『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~

スカッと文庫

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第7話:白銀の聖女、帝都へ

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プロスペル王国の国境を越え、バルドル帝国の領空に入った瞬間、飛行魔導シップ『レヴァイアサン』を包む空気が一変した。
王国を覆っていた瘴気や淀んだ魔力は微塵もなく、そこにあるのは、清冽で、力がみなぎるような純粋な魔力場。
窓の外に広がるのは、魔導技術と自然が調和した、幾何学的に美しい帝都の街並みだった。

「リリアーヌ様。……故郷を離れ、不安に思われることはありませんか?」

隣に立つアルベルト様が、私の手の上に自分の手を重ね、優しく問いかける。
王国にいた頃の彼は、冷徹で、誰も寄せ付けない「伝説の魔術師」そのものだったが、私と二人きりになると、驚くほど過保護で、甘い眼差しを向けてくる。

「不安……。いいえ。むしろ、身体が軽くなったようですわ。……あの国にいた頃は、自分がどれほど重い空気を吸っていたのか、気づきもしませんでした」

「それは良かった。……貴女を縛り付けていた檻は、もうどこにもありません。これからは、貴女が望むままに、その羽を広げてください」

アルベルト様の指先が、私の白銀の髪を愛おしげに梳く。
その仕草には、臣下としての敬意以上に、一人の男性としての、深い執着と独占欲が滲み出ているように感じた。

飛行船が帝都の中央にある巨大な王宮の魔導発着場に着陸すると、そこには既に、皇帝直属の近衛騎士団が整列し、帝国の重鎮たちが居並んでいた。

「……バルドル帝国皇帝、フレデリック・バルドル。……貴女を、我が帝国の『至高の魔導聖女』として、心より歓迎いたします」

タラップを降りた私を待っていたのは、威厳に満ちた、けれど柔らかな笑みを浮かべた皇帝陛下だった。
彼は私の前に歩み寄り、自ら右手を差し出した。

「フレデリック陛下。……身に余る歓迎、感謝いたします。プロスペル王国を追放された身でありながら、このような……」

「追放? ふむ、あの愚かな王国の主は、己が手の中にあった国宝を、自らドブに捨てたのだな。……我々は、貴女の『古代魔法』の価値を、正当に評価いたします。貴女こそが、帝国の未来を担う光となるでしょう」

皇帝の言葉に、周囲の貴族たちから、感嘆と期待の混じった声が上がる。
王国での、侮蔑と嘲笑に満ちた視線とは違う。
ここにあるのは、私の「力」への、純粋な敬意と畏怖。

「……陛下。リリアーヌ様は、長旅でお疲れです。歓迎の宴は、彼女が十分に休息をとられてからにしていただけないでしょうか」

アルベルト様が、皇帝と私の間に割って入るようにして告げた。
その声には、皇帝に対する敬意はあるものの、私を誰にも触れさせたくないという、強い意志が感じられる。

「ははは! アルベルト、相変わらずだな。貴様がこれほど一人の女性に固執するとは、帝国始まって以来の奇跡だ」

皇帝は愉快そうに笑い、私の手をアルベルト様へと戻した。

「分かった。今夜はゆっくりと休むが良い。……リリアーヌ、貴女の居室は、アルベルトの邸宅の隣に用意させた。何か必要なものがあれば、何なりと申し付けるが良い」

「アルベルト様の、隣……?」

「ええ。貴女の安全を守るためです。……これからは、私が貴女の、唯一無二の守護者となりますわ」

アルベルト様が私の腰を引き寄せ、耳元で囁く。
その声は、甘く、とろけるようでいて、同時に、決して私を逃がさないという、冷徹な独占欲を孕んでいた。
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