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第9話:瓦礫の玉座と黄金の誓い
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漆黒の爆発が吹き荒れた後のプロスペル王国には、もはや「栄華」の欠片も残っていなかった。
王宮の最上階は無惨に削り取られ、かつて贅を尽くしたダンスホールは、いまやカラスが鳴く瓦礫の山と化している。
「あ……ああ……。私の、私の王位が……」
煤にまみれ、豪華だったはずの礼服をボロ布のように引きずりながら、エドワードは瓦礫の中を彷徨っていた。
魔力暴走の余波によって、彼は王族としての「魔導核」を完全に破壊されていた。今の彼は、一般の平民よりも魔力が薄く、重い剣一振りさえ持ち上げられない、正真正銘の「無能」だった。
「エドワード様……助けて……痛い、痛いわ……」
瓦礫の陰から這い出してきたミナの姿は、さらに凄惨だった。
リリアーヌから盗んだ「浄化魔法」の反動を全身に浴びた彼女の肌は、どす黒く変色し、その自慢だった愛くるしい美貌は見る影もない。彼女の瞳からは光が消え、ただ恐怖に震えるだけの壊れた人形のようだった。
そこへ、怒りに震える民たちと、生き残った兵士たちが押し寄せた。
「偽物の聖女め! 貴様のせいで、俺たちの家は瘴気に飲まれたんだ!」
「王太子も同罪だ! リリアーヌ様を追放し、この国を滅ぼしたのはお前たちだ!」
かつて彼らを称賛していた声は、今や殺意に満ちた罵声へと変わっていた。
彼らは国王によって廃嫡され、平民以下の「罪人」として、瘴気が最も濃く残る辺境の廃村へと送られることが決定した。そこで一生、自分たちが捨てた聖女が守っていた「平和」の重さを、泥を啜りながら思い知ることになるのだ。
一方、バルドル帝国の帝都は、建国以来最大の祝祭ムードに包まれていた。
王宮のバルコニーに、純白のドレスを纏ったリリアーヌが姿を現すと、広場を埋め尽くした数万の民から、地響きのような歓声が上がった。
「見てください、リリアーヌ。これが、貴女を正当に評価する世界の姿です」
隣に立つアルベルト様が、私の腰をそっと引き寄せる。
彼の纏う黒い礼装と、私の純白のドレスが、光と影のように完璧な対照をなしていた。
「……信じられませんわ。ほんの十日前まで、私は泥を浴びせられ、死を待つだけの存在だったのに」
「それは、あの国の者たちの目が腐っていただけです。……今日からは、貴女がこの国の『光』だ」
皇帝陛下の宣言により、私は帝国の『公認聖女』として、そしてアルベルト様の『婚約者』として正式に発表された。
バルコニーに跪いたアルベルト様が、私の手を取り、指先に深い口づけを落とす。
「リリアーヌ。私は、貴女がその古代魔法で世界を救うことなど、本当はどうでもいい。……私はただ、私の腕の中で、貴女が穏やかに眠れる世界を守りたいだけなのです」
その言葉と共に、アルベルト様が私の指に嵌めたのは、漆黒のダイヤモンドが埋め込まれた婚約指輪だった。
それは、彼の魔力と私の古代魔法が共鳴し合い、この世のどんな武器でも壊せない「永遠の契約」の証。
私は、遠い西の空を見つめた。
あの方角には、かつて私を虐げ、利用し、捨てた者たちがいる。
けれど、今の私の心には、彼らへの憎しみさえもう残っていなかった。
あまりに幸せで、あまりに満たされていて。
彼らのことなど、思い出す時間さえもったいない。
それは、復讐者にとって、最も残酷で、最も甘美な勝利だった。
「アルベルト様。私、この国で、貴方と共に生きていきたいです」
「ええ。貴女の人生のすべてを、私が責任を持って幸せにしましょう。……例え、貴女がそれを拒もうとしても、もう離してはあげませんが」
アルベルト様の独占欲を含んだ微笑みに、私は心地よい降伏感を感じながら、彼に身を委ねた。
三年前のあの日から始まった、絶望の学園生活。
泥と涙にまみれた日々。
それらすべては、この温かな腕に辿り着くための、長い前奏曲に過ぎなかったのだ。
王宮の最上階は無惨に削り取られ、かつて贅を尽くしたダンスホールは、いまやカラスが鳴く瓦礫の山と化している。
「あ……ああ……。私の、私の王位が……」
煤にまみれ、豪華だったはずの礼服をボロ布のように引きずりながら、エドワードは瓦礫の中を彷徨っていた。
魔力暴走の余波によって、彼は王族としての「魔導核」を完全に破壊されていた。今の彼は、一般の平民よりも魔力が薄く、重い剣一振りさえ持ち上げられない、正真正銘の「無能」だった。
「エドワード様……助けて……痛い、痛いわ……」
瓦礫の陰から這い出してきたミナの姿は、さらに凄惨だった。
リリアーヌから盗んだ「浄化魔法」の反動を全身に浴びた彼女の肌は、どす黒く変色し、その自慢だった愛くるしい美貌は見る影もない。彼女の瞳からは光が消え、ただ恐怖に震えるだけの壊れた人形のようだった。
そこへ、怒りに震える民たちと、生き残った兵士たちが押し寄せた。
「偽物の聖女め! 貴様のせいで、俺たちの家は瘴気に飲まれたんだ!」
「王太子も同罪だ! リリアーヌ様を追放し、この国を滅ぼしたのはお前たちだ!」
かつて彼らを称賛していた声は、今や殺意に満ちた罵声へと変わっていた。
彼らは国王によって廃嫡され、平民以下の「罪人」として、瘴気が最も濃く残る辺境の廃村へと送られることが決定した。そこで一生、自分たちが捨てた聖女が守っていた「平和」の重さを、泥を啜りながら思い知ることになるのだ。
一方、バルドル帝国の帝都は、建国以来最大の祝祭ムードに包まれていた。
王宮のバルコニーに、純白のドレスを纏ったリリアーヌが姿を現すと、広場を埋め尽くした数万の民から、地響きのような歓声が上がった。
「見てください、リリアーヌ。これが、貴女を正当に評価する世界の姿です」
隣に立つアルベルト様が、私の腰をそっと引き寄せる。
彼の纏う黒い礼装と、私の純白のドレスが、光と影のように完璧な対照をなしていた。
「……信じられませんわ。ほんの十日前まで、私は泥を浴びせられ、死を待つだけの存在だったのに」
「それは、あの国の者たちの目が腐っていただけです。……今日からは、貴女がこの国の『光』だ」
皇帝陛下の宣言により、私は帝国の『公認聖女』として、そしてアルベルト様の『婚約者』として正式に発表された。
バルコニーに跪いたアルベルト様が、私の手を取り、指先に深い口づけを落とす。
「リリアーヌ。私は、貴女がその古代魔法で世界を救うことなど、本当はどうでもいい。……私はただ、私の腕の中で、貴女が穏やかに眠れる世界を守りたいだけなのです」
その言葉と共に、アルベルト様が私の指に嵌めたのは、漆黒のダイヤモンドが埋め込まれた婚約指輪だった。
それは、彼の魔力と私の古代魔法が共鳴し合い、この世のどんな武器でも壊せない「永遠の契約」の証。
私は、遠い西の空を見つめた。
あの方角には、かつて私を虐げ、利用し、捨てた者たちがいる。
けれど、今の私の心には、彼らへの憎しみさえもう残っていなかった。
あまりに幸せで、あまりに満たされていて。
彼らのことなど、思い出す時間さえもったいない。
それは、復讐者にとって、最も残酷で、最も甘美な勝利だった。
「アルベルト様。私、この国で、貴方と共に生きていきたいです」
「ええ。貴女の人生のすべてを、私が責任を持って幸せにしましょう。……例え、貴女がそれを拒もうとしても、もう離してはあげませんが」
アルベルト様の独占欲を含んだ微笑みに、私は心地よい降伏感を感じながら、彼に身を委ねた。
三年前のあの日から始まった、絶望の学園生活。
泥と涙にまみれた日々。
それらすべては、この温かな腕に辿り着くための、長い前奏曲に過ぎなかったのだ。
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