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17 奪われた過去 2
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あれ以来、二人はこの岩山の滝の下で会うようになる。
大抵はマリュリーサの仕事が終わる午後から、夕食どきまでの半刻程度だが、二人にとってかけがえのない時間となった。
レイツェルトはいつも激しい鍛錬を行なっていて、その体は少年とは思えないほど、強靭な筋肉がついている。
マリュリーサはいつもクロの鞍ぶくろに、飲み物やちょっとした菓子などを隠して、彼に会いに行った。両親には馬に南にしかない、栄養のある草を食べさすと言ってある。我ながら苦しい言い訳だったが、両親は時間を守る限り、特に何も言わなかった。
「どうしたの?」
「今日、新しい『導師』が来ただろう?」
マリュリーサが差し出した蜂蜜つきのパンにかぶりつきながら、レイツェルトは話し出した。表情が少ない彼にしては、少し興奮しているように見える。
「ええ、いつでも突然現れるのよね」
「奴らは深夜に交代する。そのはずだ。この崖の下に洞窟があって、そこに船着場があったんだ」
レイツェルトは背後の岩山を見上げて行った。
「船着場?」
「ああ。船着場があるとはわかっていたが、今までどうしても見つけられなかった。わからないはずだ。洞窟の入口は狭いが海に面していて、船が直接乗り入れられるようになっている」
レイツェルトは『導師』がいつどこから現れるのか、ずっと不思議に思っていた。彼らは交代すると同時に、暮らしに必要な物資も運んでくる。しかし、その時期は不確定で、なかなか特定できなかったのだ。
「どうやって見つけたの?」
「後をつけた」
「深夜に?」
「ああ。その日の夕食には、目が覚めないように眠り薬が入れられる。今まで俺たちは全く知らずに食べていた。だから、ここ数日、俺は夕食を食べずにいた。奴らの気配で、そろそろ交代の時期だとわかっていたからな」
「でも、お腹が空いたでしょう?」
「いや、こうやってマリューが食い物を持ってきてくれるし、昼間は弓や罠で狩りもできたからな」
言いながら、レイツェルトはマリューの口にもパンを突っ込んだ。
「多分、おじさん達も知ってはならないことになっているんだろう。通信手段はおそらく鳥だな。伝書鳩っていうやつだ。この島の存在は、それほど秘匿されているということだ。いったい誰に……」
「レイ兄さんは、十六歳になったら島を出ていくって言ってたわよね。どうやって出ていくつもりなの?」
「船を奪う」
「どうやって?」
「いく通りかはすでに考えてある。だが今は言えない。マリュー、俺が船着場を発見したことも、おじさん達に話すんじゃないぞ」
「言わない、言わないわ。だからそんな怖い顔をしないで」
マリュリーサは不揃いな前髪の下の眉間の皺に手を伸ばした。
「え?」
「レイ兄さんは綺麗だから、怖い顔をすると本当に怖いのよ」
「綺麗なんて、男への褒め言葉にはならない」
「だってこんなに綺麗な銀髪と青い瞳で……」
「マリュリーサの髪と目の方が綺麗だ」
そう言ってレイツェルトは、マリュリーサの口元についていた蜂蜜を舐めとった。
あれから、彼らは会うたびこうして触れ合っている。
最初は訳がわからなかったマリュリーサも少しずつ慣れ、彼の求めに応じて、唇を開くようになっている。
今もレイツェルトの唇は、なかなか離れようとはせず、マリュリーサのぷっくりとしたそれに張りついている。舌先で唇をつつかれたので、思わず口を開けたら、するりと中に入られてしまった。
「む……ぐ」
「マリュー、好きだマリュー」
レイツェルトは繰り返しながら、どんどん深く入ってくる。
「きゃ!」
レイツェルトの指が、膨らみ始めた少女の乳房に触れたのだ。
「い、痛い」
まだ硬い膨らみを掴まれて、思わずマリュリーサは小さな悲鳴をあげた。
しかし、レイツェルトは構わずに胸元の紐を解いていく。薄い夏服はすぐに緩み、まだ小さな蕾が陽の元に露わになった。鎖骨には紫の葉の紋様がはっきりと浮かび上がっている。
その部分をぺろりと舐められて、マリュリーサは思わず身を竦めた。
「なんで舐めるの?」
「すごく美味しそうだ。ここも」
紋様の下にある、淡い桃色の蕾にも唇が落とされる。
「あっ! レイ兄さん!」
レイツェルトはすぐに顔を上げた
「マリューは俺が嫌いか?」
「ううん、大好き!」
泉よりも青く透き通った瞳を見上げて、マリュリーサは頬を染めた。そんな彼女にレイツェルトは目を細める。それは二人きりの時にしか見せない表情だった。
「俺もマリューが好きだ」
「本当?」
「ああ。誰よりも、だ」
「誰よりも?」
「そうだ。だからこうする」
そう言ってレイツェルトは、娘らしく丸くなり始めたマリューの体を抱きしめ、乳房に触れ続ける。生き物のような舌が固い蕾を舐め回した。
訳がわからず受け入れていたマリュリーサが、次第に怖くなり始めた頃、やっと体が離れた。
宝石のような瞳に翳りが見える。それが情欲の炎だということを、幼いマリュリーサはまだ知らない。
レイツェルトは息を乱している。発汗も酷い。
「レイ兄さん、苦しそう」
いつも感情を表さない少年が、明らかに様子がおかしかった。
「……ああ、ここは日差しが強すぎる。あの岩陰に行こう」
それは滝のそばにある大岩のことだ。彼の体調を心配したマリュリーサは、素直にレイツェルトに従った。
大きな石の下は平らで、みずみずしい苔が敷き詰められている。滝から細かい水滴がかかるせいだろうが、とても肌触りがよい。
「こんなところがあったのね。涼しいしとても綺麗だわ」
マリュリーサは小さな空間に目を輝かせている。
「マリュー、ここで大人のすることをしよう」
そういって、レイツェルトはマリュリーサを苔の上に横たえた。
ひんやりとした苔の感触が心地が良いと感じたのは、ほんの一瞬だった。直ぐに大きくて熱い体がのしかかってきたのだ。
彼は性急にマリュリーサの服の紐を解いて胸元をくつろげ、両方の胸を露出させる。
「あっ!」
慌てて隠そうとした腕はあっさり払われ、頭の上に追いやられてしまう。一方の乳房に吸いつかれ、一方を捏ね回されてマリュリーサは悲鳴をあげた。丸く突き出た胸を捏ねられ、頂きをねぶられているうちに、足の付け根がぬるりと疼く。
「いや! レイ兄さん、恥ずかしい!」
「恥ずかしくない。すごく綺麗だ。全部見たい、見せてくれ」
彼の視線から逃れようと身を捩るマリュリーサを易々と押さえつけ、レイツェルトはスカートの裾に手をかけた。たくし上げられた布の下の足はまだ細く、女らしい肉はほとんどついていない。そして、腰の紐を引っ張るだけで、小さな下着はあっけなく取り去られてしまった。
「いやぁ! 兄さん!」
「兄などではない。俺はレイツェルト、レイだ」
「……っ!」
「呼んでみろ」
レイツェルトは、うっすら涙を浮かべたマリュリーサを容赦なく追い詰める。
「れ、レイ」
「そうだ、マリュー。俺はレイ。お前だけがそう呼んでいい」
そう言って彼はマリュリーサの腕を離した。マリュリーサがほっとできたのは、ほんの刹那で、ぐいと膝を割られ、足のつけ根を晒されてしまったのだ。
「な、何を!?」
「……濡れている。こんなふうになるのか」
困惑しているのは自分だけだ。レイツェルトは捕らえた生き物を観察するように、彼女の異性を見つめていた。
「い。いや! やめて! 見ないで!」
膝を閉じたくても、体を割り入れられてしまってはそれもできないのだ。
「お願い、お願いだから……あっ!」
自分でも見たことがない部分に口づけされている!
いつも唇にするように舌が入り込み、ぬるぬると這い回っているのだ。それだけではない。固い指先が何かを探すように動いている。あまりのことに、マリュリーサの眦から涙があふれ出た。
「きゃああ!」
レイツェルトの指先がある部分をなぞった時、電流のようなものが体に走り、マリュリーサは悲鳴をあげた。
なに? なんなの? レイ兄さんは何をしたの?
マリュリーサは自分の体に、自分でも知らない感覚がある事を知った。
「いや……もう、やめ……」
二ヶ月ほど前に、マリュリーサは初潮を迎えていて、母から大人の体に近づいたことを教えられていたが、その部分が今、ずきずきと脈打つように痛む。
いや、それは正確には痛みではなかったが、幼いマリュリーサの体は、まだ快感を拾えないのだ。
レイツェルトはマリュリーサの反応を見ながら、執拗にその部分に触れている。
「あっ! あああ!」
突然、大きな波のような感覚が体を飲み込む。小さな体は昂まりにぴんとのけぞり、震えながら脱力した。
やっとレイツェルトは顔を上げた。
「いや! 嫌なの! 何か変!」
小刻みに体を震わせながら、マリュリーサは体をぴんと反らせる。
レイツェルトの硬い指でそこに触れられた時、生まれて初めて達するという感覚を味わったのだ。
「すごく変なの……お願い、もうやめて……」
「ここからが始まりだ。マリュー、俺のものをお前の中に入れる」
「……」
マリュリーサは男の器官を見るのは、実は初めてではない。
『石の薔薇』では、年上の子どもが幼い子どもの面倒を見るのは普通のことなので、マリュリーサも小さな男の子を入浴させたことがあるのだ。それは奇妙な形をした自分にはない器官だが、排泄の時に使う部分くらいの認識しかなかった。
しかし今、レイツェルトのその部分は、びっくりするくらい膨らんで、しかも立ち上がっていた。
あまりに奇妙で猛々しいそれを直視できずに、マリュリーサは目を逸らす。しかし、レイツェルトはぐいと顎を掴んで離さなかった。
「これをお前の中に入れる」
そう言いながらレイツェルトは、さっきからむず痒いようなマリュリーサの足の間を示した。
「そんなの無理!」
「……最初は無理かもしれない。だが、俺は試してみたい。試させてくれ」
「レイ、だめよ。そんなことをしたら、きっと苦しいわ」
「ああ……こんなに苦しいとは思わなかった……」
「苦しいのは多分、最初だけだ。マリュー、少し我慢して」
あまりにも苦しそうなレイツェルトの様子に、マリュリーサが思わず頷いた瞬間、恐ろしいものがマリュリーサの足の付け根に押し込まれた」
「いっ! ああああああ!」
その痛みは初めて味わう種類のもので、先日転んで擦りむいた時よりもずっと異質なものだった。反射的に逃れようとした足が地面を蹴り、浮いた踵がレイツェルトの鳩尾を直撃する。
「あっ!」
二人の体は離れ、不意をつかれたレイツェルトは苔の上に手をついた。その腹の下に何か白いものが吹きこぼれている。
「レイ兄さん!」
「……来るな」
「ごめんなさい、私……!」
「来るな!」
「っ!」
怒鳴られてマリュリーサの顔が歪む。
「……大丈夫だ。蹴られて痛いんじゃない」
「でも、何か血……? みたいなものが」
「ああ、大丈夫だ。これは血じゃない」
「ごめんなさい! ごめんなさい! レイ兄さん、嫌わないで!」
「マリュー……」
レイツェルトが体を起こし、身を丸めて泣きじゃくるマリュリーサを覗き込んだ。服は肩までずり下げられ、スカートの裾は腰までたくし上がっている。
「嫌う訳がないだろう……悪かった、マリュー。俺に余裕がなかった。止まらなくなっていたんだ……こんなことではいけないのに」
レイツェルトは、唇を噛み締めながら、マリュリーサの乱れた衣服を直してやる。
「レイにい……」
「レイ、だろ? マリュー」
「……レイ」
「ああ。マリュー、怖がらせてしまった」
「怖かった。すごく変な感覚で……あれはなんなの? なんであんなことをするの?」
「大人は、皆そうする。そして俺は早く大人になりたい」
「私が、子どもなのね……」
「そうじゃない。俺が急ぎすぎているんだ。わかってる……マリュー」
「なぁに?」
落ち着きを取り戻し始めたマリューの額に、レイツェルトは唇を寄せた。
「すまないが一人で帰ってくれないか」
「……やっぱり、怒っているの?」
途端にマリュリーサの眼差しが曇る。金色のまつ毛はまだ濡れていた。その瞼に軽い口づけを落としてレイツェルトはささやいた。
「怒っていない。だが、俺は少し頭と体を冷やす必要がある」
「……夕飯までには帰ってくる?」
レイツェルトは背中を向けている。マリュリーサは不意にその背中が遠くなったように感じた。
「いや……今夜は帰らない。まだやることがある。皆には部屋で本を読むと伝えてくれ。食事も部屋でとっているとな。くれぐれも、船着場のことは言わないように」
レイツェルトは常に特別扱いだから、多少の我儘は許される。自分には理解できないが。何か考えがあるのだろうと、マリュリーサは諦めて立ち上がった。
「明日、また来てもいい? ご飯を持ってくるから」
「いいのか? 俺は多分、さっきのようなことをしてしまうぞ」
「……」
「嫌なら、無理をするな。明日の夜には戻る」
「いいの。レイが何をしたいのか、私は全部知りたい。置いていかれたくない!」
「マリュー」
立ち去りかけたレイツェルトに背後から抱きつく。
「明日またくるわ! クロ!」
そう言ってマリュリーサは、大人しく草を食んでいた黒馬に跨った。
大抵はマリュリーサの仕事が終わる午後から、夕食どきまでの半刻程度だが、二人にとってかけがえのない時間となった。
レイツェルトはいつも激しい鍛錬を行なっていて、その体は少年とは思えないほど、強靭な筋肉がついている。
マリュリーサはいつもクロの鞍ぶくろに、飲み物やちょっとした菓子などを隠して、彼に会いに行った。両親には馬に南にしかない、栄養のある草を食べさすと言ってある。我ながら苦しい言い訳だったが、両親は時間を守る限り、特に何も言わなかった。
「どうしたの?」
「今日、新しい『導師』が来ただろう?」
マリュリーサが差し出した蜂蜜つきのパンにかぶりつきながら、レイツェルトは話し出した。表情が少ない彼にしては、少し興奮しているように見える。
「ええ、いつでも突然現れるのよね」
「奴らは深夜に交代する。そのはずだ。この崖の下に洞窟があって、そこに船着場があったんだ」
レイツェルトは背後の岩山を見上げて行った。
「船着場?」
「ああ。船着場があるとはわかっていたが、今までどうしても見つけられなかった。わからないはずだ。洞窟の入口は狭いが海に面していて、船が直接乗り入れられるようになっている」
レイツェルトは『導師』がいつどこから現れるのか、ずっと不思議に思っていた。彼らは交代すると同時に、暮らしに必要な物資も運んでくる。しかし、その時期は不確定で、なかなか特定できなかったのだ。
「どうやって見つけたの?」
「後をつけた」
「深夜に?」
「ああ。その日の夕食には、目が覚めないように眠り薬が入れられる。今まで俺たちは全く知らずに食べていた。だから、ここ数日、俺は夕食を食べずにいた。奴らの気配で、そろそろ交代の時期だとわかっていたからな」
「でも、お腹が空いたでしょう?」
「いや、こうやってマリューが食い物を持ってきてくれるし、昼間は弓や罠で狩りもできたからな」
言いながら、レイツェルトはマリューの口にもパンを突っ込んだ。
「多分、おじさん達も知ってはならないことになっているんだろう。通信手段はおそらく鳥だな。伝書鳩っていうやつだ。この島の存在は、それほど秘匿されているということだ。いったい誰に……」
「レイ兄さんは、十六歳になったら島を出ていくって言ってたわよね。どうやって出ていくつもりなの?」
「船を奪う」
「どうやって?」
「いく通りかはすでに考えてある。だが今は言えない。マリュー、俺が船着場を発見したことも、おじさん達に話すんじゃないぞ」
「言わない、言わないわ。だからそんな怖い顔をしないで」
マリュリーサは不揃いな前髪の下の眉間の皺に手を伸ばした。
「え?」
「レイ兄さんは綺麗だから、怖い顔をすると本当に怖いのよ」
「綺麗なんて、男への褒め言葉にはならない」
「だってこんなに綺麗な銀髪と青い瞳で……」
「マリュリーサの髪と目の方が綺麗だ」
そう言ってレイツェルトは、マリュリーサの口元についていた蜂蜜を舐めとった。
あれから、彼らは会うたびこうして触れ合っている。
最初は訳がわからなかったマリュリーサも少しずつ慣れ、彼の求めに応じて、唇を開くようになっている。
今もレイツェルトの唇は、なかなか離れようとはせず、マリュリーサのぷっくりとしたそれに張りついている。舌先で唇をつつかれたので、思わず口を開けたら、するりと中に入られてしまった。
「む……ぐ」
「マリュー、好きだマリュー」
レイツェルトは繰り返しながら、どんどん深く入ってくる。
「きゃ!」
レイツェルトの指が、膨らみ始めた少女の乳房に触れたのだ。
「い、痛い」
まだ硬い膨らみを掴まれて、思わずマリュリーサは小さな悲鳴をあげた。
しかし、レイツェルトは構わずに胸元の紐を解いていく。薄い夏服はすぐに緩み、まだ小さな蕾が陽の元に露わになった。鎖骨には紫の葉の紋様がはっきりと浮かび上がっている。
その部分をぺろりと舐められて、マリュリーサは思わず身を竦めた。
「なんで舐めるの?」
「すごく美味しそうだ。ここも」
紋様の下にある、淡い桃色の蕾にも唇が落とされる。
「あっ! レイ兄さん!」
レイツェルトはすぐに顔を上げた
「マリューは俺が嫌いか?」
「ううん、大好き!」
泉よりも青く透き通った瞳を見上げて、マリュリーサは頬を染めた。そんな彼女にレイツェルトは目を細める。それは二人きりの時にしか見せない表情だった。
「俺もマリューが好きだ」
「本当?」
「ああ。誰よりも、だ」
「誰よりも?」
「そうだ。だからこうする」
そう言ってレイツェルトは、娘らしく丸くなり始めたマリューの体を抱きしめ、乳房に触れ続ける。生き物のような舌が固い蕾を舐め回した。
訳がわからず受け入れていたマリュリーサが、次第に怖くなり始めた頃、やっと体が離れた。
宝石のような瞳に翳りが見える。それが情欲の炎だということを、幼いマリュリーサはまだ知らない。
レイツェルトは息を乱している。発汗も酷い。
「レイ兄さん、苦しそう」
いつも感情を表さない少年が、明らかに様子がおかしかった。
「……ああ、ここは日差しが強すぎる。あの岩陰に行こう」
それは滝のそばにある大岩のことだ。彼の体調を心配したマリュリーサは、素直にレイツェルトに従った。
大きな石の下は平らで、みずみずしい苔が敷き詰められている。滝から細かい水滴がかかるせいだろうが、とても肌触りがよい。
「こんなところがあったのね。涼しいしとても綺麗だわ」
マリュリーサは小さな空間に目を輝かせている。
「マリュー、ここで大人のすることをしよう」
そういって、レイツェルトはマリュリーサを苔の上に横たえた。
ひんやりとした苔の感触が心地が良いと感じたのは、ほんの一瞬だった。直ぐに大きくて熱い体がのしかかってきたのだ。
彼は性急にマリュリーサの服の紐を解いて胸元をくつろげ、両方の胸を露出させる。
「あっ!」
慌てて隠そうとした腕はあっさり払われ、頭の上に追いやられてしまう。一方の乳房に吸いつかれ、一方を捏ね回されてマリュリーサは悲鳴をあげた。丸く突き出た胸を捏ねられ、頂きをねぶられているうちに、足の付け根がぬるりと疼く。
「いや! レイ兄さん、恥ずかしい!」
「恥ずかしくない。すごく綺麗だ。全部見たい、見せてくれ」
彼の視線から逃れようと身を捩るマリュリーサを易々と押さえつけ、レイツェルトはスカートの裾に手をかけた。たくし上げられた布の下の足はまだ細く、女らしい肉はほとんどついていない。そして、腰の紐を引っ張るだけで、小さな下着はあっけなく取り去られてしまった。
「いやぁ! 兄さん!」
「兄などではない。俺はレイツェルト、レイだ」
「……っ!」
「呼んでみろ」
レイツェルトは、うっすら涙を浮かべたマリュリーサを容赦なく追い詰める。
「れ、レイ」
「そうだ、マリュー。俺はレイ。お前だけがそう呼んでいい」
そう言って彼はマリュリーサの腕を離した。マリュリーサがほっとできたのは、ほんの刹那で、ぐいと膝を割られ、足のつけ根を晒されてしまったのだ。
「な、何を!?」
「……濡れている。こんなふうになるのか」
困惑しているのは自分だけだ。レイツェルトは捕らえた生き物を観察するように、彼女の異性を見つめていた。
「い。いや! やめて! 見ないで!」
膝を閉じたくても、体を割り入れられてしまってはそれもできないのだ。
「お願い、お願いだから……あっ!」
自分でも見たことがない部分に口づけされている!
いつも唇にするように舌が入り込み、ぬるぬると這い回っているのだ。それだけではない。固い指先が何かを探すように動いている。あまりのことに、マリュリーサの眦から涙があふれ出た。
「きゃああ!」
レイツェルトの指先がある部分をなぞった時、電流のようなものが体に走り、マリュリーサは悲鳴をあげた。
なに? なんなの? レイ兄さんは何をしたの?
マリュリーサは自分の体に、自分でも知らない感覚がある事を知った。
「いや……もう、やめ……」
二ヶ月ほど前に、マリュリーサは初潮を迎えていて、母から大人の体に近づいたことを教えられていたが、その部分が今、ずきずきと脈打つように痛む。
いや、それは正確には痛みではなかったが、幼いマリュリーサの体は、まだ快感を拾えないのだ。
レイツェルトはマリュリーサの反応を見ながら、執拗にその部分に触れている。
「あっ! あああ!」
突然、大きな波のような感覚が体を飲み込む。小さな体は昂まりにぴんとのけぞり、震えながら脱力した。
やっとレイツェルトは顔を上げた。
「いや! 嫌なの! 何か変!」
小刻みに体を震わせながら、マリュリーサは体をぴんと反らせる。
レイツェルトの硬い指でそこに触れられた時、生まれて初めて達するという感覚を味わったのだ。
「すごく変なの……お願い、もうやめて……」
「ここからが始まりだ。マリュー、俺のものをお前の中に入れる」
「……」
マリュリーサは男の器官を見るのは、実は初めてではない。
『石の薔薇』では、年上の子どもが幼い子どもの面倒を見るのは普通のことなので、マリュリーサも小さな男の子を入浴させたことがあるのだ。それは奇妙な形をした自分にはない器官だが、排泄の時に使う部分くらいの認識しかなかった。
しかし今、レイツェルトのその部分は、びっくりするくらい膨らんで、しかも立ち上がっていた。
あまりに奇妙で猛々しいそれを直視できずに、マリュリーサは目を逸らす。しかし、レイツェルトはぐいと顎を掴んで離さなかった。
「これをお前の中に入れる」
そう言いながらレイツェルトは、さっきからむず痒いようなマリュリーサの足の間を示した。
「そんなの無理!」
「……最初は無理かもしれない。だが、俺は試してみたい。試させてくれ」
「レイ、だめよ。そんなことをしたら、きっと苦しいわ」
「ああ……こんなに苦しいとは思わなかった……」
「苦しいのは多分、最初だけだ。マリュー、少し我慢して」
あまりにも苦しそうなレイツェルトの様子に、マリュリーサが思わず頷いた瞬間、恐ろしいものがマリュリーサの足の付け根に押し込まれた」
「いっ! ああああああ!」
その痛みは初めて味わう種類のもので、先日転んで擦りむいた時よりもずっと異質なものだった。反射的に逃れようとした足が地面を蹴り、浮いた踵がレイツェルトの鳩尾を直撃する。
「あっ!」
二人の体は離れ、不意をつかれたレイツェルトは苔の上に手をついた。その腹の下に何か白いものが吹きこぼれている。
「レイ兄さん!」
「……来るな」
「ごめんなさい、私……!」
「来るな!」
「っ!」
怒鳴られてマリュリーサの顔が歪む。
「……大丈夫だ。蹴られて痛いんじゃない」
「でも、何か血……? みたいなものが」
「ああ、大丈夫だ。これは血じゃない」
「ごめんなさい! ごめんなさい! レイ兄さん、嫌わないで!」
「マリュー……」
レイツェルトが体を起こし、身を丸めて泣きじゃくるマリュリーサを覗き込んだ。服は肩までずり下げられ、スカートの裾は腰までたくし上がっている。
「嫌う訳がないだろう……悪かった、マリュー。俺に余裕がなかった。止まらなくなっていたんだ……こんなことではいけないのに」
レイツェルトは、唇を噛み締めながら、マリュリーサの乱れた衣服を直してやる。
「レイにい……」
「レイ、だろ? マリュー」
「……レイ」
「ああ。マリュー、怖がらせてしまった」
「怖かった。すごく変な感覚で……あれはなんなの? なんであんなことをするの?」
「大人は、皆そうする。そして俺は早く大人になりたい」
「私が、子どもなのね……」
「そうじゃない。俺が急ぎすぎているんだ。わかってる……マリュー」
「なぁに?」
落ち着きを取り戻し始めたマリューの額に、レイツェルトは唇を寄せた。
「すまないが一人で帰ってくれないか」
「……やっぱり、怒っているの?」
途端にマリュリーサの眼差しが曇る。金色のまつ毛はまだ濡れていた。その瞼に軽い口づけを落としてレイツェルトはささやいた。
「怒っていない。だが、俺は少し頭と体を冷やす必要がある」
「……夕飯までには帰ってくる?」
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「いや……今夜は帰らない。まだやることがある。皆には部屋で本を読むと伝えてくれ。食事も部屋でとっているとな。くれぐれも、船着場のことは言わないように」
レイツェルトは常に特別扱いだから、多少の我儘は許される。自分には理解できないが。何か考えがあるのだろうと、マリュリーサは諦めて立ち上がった。
「明日、また来てもいい? ご飯を持ってくるから」
「いいのか? 俺は多分、さっきのようなことをしてしまうぞ」
「……」
「嫌なら、無理をするな。明日の夜には戻る」
「いいの。レイが何をしたいのか、私は全部知りたい。置いていかれたくない!」
「マリュー」
立ち去りかけたレイツェルトに背後から抱きつく。
「明日またくるわ! クロ!」
そう言ってマリュリーサは、大人しく草を食んでいた黒馬に跨った。
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本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
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