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第4話:泥に咲くは、帝国の華
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リリアーヌが王国を去ってから一週間。プロスペル王国の平穏は、砂上の楼閣のように崩れ去っていた。
王都を覆っていた瘴気は日に日に濃くなり、街の外周部では、これまで結界に阻まれていた魔物たちがその牙を剥き始めている。
「……あり得ん! ミナ嬢の『浄化魔法』はどうした! なぜ機能しない!」
王宮の会議室では、国王が顔を真っ赤にしてエドワードを怒鳴りつけていた。
「そ、それは……ミナが言うには、リリアーヌから受けた呪いのせいで、一時的に魔力の練り方が分からなくなっていると……」
エドワードの返答は、あまりに力のないものだった。
彼の隣で震えているミナは、もはや聖女の輝きなど微塵も残っていない。リリアーヌの論文を「自分のもの」として発表していた彼女には、実際に瘴気を消し去る術など一つも持ち合わせていなかったのだから。
「呪いだと!? 鑑定で『ゼロ』だった女に、そんな力があるわけなかろう! 貴様が追い出したあの娘こそが、この国の真の楔だったのではないかという声が、民の間でも広まっているのだぞ!」
国王の叱責に、エドワードは拳を握りしめた。
認められるはずがない。自分が「ゴミ」と呼び、泥を投げつけて追放したあの女が、実は自分たちを守っていた唯一の存在だったなど。
その時、沈黙を破るように、伝令兵が飛び込んできた。
「報告します! 隣国バルドル帝国より、特使が到着! ……それと、帝国が新たに迎えた『至高の魔導聖女』が、国境付近の浄化を完了したとの報が入っております!」
「なんだと……!? バルドル帝国の聖女だと?」
その報告を聞いたエドワードの脳裏に、卒業パーティーの夜、リリアーヌを連れ去ったアルベルトの姿がよぎった。まさか、という嫌な予感が背筋を駆け抜ける。
同じ頃。バルドル帝国の国境にほど近い、眩いばかりの光に満ちた平原。
私は、アルベルト様が用意してくれた、白銀の糸で織られた見事なドレスを纏っていた。
王国にいた頃の、汚れを落とすことも許されなかったボロボロの服とは違う。今の私には、守るべき矜持と、それを支えてくれる絶対的な味方がいる。
「リリアーヌ様。準備はよろしいですか? 貴女の『真の姿』を、あの愚か者たちに見せつける刻です」
アルベルト様が私の手を取り、優しくエスコートする。
私たちの目の前には、帝国が誇る飛行魔導シップ『レヴァイアサン』が鎮座していた。これに乗って、私たちは「国境紛争の調停」という名目で、かつての私の故郷へと向かう。
「ええ。準備はできていますわ。……私がどれだけ彼らを愛し、どれだけ彼らに裏切られたか。それを、言葉ではなく『格の違い』として教えてあげましょう」
一時間後。
混乱の渦中にあるプロスペル王国の王城広場に、巨大な影が差した。
帝国の紋章を刻んだ巨大な飛行船が、空を割るような音と共に降臨する。
広場に集まった王族や兵士、そして不安に震える民たちの前で、ゆっくりとタラップが降りた。
そこから現れたのは、漆黒のローブを翻すアルベルト様。
そして、その腕にエスコートされ、月の光を凝縮したような白銀の髪をなびかせる、一人の女性。
「……なっ……リ、リリアーヌ……なのか……?」
最前列にいたエドワードが、声を失って立ち尽くした。
そこにいたのは、かつて泥にまみれて泣いていた「無能」の面影など微塵もない、神々しいまでの美しさを湛えた「帝国の聖女」だった。
私は、ひどく冷めた瞳でエドワードを見据えた。
彼の隣で、ミナが「嘘よ、あんな欠陥品がどうして……」と顔を引き攣らせている。
「お久しぶりですね、エドワード『元』婚約者様。……随分と、お顔色が悪いようですが?」
「貴様……! 帝国へ逃げて、何を吹き込んだ! その格好はなんだ! 早くこちらへ戻り、その力を王国の結界のために使え! これは王太子としての命令だ!」
エドワードの身勝手な怒号に、私の背後に控えていたアルベルト様が、氷のような冷気を放った。
「黙れ、卑小なる王太子よ。我が主を『貴様』と呼ぶその舌、今すぐ引き千切ってやろうか?」
アルベルト様の一喝で、広場にいた兵士たちが恐怖のあまり膝をついた。
私は、アルベルト様を制するように軽く手を挙げ、ゆっくりと一歩前へ出た。
「エドワード様。勘違いしないで。私はもう、あなたの、ましてやこの国の所有物ではありません。私はバルドル帝国の『至高の魔導聖女』として、この地の浄化を行うために参りました。……もっとも、それは帝国の領土を広げるための事前調査に過ぎませんが」
「な……領土を広げるだと!? 侵略するつもりか!」
「いいえ。あなたが守りきれなかった『捨てられた土地』を、私が拾い上げるだけですわ」
私は空に向けて、右手を掲げた。
その瞬間、私の体内から、王国中の魔術師が束になっても敵わないほどの、膨大な魔力が放出された。
漆黒と紫の光が混ざり合い、王都を覆っていたどす黒い瘴気を、まるでおもちゃを壊すかのように、一瞬で、跡形もなく消し去っていく。
「あ、ああ……あ……」
民たちが、その圧倒的な光景に、感嘆と恐怖の声を上げる。
自分たちが石を投げ、追い出した少女が、これほどの「神の如き力」を持っていた。その事実が、残酷なまでの現実として彼らに突きつけられた。
私は、絶望に顔を歪めるエドワードとミナに向かって、最高に優雅な微笑みを浮かべた。
「さあ、始めましょう。三年間、私を虐げ続けた皆様への……本当の『卒業試験』を」
私の指先から放たれた古代魔法の余波が、学園の時計塔を粉々に砕いた。
復讐の幕は、まだ上がったばかりだった。
王都を覆っていた瘴気は日に日に濃くなり、街の外周部では、これまで結界に阻まれていた魔物たちがその牙を剥き始めている。
「……あり得ん! ミナ嬢の『浄化魔法』はどうした! なぜ機能しない!」
王宮の会議室では、国王が顔を真っ赤にしてエドワードを怒鳴りつけていた。
「そ、それは……ミナが言うには、リリアーヌから受けた呪いのせいで、一時的に魔力の練り方が分からなくなっていると……」
エドワードの返答は、あまりに力のないものだった。
彼の隣で震えているミナは、もはや聖女の輝きなど微塵も残っていない。リリアーヌの論文を「自分のもの」として発表していた彼女には、実際に瘴気を消し去る術など一つも持ち合わせていなかったのだから。
「呪いだと!? 鑑定で『ゼロ』だった女に、そんな力があるわけなかろう! 貴様が追い出したあの娘こそが、この国の真の楔だったのではないかという声が、民の間でも広まっているのだぞ!」
国王の叱責に、エドワードは拳を握りしめた。
認められるはずがない。自分が「ゴミ」と呼び、泥を投げつけて追放したあの女が、実は自分たちを守っていた唯一の存在だったなど。
その時、沈黙を破るように、伝令兵が飛び込んできた。
「報告します! 隣国バルドル帝国より、特使が到着! ……それと、帝国が新たに迎えた『至高の魔導聖女』が、国境付近の浄化を完了したとの報が入っております!」
「なんだと……!? バルドル帝国の聖女だと?」
その報告を聞いたエドワードの脳裏に、卒業パーティーの夜、リリアーヌを連れ去ったアルベルトの姿がよぎった。まさか、という嫌な予感が背筋を駆け抜ける。
同じ頃。バルドル帝国の国境にほど近い、眩いばかりの光に満ちた平原。
私は、アルベルト様が用意してくれた、白銀の糸で織られた見事なドレスを纏っていた。
王国にいた頃の、汚れを落とすことも許されなかったボロボロの服とは違う。今の私には、守るべき矜持と、それを支えてくれる絶対的な味方がいる。
「リリアーヌ様。準備はよろしいですか? 貴女の『真の姿』を、あの愚か者たちに見せつける刻です」
アルベルト様が私の手を取り、優しくエスコートする。
私たちの目の前には、帝国が誇る飛行魔導シップ『レヴァイアサン』が鎮座していた。これに乗って、私たちは「国境紛争の調停」という名目で、かつての私の故郷へと向かう。
「ええ。準備はできていますわ。……私がどれだけ彼らを愛し、どれだけ彼らに裏切られたか。それを、言葉ではなく『格の違い』として教えてあげましょう」
一時間後。
混乱の渦中にあるプロスペル王国の王城広場に、巨大な影が差した。
帝国の紋章を刻んだ巨大な飛行船が、空を割るような音と共に降臨する。
広場に集まった王族や兵士、そして不安に震える民たちの前で、ゆっくりとタラップが降りた。
そこから現れたのは、漆黒のローブを翻すアルベルト様。
そして、その腕にエスコートされ、月の光を凝縮したような白銀の髪をなびかせる、一人の女性。
「……なっ……リ、リリアーヌ……なのか……?」
最前列にいたエドワードが、声を失って立ち尽くした。
そこにいたのは、かつて泥にまみれて泣いていた「無能」の面影など微塵もない、神々しいまでの美しさを湛えた「帝国の聖女」だった。
私は、ひどく冷めた瞳でエドワードを見据えた。
彼の隣で、ミナが「嘘よ、あんな欠陥品がどうして……」と顔を引き攣らせている。
「お久しぶりですね、エドワード『元』婚約者様。……随分と、お顔色が悪いようですが?」
「貴様……! 帝国へ逃げて、何を吹き込んだ! その格好はなんだ! 早くこちらへ戻り、その力を王国の結界のために使え! これは王太子としての命令だ!」
エドワードの身勝手な怒号に、私の背後に控えていたアルベルト様が、氷のような冷気を放った。
「黙れ、卑小なる王太子よ。我が主を『貴様』と呼ぶその舌、今すぐ引き千切ってやろうか?」
アルベルト様の一喝で、広場にいた兵士たちが恐怖のあまり膝をついた。
私は、アルベルト様を制するように軽く手を挙げ、ゆっくりと一歩前へ出た。
「エドワード様。勘違いしないで。私はもう、あなたの、ましてやこの国の所有物ではありません。私はバルドル帝国の『至高の魔導聖女』として、この地の浄化を行うために参りました。……もっとも、それは帝国の領土を広げるための事前調査に過ぎませんが」
「な……領土を広げるだと!? 侵略するつもりか!」
「いいえ。あなたが守りきれなかった『捨てられた土地』を、私が拾い上げるだけですわ」
私は空に向けて、右手を掲げた。
その瞬間、私の体内から、王国中の魔術師が束になっても敵わないほどの、膨大な魔力が放出された。
漆黒と紫の光が混ざり合い、王都を覆っていたどす黒い瘴気を、まるでおもちゃを壊すかのように、一瞬で、跡形もなく消し去っていく。
「あ、ああ……あ……」
民たちが、その圧倒的な光景に、感嘆と恐怖の声を上げる。
自分たちが石を投げ、追い出した少女が、これほどの「神の如き力」を持っていた。その事実が、残酷なまでの現実として彼らに突きつけられた。
私は、絶望に顔を歪めるエドワードとミナに向かって、最高に優雅な微笑みを浮かべた。
「さあ、始めましょう。三年間、私を虐げ続けた皆様への……本当の『卒業試験』を」
私の指先から放たれた古代魔法の余波が、学園の時計塔を粉々に砕いた。
復讐の幕は、まだ上がったばかりだった。
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