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第7話:聖女の帰還、あるいは断罪の幕開け
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かつて私を追放した馬車が通った道を、今度は漆黒の鎧に身を包んだゼノス帝国の精鋭騎士団と、地響きを立てる魔導戦車が進んでいく。
その中心、皇帝ゼクスと同じ豪華な騎馬車に乗り、私は数週間ぶりに故郷の土を踏んだ。
窓の外に広がる光景は、地獄そのものだった。
田畑は瘴気に枯れ果て、かつての花園は魔物の足跡で荒らされている。王都の城門前には、行き場を失い、飢えと恐怖に震える民衆が溢れかえっていた。
私が結界を支えていた頃には、決して見ることのなかった光景だ。
「……酷いものだな。これが『偽物』を選んだ国の末路か」
隣に座るゼクスが、退屈そうに窓の外を眺める。
「助けて……助けてくれ……!」
道端で倒れ伏していた男が、帝国の紋章を見て縋り付こうとしたが、護衛として馬車に並走するシルの冷たい視線に射抜かれ、崩れ落ちた。
「シル、止めて。……少しだけ、この人たちに光を」
「エルナ、貴女は優しすぎる。……だが、貴女の望みだ」
シルが指先を鳴らすと、私の指先から溢れた淡い光が周囲に広がり、一時的に瘴気を追い払う。民衆は「聖女様だ!」「エルナ様が戻ってきてくださった!」と涙を流して拝跪するが、私はその視線を冷ややかに受け流した。
私が助けるのは、あくまで今この瞬間だけ。この国そのものを救う気など、毛頭ない。
やがて、軍勢は王宮の正面広場へと到着した。
そこには、ボロボロになった礼装に身を包んだカイル王子と、髪を振り乱し、必死に化粧でやつれを隠したミレーヌが、震えながら立っていた。
「ゼ、ゼノス皇帝陛下……! お、お待ちしておりました! 我が国への迅速なご救援、心より感謝……」
カイルが這いずるようにしてゼクスの前に跪く。その隣でミレーヌも、かつての傲慢さをかなぐり捨てて平伏した。
ゼクスは彼らを一瞥もせず、恭しく馬車の扉を開き、私に手を差し伸べた。
「さあ、行こうか。……お前の『元』婚約者が、随分と無様な格好で待っているぞ」
私がゆっくりと地面に降り立つ。
純白の神聖魔力を纏い、帝国の宝飾に彩られた私の姿を見た瞬間、カイルとミレーヌの時間が止まった。
「……え、エルナ……? お前、なぜ……そんな、姿に……」
カイルの声が震えている。信じられないのだろう。自分たちが「死の森」へ捨てた無能な娘が、自分たちを支配する帝国の皇帝に、まるで女王のように扱われていることが。
「お久しぶりですね、カイル殿下。……いえ、今はもう他国の王子様でしたか」
私は、かつて彼が私を見下した時と同じように、冷ややかな微笑を浮かべた。
「な、何を……! エルナ、頼む! 今すぐ結界を張ってくれ! 国が滅びるんだ! お前ならできるだろう!?」
「……。ミレーヌ様がいらっしゃるではありませんか。魔力値五万の、素晴らしい聖女様が」
私の言葉に、ミレーヌがビクッと肩を震わせる。
「そ、それは……! あ、あの、エルナ様……私、悪かったわ! あなたを追い出したのは、全部カイル様に唆されたからで……!」
「黙れ、この詐欺師が!」
カイルがミレーヌを突き飛ばす。醜い責任の擦り付け合いに、周囲の帝国騎士たちから失笑が漏れた。
「……見苦しいな」
シルの声が響くと同時に、背後に巨大な銀竜の影が揺らめいた。その圧倒的な威圧感に、カイルたちは腰を抜かしてへたり込む。
「カイル殿下。私はあなたを助けに来たのではありません。……あなたが壊したこの国を、帝国が『管理』するために来たのです」
私の冷徹な宣告に、カイルの顔から血の気が引いていく。
復讐の宴は、まだ幕を開けたばかり。
ここから彼らには、自分たちが失ったものの大きさを、一分一秒かけて後悔してもらうつもりだ。
その中心、皇帝ゼクスと同じ豪華な騎馬車に乗り、私は数週間ぶりに故郷の土を踏んだ。
窓の外に広がる光景は、地獄そのものだった。
田畑は瘴気に枯れ果て、かつての花園は魔物の足跡で荒らされている。王都の城門前には、行き場を失い、飢えと恐怖に震える民衆が溢れかえっていた。
私が結界を支えていた頃には、決して見ることのなかった光景だ。
「……酷いものだな。これが『偽物』を選んだ国の末路か」
隣に座るゼクスが、退屈そうに窓の外を眺める。
「助けて……助けてくれ……!」
道端で倒れ伏していた男が、帝国の紋章を見て縋り付こうとしたが、護衛として馬車に並走するシルの冷たい視線に射抜かれ、崩れ落ちた。
「シル、止めて。……少しだけ、この人たちに光を」
「エルナ、貴女は優しすぎる。……だが、貴女の望みだ」
シルが指先を鳴らすと、私の指先から溢れた淡い光が周囲に広がり、一時的に瘴気を追い払う。民衆は「聖女様だ!」「エルナ様が戻ってきてくださった!」と涙を流して拝跪するが、私はその視線を冷ややかに受け流した。
私が助けるのは、あくまで今この瞬間だけ。この国そのものを救う気など、毛頭ない。
やがて、軍勢は王宮の正面広場へと到着した。
そこには、ボロボロになった礼装に身を包んだカイル王子と、髪を振り乱し、必死に化粧でやつれを隠したミレーヌが、震えながら立っていた。
「ゼ、ゼノス皇帝陛下……! お、お待ちしておりました! 我が国への迅速なご救援、心より感謝……」
カイルが這いずるようにしてゼクスの前に跪く。その隣でミレーヌも、かつての傲慢さをかなぐり捨てて平伏した。
ゼクスは彼らを一瞥もせず、恭しく馬車の扉を開き、私に手を差し伸べた。
「さあ、行こうか。……お前の『元』婚約者が、随分と無様な格好で待っているぞ」
私がゆっくりと地面に降り立つ。
純白の神聖魔力を纏い、帝国の宝飾に彩られた私の姿を見た瞬間、カイルとミレーヌの時間が止まった。
「……え、エルナ……? お前、なぜ……そんな、姿に……」
カイルの声が震えている。信じられないのだろう。自分たちが「死の森」へ捨てた無能な娘が、自分たちを支配する帝国の皇帝に、まるで女王のように扱われていることが。
「お久しぶりですね、カイル殿下。……いえ、今はもう他国の王子様でしたか」
私は、かつて彼が私を見下した時と同じように、冷ややかな微笑を浮かべた。
「な、何を……! エルナ、頼む! 今すぐ結界を張ってくれ! 国が滅びるんだ! お前ならできるだろう!?」
「……。ミレーヌ様がいらっしゃるではありませんか。魔力値五万の、素晴らしい聖女様が」
私の言葉に、ミレーヌがビクッと肩を震わせる。
「そ、それは……! あ、あの、エルナ様……私、悪かったわ! あなたを追い出したのは、全部カイル様に唆されたからで……!」
「黙れ、この詐欺師が!」
カイルがミレーヌを突き飛ばす。醜い責任の擦り付け合いに、周囲の帝国騎士たちから失笑が漏れた。
「……見苦しいな」
シルの声が響くと同時に、背後に巨大な銀竜の影が揺らめいた。その圧倒的な威圧感に、カイルたちは腰を抜かしてへたり込む。
「カイル殿下。私はあなたを助けに来たのではありません。……あなたが壊したこの国を、帝国が『管理』するために来たのです」
私の冷徹な宣告に、カイルの顔から血の気が引いていく。
復讐の宴は、まだ幕を開けたばかり。
ここから彼らには、自分たちが失ったものの大きさを、一分一秒かけて後悔してもらうつもりだ。
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