聖なる愚者は不敵に笑う

蒼風

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Ⅷ.

43.愛想笑いの友情。

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「あーあー……マイクテスマイクテス……小路こみち隊員、小路隊員、聞こえるだろうか。聞こえるのであれば、応答を願いたい」

『こちら小路、こちら小路。ばっちり聞こえています』

「よし、それなら手筈通りにやってもらおう。出来るか?」

『っていうか、ホントに私がやるのか?神木かみきが直接やった方がいいんじゃ……』

「そんなことをしたら警戒しかされん。それに、今回の目的はあくまで小路を含めた三人の関係性を破壊することだ。そこに俺が介入してみろ。怒りの矛先が俺も向くだけだ。そして、頻繁に学校を休む俺の代わりに、小路や星咲ほしざきがストレス発散の対象となる。それは避けたいだろう?」

『そ、それは避けたい』

「なら、君がやるしかない。出来るな?」

『分かった、分かったよ……』

 放課後。

 俺たち──具体的には俺と二見ふたみ小此木おこのぎの三人──は空き教室に陣取って、一人の同級生とコンタクトを取っている。

 小路りつ

 三匹のうちのひとりだ。彼女は今、俺たち……というよりも俺からの指示を受け取れるように、小型のイヤホンを使って俺と通話している状態だ。そして、あちら側の音はまた別の小型マイクを胸ポケットに入れ、通話することで受け取れるような状態になっている。

 要するに、小路が聞いている言葉をこちらで聞き、小路の話す内容について指示を出せる状態、という訳だ。何故こんなことになったのか。話はほんの数日前に遡る。


               ◇


「…………何か用?」

 時間帯は放課後。

 場所は以前俺と星咲ほしざきが呼び出された談話室。

 今回の参加者は俺、隠善いんぜん、小此木、小路の四人だ。本当は小此木をここに呼ぶつもりは無かったのだが、「頼んだ手前、成り行きは見守りたい」とのことで、同席することになった。

 正直俺としては別に役に立つわけでも無ければ、場をかき回しそうな気しかしない人間がパーティーに加わるのは反対だったのだが、断ったら断ったで面倒くさそうなので、一緒に居る。なんか、ミョーなところで頑固なんだよな、こいつ。

 俺は明らかに敵意マックスと言った状態の子分猿Aもとい、小路に対して、

「話は単純だ。俺……たちに協力してほしいんだよ」

「は?嫌なんですけど」

 ま、そうだよな。そうくると思ってたよ。

 彼女の隣に座っていた小此木が、

「私からもお願い。クラス皆が仲良くなるために必要なことなの」

 それを聞いた小路は、わざと小此木の座っているのとは逆方向に向いて、

「別に、私は仲良くなりたいとは思ってないし」

「あっ……小路さん」

 小此木は小路を振り向かせるためなのか手を差し出して、実に中途半端なところで止まって下ろし、実に困った表情で俺に視線で助けを求めてきた。ホント思うけど、君、そんなんだったら委員長向いてないよホント。流石にもうちょっと粘ろうよ。

 俺はひとつため息を付いて、

「まあ別に、俺もお前と仲良くなりたいとは思ってないしな」

「ちょっと神木かみきくん」

「……」

 声としての反論と、声にならない反論があったが、俺はそのどちらも完全に無視して、

「ただ、小路。お前はどうだろうな?」

「……どういうことだ?」

「単純な話だ。小路。お前は今の状況に満足していないんじゃないか?」

「なんでそんなことが言い切れる」

「顔だよ」

「顔、だと……?」

「そうだ。お前。いつもの二人と一緒にいるとき、本心で笑ってねえだろ」

「っ……!お前、何見てんだよ、気持ち悪いな」

 ビンゴだ。

 こいつはあくまで「ぼっちになる」ことが嫌なだけだ。

 だけど、誰かと仲良くなるために一歩を踏み出すのは苦手。そんな折、自分に声をかけてくれたのが、ボス猿こと最上もがみ……なんだっけ、下の名前。まあいいや。最上なんちゃらだった。そんなところだろう。

 俺はあくまで淡々と、

「別に見ていたわけじゃない。ただ、ちょっと視界に映っただけだ。お前は分からんが、あと二人の笑い声は実に大きくて、下品で、不愉快だ。そんな騒音をどんなやつが出しているのかと思ってふと視線を向けてみたら、実に下手な愛想笑いをしたお前がいた。それだけのことだ」

「そ、それがなんだっていうんだよ。愛想笑いくらい、誰でもするだろ?」

「そうだな。多くの人間は愛想笑いをする。立場とか、コミュニティの空気とか、そんなものを守るために、思ってもいない台詞を吐き、感じてもいない感情を必死に表現をする。それは確かだ。だが、それはあくまで浅い関係性の相手だけだ。ある程度以上親しければ、そう言った愛想笑いは消えていき、本当に楽しい、おかしいと思った時にのみ、笑うようになる。小路、お前は本当にあの二人と親しい間柄なのか?」

「そ、それは……仲は良い、と思うし。いつも一緒にいるんだよ。悪いかよ」

「いいや、決して悪くはない。悪くはないが、俺の知る限りでは、本当に仲の良い相手には仲が良いと「思う」などというフレーズは出てこないからな。本当に、心のそこから仲が良いと言い切れるか?嘘をついているのではないか?」

「そ、そんなことない!私たちはちゃんと仲が良いんだよ!」

「それなら」

 俺は椅子の後ろに隠していた機械を取り出す。小路がびくっとなり、

「な、なんだよ、それ」

「嘘発見器だ。存在自体は知っているだろう?」
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