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Ⅰ.
9.悩む時間が一番非生産的って話。
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と、まあ、そんな一連のやり取りを見て、タイミングを見計らっていたのか、二見が、
「お待たせしましたぁ~こちらミルクと、お冷と、おしぼりになります~」
トン、トン、トンと安楽城の前に配膳していく。
本当は、もっと前に持ってくることが出来たはずである。
それこそお冷やおしぼりは、俺が原稿を確認しているタイミングで持って来たって良かったはずなのだ。それでもこのタイミングまで待っていたのは、二見が安楽城の習性をよく理解しているからに他ならない。
安楽城の創作は感情のランダムな表出だ。
そして、一度エンジンを切ると、再度エンジンをかけるまでに大分時間がかかる。
つまり、絵を描き始めたタイミングで持ってきてしまうと、そこで一度エンジンを切って、再びエンジンをかけ、その後俺が話しかけるともう一度エンジンを切るという無駄な動きをすることになる。
別に安楽城自身がそんな主張をしたわけではない。
ずっと観察していたうえでの行動だろう。実際俺も、絵がひと段落しただろうというタイミングで話しかけるようにはしている。本人は多分、気にもしていないんだろうけど、それくらいなら俺らにでも出来ることだ。
「……ありがと」
安楽城は一言二見にお礼を言い、手元にあるおしぼりで手を拭き、お冷に一度口を付けたのち、くぴくぴと牛乳を飲み始めた。変な擬音だが、本当にそんな感じなのだ。ぐびぐびじゃない。ごくごくでもない。くぴくぴなのだ。
そんな休憩タイムの安楽城に二見が話を持ちかける。
「ねえ、大ちゃん。少し相談いい?」
「……何?」
微妙に不機嫌な対応。俺なら分かる。ただ、これは自分の行動を邪魔されたとかではなく「大ちゃん」という呼び名が気に入らないだけだろう。まあ、ちょっとガキ大将っぽいもんな「大ちゃん」。
二見はそんな反応にもめげずに、
「いやね。零くんが、ちょっと色々あってぷろっと?みたいなのを作ることになっちゃって。そのアドバイスを貰えないかなって思って」
それを聞いた安楽城は首を傾げて、
「……なんで僕?だって、神木でしょ?必要なくない?」
うん。
それ、俺も思った。
でもまあ、相談出来る範囲で最強の助っ人なのは確かなんだよね。センスは抜群だし。
二見はめげずに、
「そんなことないよ~ね、零くん?」
「そこで俺に振る時点でそんなことないと思ってるのか疑わしくない?」
「ちょっと何言ってるのか分かんない」
「何が分かんないんだろ、この人」
知ってる人は知ってるみたいなオマージュで逃げる幼馴染は放置して、
「そりゃ俺はアドバイスしてる側だけど、そもそもの原型は安楽城が作ったものだろ?俺は作ったことが無いわけで。その辺のアドバイスが貰えたらなって、こいつが」
俺はそう言いつつ二見を指さす。指をさされた主犯格は明後日の方向を見ながら吹けもしない口笛を吹くふりをするという、下の下に近い誤魔化し方をしていたのでこの際放置することにした。それでよく行けると思ったなこいつ。
アドバイスを求められた安楽城はさらりと、
「……面白なって思う話にすればいいと思うけど」
「デスヨネー」
ま、そうだよね。
安楽城は所謂天才だ。
しかもその大半を個人の「感覚」に頼っている。
自分が面白いと思えるならあり、違うならなし。その点は俺と一致しているといえばしているが、安楽城の場合はその思いつく速度が尋常じゃなく早いのが凄い。
以前、数十ページ分の過去話を描いてきたことがあったが、「内容的に本編と繋がらない部分がある」という矛盾が発覚したら、それらは全部無かったことにした。一話分がっつり全て、である。
通常なら悩む。一応描いたから、廃材アートではないにしても、何かしらに使えないかと考えるだろう。安楽城にはそれがない。駄目なら捨てる。面白くするためなら、描きなおしも辞さない。その時に漏れ出るエネルギーが存在しないのだ。つくづくとんでもない人間だと思う。
そして、そのとんでもなさがあるからこそ、細かな情報管理が苦手なんだろうなとも思う。整った服装も、恐らく「カジュアルとフォーマルで切り替えるのが面倒だから一貫させている」と言った類のものなのだろう。それどころか、恐らく、衣食住全てに対する興味が皆無に近い。
以前に安楽城の自宅に足を踏み入れる機会が一度だけあったが、その時に見た光景は「人が住んでいる空間」には見えなかったしな。正直、ちゃんと食事をしているのかすら、不安になる時がある。
そんなわけで、本来相談する相手として不適格なのは間違いない。
ただ、
「んじゃ、アドバイスはいいや。その代わり、感想だけ貰っていいか?」
「……感想?」
「お待たせしましたぁ~こちらミルクと、お冷と、おしぼりになります~」
トン、トン、トンと安楽城の前に配膳していく。
本当は、もっと前に持ってくることが出来たはずである。
それこそお冷やおしぼりは、俺が原稿を確認しているタイミングで持って来たって良かったはずなのだ。それでもこのタイミングまで待っていたのは、二見が安楽城の習性をよく理解しているからに他ならない。
安楽城の創作は感情のランダムな表出だ。
そして、一度エンジンを切ると、再度エンジンをかけるまでに大分時間がかかる。
つまり、絵を描き始めたタイミングで持ってきてしまうと、そこで一度エンジンを切って、再びエンジンをかけ、その後俺が話しかけるともう一度エンジンを切るという無駄な動きをすることになる。
別に安楽城自身がそんな主張をしたわけではない。
ずっと観察していたうえでの行動だろう。実際俺も、絵がひと段落しただろうというタイミングで話しかけるようにはしている。本人は多分、気にもしていないんだろうけど、それくらいなら俺らにでも出来ることだ。
「……ありがと」
安楽城は一言二見にお礼を言い、手元にあるおしぼりで手を拭き、お冷に一度口を付けたのち、くぴくぴと牛乳を飲み始めた。変な擬音だが、本当にそんな感じなのだ。ぐびぐびじゃない。ごくごくでもない。くぴくぴなのだ。
そんな休憩タイムの安楽城に二見が話を持ちかける。
「ねえ、大ちゃん。少し相談いい?」
「……何?」
微妙に不機嫌な対応。俺なら分かる。ただ、これは自分の行動を邪魔されたとかではなく「大ちゃん」という呼び名が気に入らないだけだろう。まあ、ちょっとガキ大将っぽいもんな「大ちゃん」。
二見はそんな反応にもめげずに、
「いやね。零くんが、ちょっと色々あってぷろっと?みたいなのを作ることになっちゃって。そのアドバイスを貰えないかなって思って」
それを聞いた安楽城は首を傾げて、
「……なんで僕?だって、神木でしょ?必要なくない?」
うん。
それ、俺も思った。
でもまあ、相談出来る範囲で最強の助っ人なのは確かなんだよね。センスは抜群だし。
二見はめげずに、
「そんなことないよ~ね、零くん?」
「そこで俺に振る時点でそんなことないと思ってるのか疑わしくない?」
「ちょっと何言ってるのか分かんない」
「何が分かんないんだろ、この人」
知ってる人は知ってるみたいなオマージュで逃げる幼馴染は放置して、
「そりゃ俺はアドバイスしてる側だけど、そもそもの原型は安楽城が作ったものだろ?俺は作ったことが無いわけで。その辺のアドバイスが貰えたらなって、こいつが」
俺はそう言いつつ二見を指さす。指をさされた主犯格は明後日の方向を見ながら吹けもしない口笛を吹くふりをするという、下の下に近い誤魔化し方をしていたのでこの際放置することにした。それでよく行けると思ったなこいつ。
アドバイスを求められた安楽城はさらりと、
「……面白なって思う話にすればいいと思うけど」
「デスヨネー」
ま、そうだよね。
安楽城は所謂天才だ。
しかもその大半を個人の「感覚」に頼っている。
自分が面白いと思えるならあり、違うならなし。その点は俺と一致しているといえばしているが、安楽城の場合はその思いつく速度が尋常じゃなく早いのが凄い。
以前、数十ページ分の過去話を描いてきたことがあったが、「内容的に本編と繋がらない部分がある」という矛盾が発覚したら、それらは全部無かったことにした。一話分がっつり全て、である。
通常なら悩む。一応描いたから、廃材アートではないにしても、何かしらに使えないかと考えるだろう。安楽城にはそれがない。駄目なら捨てる。面白くするためなら、描きなおしも辞さない。その時に漏れ出るエネルギーが存在しないのだ。つくづくとんでもない人間だと思う。
そして、そのとんでもなさがあるからこそ、細かな情報管理が苦手なんだろうなとも思う。整った服装も、恐らく「カジュアルとフォーマルで切り替えるのが面倒だから一貫させている」と言った類のものなのだろう。それどころか、恐らく、衣食住全てに対する興味が皆無に近い。
以前に安楽城の自宅に足を踏み入れる機会が一度だけあったが、その時に見た光景は「人が住んでいる空間」には見えなかったしな。正直、ちゃんと食事をしているのかすら、不安になる時がある。
そんなわけで、本来相談する相手として不適格なのは間違いない。
ただ、
「んじゃ、アドバイスはいいや。その代わり、感想だけ貰っていいか?」
「……感想?」
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