8 / 10
第8話:没落への序曲
しおりを挟む
文化祭の熱狂が嘘のように消え去った翌朝。学園の掲示板の前には、かつてないほどの黒山の人だかりができていた。
貼り出されたのは、異例の「懲戒退学」の告知。そこには如月ハルトとエマ、そして横領に加担した数名の生徒の名前が並んでいた。
「……マジかよ。如月、本当に家も潰れたらしいぞ」
「エマも、警察に連行されるところ誰かが見たって……」
昨日まで「王子様」と「お姫様」として崇められていた二人は、今や学園最大の「恥」へと成り下がっていた。
一方、私は学園の理事長室にいた。
ふかふかのソファに深く腰掛け、レンが淹れてくれた紅茶を一口啜る。
「……落ち着かないわね。この部屋に呼び出されるのは、いつも叱られる時だと思ってたから」
「これからはここが君の控え室だ。君の父親……佐藤会長からの寄付金で、この学園の老朽化した設備はすべて一新される。特待生の身分も、君が望むなら『名誉学生』に書き換えさせよう」
レンは窓の外を眺めながら、淡々と告げた。校門の前には、如月家の不祥事を聞きつけたマスコミや、借金の取り立てと思われる黒塗りの車が数台停まっている。
「……見に行かないのか? 彼らの『最後』を」
「ええ、もちろん。特等席でね」
私は立ち上がり、校門が見下ろせるバルコニーへ出た。
ちょうどそこへ、私服に着替えたハルトが、大きな荷物を抱えて校舎から出てくるところだった。かつての仕立ての良い制服ではなく、どこかヨレた服を着た彼は、怯えたように周囲をキョロキョロと見渡している。
「あ、ハルト様……!」
待ち伏せていたのは、エマの取り巻きだった女子生徒たちだ。彼女たちも、いじめの加担を疑われ、内申点に致命的な傷を負わされていた。
「どうしてくれるんですか! あなたのせいで、私たちの推薦も全部取り消しですよ!」
「そうだわ! エマに騙されてたなんて言い訳、通用しませんからね!」
「う、うるさい! どけ! 俺は如月グループの跡取りなんだぞ……っ!」
ハルトが怒鳴り返すが、その声には以前の威圧感は微塵もなかった。
そこへ、一人の男が歩み寄り、ハルトの肩を強く掴んだ。ハルトの父親が経営していた会社の、元従業員だろうか。
「……如月の坊ちゃん。あんたの親父さん、今どこにいるか知ってるか? 夜逃げして連絡がつかないんだよ。代わりに、あんたに聞きたいことが山ほどあるんだ」
「ひ、ひぃ……っ! 助けて、誰か!」
かつての王子様は、情けなく悲鳴を上げながら、男たちに引きずられるようにして車に押し込まれていった。
そしてエマ。彼女は警察車両に乗せられる直前、一瞬だけ学園の校舎を見上げた。
バルコニーに立つ私と、目が合う。
彼女は何かを叫ぼうとしたが、警官に促され、力なく首を振って車内へと消えた。彼女が手に入れてきた「偽りの居場所」は、もう世界のどこにも残っていない。
「……終わったわね」
私は、琥珀色の瞳を静かに細めた。
ざまぁ、なんて、そんな一言で片付けるには、あまりにも呆気ない幕切れ。
「いいや、これからだよ」
レンが隣に並び、私の肩に手を置いた。
「彼らはこれから、一生をかけて君に与えた苦痛の利息を払い続けることになる。……そして君は、誰の引き立て役でもない、君自身の人生を始めるんだ」
私は、手元に残っていた「地味な特待生」時代のノートを、バルコニーから放り出した。
風に煽られ、白紙のページが鳥の羽のように舞い上がっていく。
明日からは、もう眼鏡をかける必要はない。
私は、私として。この学園の、本当の頂点に君臨するのだから。
貼り出されたのは、異例の「懲戒退学」の告知。そこには如月ハルトとエマ、そして横領に加担した数名の生徒の名前が並んでいた。
「……マジかよ。如月、本当に家も潰れたらしいぞ」
「エマも、警察に連行されるところ誰かが見たって……」
昨日まで「王子様」と「お姫様」として崇められていた二人は、今や学園最大の「恥」へと成り下がっていた。
一方、私は学園の理事長室にいた。
ふかふかのソファに深く腰掛け、レンが淹れてくれた紅茶を一口啜る。
「……落ち着かないわね。この部屋に呼び出されるのは、いつも叱られる時だと思ってたから」
「これからはここが君の控え室だ。君の父親……佐藤会長からの寄付金で、この学園の老朽化した設備はすべて一新される。特待生の身分も、君が望むなら『名誉学生』に書き換えさせよう」
レンは窓の外を眺めながら、淡々と告げた。校門の前には、如月家の不祥事を聞きつけたマスコミや、借金の取り立てと思われる黒塗りの車が数台停まっている。
「……見に行かないのか? 彼らの『最後』を」
「ええ、もちろん。特等席でね」
私は立ち上がり、校門が見下ろせるバルコニーへ出た。
ちょうどそこへ、私服に着替えたハルトが、大きな荷物を抱えて校舎から出てくるところだった。かつての仕立ての良い制服ではなく、どこかヨレた服を着た彼は、怯えたように周囲をキョロキョロと見渡している。
「あ、ハルト様……!」
待ち伏せていたのは、エマの取り巻きだった女子生徒たちだ。彼女たちも、いじめの加担を疑われ、内申点に致命的な傷を負わされていた。
「どうしてくれるんですか! あなたのせいで、私たちの推薦も全部取り消しですよ!」
「そうだわ! エマに騙されてたなんて言い訳、通用しませんからね!」
「う、うるさい! どけ! 俺は如月グループの跡取りなんだぞ……っ!」
ハルトが怒鳴り返すが、その声には以前の威圧感は微塵もなかった。
そこへ、一人の男が歩み寄り、ハルトの肩を強く掴んだ。ハルトの父親が経営していた会社の、元従業員だろうか。
「……如月の坊ちゃん。あんたの親父さん、今どこにいるか知ってるか? 夜逃げして連絡がつかないんだよ。代わりに、あんたに聞きたいことが山ほどあるんだ」
「ひ、ひぃ……っ! 助けて、誰か!」
かつての王子様は、情けなく悲鳴を上げながら、男たちに引きずられるようにして車に押し込まれていった。
そしてエマ。彼女は警察車両に乗せられる直前、一瞬だけ学園の校舎を見上げた。
バルコニーに立つ私と、目が合う。
彼女は何かを叫ぼうとしたが、警官に促され、力なく首を振って車内へと消えた。彼女が手に入れてきた「偽りの居場所」は、もう世界のどこにも残っていない。
「……終わったわね」
私は、琥珀色の瞳を静かに細めた。
ざまぁ、なんて、そんな一言で片付けるには、あまりにも呆気ない幕切れ。
「いいや、これからだよ」
レンが隣に並び、私の肩に手を置いた。
「彼らはこれから、一生をかけて君に与えた苦痛の利息を払い続けることになる。……そして君は、誰の引き立て役でもない、君自身の人生を始めるんだ」
私は、手元に残っていた「地味な特待生」時代のノートを、バルコニーから放り出した。
風に煽られ、白紙のページが鳥の羽のように舞い上がっていく。
明日からは、もう眼鏡をかける必要はない。
私は、私として。この学園の、本当の頂点に君臨するのだから。
6
あなたにおすすめの小説
公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました
歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と
罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが
やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、
エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」
辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。
商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。
元夫が「戻ってこい」と泣きつくが——
「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」
「毒が効かない体になるまで毒を盛られた令嬢は、復讐なんて望まない——ただ、助けもしないだけ」
歩人
ファンタジー
侯爵令嬢エレーナは、義母と義妹に3年間毒を盛られ続けた。「病弱な姉」として
社交界から消し、財産と婚約者を奪う計画——しかしエレーナには、前世の記憶から
来る毒物の知識があった。毒の種類を特定し、密かに解毒しながら「弱った姉」を
演じ続け、証拠が積み上がるのを待つ。卒業の夜会で義妹が勝ち誇るその場で、
エレーナは3年分の診断書を差し出す。「復讐? いいえ。ただ、もう助けないだけ」
【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。
銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。
しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。
しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。
ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。
9時から5時まで悪役令嬢
西野和歌
恋愛
「お前は動くとロクな事をしない、だからお前は悪役令嬢なのだ」
婚約者である第二王子リカルド殿下にそう言われた私は決意した。
ならば私は願い通りに動くのをやめよう。
学園に登校した朝九時から下校の夕方五時まで
昼休憩の一時間を除いて私は椅子から動く事を一切禁止した。
さあ望むとおりにして差し上げました。あとは王子の自由です。
どうぞ自らがヒロインだと名乗る彼女たちと仲良くして下さい。
卒業パーティーもご自身でおっしゃった通りに、彼女たちから選ぶといいですよ?
なのにどうして私を部屋から出そうとするんですか?
嫌です、私は初めて自分のためだけの自由の時間を手に入れたんです。
今まで通り、全てあなたの願い通りなのに何が不満なのか私は知りません。
冷めた伯爵令嬢と逆襲された王子の話。
☆別サイトにも掲載しています。
※感想より続編リクエストがありましたので、突貫工事並みですが、留学編を追加しました。
これにて完結です。沢山の皆さまに感謝致します。
【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?
ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。
卒業3か月前の事です。
卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。
もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。
カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。
でも大丈夫ですか?
婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。
※ゆるゆる設定です
※軽い感じで読み流して下さい
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる