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第5話:偽聖女の断罪
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王都の広場に、凍りついたような沈黙が流れた。
空を覆っていた瘴気が一瞬で晴れ、眩いばかりの光が降り注ぐ中、民たちは悟り始めていた。自分たちが「無能」と罵り、石を投げたリリアーヌこそが、この国に光をもたらす真の守護者であったことを。
「そ、そんなはずはない……! 偶然だ! 偶然に決まっている!」
エドワードが顔をひきつらせ、隣にいるミナの肩を掴んだ。
「おい、ミナ! 貴様の光魔法で、この女の不吉な魔力を塗りつぶせ! 貴様は学園の聖女なのだろう!?」
「あ……う、うう……」
ミナはガタガタと震え、エドワードの手を振り払おうとした。
かつてリリアーヌを嘲笑っていた可憐な表情は消え、そこにあるのは、追い詰められた小動物のような醜い怯えだけだ。
「どうしたのですか、ミナ様。あなたの得意な『浄化魔法』を見せてくださいな。……ああ、そういえば、あなたが私の手柄を盗んで発表したあの論文、あれには致命的な欠陥があったのをご存知かしら?」
私はゆっくりと、ミナへと歩み寄った。
一歩進むたびに、私の足元から古代魔法の術式が花のように展開し、広場の石畳を黄金色に染め変えていく。
「何のことよ……! 私は、私は自分の実力で……!」
「いいえ。あなたが発表した『魔力の自動循環による永劫浄化』の術式。あれは、私の魔力が通っている間だけ維持される『期間限定』の試作品でした。……その魔力の供給源である私がこの国を去れば、どうなるか。学園の三年間、居眠りばかりしていたあなたでも分かりますわよね?」
私が指先をパチンと鳴らすと、王宮の尖塔に掲げられていたミナの紋章入りの魔導具が、音を立てて砕け散った。
中から出てきたのは、真っ黒に煤けた魔力結晶だ。
「リリアーヌ……貴様、ミナの道具に細工をしていたのか! どこまで卑劣な女だ!」
エドワードが吠えるが、私はそれを鼻で笑った。
「細工? 違いますわ。私はただ、自分の持ち物に掛けていた『鍵』を外しただけ。……アルベルト様、例の資料を」
「御意」
アルベルト様が虚空から厚い魔導書を取り出した。
それは、私が三年間書き溜めていた研究ノートの原本だ。ミナが盗んだのはその「清書」の写しに過ぎない。
「このノートの筆跡鑑定は既に帝国で行われ、魔法学の最高権威たちの証明も受けています。ミナ・ルナール男爵令嬢。あなたが『自分が開発した』と主張する魔法の数々は、すべてこのノートの剽窃。……それも、理解できずに丸写ししただけの、稚拙な盗作です」
「嘘よ……嘘よおぉぉ!」
ミナが叫ぶが、私の言葉は止まらない。
「あなたが『自分で編み出した』と言い張る術式を今、ここで展開してみてください。……できないでしょう? あなた、魔力の練り方すら、本当は知らないのですから」
私が「古代魔法」による強制的な魔力開示を広場全体に展開すると、ミナの体から溢れ出たのは、聖女とは程遠い、ドロドロとした濁った魔力だった。その量は、一般の魔術師の足元にも及ばない。
「これが、皆様が崇めていた『聖女』の正体ですわ」
広場の民たちから、どよめきが、そして怒号が上がった。
「騙されていたのか!」「この女がリリアーヌ様を陥れたのか!」「我々を救っていたのはリリアーヌ様だったんだ!」
「エドワード様……信じて、私は……」
ミナがエドワードの足元に縋り付くが、プライドの高い彼にとって、大衆の前で「偽物」を担ぎ上げていた事実は、耐え難い屈辱だった。
「離せ、不潔な女め!」
エドワードはミナを蹴り飛ばした。
さっきまで愛を囁き合っていたとは思えないほどの、冷酷な拒絶。
「リリアーヌ……! 分かった、私が悪かった! ミナに騙されていたのだ! 婚約破棄は取り消してやる。貴様を正妃として、今すぐに王宮へ迎え入れよう。だから、その力でこの国を救え! 命令だ!」
私は、その言葉を聞いて、心底からおかしくなって笑い声を上げた。
アルベルト様が私の肩に手を置き、侮蔑の眼差しをエドワードに向ける。
「命令? ……勘違いも甚だしいな、小国の王子よ。我が主を捨て、泥を投げ、命まで狙おうとした貴様に、その資格があるとでも?」
「アルベルト様の言う通りですわ。エドワード様、あなたはまだ分かっていないのね」
私は、空中に巨大な契約の魔法陣を描き出した。
「私はもう、この国の伯爵令嬢ではありません。バルドル帝国の聖女であり、そして――あなたたちが踏みにじった『古代魔法の守護者』。……たった今、この国との魔力契約を完全に破棄します」
魔法陣が砕け散ると同時に、王国の大地から、微かな「音」が消えた。
それは、リリアーヌが知らず知らずのうちに土地に与え続けていた「加護」が完全に消失した音だった。
街の木々が一瞬で枯れ始め、王宮の結界は砂の城のように崩れ落ちていく。
「さあ、行きましょう、アルベルト様。……ここはもう、私たちが関わる価値のない『終わった国』ですわ」
「はい、リリアーヌ様。帝都では貴女のための祝宴が待っております」
私たちは、呆然と立ち尽くすエドワードと、地面を這いずり泣き喚くミナを置き去りにし、飛行船へと戻った。
背後から聞こえるのは、絶望した民たちの怒号と、王国の崩壊を告げる鐘の音。
三年間、私を虐げた代償。
それは、国一つの滅亡という形になって、彼らに降り注ぐことになる。
空を覆っていた瘴気が一瞬で晴れ、眩いばかりの光が降り注ぐ中、民たちは悟り始めていた。自分たちが「無能」と罵り、石を投げたリリアーヌこそが、この国に光をもたらす真の守護者であったことを。
「そ、そんなはずはない……! 偶然だ! 偶然に決まっている!」
エドワードが顔をひきつらせ、隣にいるミナの肩を掴んだ。
「おい、ミナ! 貴様の光魔法で、この女の不吉な魔力を塗りつぶせ! 貴様は学園の聖女なのだろう!?」
「あ……う、うう……」
ミナはガタガタと震え、エドワードの手を振り払おうとした。
かつてリリアーヌを嘲笑っていた可憐な表情は消え、そこにあるのは、追い詰められた小動物のような醜い怯えだけだ。
「どうしたのですか、ミナ様。あなたの得意な『浄化魔法』を見せてくださいな。……ああ、そういえば、あなたが私の手柄を盗んで発表したあの論文、あれには致命的な欠陥があったのをご存知かしら?」
私はゆっくりと、ミナへと歩み寄った。
一歩進むたびに、私の足元から古代魔法の術式が花のように展開し、広場の石畳を黄金色に染め変えていく。
「何のことよ……! 私は、私は自分の実力で……!」
「いいえ。あなたが発表した『魔力の自動循環による永劫浄化』の術式。あれは、私の魔力が通っている間だけ維持される『期間限定』の試作品でした。……その魔力の供給源である私がこの国を去れば、どうなるか。学園の三年間、居眠りばかりしていたあなたでも分かりますわよね?」
私が指先をパチンと鳴らすと、王宮の尖塔に掲げられていたミナの紋章入りの魔導具が、音を立てて砕け散った。
中から出てきたのは、真っ黒に煤けた魔力結晶だ。
「リリアーヌ……貴様、ミナの道具に細工をしていたのか! どこまで卑劣な女だ!」
エドワードが吠えるが、私はそれを鼻で笑った。
「細工? 違いますわ。私はただ、自分の持ち物に掛けていた『鍵』を外しただけ。……アルベルト様、例の資料を」
「御意」
アルベルト様が虚空から厚い魔導書を取り出した。
それは、私が三年間書き溜めていた研究ノートの原本だ。ミナが盗んだのはその「清書」の写しに過ぎない。
「このノートの筆跡鑑定は既に帝国で行われ、魔法学の最高権威たちの証明も受けています。ミナ・ルナール男爵令嬢。あなたが『自分が開発した』と主張する魔法の数々は、すべてこのノートの剽窃。……それも、理解できずに丸写ししただけの、稚拙な盗作です」
「嘘よ……嘘よおぉぉ!」
ミナが叫ぶが、私の言葉は止まらない。
「あなたが『自分で編み出した』と言い張る術式を今、ここで展開してみてください。……できないでしょう? あなた、魔力の練り方すら、本当は知らないのですから」
私が「古代魔法」による強制的な魔力開示を広場全体に展開すると、ミナの体から溢れ出たのは、聖女とは程遠い、ドロドロとした濁った魔力だった。その量は、一般の魔術師の足元にも及ばない。
「これが、皆様が崇めていた『聖女』の正体ですわ」
広場の民たちから、どよめきが、そして怒号が上がった。
「騙されていたのか!」「この女がリリアーヌ様を陥れたのか!」「我々を救っていたのはリリアーヌ様だったんだ!」
「エドワード様……信じて、私は……」
ミナがエドワードの足元に縋り付くが、プライドの高い彼にとって、大衆の前で「偽物」を担ぎ上げていた事実は、耐え難い屈辱だった。
「離せ、不潔な女め!」
エドワードはミナを蹴り飛ばした。
さっきまで愛を囁き合っていたとは思えないほどの、冷酷な拒絶。
「リリアーヌ……! 分かった、私が悪かった! ミナに騙されていたのだ! 婚約破棄は取り消してやる。貴様を正妃として、今すぐに王宮へ迎え入れよう。だから、その力でこの国を救え! 命令だ!」
私は、その言葉を聞いて、心底からおかしくなって笑い声を上げた。
アルベルト様が私の肩に手を置き、侮蔑の眼差しをエドワードに向ける。
「命令? ……勘違いも甚だしいな、小国の王子よ。我が主を捨て、泥を投げ、命まで狙おうとした貴様に、その資格があるとでも?」
「アルベルト様の言う通りですわ。エドワード様、あなたはまだ分かっていないのね」
私は、空中に巨大な契約の魔法陣を描き出した。
「私はもう、この国の伯爵令嬢ではありません。バルドル帝国の聖女であり、そして――あなたたちが踏みにじった『古代魔法の守護者』。……たった今、この国との魔力契約を完全に破棄します」
魔法陣が砕け散ると同時に、王国の大地から、微かな「音」が消えた。
それは、リリアーヌが知らず知らずのうちに土地に与え続けていた「加護」が完全に消失した音だった。
街の木々が一瞬で枯れ始め、王宮の結界は砂の城のように崩れ落ちていく。
「さあ、行きましょう、アルベルト様。……ここはもう、私たちが関わる価値のない『終わった国』ですわ」
「はい、リリアーヌ様。帝都では貴女のための祝宴が待っております」
私たちは、呆然と立ち尽くすエドワードと、地面を這いずり泣き喚くミナを置き去りにし、飛行船へと戻った。
背後から聞こえるのは、絶望した民たちの怒号と、王国の崩壊を告げる鐘の音。
三年間、私を虐げた代償。
それは、国一つの滅亡という形になって、彼らに降り注ぐことになる。
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