家族に疎まれて、醜穢令嬢として名を馳せましたが、信用出来る執事がいるので大丈夫です

花野拓海

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一章 汝等ここに入るもの、一切の望みを捨てよ。

殺人はクセになる

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「ステラ………?」

 レベッカには、その光景が理解できなかった。
 爆発が発生したと思われる路地裏に入ると、そこには血溜まりができており、何人かの人が事切れていた。
 そして、その中で不気味に笑いながら2本の足で立っている少女。ステラ。

「あれー?レベッカ?なんでこんなところにいるのかなぁ?」

 その目は狂気に染まっていた。
 発せられる言葉は、今までと雰囲気がまるで違っていた。

 もう、レベッカには意味がわからなかった。

「爆発を、見て………それで………」

 爆発を見て来た。それだけでステラは凡そを理解した。

「ああ、あれで。無駄に正義感の強い衛兵を釣るための工作だったんだけど、まさかレベッカが釣られて来るなんてね………」

 ステラははぁとため息を吐きながらレベッカを見る。

「ステラ、なんで、こんなこと………」

「なんでって、きっと優しくレベッカには、私の気持ちはわからないよ」

 ステラはそう言いながら一歩づつ近づいてくる。
 レベッカはステラが近づいてくるのに対し、ゆっくりと後ろに後退する。

「本当は、レベッカを殺すつもりはなかったの。表向きの私にも優しくしてくれて、誘拐されそうだった時は、助けてくれた。一応、感謝してたんだよ?」

 でも、と

「こんな現場を見られたら、殺すしかないよね?」

 ステラは血に濡れたナイフを自身の頬に当てながらそう言った。

 レベッカは直感で理解した。ステラは、本気だと。

「ステラ!」

 だから、レベッカはこれ以上自分の大切な友人に犯罪をさせないために行動する。

「へぇ?」

 恐怖に怯えながらも、魔法を行使しようとするレベッカに、ステラは関心したような声を出す。

「ステラ、なぜ殺人なんてしたの?」

「なぜって、そんなの、レベッカに話してもわからないよ」

 レベッカは、ステラのそんな突き放すような言葉にが無性に嫌だった。

「わからないって、私はステラの家族でも、なんでもない。ただの友達だよ!言ってくれないとわからないよ!話してくれないと伝わらないよ!それは誰が相手だって同じことだよ。全部話してよ!」

 ステラは、今まで何も話してくれなかった。
 レベッカが相談に乗るよって言っても、ステラは何も言わなかった。
 一度言いかけたことはあったのだ。だが、ステラは中断した時、話す気がなくなったのをわかったから。

「お願い!話してよ!私に、ステラのことを教えてよ!」

 路地裏にレベッカの言葉が反響する。
 レベッカの心からの願いに、ステラはナイフの持った手を下に降ろした。

「………私ね、親がいないの」

「………」

 ステラが静かに話し始めたのを、レベッカは静かに聞き始める。

「レベッカはさ、私をはじめて見た時に14歳くらいに見えたって言ったじゃん?」

「はい。実は12歳って知って、内心びっくりだったよ」

 その時のことを思い出す。はじめて会って、ステラを家に送った日。レベッカがふと気になったので年齢を聞いた時は心底驚いたものだ。

「だからね、12歳になって、女として成長し始めた私を見て、父は欲情したの」

「………え?」

 娘に対し、父親が欲情する。なんの冗談だと思った。

「なんの冗談だって、思ったでしょ?私も、最初は否定したかったよ。でもね、父の私を見る目は完全にそれだったの………」

 それは、なんという拷問だろう。
 実の父親が欲情してくる。そんなありえないことにステラは直面して、

「父の興味が私に移ったことで、嫉妬した母にいじめられ始めたの」

 それがステラを襲った2つ目の不幸。

「母は、私が父を誑かしたと思ってる。父は、私の身体を毎日視姦してくる」

「レベッカは、さっき言ったよね?家族じゃないからわからないって。私にとっては、家族でも、私のことをわかってくれなかった………」

 その時のステラには、理解者がいなかったのだろう。
 レベッカは確かに敵が多い。だが、アイトが味方をしてくれたから、なんとか挫けずに生きてこられたのだ。

「レベッカが私に友達になろって言ってくれた日、嬉しかったよ。今まで、そんな人いなかったから」

 ステラはつい2週間前のことを思い出す。

「私は表向きはお淑やかないい子だし、親の言うこともきちんと聞く子だったから、外ではそれを演じなくちゃいけなかった。母と父も仲が悪くなってたけど、外では仲良し家族を演じなくちゃいけなかったの」

 そんな日々は、徐々にステラを蝕んだのだろう。
 そして

「私は、父を殺した」

 それは、ステラをもう戻れないところまで蝕んでしまった。

 「一週間前だね。父に急に連れ出されて路地裏で服を脱がされそうになったの。ううん。実際、脱がされた」

 一週間前。始めて血塗れの死体が見つかった日。路地裏。死体が見つかった場所。
 わかっていたけど、これだけは当たっていて欲しくないと思っていた。

「その路地裏でね、父に犯されそうになっ時に、鋭利な破片を見つけたの」

 ステラは優しくナイフを撫でながら呟く。

「父の喉にそれを刺しこんで、お腹も無理やり斬り裂いた。その時にね、思ったの」

「血と臓物は、なんて暖かいんだろうって………」

 レベッカは最後の言葉を言った時のステラに恐怖した。
 ステラが実の父親を殺した。しかも最初の死体がそれだったのだ。

「じゃあ、その3日後の死体は………」

「母だね。帰ってこない父に疑問を抱いて、私に問い詰めたの。だからね、邪魔だったから殺した」

 なら、ステラは意図して2人も殺したことになる。

「じゃあ、その後殺された人は………」

「叔父さんだね。両親が帰ってこなくなったって行って、住まわせてもらってたんだけど、あの人も結局父と同じだったから」

 この一週間の間に死んだ犠牲者の数と一致する。
 全て、ステラが殺していたのだ。

「じゃあ、この人たちは………」

 レベッカは床に転がっている人たちを指さす。
 ステラはその人たちを見ると、あぁと呟いてから一言。

「殺した感覚を忘れられなくてね。つい、殺っちゃった」
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