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最終話:永遠に捧ぐ古代の歌
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バルドル帝国の空は、かつてないほど高く、どこまでも澄み渡っていた。
帝都大聖堂の鐘が、荘厳な音色で新しい時代の幕開けを告げる。
今日は、帝国至高の魔導聖女リリアーヌと、伝説の魔術師アルベルト公爵の婚礼の儀。
鏡の中に映る私は、プロスペル王国の泥にまみれていたあの日の自分とは、まるで見知らぬ誰かのようだった。
白銀の髪は古代魔法の光を宿して真珠のように輝き、身に纏ったドレスはアルベルト様が自ら魔力を編み込んで作った、世界に二つとない逸品。
「――お迎えに上がりました、我が妻(ミレディ)」
扉が開き、正装に身を包んだアルベルト様が現れた。
彼は私を見た瞬間、あまりの美しさに息を呑み、その場に跪いて私の手を取った。
「アルベルト様、そんな……今日は貴方も主役なのですから」
「いいえ。今日の私は、世界で最も美しい女神を妻に迎える、ただの幸福な男に過ぎません。……リリアーヌ、貴女を私の人生に迎えることができたのは、全魔導の理を超えた奇跡です」
アルベルト様の熱い眼差しが、私の肌を焼く。
彼は立ち上がると、私の腰を引き寄せ、逃がさないと言わんばかりの強さで抱きしめた。
その独占欲は、出会ったあの日よりもさらに深く、重く、けれど今の私にはそれが何よりも心地よい愛の証だった。
大聖堂の外へ出ると、地響きのような歓声が私たちを包み込んだ。
私が一歩歩くたびに、足元から黄金の魔力の花が咲き乱れ、人々の病を癒やし、心に平穏をもたらしていく。
かつて「無能」と罵られ、石を投げられた少女は、今や大陸全土から「慈愛の女神」と崇められる存在となっていた。
ふと、私は西の空、今はもう地図から消えかかっている「かつての故郷」へと視線を向けた。
聞いた話では、プロスペル王国は、瘴気と魔物の氾濫によって完全に崩壊したという。
エドワード様とミナ様は、魔力を失った罪人として辺境の強制労働キャンプへ送られ、毎日泥水を啜りながら、互いを呪い合って生きているそうだ。
父であるエルフレード伯爵も、家も名誉も失い、自分が捨てた娘の名を叫びながら狂い死んだという。
けれど、私の心に、彼らへの慈悲は一滴も残っていない。
あの方角へ届ける魔法も、祈りも、もう私の中には存在しなかった。
私の祈りは今、私の隣にいる愛する人のためだけに、そして私を愛してくれるこの帝国の民のためだけに捧げられる。
「リリアーヌ、何を考えている?」
アルベルト様が、私の頬を優しく撫でる。
「……いいえ。ただ、私は本当に幸せ者だと思っていただけです。……あの日、あの雨の中で、貴方の手を離さなくて本当に良かったと」
「我こそ、貴女を拾い上げた幸運に毎日感謝している。貴女を虐げた世界を、私がまるごと書き換えてみせると誓ったあの日から、私の魂は貴女だけのものです」
アルベルト様は私の額に誓いの口づけを落とし、そのまま深く、激しく唇を重ねた。
周囲の歓声はさらに高まり、祝福の花吹雪が空を埋め尽くす。
数年後。
帝都の離宮の庭園では、小さな笑い声が響いていた。
私の白銀の髪と、アルベルト様の漆黒の魔力を受け継いだ幼い子供たちが、古代魔法の光を蝶のように飛ばして遊んでいる。
「お母様! お父様! 見て、お花が踊ってるわ!」
駆け寄ってくる愛娘を抱き上げると、背後からアルベルト様が私たちをまとめて包み込むように抱きしめた。
「平和だな、リリアーヌ。……かつての不毛な日々が、まるで悪い夢だったようだ」
「ええ、アルベルト様。……でも、あの暗闇があったからこそ、今のこの輝きが、何よりも大切だと分かるのです」
私は、夫の胸に深く顔を埋めた。
もう、私を傷つける者も、利用しようとする者もいない。
最強の魔法使いである夫の執愛と、私自身の強大な古代魔法。
その二つが織りなす結界は、永遠に私たちの幸福を、何者からも守り抜くだろう。
卒業パーティー。あの日、私の時計は一度止まった。
けれど今、私の目の前には、永遠に続く黄金の未来が広がっている。
漆黒の泥の中から咲いた、白銀の華。
その歌は、これからもこの大陸で、希望の象徴として、語り継がれていく。
「――ずっと愛しているよ、リリアーヌ。来世でも、その先でも、必ず見つけて、貴女を私のものにする」
耳元で囁かれる甘い呪縛に、私は微笑んで答えた。
「ええ。……私も、貴方だけを愛していますわ。アルベルト様」
古代の魔法が奏でる祝福の歌は、光溢れる帝都の空へと、どこまでも高く響き渡っていった。
(完)
帝都大聖堂の鐘が、荘厳な音色で新しい時代の幕開けを告げる。
今日は、帝国至高の魔導聖女リリアーヌと、伝説の魔術師アルベルト公爵の婚礼の儀。
鏡の中に映る私は、プロスペル王国の泥にまみれていたあの日の自分とは、まるで見知らぬ誰かのようだった。
白銀の髪は古代魔法の光を宿して真珠のように輝き、身に纏ったドレスはアルベルト様が自ら魔力を編み込んで作った、世界に二つとない逸品。
「――お迎えに上がりました、我が妻(ミレディ)」
扉が開き、正装に身を包んだアルベルト様が現れた。
彼は私を見た瞬間、あまりの美しさに息を呑み、その場に跪いて私の手を取った。
「アルベルト様、そんな……今日は貴方も主役なのですから」
「いいえ。今日の私は、世界で最も美しい女神を妻に迎える、ただの幸福な男に過ぎません。……リリアーヌ、貴女を私の人生に迎えることができたのは、全魔導の理を超えた奇跡です」
アルベルト様の熱い眼差しが、私の肌を焼く。
彼は立ち上がると、私の腰を引き寄せ、逃がさないと言わんばかりの強さで抱きしめた。
その独占欲は、出会ったあの日よりもさらに深く、重く、けれど今の私にはそれが何よりも心地よい愛の証だった。
大聖堂の外へ出ると、地響きのような歓声が私たちを包み込んだ。
私が一歩歩くたびに、足元から黄金の魔力の花が咲き乱れ、人々の病を癒やし、心に平穏をもたらしていく。
かつて「無能」と罵られ、石を投げられた少女は、今や大陸全土から「慈愛の女神」と崇められる存在となっていた。
ふと、私は西の空、今はもう地図から消えかかっている「かつての故郷」へと視線を向けた。
聞いた話では、プロスペル王国は、瘴気と魔物の氾濫によって完全に崩壊したという。
エドワード様とミナ様は、魔力を失った罪人として辺境の強制労働キャンプへ送られ、毎日泥水を啜りながら、互いを呪い合って生きているそうだ。
父であるエルフレード伯爵も、家も名誉も失い、自分が捨てた娘の名を叫びながら狂い死んだという。
けれど、私の心に、彼らへの慈悲は一滴も残っていない。
あの方角へ届ける魔法も、祈りも、もう私の中には存在しなかった。
私の祈りは今、私の隣にいる愛する人のためだけに、そして私を愛してくれるこの帝国の民のためだけに捧げられる。
「リリアーヌ、何を考えている?」
アルベルト様が、私の頬を優しく撫でる。
「……いいえ。ただ、私は本当に幸せ者だと思っていただけです。……あの日、あの雨の中で、貴方の手を離さなくて本当に良かったと」
「我こそ、貴女を拾い上げた幸運に毎日感謝している。貴女を虐げた世界を、私がまるごと書き換えてみせると誓ったあの日から、私の魂は貴女だけのものです」
アルベルト様は私の額に誓いの口づけを落とし、そのまま深く、激しく唇を重ねた。
周囲の歓声はさらに高まり、祝福の花吹雪が空を埋め尽くす。
数年後。
帝都の離宮の庭園では、小さな笑い声が響いていた。
私の白銀の髪と、アルベルト様の漆黒の魔力を受け継いだ幼い子供たちが、古代魔法の光を蝶のように飛ばして遊んでいる。
「お母様! お父様! 見て、お花が踊ってるわ!」
駆け寄ってくる愛娘を抱き上げると、背後からアルベルト様が私たちをまとめて包み込むように抱きしめた。
「平和だな、リリアーヌ。……かつての不毛な日々が、まるで悪い夢だったようだ」
「ええ、アルベルト様。……でも、あの暗闇があったからこそ、今のこの輝きが、何よりも大切だと分かるのです」
私は、夫の胸に深く顔を埋めた。
もう、私を傷つける者も、利用しようとする者もいない。
最強の魔法使いである夫の執愛と、私自身の強大な古代魔法。
その二つが織りなす結界は、永遠に私たちの幸福を、何者からも守り抜くだろう。
卒業パーティー。あの日、私の時計は一度止まった。
けれど今、私の目の前には、永遠に続く黄金の未来が広がっている。
漆黒の泥の中から咲いた、白銀の華。
その歌は、これからもこの大陸で、希望の象徴として、語り継がれていく。
「――ずっと愛しているよ、リリアーヌ。来世でも、その先でも、必ず見つけて、貴女を私のものにする」
耳元で囁かれる甘い呪縛に、私は微笑んで答えた。
「ええ。……私も、貴方だけを愛していますわ。アルベルト様」
古代の魔法が奏でる祝福の歌は、光溢れる帝都の空へと、どこまでも高く響き渡っていった。
(完)
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