『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~

スカッと文庫

文字の大きさ
1 / 10

第1話:泥にまみれた卒業の夜

しおりを挟む
眩いばかりのシャンデリアが、私の視界を白く焼き、周囲の嘲笑をさらに際立たせていた。
王立魔道学園、卒業パーティー。三年間、血の滲むような思いで学問に励んだ私たちが、その努力を称え合うはずの最高の舞台だ。

けれど、私の胸元には、誇らしいはずの卒業記章の代わりに、会場の誰かが投げつけた赤ワインの染みが、無惨な痣のように広がっていた。

「……あら、ごめんなさいリリアーヌ様。魔力のない貴女には、飛んでくるグラスを避けることもできなかったのね?」

可憐な声を上げたのは、男爵令嬢のミナだった。彼女は王太子エドワードの腕にぴったりと寄り添い、扇の陰で勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
エドワード様は、泥に汚れた私を汚物を見るような目で見下ろし、冷酷に言い放った。

「見苦しいぞ、リリアーヌ。わざと酒を浴びて同情を誘うなど、伯爵令嬢としての矜持すらないのか。貴様のような『欠陥品』が、この国の王妃として私の隣に立つなど、想像するだけで反吐が出る」

心臓が、鋭い氷で貫かれたようだった。
私は、この三年間、どれほど彼に尽くしてきただろう。
彼が苦手な歴史のレポートを夜通し代筆し、彼が学園の演習で怪我をすれば、魔力のない私は自分の体力を削る秘薬を調合して届けた。
学園中の生徒から「無能」「税金の無駄遣い」と石を投げられても、婚約者である彼がいつか守ってくれると信じて、唇を噛み締めて耐えてきたのに。

「エドワード様……。ミナ様がわざと私を転ばせたのは、皆様も見ていたはずです。それに、私の魔力が出ないのは、幼い頃からの後遺症だと、主治医も説明して……」

「言い訳は見苦しい! 鑑定の儀で『ゼロ』を出したのは紛れもない事実だろう!」

エドワード様は私の言葉を遮り、大勢の生徒たちの前で、私の顔を真っ向から指差した。

「ミナは、貴様がいじめたという証拠を持ってきているのだ。彼女の魔力結晶を盗もうとし、階段から突き落としたそうだな? 優しい彼女は黙っていようとしたが、私はすべてを知っているぞ」

「そんなこと、していません! それは彼女の自作自演で……!」

「黙れ! 貴様のような『魔力ゼロ』の欠陥品が、類まれな光魔法の使い手であるミナを嫉妬するのは明白だ。醜い、実に醜い女だ」

周囲から、一斉に罵声が飛んできた。
「最低の悪役令嬢だわ」「無能な上に性格まで腐っているなんて」「エルフレード家の面汚しね」
私が今まで積み上げてきた三年間は、ミナのついた安っぽい嘘と、エドワード様の盲目的な憎悪によって、一瞬で塵へと変えられた。

「リリアーヌ・エルフレード。貴様との婚約を、今この場をもって破棄する! さらに、その罪を重く見て、卒業資格の剥奪、および国外追放を命じる。今すぐこの場から失せろ。二度と、私の視界に入るな」

エドワード様は、私が肌身離さず持っていた、彼との婚約の証であるペンダントを力任せに引き千切った。
鎖が首に食い込み、鋭い痛みが走る。千切れたペンダントは、冷たい床を転がり、エドワード様の靴で踏み潰された。

足元が、崩れ落ちるような感覚。
会場の全員が、私を嘲笑っている。親しかったはずの友人も、私の研究を称賛していた教師たちも、皆、目を逸らすか、嘲笑の表情を浮かべている。

私は震える手で、自分の首元に触れた。
そこには、父から「絶対に外してはならない」と言われ、幼い頃から私を締め付けていた、重苦しい「魔力封印の首飾り」があった。
父は言った。「お前の力は、この国には強すぎる。凡人たちの嫉妬を買えば、お前は殺されるだろう。だから、無能として生きろ」と。

けれど、父様。
無能として生きることも、ここでは許されないようです。
 
私が絶望の中で立ち尽くしていると、ミナが私の耳元で、他人に聞こえないほど低い声で囁いた。

「ねえ、おばさん。貴女が三年間書いた論文、全部私が書き換えて私の手柄にしちゃった。貴女の三年間は、全部私の『聖女伝説』の踏み台だったのよ。死ぬまで野垂れ死んでね?」

ぷつん、と。
私の中で、何かが切れる音がした。
 
悲しみでもない。絶望でもない。
それは、私の魂の底に溜まり続けた、煮え繰り返るような「黒い怒り」だった。

「……そうですか。皆様は、そこまで私を拒絶されるのですね」

私は静かに、首元の封印の鍵に指をかけた。
 
「ならば、その望みを叶えてあげましょう。この国が、私に何を守らせていたのか……その愚かさを、その目に焼き付けてから去ってあげますわ」

私は力一杯、その黒い首飾りを引き千切った。

その瞬間、会場のシャンデリアがすべて粉々に砕け散り、漆黒の魔力が暴風となって渦巻いた。
「魔力ゼロ」だったはずの私の体から、世界の法則すら書き換える「古代魔法」の波動が溢れ出す。

「な、なんだ!? 何が起きている!」
エドワード様がミナを抱き抱え、腰を抜かして叫ぶ。

暗闇の中、私の髪が、瞳が、禍々しいほどの魔力で輝き始めた。
扉が豪快に吹き飛び、そこから現れたのは、隣国の「生ける伝説」アルベルト様。

彼は恐怖に震える人々を無視し、泥に汚れた私のもとへと歩み寄り、その手を取った。

「――あまりに遅すぎましたよ、我が主。こんなゴミ溜めのような場所、一秒でも早く更地にしてしまえば良かったものを」

アルベルト様の冷徹な瞳が、エドワード様たちを射抜く。
私は彼の手を握り締め、冷たい笑みを浮かべた。

「ええ、そうね。……さあ、復讐を始めましょうか」

パーティー会場の断末魔を背に、私は三年間受けた屈辱を、千倍にして返すための第一歩を踏み出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「お前の代わりはいくらでもいる」と笑った婚約者が、翌日から報告書一枚書けなくなった件

歩人
ファンタジー
子爵令嬢リーゼロッテの取り柄は、文章を書くことだけ。 華やかさのかけらもない彼女は、婚約者アルベルトの政務報告、外交書簡、 演説原稿——その全てを代筆していた。 「お前の代わりはいくらでもいる」 社交界の花形令嬢に乗り換えたアルベルトは、笑ってそう言った。 翌日から、彼の机の上には白紙の報告書だけが積み上がっていく。 ——代わりは、いなかった。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

「毒が効かない体になるまで毒を盛られた令嬢は、復讐なんて望まない——ただ、助けもしないだけ」

歩人
ファンタジー
侯爵令嬢エレーナは、義母と義妹に3年間毒を盛られ続けた。「病弱な姉」として 社交界から消し、財産と婚約者を奪う計画——しかしエレーナには、前世の記憶から 来る毒物の知識があった。毒の種類を特定し、密かに解毒しながら「弱った姉」を 演じ続け、証拠が積み上がるのを待つ。卒業の夜会で義妹が勝ち誇るその場で、 エレーナは3年分の診断書を差し出す。「復讐? いいえ。ただ、もう助けないだけ」

婚約破棄で終わるはずでしたのに、気づけば全部あなた方が崩れておりました

しおしお
恋愛
王太子カイルの婚約者だった公爵令嬢リディアナは、学園の舞踏会で突然婚約破棄を告げられる。 隣にいたのは、可憐に涙をこぼす義妹ミレイユ。 誰もがリディアナを捨てられた令嬢だと思った。 けれどその婚約破棄は、ただの恋愛沙汰では終わらなかった。 王太子は、自分が何に支えられていたのかも知らないまま婚約を切り、義妹と継母は、選ばれた側になったつもりで浮かれ上がる。 しかし一夜明けるごとに、王宮の実務は乱れ、社交界の空気は冷え、王太子の周囲からは人が消えていく。 一方、すべてを失ったはずのリディアナは、静かに身を引きながらも、崩れていく彼らを冷ややかに見つめていた。 選ばれただけでは、何者にもなれない。 肩書きだけでは、人は支えられない。 そして、誰かを踏みにじった代償は、ゆっくりと、けれど確実に返ってくる――。 これは、婚約破棄された公爵令嬢が自ら騒がず、 勝ったつもりだった王太子、義妹、継母が、静かに自滅していくざまぁ恋愛譚。

王子様の距離感がおかしすぎる

あんど もあ
ファンタジー
私シャルロッテは田舎の男爵家の長女。14歳になって王都の貴族学院に入学したのだけど、なぜか二学年先輩のオーガスト王子がグイグイ来る。なんで? いや、理由はどうでもいいから来ないで? 王子のせいで私は嫌われ者です! あっち行ってー!  果たして、王子の思惑は……。

妹の方が好きらしい旦那様の前からは、家出してあげることにしました

睡蓮
恋愛
クレアとの婚約関係を結んでいたリビドー男爵は、あるきっかけからクレアの妹であるレイアの方に気持ちを切り替えてしまう。その過程で、男爵は「クレアがいなくなってくれればいいのに」とつぶやいてしまう。その言葉はクレア本人の耳に入っており、彼女はその言葉のままに家出をしてしまう。これで自分の思い通りになると喜んでいた男爵だったのだが…。

家族の靴を磨いていた私が、実は【神の加護を磨き上げた聖女】だった件。隣国の冷徹皇帝に「君の献身は世界を救う」と誘拐、24 執着されています

唯崎りいち
恋愛
「お前は一生、靴でも磨いていろ」 家族に虐げられ、靴を磨き続けた私。 実はその靴、磨くたびに『神の加護』が宿る聖具になっていました。 噂を聞きつけた隣国の冷徹皇帝に、出会い頭にさらわれて―― 「君は俺のものだ。24時間、指一本触れさせない」 靴を履かせてもらえず、移動は常に皇帝の腕の中!? 磨き上げた加護のせいで、皇帝の執着が神レベルに育ってしまう溺愛物語。

「証拠なら全て記録してあります」——記録魔法しか取り柄がないと捨てられた令嬢、婚約破棄の場で三年分の不正を読み上げる

歩人
ファンタジー
伯爵令嬢アネットの唯一の魔法は『記録《レコード》』——見たもの聞いたものを 一字一句記憶する地味な能力。婚約者の侯爵子息ヴィクトルは「戦えない魔法など 無価値だ」と婚約破棄を宣言する。だがアネットは微笑んだ。「承知いたしました。 では最後に一つだけ——」。彼女が読み上げ始めたのは、ヴィクトルが三年間で横領した 軍事費の明細。日付、金額、共犯者の名前、密会の会話。全て『記録』済み。 満座の貴族が凍りつく中、王宮監察官が静かに立ち上がった。 「……続けてください、アネット嬢」。 婚約破棄の舞台は、そのまま公開裁判になった。

処理中です...