『無能な聖女』と婚約破棄された私、実は伝説の竜を唯一従える『真の守護者』でした。~今さら国に戻れと言われても、もう遅いです~

スカッと文庫

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第8話:聖女の決別と、崩れ落ちる玉座

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王宮の謁見の間。かつて私が冷酷に婚約破棄を突きつけられ、床に跪かされたその場所に、今はカイルとミレーヌが惨めに這いつくばっている。
 私は、ゼクス皇帝の隣に用意された豪奢な椅子に深く腰掛け、眼下の二人を見下ろした。

「エルナ、頼む……! この通りだ!」
カイル王子が、額を床に擦り付けながら叫ぶ。
「結界さえ……結界さえ戻れば、国は立て直せる。お前を正妃として迎え入れよう! ミレーヌは側妃、いや、侍女に下げても構わない! だから、どうか……!」

その言葉を聞いた瞬間、隣に控えていたシルの周囲の空気が、パキパキと凍りついた。
「……貴様、今さら我が主に何を提案している? その汚らわしい口を二度と開けぬよう、引き裂いてやろうか」
シルの琥珀色の瞳が、銀竜の縦瞳へと変化し、圧倒的な圧力がカイルを押し潰す。

「ひっ、ひいいいっ!」
「カイル殿下。あなたはまだ、状況を理解していないようですね」
私は冷ややかに言い放った。
「私があなたの正妃? ……笑わせないでください。私はすでに、この国の人間ではありません。私の祈りは、私を信じ、守ってくれたゼクス陛下とシルのためにあるのです」

私は立ち上がり、窓の外に広がる、瘴気に呑まれかけた王都を見つめた。
「ミレーヌ様。あなたが欲しがった『聖女の座』はいかがですか? 偽りの魔力で手に入れた栄華は、随分と脆かったようですね」

「……う、ううっ……。あ、あんな石さえ壊れなければ……! あなたさえ、余計なことをしなければ……っ!」
ミレーヌは、逆恨みのこもった瞳で私を睨みつけた。
「お黙りなさい」
私が指先をひと振りすると、神聖な魔力の衝撃がミレーヌを打ち据え、彼女は力なく床に転がった。

「ゼクス陛下。……この国は、もう手遅れです。人心は荒み、大地は腐り果てました。救う価値など、どこにもありません」
「ああ、同感だ。……だが、放置して魔物の巣窟にするのも寝覚めが悪い。エルナ、お前の『掃除』を見せてやれ」

ゼクスの合図を受け、私は両手を広げた。
体内の神聖魔力を一気に解放する。王宮全体が、目が眩むほどの純白の光に包まれた。

「……ああっ、温かい……。これよ、この光があれば……!」
カイルが希望に満ちた顔で光を仰ぎ見る。だが、その希望は一瞬で絶望へと変わった。

私の放った光は、王都を覆っていた瘴気を一掃したが、同時に王国の「象徴」であった聖結晶を粉々に砕き散らしたのだ。
それは、この国が代々受け継いできた「加護」との完全な決別を意味していた。

「な……何を……!? 結晶が……国の宝が……っ!」
「これで、この国を縛っていた古い魔法は消えました。……これからは、自らの力で魔物と戦いなさい。私という『犠牲』の上に成り立つ平和は、今日この瞬間、終焉を迎えました」

私が踵を返すと、シルが私の肩を抱き寄せ、優しくエスコートした。
「エルナ、もう十分だ。……帰ろう、我らの家へ」

「待ってくれ! 行かないでくれ、エルナ――ッ!」
カイルの絶叫を背に、私たちは謁見の間を後にした。
背後では、加護を失った王宮の壁が、ガラガラと音を立てて崩れ始めていた。

かつての婚約者が、泥に塗れて泣き叫ぶ姿を見ても、私の心には何の痛みもなかった。
ただ、隣にいるシルの体温と、ゼクスの不敵な笑みだけが、今の私にとっての真実だった。
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