵐になる」
「え?」
「しっかり俺に捕まって!」
ユルディスは馬を急がせたが、もともと軍用馬ではないから、体力はあっても足は速くない。
空は急速に暗くなり、風は強くなったかと思う間もなく、氷のような雨が叩きつけるように降り出した。雨の中に氷の粒が混じっている。霙だ。
「ユルディス!」
ミザリーは男の背中に向かって叫んだ。すでにマントががずぶ濡れになり、フードから水滴が滴っている。こんなに急激な天候の変化は初めてだった。風はさまざまな方向から吹き荒れ、視界は悪く、方角を見定められない。
こわい!
ミザリーは生まれて初めて感じる恐怖を感じていた。空も大気も大地も、濁りきって暗い。
寒さと恐ろしさで手足が冷えていく。指先はユルディスの腰に回せないほど震えていた。
その手を包み込んでくれるものがある。ユルディスの左手だ。
「ユール! 真っ暗よ! 怖いわ! どうしたらいいの!?」
ミザリーは恥ずかしげもなく弱音を吐いた。
「ミザリー、落ち着いて」
背中越しに振り向いたユルディスは、力強くうなずく。炭をぶちまけたような闇の中で、男の瞳だけが明るかった。
「草原の男は天候の変化には慣れています。この先に避難小屋があるのを、来る時に見つけておきました。あと少しです、頑張って! 俺の背中に体を押し付けてください!」
「わかった!」
この暗さでどうやって、彼が小屋を見つけられるのかわからなかったが、その言葉で恐怖にすくみ上がっていたミザリーの心がほぐれていく。
「ここだ! ミザリー! 中へ!」
ユルディスは馬を降りるなり、ミザリーを抱き上げて小屋の中に放り込むと、怯える馬も中に入れてやった。
「この後、雷がきます」
「……ここに落ちたりしない?」
「大丈夫、落ちるなら岩か、樹木にでしょう。そこでじっとしていてください」
「よかった」
ユルディスはその間も小屋の中を歩き回り、内部を調べている。
「薪を見つけました。今から火を熾します」
ミザリーは、どうやってこの暗さの中で、ものが見えるのか不思議だったが、たちまち小さな炎が見え、どっと体の力が抜けた。緊張の極みにあったのだ。
小さな火は、すぐに頼もしい炎となって、小屋を照らし、男の姿を見せてくれる。
床は土間で、真ん中近くに炉が掘ってあり、向こうの壁には干し藁が積んである。火がすぐに熾せたのは、この藁を使ったためだろう。窓はない。
ユルディスは、炉の上の煙突を見上げていた。
「よかった。詰まってない」
冬場で乾燥していたせいか、薪はぱちぱちとよく爆ぜ、暖かい空気が小屋を満たしていく。馬はすっかり落ち着いて、ユルディスが置いてやった藁を食んでいた。
「すみません。俺の判断が遅かった」
ユルディスはミザリーの外套を脱がせながら言った。ずぶ濡れで重たい。中の服まで湿っている。
「いいえ。私が欲張ってしまったからよ。ともかく、ここで責任の取り合いをしていても仕方がないわ。できることをしましょう」
「はい。用意をしておいてよかった」
ユルディスは、馬の鞍につけた荷袋から毛布を引っ張り出している。荷物が多かったのはこのせいだったのだ。
「服を脱いでください」
「え?」
一瞬、ミザリーは何を言われたのかわからなかった。
「濡れた服は体温と体力を奪います。下着になって、上から毛布を巻き付けて」
「え……でも」
「急いで!」
叱咤する声に、ミザリーは慌てて前ボタンを外し始めたが、指先がまだ冷たくて上手く動かない。
ミザリーが小さなボタンと格闘していると、男の指先が首のボタンに触れた。
「失礼します、顎を上げて」
「……?」
器用な指先が次々にボタンを外していく。
胸のボタンは生地が引っ張られているので、やや手間取っているようだが、やがてそれも全て外れた。体の締め付けが外れて肩が緩み、肌がこぼれる。
「あ……あとは、自分で」
「ええ。私は後ろを向いています。毛布にくるまったら教えてください」
ミザリーも後ろを向くと、足元にスカートを落とした。服は背中側がぐしょぐしょに濡れていたが、ユルディスの背中に押しつけていた、前の方は乾いている。下着は木綿の簡素なものだ。シュミーズはそれほど湿っておらず、その上に毛布を巻き付け、服は背中側を向けて広げた。
「いいわよ」
ミザリーが振り返ると、男は半裸で馬の籠に入れた袋を取り出している。
「ユール?」
「これをどうぞ」
そう言ってユルディスは袋を開けた。中には二本のビンと箱が入っている。
「酒と蜂蜜、それに焼きしめたパンです。携帯用非常食」
「よ、用意がいいのね」
「放浪は慣れていますので」
こともなげに言う男の半身は傷だらけだった。
普段は首の詰まった服を着ているが、肩に胸に脇腹に、刀傷と思しき古傷が走っている。所々にある丸い傷跡は、矢を受けたものだろう。そしてその傷跡も隠せないほど、美しい筋肉を纏っていた。
「す……すごい体ね」
我ながら間が抜けた会話だと、ミザリーは思った。なんと言っていいものか、わからなかったのだ。
「お見苦しくてすみません」
「傷は足の方にもあるの?」
「腿にいくつか。見たいですか?」
「べっ、別に好奇心で言ってるわけじゃあ……」
ミザリーがもごもご言っている間に、ユルディスは壁の金具にロープを通して、二人の服や外套を吊るしていく。外仕事用の服は暖かいが厚地なので、しばらく乾かないだろう。
「ロープまで持ってきてたの?」
「ええ、必需品です。これからまだ外気は下がり続けるでしょう」
「そ、そうなの?」
話しながらユルディスは炉の前に藁を敷きつめ、荷袋の紐を解いて上に乗せた。布は防水で、分厚くできている。物を入れる以外にも用途があるのだ。
「すみませんが私の上に座ってください」
「上? どういうこと?」
「こういうことです」
そう言ってユルディスは毛布ごとミザリーをすくい上げ、組んだ足の間に挟み込んで座らせた。毛布がミザリーの前で掻き合わされる。彼自身は何も羽織っていない。
「体が冷え切っています。温めなければ」
「でっ、でも、これではあなたが寒いわ」
男の胸の温もりを背中で感じながらミザリーは身を竦める。
「俺が熱いから大丈夫です」
錆びた声がミザリーの頸を撫で上げた。
*****
次回「嵐の夜」でございますvvv!
ネイルの茸のイメージは「カエンタケ」。猛毒ですので、触ってもダメ。イメージがあります。
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