『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~

スカッと文庫

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第6話:父への引導と、偽りの保護

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バルドル帝国の飛行魔導シップの甲板から見下ろすプロスペル王国は、もはや死にゆく獣のようだった。
浄化の光が去った後の王都は、以前にも増して不気味な静寂に包まれている。結界が完全に消失した今、国全体を支える魔導回路が逆流し、あちこちで小規模な魔力爆発が起きているのが見えた。

「リリアーヌ! 待ちなさい、リリアーヌ!」

タラップが上がろうとしたその時、広場の群衆を割って一人の男が駆け寄ってきた。
私の実父、エルフレード伯爵だった。
彼はかつての威厳をかなぐり捨て、乱れた正装のまま、必死の形相で私に手を伸ばしている。

「どこへ行くつもりだ! エルフレード家の娘が、敵国の男と手を取り合って……! お前を無能として育てたのは、すべてお前を守るためだったと言っただろう!」

私はアルベルト様に目配せし、一時的にタラップの動きを止めさせた。
冷たい風が私の銀髪を揺らす。私は見下ろす視線のまま、父の言葉を反芻した。

「守るため、ですか。父様、貴方はいつもそう仰いましたね」

「そうだ! お前の持つ『古代魔法』はあまりに強大で、異質だ。公になれば、王家から道具として使い潰されるか、他国から暗殺の標的にされる。だから私は、お前の首に封印を施し、泥を被ってでも無能を演じさせたのだ。すべては、お前が平穏に生きるための親心だった!」

父の言葉に、周囲の貴族たちが「そうだったのか」「伯爵は娘を守るために……」と、手のひらを返したような同情の声を漏らす。
けれど、私は笑った。
込み上げてきたのは、乾いた失笑だけだった。

「親心……。その『親心』の結果が、学園での三年間、石を投げられ、婚約者に裏切られ、最後には卒業パーティーで泥を浴びせられて追放されることだったのですか?」

「それは……エドワード殿下がそこまで愚かだとは想定外だったのだ。だが、今ならやり直せる。王は私に、お前を連れ戻せばエルフレード家を公爵に昇爵させると約束してくださった。さあ、船を降りるんだ。お前の居場所は、このエルフレード家以外にない!」

父の目が、野心にギラついている。
ああ、結局、そういうことなのだ。
「守るため」という言葉は、私を閉じ込め、自分の管理下に置いておくための、甘い毒でしかなかった。
私を「無能」という檻に閉じ込めることで、父は自分だけが最強のカードを握っているという優越感に浸り、いざとなればそれを王家への切り札にするつもりだったのだ。

「残念ですわ、父様。貴方は私を守っていたのではない。……貴方は、私の力を『独占』したかっただけ。私の心なんて、一度も見ていなかった」

私は羽織っていたマントを翻し、一歩、父へと歩み出た。

「貴方の独善的なやり方が、私を最も傷つけた。……私が学園でミナに論文を盗まれた時、貴方は何と言いましたか? 『無能を演じているのだから、手柄などくれてやれ。それが波風を立てない唯一の道だ』。……あの時、私の魂がどれほど絶望したか、貴方は考えたこともないのでしょう?」

「それは、お前を安全にするために……!」

「いいえ。貴方が怖かったのは、私の力が目立って、貴方のコントロールを離れること。……今、その呪縛を終わらせます」

私は指先を空に掲げた。
瞬間、父が私の「保護者」として握っていた、エルフレード家の血脈魔法が、パリンと音を立てて砕け散った。

「な……がはっ!? 私の魔導核が……!」
父は胸を押さえ、その場に膝をついた。
リリアーヌから吸い上げ、家を維持するために密かに利用していた古代魔法の余剰魔力が、一気に遮断されたのだ。

「エルフレード家との縁は、今この瞬間をもって完全に断ち切ります。……アルベルト様、参りましょう。もう、私の言葉を届けるべき相手はここにはいません」

「御意。……伯爵、貴殿の『娘への愛』という名の虐待、しかと見届けさせてもらった。帝国なら、死罪に値する不敬だ。命があるだけ感謝するがいい」

アルベルト様が冷たく告げると、タラップが完全に閉まった。
地上では、魔力を失った父が醜く地べたを這い回り、「戻れ! リリアーヌ! 私の言うことを聞け!」と叫んでいる。
エドワードやミナも、兵士たちに取り囲まれながら、何とか私に縋ろうと絶叫していた。

飛行船が浮上する。
窓の外に広がる王国の景色が、どんどん小さくなっていく。
三年間、私を閉じ込めていた小さな檻。
私を愛さず、ただ利用し、虐げ、あるいは「守る」という名目で魂を殺し続けた場所。

「終わったのですね、すべて」
私は、横に立つアルベルト様に寄り添った。

「いいえ、リリアーヌ様。ここからが始まりです。……貴女を虐げた者たちの末路は、これからゆっくりと時間をかけて、帝国が刈り取らせていただきます。……もちろん、貴女の手を汚す必要はありません」

アルベルト様の手が、私の頬に触れる。
その温かさは、父から一度も与えられなかった「真実の慈しみ」だった。

背後で、王都の中心にある巨大な魔導時計が、停止を告げる不吉な音を響かせた。
 
さようなら、プロスペル王国。
貴方たちが捨てたのは、ただの一人の令嬢ではない。
 
貴方たちが捨てたのは、この国の「未来」そのものだったのだ。
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