6 / 10
第6話:仕掛けられた罠
しおりを挟む
健一が紹介した病院から帰宅した夜。彼はこれみよがしな優しい手つきで、由美にコップ一杯の水と、数粒の錠剤を差し出した。
「由美、ほら、先生が処方してくれたビタミン剤だよ。これを飲めば、変な声も聞こえなくなるし、気持ちも楽になるから。さあ、俺の前で飲んでみせてくれ」
(ああ、これが例の「精神を朦朧とさせる薬」ね)
由美は一瞬の迷いも見せず、それを受け取った。喉を通る冷たい水。だが、由美は舌の裏側に薬を隠す技術を、かつて祖父の介護の際、薬を吐き出そうとする祖父を助けるために習得していた。まさか、それを自分を守るために使う日が来るとは。
「ありがとう、健一。……あ、そうだ。これ、おじいちゃんの土地の権利書のコピーなの」
由美はバッグから、蓮に作らせた精巧な「偽装書類」を取り出した。
「本物は別の場所に預けてあるけど、これがあれば売却の仮査定ができるって弁護士さんが。私、もう難しくて分からなくて……健一に任せてもいい?」
「おっ、さすが俺の妻だ! 話がわかるじゃないか!」
健一は権利書(のコピー)をひったくるように奪い取ると、サプリを飲み込んだ(ふりをした)由美を確認し、すぐさま自室に駆け込んで鍵をかけた。
すぐに、壁越しに低い声が聞こえてくる。
「ハニー! 権利書を手に入れたぞ。例の計画、前倒しだ。あの女に薬を飲ませ始めたから、あと一週間もすれば廃人同様になる。俺が後見人になる手続きも並行して進める。そしたらこの土地を売って、即座に換金だ。お前とタワマンの最上階で暮らす準備、進めておけよ」
電話の相手は、不倫相手の愛美だろう。
「(一週間後……。ええ、楽しみね。あなたの人生が、音を立てて崩れる瞬間が)」
由美は口の中から薬を吐き出し、ティッシュに包んで厳重に保管した。これは後に、警察での有力な証拠となる「毒」だ。
さらに翌日、由美はわざとフラフラした足取りで義母・照子の前を歩いた。
「お義母さん、私、なんだか体が重くて……。実印の場所、忘れないようにここに書いておきましたから……」
「あらあら、大変ねぇ。大丈夫よ、私がちゃんと管理してあげるから。ゆっくり休みなさいな」
照子の顔には、勝利を確信した醜い笑みが張り付いていた。
彼らは知らない。自分たちが「奪い取った」と思っている実印も、権利書も、すべてが由美と蓮が仕掛けた、破滅への招待状だということを。
「由美、ほら、先生が処方してくれたビタミン剤だよ。これを飲めば、変な声も聞こえなくなるし、気持ちも楽になるから。さあ、俺の前で飲んでみせてくれ」
(ああ、これが例の「精神を朦朧とさせる薬」ね)
由美は一瞬の迷いも見せず、それを受け取った。喉を通る冷たい水。だが、由美は舌の裏側に薬を隠す技術を、かつて祖父の介護の際、薬を吐き出そうとする祖父を助けるために習得していた。まさか、それを自分を守るために使う日が来るとは。
「ありがとう、健一。……あ、そうだ。これ、おじいちゃんの土地の権利書のコピーなの」
由美はバッグから、蓮に作らせた精巧な「偽装書類」を取り出した。
「本物は別の場所に預けてあるけど、これがあれば売却の仮査定ができるって弁護士さんが。私、もう難しくて分からなくて……健一に任せてもいい?」
「おっ、さすが俺の妻だ! 話がわかるじゃないか!」
健一は権利書(のコピー)をひったくるように奪い取ると、サプリを飲み込んだ(ふりをした)由美を確認し、すぐさま自室に駆け込んで鍵をかけた。
すぐに、壁越しに低い声が聞こえてくる。
「ハニー! 権利書を手に入れたぞ。例の計画、前倒しだ。あの女に薬を飲ませ始めたから、あと一週間もすれば廃人同様になる。俺が後見人になる手続きも並行して進める。そしたらこの土地を売って、即座に換金だ。お前とタワマンの最上階で暮らす準備、進めておけよ」
電話の相手は、不倫相手の愛美だろう。
「(一週間後……。ええ、楽しみね。あなたの人生が、音を立てて崩れる瞬間が)」
由美は口の中から薬を吐き出し、ティッシュに包んで厳重に保管した。これは後に、警察での有力な証拠となる「毒」だ。
さらに翌日、由美はわざとフラフラした足取りで義母・照子の前を歩いた。
「お義母さん、私、なんだか体が重くて……。実印の場所、忘れないようにここに書いておきましたから……」
「あらあら、大変ねぇ。大丈夫よ、私がちゃんと管理してあげるから。ゆっくり休みなさいな」
照子の顔には、勝利を確信した醜い笑みが張り付いていた。
彼らは知らない。自分たちが「奪い取った」と思っている実印も、権利書も、すべてが由美と蓮が仕掛けた、破滅への招待状だということを。
0
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです
鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。
理由は――
「王太子妃には華が必要だから」。
新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。
誰もが思った。
傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。
けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。
「戻りません」
彼女は怒らない。
争わない。
復讐もしない。
ただ――王家を支えるのをやめただけ。
流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。
さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。
強いざまあとは、叫ぶことではない。
自らの選択で、自らの立場を削らせること。
そして彼女は最後まで戻らない。
支えない。
奪わない。
――選ばれなかったのではない。
彼女が、選ばなかったのだ。
これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。
婚約七年目、愛する人と親友に裏切られました。
テンテン
恋愛
男爵令嬢エミリアは、パーティー会場でレイブンから婚約破棄を宣言された。どうやら彼の妹のミラを、エミリアがいじめたことになっているらしい。エミリアはそのまま断罪されるかと思われたが、彼女の親友であるアリアが声を上げ……
私の夫は妹の元婚約者
テンテン
恋愛
私の夫ミラーは、かつて妹マリッサの婚約者だった。
そんなミラーとの日々は穏やかで、幸せなもののはずだった。
けれどマリッサは、どこか意味ありげな態度で私に言葉を投げかけてくる。
「ミラーさんには、もっと活発な女性の方が合うんじゃない?」
挑発ともとれるその言動に、心がざわつく。けれど私も負けていられない。
最近、彼女が婚約者以外の男性と一緒にいたことをそっと伝えると、マリッサは少しだけ表情を揺らした。
それでもお互い、最後には笑顔を見せ合った。
まるで何もなかったかのように。
最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる
椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。
その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。
──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。
全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。
だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。
「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」
その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。
裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
婚約破棄の帰り道
春月もも
恋愛
婚約破棄を宣言されたその日、彼女はただ静かに頷いた。
拍手の中を背筋を伸ばして歩き、令嬢としての役目をひとつ終える。
やがて醜聞にまみれ、「傷物」「行き遅れ」と囁かれながらも、
薔薇と風だけを相手に庭でお茶を飲む日々。
気品だけを残して、心はゆっくりと枯れていく。
――そんな彼女の前に現れたのは、
かつて身分違いで諦めた幼馴染、隣国の若き王だった。
「迎えに来た」
静かな破滅の先に訪れる、軍を率いた一途な求婚。
これは、声を荒げずにすべてを覆す、上品な逆転劇。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる